途中、別視点が入ります。
キャタピーのリタを仲間に加えた私たちは、ジュンサーさんに挨拶してからトキワの森を出発。そして2番道路を進むこと3日、ようやくニビシティに到着した。
ポケモンセンターでフィアとリタの体力を回復した後、フレンドリィショップで買い足しをし、そのままジムへ向かう。しかし、暖かな春の陽気とは裏腹に、私の心は晴れやかではなかった。
「ニビジムはいわタイプなんだよなあ……」
そう、今の私の手持ちはイーブイとキャタピー。キャタピーは言わずもがないわタイプが苦手で、イーブイのノーマル技もいわタイプにはあまり効かない。
「まあ、とりあえず行ってみよう! なんとかなるかもしれないし」
こんな気持ちで挑んだジム戦がまさかあれほど激戦になろうとは、この時は思いもよらなかった。
「くっ……イシツブテ、たいあたりだ!」
「フィア、避けてもう一度にどげり!」
イシツブテが再度こちらに向かってくるが、フィアは簡単にかわして背後に回り込み“にどげり”を食らわせる。イシツブテも避けようとするが、体に絡み付いた糸がその動きを妨げる。
いわタイプ相手に力押しでの攻略はできないと思った私は、ひとまず作戦を練ることにした。そして、リタの“いとをはく”に目をつけた。
ゲームではすばやさを2段階下げるだけの技だが、現実では違う。放出した糸を絡ませて物理的に相手の機動力を奪うのだ。うまくいけば、地面にくっつけることもできるかもしれない。
そうしてできた作戦はこうだ。まずリタが“いとをはく”で相手の動きを封じ、その隙にフィアに交代。“でんこうせっか”で適度に相手を翻弄しつつ、“にどげり”で体力を削っていく。
ニビジムでジムリーダーに挑戦するためには、2人のジムトレーナーを倒さなくてはならない。1人目にこの作戦を試したところうまくいったので、2人目にも同じ作戦を使っている。
「トドメにもう一度!」
「ブイ!」
そして今、ちょうど相手のイシツブテを倒したところだ。手持ちはこれですべてのはずなので、私の勝ち。次はいよいよジムリーダーだ。
ちなみに、対戦前にかの有名な「お前なんかがタケシさんと戦うのは1万光年早い!」というセリフを聞きました。というかこの少年もしかして、ポケモンシリーズに登場するモブの中で一番知名度が高いのでは?
あっ、ちゃんと対戦後に気づいてたよ。1万光年は距離だって。
ジムの奥へと続く道を、真っ直ぐ進んでいく。しばらくすると、先ほど戦ったところよりも一段と広いバトルフィールドに出た。周りの壁は頑丈に作られており、その上には観覧席もある。今は人っ子一人いないけど。
正面に視線を戻すと、フィールドを挟んで反対側にいる男と目が合う。オレンジのシャツに茶色のズボンを着た、糸目が印象的な人物だ。
「ようこそ、ニビジムへ! 俺はジムリーダーのタケシ! 固くて我慢強い、いわタイプのポケモンの使い手だ!」
自己紹介をしながら、タケシはポケットからボールを取り出す。そして、大きく振りかぶって、ボールを投げる。
「ここに来たからには、目的はわかっている! 君の実力、存分に見させてもらおう! さあ、かかってこい!」
ジムリーダーのタケシが勝負を仕掛けてきた! ▼
「いくぞ、イシツブテ!」
「頼んだよ、リタ!」
1体目はイシツブテか。おそらく2体目はイワークだね。とりあえず、やることはさっきと同じだ。
「いとをはく!」
「ピィ!」
イシツブテの体に糸が絡みつく。だが、イシツブテは慌てもしない。
「引きちぎれ!」
「シッ!」
「え⁉︎」
ブチブチ、という音とともに、糸が引きちぎられていく。そんな簡単に引きちぎれるものだった? いや、そんなはずはない。よく見れば、わずかに残っている。完全にはなくならない以上、多少なりとも効果はあるだろう。
「一旦戻って、リタ! そしてお願い、フィア!」
「ブイブイ!」
作戦通りフィアに交代し、一度深呼吸して相手を見据える。
「フィア、でんこうせっか!」
「イシツブテ、受け止めろ!」
加速したフィアが猛スピードでイシツブテに突っ込む。しかし、イシツブテはびくともしない。
「いいぞ! そのまま掴んで投げ飛ばせ!」
「イッシ!」
「ブイ⁉︎」
まずい、と思ったときにはもうすでに、フィアの体は浮いていた。
「いけ、いわおとしだ!」
「ブッテ!」
イシツブテの放った岩が直撃し、フィアは背中から地面に落ちた。
「フィア、大丈夫⁉︎」
「……ブイ!」
すぐに立ち直ったフィアを見て、胸を撫で下ろす。いくらタイプ相性で有利だからといって、まさか“でんこうせっか”を正面から受け止めるなんて。しかも、その後の動作も慣れているように見えた。
おそらく、今までも力押しで攻めてきた相手を同じように倒してきたのだろう。そして、この作戦はイシツブテが相手の攻撃を一度は耐えないと成り立たない。それが可能なだけ鍛えてきた、ということだ。
「今度はこちらからいくぞ! ロックカットだ!」
イシツブテの体が磨かれていく。たぶん、わずかに残っていたリタの糸も消されただろう。
「そのままころがれ!」
「シッ!」
イシツブテが猛スピードでこちらに向かってくる。でも、こちらもやられてばかりではない。
「フィア、すなかけ!」
「ブイ!」
「イシッ⁉︎」
フィアが尻尾を振り、地面の砂を巻き上げる。すると明らかにイシツブテのスピードが落ち、真っ直ぐに進まなくなった。ただでさえ転がっているのだ、目に砂が入れば平衡感覚は完全に麻痺するだろう。
「よし、今だ! にどげり!」
「ブイブイ!」
1発目で地面に叩きつけ、2発目で向こうに蹴り飛ばす。よほど効いたのか、イシツブテが苦悶の表情を浮かべた。
「ふはは、よくやるな! だが、俺のイシツブテはまだまだ倒れんぞ!」
ジムトレーナーのイシツブテなら今の攻撃で倒れていたと思うが、さすがはジムリーダーのポケモン。やはり一筋縄ではいかない。
だが、ここまで削ればこっちのものだ。
「戻ってフィア!」
「何⁉︎」
相手が体勢を立て直す前にすばやくフィアを戻し、リタに交代する。
「リタ、もう一度いとをはく!」
「ピィイ!」
先ほどよりも疲労したイシツブテは、糸を避けることも引きちぎることもできない。これで完全に動きを封じた。
「むしくいで削って!」
「プギ!」
あとはもう、こちらから一方的に攻撃するだけだ。
「ブッ……テ……」
「よくやった、戻れイシツブテ」
あれから数分。想像以上にイシツブテは持ち堪えたが、ついに力尽きた。リタと喜びを分かち合いたいところだが、それにはまだ早い。
「君はポケモンのわざをうまく活かしているな。それに、状況に応じた判断もできている。トレーナーとしての素質は十分にあるだろう。だが、まだジム戦は終わっていない! 最後まで、君の思いを見させてもらおう!」
タケシは2つ目のボールを取り出し、投げる。中から現れたのは、岩がいくつもつながったような細長く大きな体をしたポケモン。
「いくぞ、イワーク!」
「グオオオオオオオ!」
さあ、第二ラウンド開始だ。
「リタ、いとをはく!」
まずは先ほどと同じように、相手の動きを止めにかかる。だが、結果も先ほどと同じだった。
「イワーク、引きちぎれ!」
「グオオ!」
イワークはその巨体をうねらせ、糸を引きちぎる。動きを妨げられたことが気に入らなかったのか、不快そうな目でリタを睨んだ。
「尻尾でたたきつけろ!」
「リタ、避けて!」
すぐに指示を出すが、リタが避けるよりも一歩早く、イワークの大きな尻尾がリタに襲いかかった。追い討ちをかけるように、イワークがわざを繰り出す。
「ほえろイワーク!」
「グワオオオ!」
その迫力に気圧されたリタが吹き飛ばされ、ボールに押し戻される。そして、代わるようにフィアが引きずり出された。
「今のうちにステルスロックだ!」
「ゴオオ!」
その隙に、イワークが尖った岩を生み出す。それらは透明になって広がり、あっという間にどこにあるのかわからなくなった。
「これで、簡単には交代できなくなったぞ。さあ、どうする?」
「……っ、フィア、でんこうせっか!」
「ブイ!」
イワークは序盤のポケモンではかなり素早い部類だが、あの巨体では小回りは利かないはず。ならば、それで翻弄すれば────
「イワーク、尻尾を地面に叩きつけろ!」
「グオオ!」
ドオン、という大きな音とともに、一気に砂ぼこりが舞い上がる。急に視界を奪われたため、フィアはその場で立ち止まってしまった。
「……まずい。フィア、一旦下がって!」
「今だ! いわおとし!」
そこにイワークの攻撃がくるが、間一髪のところで避ける。似たような場面を今までに何度か見たので、すぐに対応できたのはよかった。だけど、状況は芳しくない。こちらには遠距離攻撃の手段がないのでどうにかして接近しなければならないのだが、こうやって砂煙を上げられると容易に近づけない。
そして、なんとかしようと頭を働かせている間も、バトルは続いている。
「接近して尻尾を叩きつけろ!」
「フィア、でんこうせっかで避けて!」
一度は晴れた砂煙も、イワークが地面を叩きつければ再び現れる。これをなんとかこちら側が利用できれば……そうだ!
「もう一度だ! 相手の動きが止まるまで、砂ぼこりを巻き上げろ!」
「ゴオオ!」
「……フィア! イワークが尻尾を叩きつけた瞬間に、イワークの体に飛び乗って!」
「ブイ!」
体のどこかに力を入れて何かに叩きつけてから力を抜いて元に戻すまでには、若干のタイムラグがある。そしてその時間は、そこに込められていた力が強くその部位が大きいほど長くなる。イワークほどの巨体を持つポケモンなら、それは隙になりうるはずだ。
それを防ぐための砂煙なのだろうが、向こうも砂煙の中でこちらの位置を正確に把握しているわけではない。うまく動けば、その体に飛び乗ることができるだろうと考えた。
結果、フィアはイワークの体に乗ることができた。あとは振り落とされないようにしなければ。
「振り落とせ!」
「しっかりしがみついて!」
さすがに暴れ回るイワークの上でわざを出すことは難しい。この作戦の一番の目的は、イワークの体力を削ることである。
ゲームとは違い、この世界ではポケモンは人間と同じように運動すれば疲れ、眠れば体力は回復する。“ねむる”というわざがあるが、あれはポケモンに元から備わっている機能をバトル中の短い時間でも使えるようにしたものなのだ。
つまり、わざを繰り出さなくても、動き回ればそれだけで体力は削れるのである。
「くっ、このままでは厳しいな……イワーク、背中から地面に倒れろ!」
「な……フィア、手を離して!」
埒があかないと判断したのか、タケシはイワークを倒れ込ませる。咄嗟に離れるよう指示を出したが、もしあのまましがみついていたら地面とイワークの間に挟まれていただろう。イワークのお腹側に回ったとしても、地面で転がられたら同じことだ。
少し慌てたが、よく考えればあの巨体が立ち上がるのには時間がかかる。今がチャンスだ。
「フィア、にどげり!」
「ブイブイ!」
ここぞとばかりに、イワークの体力をさらに削っていく。だが、やはりそう簡単にはいかない。徐々に起き上がってきたイワークが、フィアを睨みつける。
「ほえろ!」
「グワオオオ!」
攻撃を中断させられたフィアが押し戻され、今度はリタが引きずり出される。そして、突如として現れた尖った岩がリタの体に突き刺さる。
「プギイィ……」
そのダメージに耐えられなかったのだろう、リタは目を回して倒れた。
「戻って、リタ! お疲れ様、ゆっくり休んで」
労いの言葉をかけてリタのボールをしまい、フィアのボールを取り出す。改めてイワークに目を向けると、最初と同じようにこちらを睨みつけている。はるか上からこちらを見下ろす、大きな目。
……ここまで追い詰められたのは初めてだった。やはりジムリーダーは別格だ。今まで戦ったトレーナーたちとは比べ物にならないほど、強い。
私の体は震えていた。少し前の私なら、ここで降参していたかもしれない。ここまでよく頑張った、もういいよ、そんな理由をつけて。でも、今の私には、そんな気持ちは微塵も浮かばなかった。
勝ちたい、目の前の相手に。そして、強くなりたい。
私の心の奥から、そんな思いが聞こえてくる。私はこんなにバトル好きだっただろうか。こんなに熱くなる性格だっただろうか。こんなに、強さに執着を持っていただろうか。
この世界を楽しみたいと思った。自分のやりたいことをやりたいと思った。でも、楽しいことだけではないと知った。やりたいことも自由にできないと知った。
私は自覚した。自分の内なる思いを。そして、受け入れた。その願いを。
勝つことだけが強さではないだろう。でも、勝つことは確かに強さなのだ。
手の中のボールに目を向ける。その姿はよく見えないが、確かに目が合い、頷いた気がした。
さあ、勝利を掴み取ろう。唯一無二の、相棒と共に。
* * *
────目が、変わった。先ほどまでの、どこか力の入っていない目ではない。己の信念のために勝利を求める、
(いい顔だな。心のどこかで何かが噛み合っていない様子だったから心配していたが、杞憂だったか)
人もポケモンも、追い詰められたときに本性が出る。それは、ジムリーダーをしながらブリーダーを目指す中で、タケシが強く実感したことだった。
ポケモンのせいにする人間がいる。人間のせいにするポケモンがいる。
自分で抱え込む人間もいる。自分で抱え込むポケモンもいる。
では、目の前の少女はどうだろうか。その手に持っているボールの中にいる、彼女の相棒はどうだろうか。深く信頼し合い、共に前を向いている。その姿は、数日前に相手をした赤い帽子の少年を思い出させた。
「頼んだよ、フィア!」
「ブイブイ!」
ピカチュウと、イーブイ。どちらもカントーでは希少であり、懐きにくいポケモンとして知られている。だが、彼ら彼女らの間には、深い絆が感じられる。
(やはりジムリーダーも捨てがたいな。ブリーダーの夢を叶えるのは、もう少し後にするか)
「さあいくぞ、イワーク!」
「グオオオオ!」
そして、最後の勝負の幕が上がる。
* * *
「フィア、でんこうせっか!」
「イワーク、尻尾を地面と水平に振り回せ!」
一気に距離をつめにいくが、やはりイワークの尻尾が邪魔で容易には接近できない。でも、そっちがそう来るのなら────
「フィア、すなかけ!」
「グオオ⁉︎」
フィアの姿が見えなくなり、イワークの動きが一瞬止まる。その隙にフィアはイワークの体に飛び乗った。
「振り落とせ!」
「頭まで駆け上って!」
イワークが必死に暴れるが、先ほどよりも動きが鈍い。やはり疲れが溜まってきているようだ。イワークの頭にたどり着いたフィアに、もう一度指示を出す。
「頭の突起に向かってにどげり!」
「ブイブイ!」
「グオオ……ギャオオオォ!」
よほど効いたのだろう、イワークは呻き声をあげてその場に倒れる。しかし、それでもまだ立ち上がろうとしていた。
「くっ……いわおとしで時間を稼げ!」
「ゴオオ!」
イワークが自身の周りに岩でバリケードを作る。だが、フィアは隙間を縫って進んでいく。そして、イワークの目の前にたどり着いた。
「たたきつけろ!」
「グワオオオ!」
これで最後だと言わんばかりの迫力で尻尾を振り上げるイワーク。それを迎え撃つように、フィアが全身に力を込める。繰り出すのは、文字通り私たちの最後の、そして最大の切り札。
「とっておき!!!」
「ブイイイイ!」
白い光を纏ったフィアとイワークの尻尾がぶつかる。しばらくして、ついにフィアがイワークの尻尾を弾き飛ばし、その巨体を薙ぎ倒した。
「ジム戦初勝利、おめでとう。どうやら俺は君たちの力を見くびっていたようだ。さあ、俺に勝った証に、このグレーバッジを受け取ってくれ」
あの激戦から数分後。フィアと勝利の喜びを分かち合う私に、タケシがポケットから取り出したグレーバッジを差し出してきた。ありがたく受け取り、お礼を言う。
「ありがとうございます。タケシさんのおかげで、いろいろ学ぶことができました」
「ははは、そう言ってくれると嬉しいな。この広い世界には、いろんな人がいる。ポケモンを戦わせたり、育てたり……君が何になりたいかはわからないが、少なくとも強くなりたいという思いはあるようだ。ならば、他のジムにも行くといい! きっと、君の助けになるだろう」
「はい! ありがとうございました!」
最後にもう一度礼をして、ジムを後にする。挑戦前とはまったく違い、私の心は晴れやかだった。
「やったね、フィア」
「ブイブイ♪」
「プギィ!」
「うん、リタもありがとう」
きっとこの先、多くの困難が私を待ちうけているだろう。だからこそ、それに負けないくらい強くなろう。大切な、仲間と一緒に。
終わり方が何だか最終回っぽいですが、まだまだ続きます。
ですが、筆者の方がちょっと忙しくなってきまして。できれば週一で投稿したいのですが、間に合わなかったらすみません。失踪は絶対にしないので、ご安心ください。
それと、今後のジム戦について、少しアンケートをとります。皆様のご回答、お待ちしていますね。
感想等あれば、ご自由にお書きください。
筆者が非常に喜びます。
(ニビジム戦と比べて)今後のジム戦、どれぐらい描写すればいい?
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もっといっぱい描写して!
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同じくらいの感じでOKです
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もう少しコンパクトでもいいかな…
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ナレーションで飛ばしていいよ