都市伝説ハンター、リーフ行きます!   作:永夜 藤月

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お久しぶりです。生存報告も兼ねて、少しずつ執筆していたものを投稿します。

この作品とは関係ありませんが短編も投稿しましたので、そちらもぜひお読みください。


都市伝説② 地下通路とロケット団

 カントー地方の中央部に位置する巨大都市、ヤマブキシティ。高層ビルやマンションが幾重にも連なるその街並みは、なるほど東京都心がモデルというのも納得である。

 イッシュのヒウンシティやカロスのミアレシティなどと並ぶ、この世界でも随一の大都会だ。

 

 この街がカントーの経済の中心的役割を担っていることは言うまでもない。特に大通りは人の流れが絶えることはなく、シルフカンパニーをはじめとする数多くの大企業が本社を構えている。

 

 そんなヤマブキシティだが、今のような姿となったのは、実はつい数十年前のことである。

 

 もともとこの街はハナダシティとクチバシティ、シオンタウンとタマムシシティを結ぶ道路が交差する地点にあるという利便性から自然に人が集まってできた街だった。

 そのため、街としての規模は港町として栄えたクチバシティの方が大きかったのだ。

 

 しかし、技術革新が進み貿易がより盛んになると、大量の物資が流入するようになる。土地の少ないクチバシティでは処理し切れず、物資の運搬が滞ることとなってしまった。

 

 このような事態を受け、ポケモンリーグは「物資の輸出入を行う港」とは別に「物資の分配・集積を行う都市」を新設することを決定した。

 具体的に言うと、輸入した物資を各都市に分配、及び輸出する物資を各都市から集積するための中継地として新たな都市を建設するということである。

 今までクチバシティが一手に引き受けていた役割を分割し、クチバシティの負担を減らそうという考えだ。

 

 そして、その新都市を建設する場所として選ばれたのが、交通の便に優れたヤマブキシティであった。

 

 こうした経緯から、ヤマブキシティは急速な発展を遂げる。地価の高騰を抑えるため比較的距離の近いタマムシシティにまとまった住宅地が建設されるなど、その影響はカントー各地に現れた。

 また、多量の人や物資を既存の交通手段では賄いきれないことから、新しい道路や線路の建設も進んだ。

 

 そして、このような交通機関整備の一環として作られたのが────ヤマブキシティの地下を南北と東西に貫く、広大な地下通路である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マサキの家を訪ねた翌日、私たちはハナダシティを出発。次の目的地であるクチバシティを目指し、街の南にある5番道路を進んでいた。

 

 途中で育て屋さんに立ち寄ったので、以前気になった「ポケモンのタマゴはどうやってできるのか」について聞いてみたりもしたのだが、残念ながら育て屋さんもタマゴができる瞬間は見たことないらしく、結局理由は不明のままだった。

 

 そして、育て屋さんを出発し、再び進むこと数時間。ようやくヤマブキシティの郊外に到着した。

 

 さて、ゲームでは初めてここに来たときは通行止めになっているから街の中に入れないわけだけど、この世界ではそんなことはない。というか、物流の中心たる街の入り口を通行止めなんてできない。

 

 えっ、だったらヤマブキジムに挑戦できるんじゃないかって? 私も最初はそう思ってたけど、ヤマブキジムにはジムバッジを最低でも5つ所持していないと挑戦できないみたい。

 普通、ジムに挑戦するのにバッジの数による制限はないんだけど、そこにはヤマブキシティの特別な事情が関わっている。

 

 

 

 

 

 話はヤマブキシティの発展期に遡る。もともとヤマブキシティにはジムが存在しなかったけど、地方で一番の大都市にジムがないのはどうなのか、という意見があったらしい。また、そのような街のジムなのだから、それなりの格も必要だと。

 

 しかし、カントーにはすでに8つ、ジムが存在していた。新しくジムを作るためには既存のジムを一つ無くす必要があり、そうなるとどうしても批判は避けられない。

 そのため、ポケモンリーグはジムに関する規定を大幅に改正し、新しい仕組みを導入した。

 

 ・原則、ジムの設立は自由に行えるものとする。ただし、非公認ジムの経営は各ジムに委ねられている。

 ・リーグは8つのジムを公式に認定し、バッジは公認ジムのもののみ効力を持つものとする。

(現在非公認のジムのバッジであっても、それを受け取った際にそのジムが公認ジムであったのなら、バッジは公認ジムのものと同様の効力を持つ)

 ・公認ジムは原則一つの街に一つのみであり、リーグから様々な恩恵が得られる。

 

 大まかにいうとこんな感じだ。当時は公認ジムであることにあぐらを書いていたジムもあったようで、ジム同士の競争を促すことでカントー全体のトレーナーのレベルを上げる、という目的もあったらしい。

 

 また、ここで言うバッジの効力というのは、主に就職時に優位にはたらく資格のような役割のこと。この人はこれだけの実力がありますよ、という分かりやすい指標だね。

 もちろん8つ集めたときの「リーグの四天王及びチャンピオンに挑戦できる権利」も効力の一つなんだけど、バッジを8つ集められるトレーナーはほとんどいないから、あまり発揮されることはない。それだけ四天王とチャンピオンの壁は高いのだ。

 

 そして仕上げに、リーグはヤマブキシティの公認ジムには前述の挑戦するための条件を付け加えることを発表。これはつまり、ヤマブキジムはリーグから「カントーの中でも一際強いジムである」と認められたジムだということだ。

 かくして、ヤマブキジムはカントーで最も競争率の高い、特別な意味を持つジムとなったのだ。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、まだバッジを2つしか持っていない私はヤマブキジムに挑戦できないので、ヤマブキシティの先のクチバシティを目指している。しかし、ヤマブキシティをそのまま通り抜けるのは大変だし、時間もかかる。

 

 そこで役立つのが、街の入り口と反対側の入り口をつなぐ地下通路である。

 

 ゲームと同じく「地下通路」という名前ではあるけど、実際には地下鉄が通っている。この世界はゲームの世界よりも広大だから、街の地下を徒歩で通り抜けるのは無理があるしね。

 

 地下通路はヤマブキシティの混雑緩和のために作られた。これのおかげで、街に入らずとも街の東西・南北を行き来できるようになったのだ。

 

 

 

 

 

 さて、そんな地下通路だけど、ここにはある都市伝説が存在する。

 

 ゲームをプレイしている時、不思議に思わなかっただろうか。

「こんなに広い通路なのに、道具が落ちてるだけでイベントは一つもないの?」と。

 

 実は、ここには没になったイベントがあった、という噂がある。そして、そのイベントとは────

 

「ロケット団が地下通路で毒ガスを散布する」

 

 というものだ。

 開発段階ではほぼ決定事項だったらしいのだが、発売直前に急遽没になったと言われている。その理由は、言うまでもなくあの「地下鉄サリン事件」である。

 

「東京都心をモデルにした街の地下」「毒ガス」という共通点は、ゲームをプレイする人に事件を想起させてしまう可能性が高い。子ども向けのゲームということもあり、多方面への影響を鑑みてお蔵入りとなったのだろう。

 

 

 

 

 

 と、これが地下通路の都市伝説なわけだけど。

 

 私は当初、この都市伝説について調べるつもりではなかった。この世界がゲームを元にした世界ならば没イベントは現実とならない可能性が高いし、そもそも内容的にも警察が大々的に出動するレベルのものである。ただの子どもにできることは少ないし、流石に手を出すのが憚られたのだ。

 

 でも今、私は、この都市伝説に積極的に関わろうとしている。その理由は主に二つ。まず一つ目の理由として、この世界は私にとって、紛うことなき現実だからだ。

 

 いったいどういうことか。少し話は逸れるが、説明しよう。

 

 ある日突然ゲームの世界に入ったとき、ほとんどの人はそこを現実ではなく夢の中だと認識するだろう。なぜなら、現代人の感覚からすると、転生や転移といった出来事はあまりにも非現実的だからだ。

 癌で余命宣告も受けていて、転生後すぐに自分が死んだことを認識していた私でさえ、この世界を夢のように感じていた。

 

 だが、そうではないのだ。

 

 この世界の人々は、同じ言葉しか話さないゲームのNPCではない。職業が同じだからといって、全く同じ顔ではない。一人一人が意志を持ち、個性を持ち、生きている。

 この世界は、ゲームのような限られた世界ではない。街も道路も森も山もそれ相応の規模をもち、ゲームでは行けなかったり容量の関係で削除された領域もきちんと存在する。

 

 オープンワールドやVRMMOなどの比ではない確かな「現実の世界」が、ここにはあるのだ。

 

 そして、現実では全ての物事には意味がある。それがそれである理由がある。大都市の必要性に駆られて、ヤマブキシティが発展したように。

 その世界に住む人々が納得できるだけの理由が、その世界に即した理由が、そこには必ずなければならない。

 

 だからこそ、開発の裏話などといったメタ的な理由は、この世界でその出来事が起こる理由には()()()()()のだ。

 

 話を戻そう。

 確かに没イベントは、起こる可能性は低いかもしれない。しかしそれが、とりわけ人為的なイベントならば、()()()()()()()があるはずなのだ。

 

 今回の例で言うのなら、計画の段階で中止になったとか、はたまた主人公のいないところで起こったとか。

 そして裏を返せば、()()()()()()()がなくなれば、たとえ没イベントでも現実になるということである。

 

 杞憂ならそれでいい。でも、本当に起きてしまったら? ただでさえ私という、ゲームにはいない異分子がいるのだ。楽観視はできない。下手をすると、私の行動次第で起こってしまう可能性さえあるのだ。それだけは、絶対に避けたい。

 そしてそのためには、少しでもこの都市伝説について知っておくべきだと思ったのだ。

 

 そして、二つ目の理由。これは、ひどく個人的な理由。ロケット団を倒したいからだ。

 

 この世界に転生してきた時、私にはロケット団を倒そう、という考えはなかった。当たり前と言えば当たり前だ。いったい誰が好き好んで、世界を股にかけるマフィアを相手取ろうと思うのか。

 相手は悪のお手本のような恐ろしい大人の集団、対してこちらはただの子ども、しかもたった1人である。飛んで火に入る夏の虫、とはまさにこのことだ。ゲームの主人公が色々とおかしいのである。

 

 でも、私は出会ってしまった。ポケモンをモノとしか思わない、身勝手なロケット団たちに。そうして傷つけられてしまったポケモンに。そして思ったのだ、こうして傷つくポケモンたちを減らしたい、と。

 

 私はこの世界が好きだ。人とポケモンが共に暮らし、共に生きているこの世界が。でも、それを脅かそうとする人たちがいる。自分勝手な理由で、それを壊そうとする人たちがいる。

 

 だから私はロケット団を倒したい。この世界のためにも、私がこの世界を楽しむためにも。そしてそのための一歩として、この都市伝説を調べようと思ったのだ。

 

 …………もしかしたら、私がこう思うようになったのも。この世界を現実として、受け入れたからかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そんな私の思いをよそに、ロケット団のような怪しい人影を見つけることもなく、そのまま地下鉄に乗り。地下鉄を降りた後も、特に何事もなく時間が過ぎ。気がつけば、すでにクチバシティの目の前までたどり着いていた。

 

 あれだけ色々考えて気構えていたのに、結局何もなかった。なんだか少し気恥ずかしかったけど、同時に一安心した。

 でも、ずっと安心できるわけじゃない。ストーリー上で地下通路を通ることは、まだ何回もあるからだ。

 

 没イベントの特徴として、情報が非常に少ない、というものがある。そりゃそうでしょ、当たり前だよと思うかもしれないけど、これが結構致命的なのだ。

 今回の例で言えば、どこで起こるのかは分かってても、いつ起こるのかが分からない。もちろんその逆もありうる。つまり、イベントへの恐怖が常につきまとうのだ。

 付け加えると、起こるかどうかさえ分からないからね。せめてもう少し情報が欲しいものである。まあ、無理な話だと自分でもわかっているけども。

 

 さて、一旦思考を切り上げて街の中に意識を向けると、奥から汽笛の音が聞こえる。辺りには潮の香りが漂い、港町らしさを感じさせてくれた。

 

 途端、強い風が吹き、慌てて飛ばないように帽子を押さえる。弱くなってきたところで風の吹いてきた方向に目を向けると、海の向こうから大きな船が近づいてきていた。

 

 徐々に船の姿がはっきりとしてくる。遠くに見えるその大きさでも、港にある他の船よりひと回りは大きいことがわかる。側面には無数の窓があり、あれが全て客室だとすると、いったい幾つの部屋があるのだろうか。海に浮かぶ雄大なその姿は、前世にテレビで見た豪華客船を彷彿とさせた。

 

 やがて、船は港に停まる。ボーディングブリッジから続々と客が降りてきていたが、乗組員たちは客が降りた後も甲板でせわしなく動いていた。きっと、明日の船上パーティーの準備をしているのだろう。

 

 そう、あれこそが、次の目的地────『サント・アンヌ号』だ。

 




今回の話は、ポケモンの考察者がどういう考え方をしているのかというお話です。

ポケモンの考察をしていると、時々「ゲームバランスのため」「運営がテコ入れしたから」といった意見をいただく事があります。確かに、私たちの世界におけるゲームとしての理由は、それで正しいと思います。

しかし、私たち考察者が求めているのは、ポケモンの世界における現実としての理由なのです。

私たちはポケモンの世界を、開発者という神様から切り離し、現実と捉えて考察しているのです。このような考え方もあることを、受け入れていただければ幸いです。

感想等あれば、ご自由にお書きください。
筆者が非常に喜びます。
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