まったくもー。
「ホワイトデーだよ、諸君」
黄金の座する神座にて、水銀はぬるっと現れ宣言した。ここに集まるは第四神座の男集──ラインハルト、蓮、司狼、そしてメルクリウスである。
「一応尋ねるが、トバルカインはどうしたね? 愚息の軍勢として切り分けられた櫻井戒とやら、彼のことを呼んだはずだが」
「奴ならばヴァルキュリア、レオンハルトの両名と休暇を取得中だ。卿の招集に応じるなどという重労働に、これだけの者を付き合わせたことを感謝するがいい」
さらにもう一度、メルクリウスは周囲を見渡す。
「ベイは?」
「第六天にて、妹御と愛を確かめ合っている。あの二人はよく枯れ落ちんな」
その他大勢、黒円卓の男の大半はこの召集に応じていなかった。というより、ラインハルトが呼んでいないのだろう。
「皆忙しいのだ、カールよ」
ラインハルトの返事にメルクリウスは不服げである。
「えー。個人の都合なぞより私の気まぐれの方が何億倍か重要ではないかね?」
そう零した矢先に、メルクリウスは頭を息子にぶん殴られた。この場にいるほとんどがツッコミ能力を有さない、というか放棄するなか、きちんと反抗してくれるのは刹那陣営くらいである。
「今回ばかりはラインハルトに同意する。むしろお前なんかの用事ごときに付き合ってやってるだけありがたく思え。
それで? だいたい察しが付くけど用事ってなんだ? 言っとくけどエロスってんならもうネタ切れだぞ。シュピーネあたりにやらせておけ」
「シュピ……、ああ、そんなのもいたね。どうでもいいので却下だ。何より私が見ていて楽しめぬ。まだそこの司狼とかいう男に赤いマフラー巻いて両腕を切断し方が面白いものが見られるだろうよ」
あまりにあまりなメルクリウスの言い分に司狼はデザートイーグルを抜きかけたが、なんだか赤いマフラーを巻いて両腕を切断された場合、別宇宙から何やら危険な女が飛来しそうで面白そうだと思ったので、腕組みして話を聞くに留めた。
「共通ルートでも次回作でも華々しく散ったシュピーネさんのことはとりあえず良いだろ。それで、わざわざ俺らを集めて何やろうってんだよ。今年のテーマとかもう決めてあんの?」
ホワイトデーの甘いセリフを囁きまくる企画なら以前やった気がするし、そもそもここでやることでも無いだろう。水銀の考えていることは大体がろくでもないことであり、女神一人のためにその他大勢を絶滅させる勢いで不幸を振り向くナチュラルな全ての元凶だ。なにか企んでいるなら、それに巻き込まれる形になろうとも知 なければならない。少なくとも今の藤井蓮──刹那ならば水銀を抑え込むことは不可能じゃないのだから。
警戒する刹那とその自滅因子に対し、水銀の自滅因子は実に穏やかな表情でやりとりを観覧していた。
「卿のやりたいことは概ね予想できる。私は卿と表裏一体ゆえだろうな。しかし、カールよ。それは果たして面白いのか?」
親友から発せられた言葉に、水銀は安堵したような微笑みを見せる。
「ああ、やはりあなたは一番に分かってくださるか、獣殿。ではやいのやいのと喚く愚息のためにも説明をしてみせようか。
そう、ホワイトデーである。ホワイトデーに我々がすべきことはなにか───そう、手作りチョコレートだね」
ほーう、と感心するような反応の多い中、藤井だけは怪訝な顔をした。
「……テメェ、マリィにどんなチョコレート渡すつもりなんだよ。変なもん混入させたら首飛ばすぞ」
「君が斬首するというとシャレにならないからやめたまえ。そして私がそんなことをすると思うかね?」
メルクリウスの問いに、しかし親友は苦笑する。
「卿への負の信頼はなかなかのものだぞ、カール。そしてそういうことならば私も私で考えねばならん。一応、祖国で培った職業病でな」
「あなたの祖国で培った職業病が発揮される場は即ちツァラトゥストラと同じ領分ではないかな獣殿。二人でよってたかって私に疑いをかけるのはやめて頂こうか。
……君ら、ソシャゲなるものでバレンタインイベントをやったことはあるかな?」
断頭台とゲシュタポ長官、よく良く考えれば実に最悪の組み合わせである。実際のところ、二人で力を合わせたところで水銀の首に届くかどうかは、議論の余地があるだろうが。ただし、単なる脅しとして、これ以上無いほど迫力あるものであることに間違いはない。
そんな言葉を浴びながらメルクリウスから発せられたのは、少々意外な言葉だった。すなわち、ソシャゲのバレンタインイベントと。
「そういうのお前の趣味じゃねえだろ気持ち悪い。知ってっか? 若者のこと理解しないのも、逆に変に理解しようとするのもどっちも同様に老害って呼ぶらしいぜ?」
司狼の言葉に動じることなく、メルクリウスは説明を続ける。
「ソシャゲのいちイベント、つまりはキャラクターからチョコレートを貰うというだけの話が何故これほどまでに愛されるのか。古今東西のソーシャルゲームにて似たり寄ったりのイベントが開かれるのか。
まずひとつ、バレンタインに好意を寄せている相手から贈り物を貰うというイベントそのものに価値があるというのが挙げられるだろう。誰だとて一度は妄想し、たるいは経験したことがあるのでは無いかな、そういうラブロマンスは。事実、私も愛しの女神より私宛てのチョコレートがないという言葉を受けた時には天にも登る気持ちだったよ。ああ、マルグリットが私に言葉をかけている。こちらを認識し会話している。優しい彼女の唯一の例外なのだ、と。そしてツンデレの可能性も考慮し、ワクワクして合計で前日当日翌日の72時間待機したが本当にチョコレートが届かなかった時の悲しみたるや………。
ともあれ。現代風に言うところの『推し』からの贈り物だ。喜ばぬ者などいまい。贈り物がないという連絡ひとつでも天にも舞い上がることが出来る私のごとくな」
メルクリウスの告白混じりの説明は実に気色が悪く、彼の自滅因子や息子ですらも死んだ魚のような目に変えてしまう。
「強がってるんだか本気でそういう趣味に目覚めたんだか分からねぇよ、もう……」
「ツァラトゥストラよ、思い出せ。元よりカールは好意を寄せる相手に傷つけられ傷を負わされたがる生粋のマゾヒストだ」
半周回って憐憫の視線と化した目線を受け止めるメルクリウスは相も変わらず笑顔である。
「そしてもう一つ。
チョコレートには、キャラクター性がよく現れる。誰のチョコレートなのか分かり易くせねばならぬゆえ、実に皆、個性的なチョコレートを作る。
つまりだ、手作りチョコレートを出せば我々も我々らしさを出しつつ、女性陣を喜ばせることが出来るのだ。ホワイトデーに真っ当にチョコレートを作り渡すこと。これは存外、理にかなった行為なのだよ」
メルクリウスの力説そのものはだいたい、納得のできる内容だった。いや、無理やり感もあるが、やりたいことは伝わった。まずはじめに、ラインハルトが頷く。
「ふむ。つまりは各々、個性を押し出したチョコレートを作れと。……良いだろう。せっかくのホワイトデーだ。一肌脱ぐとしよう」
そして藤井蓮、遊佐司狼がそれに続いた。
「分かったよ。マリィのために、仕方ないけど協力してやる」
「俺としても、面白そうだし文句はねえよ」
かくて、第四神座の者らはチョコレートを作ることになったのだった……。
・黄金像のチョコレート
……ラインハルト・ハイドリヒのチョコレート。「女を喜ばせるならば、私の姿を象ったものを渡せばよかろう?」という圧倒的自負がみえる。全長10センチほどの大きさで持ちやすく、味も良い。しかし実に精巧に作られているため、とある少佐は食べるべきか飾るべきか迷ったという。
・胡蝶蘭を象ったチョコレート
……メルクリウスのチョコレート。「本来ならば私そのものを贈り、彼女の視線を感じながら逝きたいのだがね。真面目に嫌がられそうなのできちんとチョコレートを作ることにした」とのこと。ちなみに変なものは入っていない。
・蓮の花を象ったチョコレート
……藤井蓮の手作りチョコレート。自分の名前と女神の法則名をかけた洒落たアイデア……のつもりだったのだが、親父も花形のチョコレートを作ったのだと知って静かに悲しみにくれた。
・うさぎさん(ストロベリー)
……うさぎ型のチョコレートの型にイチゴジャムが入っている。なんというかこう、見た目がアレ。ドッキリ性能は高いが、果たして味は───。
マキナの
司狼は蓮と馬鹿騒ぎするけど、マキナは黙って腕組みしてその様子を眺めてうんうん頷いているイメージ。