「ご機嫌よう、ゾウリムシ諸君」
「待ちに待ったこの日が参りました。皆様、変わらず恋人もなく、1人寂しく今日というこの日をお過ごしでしょうか」
冒頭から暴投しまくるのは白髪コンビ。
本日の会の主催者は以上2名。どんなコンビかって、それは簡単だろう。
「やっぱり私はお姉ちゃんだし」
「やっぱり私はメル友ですから」
「綾瀬さんの誕生日は、祝わなくっちゃ」
そう、本日9月9日は綾瀬香純の誕生日。 である!! それはそうと文通している相手をメル友というのはどういう感性なのだr────
「さて。本日は綾瀬香純さまに携わった皆様方に、愛を語って頂きたく、様々な神座より関係者を集めてございます。
本日の主賓たる綾瀬様には、それを黙々と聞いて頂こうと思います」
もはや公開処刑。だがそれも厭わない。
香純は、この羞恥地獄に耐えられるのか─────。
真ん中でガクガクブルブルしているあたしこと綾瀬香純はチビりそうです。MCの咲耶ちゃんはノリノリなんだけど、お兄ちゃん止めなくていいの? 本当にいいの?
というわけで、今回のテーマは『恥辱』。誕生日を迎えたあたしに色んな人が辱めてくる、とかなんとか。
………とても不安です。
「エントリナンバー、1!
第四神座、聖槍十三騎士団黒円卓第1位───!」
最初に出てくるのは、あたしたちの宿敵みたいな立場だった男の人。確かすんごいイケメン───。
そこに居たのは、すんごいイケメン。イケメンなんだけど、その、何故かライオンの着ぐるみを着ている。そこから、顔だけひょこっと見えている形だ。高身長なのでこう、ちょっと怖い。
「ラインハルト・ハイドリヒ───!」
高身長のライオンさんがゆっくりと近づいてくる。
あんなに可愛い着ぐるみなのに全然可愛くないよう。怖いよう。
「皆の知る通り、私は総てを愛している。ゆえに、卿もまた、愛している。我らの時代において卿の価値は、卿の思う以上に高いものだった。我らのパンテオンについても、無論そうなると私は信じている。
あとは卿にとって身近な者らからの言葉を受けるがいい。私はあくまで、黒円卓の代表としてここに居るのみよ」
そうしてスタスタ立ち去っていくラインハルトさん。
うん、その、ちゃんとイケメンだった。
「エントリナンバー、ツー。
聖槍十三騎士団黒円卓第三位! どの面下げて来てるんだか分からないけど、神父さん」
辛辣な先輩の紹介を受けて、ラインハルトさんと入れ替わりで登場したのはオドオドしている神父さん。たぶん、先輩の言葉がすごいショックだったのだろう。うん、そうだね。でもあたしもそう思うからフォローはしないでおくよ。
「えー。その、ですね……」
ああ、かといってそんなしどろもどろに言葉を掛けられても、なんか心配になっちゃう。と思ったら、すっといつもの笑顔になった神父さんは楽しそうに語り始めた。
「はい、誕生日おめでとうございます、綾瀬さん。あなたは本当に勇敢で素敵な方だ。こうして祝われているのも、その証かと。テレジアがこうして誕生日会を開いてくれるなんて、私、ほんっと感激してしまいまして!」
そこから先は覚えていない。延々と先輩に対する愛を叫ばれた気もするし、一緒に風呂に入ろうと言われた気もする。気付いたら神父さまはシスターに当て身を食らって退場していた。
少なくとも、神父さまと先輩はこれ以上ない恥辱を味わったと思う。
「エントリナンバー、スリー! 神父の名誉挽回なるか!? シスター・リザァ!!」
咲耶ちゃんのハイテンションの呼び掛けに応じたのは、シスター。たぶん神父さまのことだろうけど、額に青筋が浮かんでます。あれっ、私、祝われるんだよね?
「えっと……。ウチのがごめんなさいね。あの人、親バカだから……かといってTPOとかあるでしょうけど。あの人そこら辺本当に……。こほん。とにかく、私からも言えることはあまりないわ。
玲愛と仲良くしてくれてありがとう。誕生日、おめでとう」
これまでの中のメンツで、いちばんマトモなお祝いの言葉だった………。
「エントリーナンバー、フォー。
ちゃんと祝ってね。ちゃんと祝ってね。ちゃんと祝ってね。──遊佐くん」
呼ばれて出てきたのは、タキシード姿の司狼。なによ、結構まともな格好して。ちょっとドキってしたし。へえ、こいつもこんな顔できるんだ。
「ほら、今更オレらで言うこととかねぇし。プレゼント。ありがたく受け取れよ」
そうして照れくさそうに渡してくれたのはウサギのぬいぐるみ。可愛い。なんて可愛いんだ。
「司狼………」
トゥンク……♡となった瞬間。
うさぎの頭が開いて中からミサイルが現れた。
なんだろう、すごい、既知感が───。
突如、ミサイルが飛んであたしの目の前で
「ははははは、いやあ、結構引っかかるもんなんだな、コレ。どうよ、久々の“うさちゃん爆弾”は」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
この野郎………。
司狼はちゃんと、
「仕切り直して───。エントリナンバー、ファイブ。
えっと。無視したい」
「それは許されぬよ。この座で私を無視するなど出来るはずあるまい」
第四神座? で最後に出てきたのは、黒い影。でもなんだろう、すごく覚えある。っていうか。
「蓮、じゃなくて、蓮のお父さんなんでしたっけ?」
「まあそうなるね」
カール・クラフト=メルクリウス。先輩が嫌な顔をするのもわかる気がする。すんごいヤな人だし。
「ああ、君の気持ちももっともだ。私が君らにしたことは、君らからすれば許されざることだろう。だがその上で、言わせて欲しい。
君は、女神を除き唯一私が惚れそうになった女だ。誇るといい。一途な私の気持ちが揺れるなど滅多にないのだからね。ツァラトゥストラも、君にとって不本意だろうが恋愛とは別に、君を大切に思っているだろうとも。それは私が保証しよう。
生誕の日を迎えた君に、最大の祝福を」
それでも、まあ、お巫山戯もなく、ロマンチックな言い方をしたがるあたり、アイツの父親なんだな、と。
なんとなく、そう思った。
「次は神座を超えての登場だァーーッ! エントリナンバー、シックス!
ようこそ姐御、待ってました、正田エース実に実に久しぶりのご登場! 久雅、竜胆ォォーー!」
再び咲耶ちゃんのハイテンションMC。普段のしおらしさはどこに行ったの………。
「祝い事だ。普段ならば叱りつけてやりたい態度だが、まあ良かろう」
そうして出てきたのは、和服の美人さん。うーん、見覚えあるけど、えっとぉ……あれ、具体的にどこで会ったかは思い出せない、かも。
「ああ、いい。私たちのことはよく覚えていないだろうし、御身に世話になった者だと認識してくれ。咲耶ともそんな感じなのだろう。
改めて、久雅竜胆という。御身の助言、当時は理解不能だったが、今となって振り返れば我々の道を照らしてくれたよ。ありがとう。こうして貴方が生まれたことを共に祝えること、嬉しく思う。東征軍を代表して、私から言わせてくれ。誕生日、おめでとう」
優しく微笑んだ竜胆さんは、身に覚えの無い感謝と、お祝いの言葉をくれた。えへへ、なんとなく嬉しい。あなたも、いい男ゲットしたんだって、分かったから。
ちょっぴり不思議だけど、うん、これもいい縁なのかな。
「エントリナンバー、セブン!
今度は世界を超えたビデオレターでお送り致します! 龍辺歩美!」
咲耶ちゃんとMC似合わせて、うぃーん、とあたしの前にスクリーンが現れた。そこに映ったのは、明るい髪色の女の子。ちょっと身長が低い高校生って感じなのかな。
「え、えーっと。その。ホントに私でいいのかすごく不安だけど、やっぱり神座万象シリーズの爪牙としては是非とも一言言わねばなるまいと! 志願致しました!
戦真館學園、龍辺歩美です!
えぇと、香純ちゃん! すっごく可愛くてかっこいい香純ちゃんが好きです! 誕生日おめでとう! これからも応援してる!」
ぷつん、とビデオメッセージが終わった。短いながらも愛が感じられる言葉。すごく恥ずかしいけどその前に。
「かわいい………」
すんごい、ぎゅっとしたくなる子だった…………。
「エントリーナンバー、エイト! 待ちに待った正妻!
氷室ォーー玲愛ーー!」
咲耶ちゃんの言葉を向けられて、恥ずかしそうに先輩はマイクを手に取る。いやあ、そんな顔されると照れますなあ!
「綾瀬さん。私に藤井くんを盗られるとも知らずに処女を散らした可哀想な綾瀬さん」
「ちょい!?」
早速爆弾投げ込まれたんだけど。あたしの恥ずかしい話を晒されたんだけど。
そんな私もお構い無しに話を続ける先輩。はい、もう、いいです。
「貴方はいつも元気で、藤井くん好き好きムーブメント垂れ流してるくせに剣道出来て、学園の表ミスに選ばれる天然びっちだけど、うん、えっと、私の大切な友達だと思うよ」
祝われてるよね? 貶されてないよね?
あたし、心配です。最後のデレが相殺されるくらいに心配です。
「いつも馬鹿なこと考えて、馬鹿だけど。そんな綾瀬さんがみんな好きだから。
誕生日、おめでとう」
そんなこともお構い無しに言葉を続けるのが先輩らしい。ちゃんと最後に祝ってくれるところも。
そうしてマイクは、咲耶ちゃんに渡された。
「私は竜胆さんと同じく東征中にお世話になり、その後も。文を通わせたりいたしました。
あなたのお人柄、総てをわかっているような口ぶりや謎の正義感は少々、かなり、腹が立ちましたが」
そんな記憶のないところを言われても、と言う顔を見た咲耶ちゃんは微笑み、続ける。
「あなたは皆の太陽。そっと照らしてくれる優しいお方であると、私は知っています。あなたの誕生日が、とても楽しい1日であるようにと、私なりにこのような催しを開いてみましたが、いかがでしょうか。楽しんでいただければ、幸いです。
誕生日、おめでとうございます。これからも、あなたらしく、皆と明るく接していただければと思います。また愚痴等ございましたら、咲耶の手紙にお書きくださいませ」
これまでのふざけた態度はどこへやら。真面目な言葉で嬉しいよ。
そして、トリを務めるのは。
「エントリーナンバー、テン。
マリィちゃんと、藤井くん」
先輩に呼び出されて来たのは金髪美少女のマリィちゃんと、ブスっとしてる蓮。おい蓮。なんだその態度は、蓮。
「カスミ。誕生日おめでとう。あなたと会えて本当に良かった。たまにすごい暴走をしちゃうのは、やめて欲しいけど。私はずっと、カスミの友達だよ」
マリィちゃん………。いい子。
そして蓮。蓮ちゃんったら恥ずかしそうに顔を背けている。女の子かよ。
「いや、その。別に今更おまえを祝うとか……」
「いいじゃんか! ほれ、祝え、こら!」
思わず相手のスネを蹴ってしまう。いや、あたしは悪くない。こいつが素直じゃないのが悪いんだ。マリィちゃんも言わないの? と上目遣いで聞いている。
どうだ! どうだコノヤロウ!
「………………。
……………………あー。分かったよ。わかった、言えばいいんだろう。
その、誕生日おめでとう、香純。お前は本当に騒がしくて、本当に騒がしいやつだけど」
うーん。あたしのお友達はアレなのだろうか。もしかしてあたしを貶さないといけないゲームでもやってるのだろうか。
「まあ、いい女、だと思うよ。面倒見いいし、飯は上手いし、おっぱいはでかいし、正義の味方だし」
途中で殴りかけたけど、辞めた。ここは空気を読む。
「だから、まあ。これからも仲良く、適度に仲良く、つるんでいけたら嬉しいよ。よろしく」
まあ、うん、あんたはほんとシャイだもんね。ここまで言えたなら、よしとしたげましょう。
「はい、よく言えました!」
「なんで偉そうなんだよ、おまえ…………」
だっていいじゃない。本日の主役だよ、あたしは。
ちょっとウルっと来ちゃったし、みんなの期待に応えて騒いでやりましょう。
「こちらこそ、皆。祝ってくれてありがとう!
これからも、えっとぉ………、仲良くしてね!!」
今日中に書き上げられたことに感謝。