剣皇─英雄の師   作:狐のこんこん

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序章
第一話 邂逅


 

 暗い暗い、真っ暗な世界、泥のような暗闇に沈みこんでいく私。

 

 私は一体何者だったのだをろうか?知らない、分からない、今はそんなことどうだっていい。

 

 ここはどこなのだろうか?見えない、どこだっていい、今はただこの暗い沼に溺れていたい。

 

 何も考えなくていい暗闇の世界、何も感じなくていい暗闇の世界、今はこの生暖かさが心地いい。

 

 そうして暗闇を漂い続けてどれだけだっただろうか、一分か、一時間か、はたまた一年かもしれない。

 こんな暗闇では正確な経過時間など分からないし、そもそも知る必要性すらないのだ。

 

 さて、もう一度意識を落とすとしよう。

 そうして私が眠ろうとすると、ふと妙な感覚を覚えた。

 自分の体が崩れていくのだ、足の先から、手の先からどんどんと。

 それはまるで岩が風化して砂になっていくような、そんな不思議な感覚だった。

 

 そうしてしばらくすると、体の感覚は無くなっていた、しかし私が存在するという意識のようなものは残っている、なんとも奇妙な感覚である。

 

「生きたいか?」

 

 ふと、虚空から声が聞こえた。

 それはしゃがれた老人の声のようでも、鈴を転がすような女性の声でもある、不思議な声だった。

 

「生きたいか?」

 

 今度は快活な少年のような声でもあり、掠れた老婆のような声だった。

 

 私は体もない、あるとすれば存在するかどうかあやふやな私だという意識のみ、ともすればこの答えに辿り着くのは当然の帰結であろう。

 

「生きたい」

 

 答えた瞬間、前方から目も開けられないほど眩しい光が、暗闇を塗りつぶすように広がってきた。

 

「ならば目を開け、謁見することを許す」

 

 そう言われ目を開いた瞬間、私は目を疑った。

 

「ここは……」

 

 見渡す限りに広がる雲の海、その上に私は立っていたのだ。

 

 柔らかな光を発しながらゆらゆらと浮かぶ雲、空の色は青ではなく金色に輝いていた。

 物理法則が存在する三次元では、まずもってありえない幻想の光景、その余りの美しさに息をすることすら忘れていた。

 

「目覚めたか」

 

 あの声が聞こえた。

 一人が発している筈の声なのに、老人や子供が同時に話しているのではと錯覚する奇妙な声。

 その声は頭上から聞こえた。

 

 そこにいたのは、常に形が変化し続けている人型の何かであった。

 人型は常に発光し続けており、正しく神話に登場する神のような雰囲気を漂わせている。

 

「お主は既に死んでいるのじゃ」

 

 あぁ、そんなことだろうと思った、そして私は死んだ後に残った魂、ということなんだろう。

 

「そして、お前の魂は『魂の炉』という空間に入れられ、時間をかけて再構築、その後次の器へ宿す予定だった」

 

 予定『だった』?何か問題でも起きたのだろうか。

 

「貴様の意識が残りすぎていたのだ」

 

 意識……確かにあの暗闇で体が崩れた後、私は私であるという意識のようなものだけが残っていた。

 あれが恐らく魂の再構築、という過程なのだろう。

 

「そしてこの世界の魂の炉では、もうあなたの魂を再構築することができないの。だから君には異なる世界に移動してもらう」

 

 異世界転生、というやつだろうか。

 流行っていたのは知っていたが、まさか自分が体験する側に回ることになるとは。

 

 しかし異世界にも種類がある、厳しいタイプの世界だったら、力を持たない人間である私はあっさりと死んでしまう。

 ここで強力な能力の一つや二つを貰えば多少マシになるんだろうが、そういう世界はインチキまがいのボスとかがいるのだ、死ぬ。

 

 万が一危険そうだったら何とか泣きついてどうにかしよう……神様相手に土下座は効果があるのだろうか?

 

「そんなことせんでもくれてやるわい、まぁチートとは言えないかもしれないけどね」

 

 あれ、もしかして心の声聞こえてます?

 

「聞こえてますよ、神様ですから」

 

 なんと、神様は心の声が聞こえるらしい、さすが神である。

 私は神を信仰していた訳ではなかった筈だが、これを機に入信してもいいかもしれない。

 

「随分と薄っぺらい信仰じゃのぉ……」

 

 あ、そういうことも分かるのか、隠し事とかできないなこれは、というかむしろ疲れないのだろうか?

 

「神と人間の価値観を一緒だと思うんじゃねぇ、あなたと違って私は凄まじい年月を生きているのよ? ほぼ概念的な存在と言っても過言じゃないんだよ」

 

 なるほど、確かに生命と概念じゃ存在そのものの位が違いますからね。

 それで神様?私はどんな特殊能力を貰えるので?

 

「貴様意外と図太いな……まぁいい、あなたに与えるのは直感よ」

 

 直感〜?なんかしょぼくないですか?

 

「たわけ、そもそも今回君が行くのは、お前のいた世界とそう大差ない世界なんだから」

 

 なるほど、だから強力なものではないんですね。

 

 ……金ピカな王様の財産とか、カフェイン中毒な通行さんのベクトルとか、暴食スライムさんみたいな能力吸収とか、ちょっぴり憧れてたんだけどなぁ。

 

「さすがにそこまでやると魂が歪みすぎて使い物にならなくなるから却下だ。そも、ああいうのは持ち主が恵まれているから扱えるのだ」

 

 なるほど、ですが仮にそういう能力を私に与えた場合どうなりますか?

 

「まず間違いなく貴様の魂が耐えきれずに消滅する、王の財宝に至ってはわし共々消されるぞ」

 

 なるほど……え実在するんですかあの慢心王様。

 

「えぇ、いますよ。どんなものにも世界がある、二次元だろうが三次元だろうがな」

 

 まそんな話はどうでもよくてですね、いい加減私が行く世界がどこか教えてくれません?

 

「あぁまだ言ってなかったか、確かソードアート・オンライン? だったかのとこだ」

 

 なるほど……ちなみに転生しないという選択肢は?

 

「あるわけないじゃろ」

 

 ですよね知ってた、でも何故ですか?

 

「そんなもんあそこまで意識が残る奴面白いに決まってるし、そろそろ何か刺激が欲しかったのよね〜」

 

 神は気まぐれであらせられましたか。

 

「神ってそういうもんだと思うよ、大丈夫大丈夫」

 

 ではそんな神様に質問があるのですが。

 

「おや、なんだろう」

 

 例えば原作のキャラを生存させたりすると何か不都合が起こったりしますか?

 

「う〜ん難しいね、多分生き残らせ過ぎると物語の進行に影響が出るから……最低でも数人、それが恐らく限度かな」

 

 なるほど、気をつけておきます。

 

「ま、質問にも答えてあげたし現状も説明してあげた、もう十分だよね!」

 

 ?それは一体どういう……

 

「はいそれじゃあ行ってこ〜い!」

 

 神様がこちらに指を指した瞬間、私が立っていた雲にぽっかりと穴が空いた。

 

「ああああああああああああああ!?」

 

 落ちていった、綺麗に、真っ逆さまに。

 ちょっとでも信仰しようと思った私が馬鹿だった、こんなの……こんなの……

 

「神様なんて二度と信仰しないあああああああああ!」

 

 次会った時にはぶん殴ろう、そうしよう。

 

 私に次があるのかは分からないけど、せっかくの第二の人生、エンジョイしなきゃ損だろう。

 

 いざ、二次元!

 

 

 

「──さて、今頃新き生を得ていることじゃろうな。直感を与えるとしかあやつには伝えておらんが……まぁ大丈夫じゃろう。」

 

「貴様、わざとだろう」

 

「まぁ、記憶を改変されるなんて知ったら抵抗されるに決まってるんだし妥当じゃない?」

 

「しかしよかったの? 記憶を改変したとはいえ、直感に加えて剣の才能まで渡していたじゃない」

 

「いいんじゃよ、あの者の命はわしらが救った、となればわしらがどう細工しようと自由じゃろう」

 

「それもそうだね」

 

「さて、どれだけ世界という舞台で踊り、わしらを楽しませる事ができるかのぉ」

 

『見せてもらうぞ、新しい神の舞台装置(デウス・エクス・マキナ)よ』

 

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