私は転生者である、神に空から落とされて転生したのは覚えている。
しかし転生する以前の記憶は基礎的なもの以外殆ど無い、私にあるのは剣の才能、直感、この世界の情報だ。
どうして私がこの世界に転生することになったのかは覚えていない、神と会った筈だが何をしたのか覚えていない。
しかし分かることがある、それは生きねばならぬということだ。
幸いなことに父親は皐月財閥という大財閥の総帥、母は有名モデルな為、何不自由なく幼少期を過ごすことができた。
私は見た目はまだ幼いが、中身は成熟している、親のスネかじりと考えてしまうが、この際気にしないことにした。
両親は私にしっかりと愛情を注いでくれているし、しっかりと応えなければ失礼というものだろう。
さて、そんな私もこの春から小学校に通うのだ……が、正直あまり気乗りはしない。
足し算、引き算、掛け算、割り算が出来れば何とかなるのが小学校だ。
テストをすれば百点は当たり前、人生の絶頂期が小学校と言っても過言ではないという人もいるのではないだろうか。
そんな小学校、人生二週目の私は退屈で退屈で仕方がない。
しかし通わねばならないのだ、義務教育だから。
コンコン、と、ドアを叩く乾いた音がする。
「おはようございますお嬢様、朝食の準備が整いましたので呼びに参りました」
「ありがと、すぐに行くわ!」
生まれてから約七年経ったが、未だに執事やメイドが呼びに来るのは慣れない。
切るのが面倒なため放置している髪を梳かし、大きなクローゼットにしまってある大量の服の中から好きなものを選びとって袖を通す。
実に個人的な話だが、このブローチがついた中世にありそうなネクタイがお気に入りだったりする。
さて、そろそろ部屋を出よう、父上と母上が待っているはずだ。
綺麗な彫刻が施された木製のドアを開くと、廊下にはズラっと使用人達が並んでいた、全員綺麗な四五度のお辞儀をしている。
『おはようございます、お嬢様』
そして全員ぴたりと揃った挨拶、本当によく訓練されているものだ。
「うん、おはよう!」
そう挨拶し返すと、皆嬉しそうな雰囲気を醸し出す、たかが挨拶一つとはいえ、使用人的には嬉しいことなのかもしれない。
と、使用人達のアーチを進むこと数分、ようやくダイニングルームの扉にたどり着いた、私よりも大きな大きな扉だ。
「おはよう、
「おはようございます、お父様!」
この人が私のお父様、綺麗なオールバックと端正な顔立ちが特徴な人だ。
そしていつも自分の意志を押し付けるのでなく、私の意志も聞いてからどうすればよいかを考えてくれたりする、私の自慢のお父様だ。
「今日はちょっとお寝坊さんかしら?」
「ごめんなさいお母様、小学校というものが楽しみで、少し寝るのが遅くなってしまったの……」
「皇大丈夫?」
「少し眠いけど大丈夫よお母様、むしろ楽しみで寝てなんていられないわ!」
「あらあら、元気ねぇ」
この人は私のお母様、こんなに柔和な笑顔を浮かべているのに、撮影の時や仕事の話をしている時はとても凛々しい顔になるのだから驚きだ。
しかし殆どの時は、いい匂いがして私をやさしく包み込んでくれる、とっても優しいお母様なのだ。
「さて、そろそろ入学式の時間だ、学校へ向かうとしよう」
「はーいお父様! 私ランドセル持ってくるわ!」
「あらあらあんなにはしゃいじゃって、可愛いわねぇ」
……うん、最近体の年齢に精神が引っ張られているな、成長と共にこのズレは無くなっていくと思いたいが、まぁ今気にしても致し方なしだな。
そんなことを考えながら廊下を走ること数分、自分の部屋へとたどり着き、まだピカピカのランドセルを背負ってエントランスホールへと向かう。
既にお父様とお母様は準備を整え、私を待っていた、どちらもきっちりとスーツを着ている。
「さぁ、行こうか」
「早く行こ! お父様! お母様!」
「そうね、行きましょうか」
?何故かお父様もお母様も動こうとしない、どちらも行くと発言したのにも関わらず、一歩も動いてないのだ。
……あっ。
「ねぇ、私お父様とお母様と手を繋いで行きたいの……ダメ?」
「! もちろんだとも、さぁ三人で手を繋いで行こうね」
「うふふ、三人で並んで歩くなんていつぶりかしらねぇ」
なるほど、素直に手を繋ごうと言い出せなかったわけか、お父様もお母様もしっかり愛してくれてはいるものの、仕事であまり一緒に過ごしてないから不安になったのだろう。
となれば私が一肌脱ぐしかあるまい。
「やった! お父様とお母様と一緒に行けるのすっごく嬉しいわ!」
「ああ、僕達も嬉しいとも」
「滅多に三人で出かけるなんてないものねぇ、でも今日はしっかり予定も調整してきたし、娘の晴れ舞台なんだからしっかり目に焼き付けないとね!」
「しっかりカメラマンも雇っておいたし、抜かりはないよ、だから堂々としていなさい」
「はい、お父様! 頑張ります!」
入学式で何を頑張るんだって話だが、まぁそこは気にしなくていいだろう。
そして乗る車はリムジン、黒光りするボディに長い胴体が特徴の、金持ちが乗るというイメージがあるであろう車種だ。
中には壁にそって伸びる横長のソファ、そしてソファの前にはグラスとかワインの瓶がズラっと並んでいる。
ちなみに前まではワインくらいしか無かったのだが、今はジュース等も置かれている、特注で作らせたらしい。
さて、両親とあまりできなかった雑談を楽しみ、ジュースで喉を潤していると小学校へとたどり着いた。
ちなみに普通の小学校なため、この車に凄まじい視線が集まってくる、当たり前だな、リムジンだもんリムジン。
「早く行きましょう! お父様! お母様!」
「そんなに慌てなくてもいいのよ?」
「だって楽しみなんだもの!」
だがしかしここで焦ってはいけない、運転手が開けてくれるのを待ち、髪を手でなびかせ、上品なお嬢様感を高める。
何故こんなことをするのか、それは小学校はカーストが重要だと考えているからだ。
小学校はまだ年齢的に幼い、たとえ最高学年だとしても幼稚な言葉が飛び交う、そして低俗なイジりというものも横行する。
私はそれが気に入らない、故に私が上に立つ側になればよいと考えついたのだ。
手っ取り早く上に立つには親の力を見せればいい、親の七光りだと思われそうだが、それは単純なおぼっちゃまがそういうことをするとそう見えるだけだ。
私は違う。
まず育ちのよさをアピールする、いい姿勢で、いい道具を使い、受け答えもしっかりする。
そしてクラスメイトに積極的に関わり、分からないところを教えたりして、私は皆より上だという意識を植え付ける。
そうすることによって、穏やかで楽しい小学校生活が送れるはずだ、完璧ではないだろうか。
「じゃあ私たちは先に会場にいっているわね」
「はい、お母様!」
受付を済ませると、そう言って両親は体育館へと向かっていった、運転手の人を連れて。
……運転手の人、大きなリュックとバズーカみたいなカメラ持ってたんですけど……気合い入れ過ぎでは?
「じゃあついて来てね〜」
「分かりました!」
六年生の人に名札をつけてもらい、教室へと案内してもらう、中々緊張するものである。
教室では、他の一年生が待機していた、私はそこそこ後の方に来たらしい。
そして集まる視線、男子は好奇心たっぷりの目線を、女子はキラキラした目線を向けている。
格好からしてお嬢様だし、目的である上に立つということに一歩近づいたのではないだろうか。
「じゃあここに座って待っててね」
「ありがとうございます!」
さて、とりあえず式が開始されるまで待たなければならない、暇つぶしにこちらをじっと見ている人達に微笑みでも返しておくか。
「ッ!」
男女問わず赤くなって顔を背けてしまう、さすがはモデルのお母様譲りの顔である。
だが油断してはならない、しっかりと立場を固めなければならない、何故なら『ここにはユウキが入学する』のだから。
まずは入学式、そこが最初の山場だ。