剣皇─英雄の師   作:狐のこんこん

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第三話 小さな王の鉄槌

 さて、私がこの小学校に入学してから四年が経った、今年がユウキが入学する年だ。

 ユウキは確かHIVキャリアであることを明かされ、嫌がらせを受けたために転校を余儀なくされたはず、助けるならばそこが第一段階か。

 

 その段階ではAIDSは発症していなかったはず、となれば嫌がらせや他人からの暴言が原因だろう。

 となればそれ以前に私ができることは一つ、その場に居た嫌がらせの主犯に鉄槌を下すこと、それだけだ。

 

 まぁ嫌がらせが始まるまでにまだ時間はあるだろう、それまでにより立場を磐石なものにしよう、失敗は許されない。

 私の未来の知識もすべて分かる訳ではない、故に備えあっても憂いは無いのだ。

 

 しかし殆どやることは残っていない、スクールカーストでは文句なしのトップ、低俗な暴言やいじめは耳に届いた瞬間制裁を下す。

 制裁といっても私が厳しく叱りつけ、その子供の両親を呼んだ後、全ての顛末を告げるというものだ。

 大抵の子供は叱りつけた時点で心が折れかかり、両親の悲しみと怒りを受けて完全に折れる。

 

 そんなことを繰り返していたら、小学生の王のような立場となっていた。

 それぞれのクラスには私の息がかかった子供が必ず三人以上存在する、そのクラスで起こったことを報告してもらう為だ。

 私が行っても萎縮して話してくれないことが多かったが、この制度をとり始めてから情報収集がスムーズになった。

 

 しかし、もう殆ど不祥事は起こらなくなってきている、いいことなのだが少し退屈だと思ってしまうのは悪いことだろうか。

 まぁ小学校なんて元から退屈でしかなかった、家に帰った後の方がよっぽど楽しい。

 

 だがそれも年々マンネリ化し始めたため、最近ゲームを始めてみた、するとどうだろうか、どハマりしてしまったのだ。

 レトロなものから最新のものまで、どのゲームも面白くて一度やりだすと止まらない。

 そしてあのゲームしたいこのゲームしたいとねだっていった結果、私の部屋がゲームだらけになってしまったのだ。

 

 巨大な本棚にはゲームがぴっちりと収められており、足りなくなって床にまで進出していた。

 そしてゲームが収まりきらなくなったため、私がゲームをするための部屋まで用意してくれた。

 

 この部屋はパッと見個人図書館のようにも見える部屋だ、収められているのは本ではなくゲームのパッケージなのだが。

 二階の床を壊して階段を設置し、壁に沿うように凄まじい数の本棚を設置したこの部屋は、まさにゲームの図書館とでも言うべき規模になっていた。

 そんな楽園にふかふかのソファと巨大なモニター、飲料などを置くための机を設置し、寝転がってダラダラとゲームをし続ける、そんな日々を過ごしていた。

 

「ん、もうトロコンか。次は何をしようか……」

 

 あぁ、そういえば気になっていたファイナルクエスト最新作を買ったんだった、今日はそれをやり込むとしよう。

 机に置いてあるパッドを操作し、ゲームのアイコンをタップ、すると巨大なアームを備えた機械が動き始めた。

 この機械は専用のアプリで操作することで指定したゲームを持ってきてくれる優れもの、この部屋と一緒にプレゼントしてもらった相棒だ。

 

「さぁて早速プレイを──」

 

「お嬢様、お食事の時間でございます」

 

 ……いい所だったのに、せめて起動すらしていないのが救いといったところだろうか、起動していたら機嫌がすこぶる悪くなったに違いない。

 我ながら随分と熱中するようになったと感じる、もしかしたら前世はゲーマーだったのかもしれないな。

 

「お嬢様?」

 

「うん、今行くよ」

 

 腹ごしらえをしたらすぐに起動するとしよう、しかし私は小学生、少し進めたら寝るとしよう、私は小学生だしな。

 

「──おい、こいつえいずとかいう病気にかかってるらしいぜ! きったねーよな!」

 

「うえっばっちー! こっち来んなよ!」

 

「ちがっ、ぼくは……」

 

「おまえ女のくせにぼくとか言ってやんのー! 気持ちわりー!」

 

『ギャハハハハハハ!』

 

 ──二年間何事も無かったから油断していた、これはユウキがAIDSを発症する訳だ、とても小学生が耐えられる罵詈雑言ではない。

 久々に怒りを覚える、さぁクソガキ共、貴様らには鉄槌を下すだけでは飽きたらん、親族共々地獄に落としてやる!

 

「失礼しますね」

 

 だがしかし上品さは忘れてはならない、いくら内では憤怒の炎が燃え盛っていようと、外側だけでも上品であるべきなのだ、積み上げたものが瓦解してしまう。

 

「聞き捨てならない言葉が聞こえたものですから、ついつい覗きに来てしまいました」

 

「ひっ!」

 

 やはり感の鋭い子には溢れ出る怒気がバレてしまう、まぁ私がここに来た時点でもう遅いのだが。

 

「あなた達、AIDSがどうのと言っていましたよね? 確かにAIDSは大変な病気です、ですが紺野さんはただHIVに感染したというだけ、AIDSはまだ発症していません」

 

「何がちがうんだよ! どっちもばっちーだろ!」

 

「いいえ違いません、恐らく紺野さんはAIDSを発症しないために辛い薬の服用も続けているのでしょう、それでも彼女は学校に行きたいと望んで来ているのです。ですがあなた達の言動は、そんな思いを踏みにじるものです、到底看過できるものではありません」

 

「でもそのえいずってやつがうつるだろ!」

 

「いいえ移りません、HIVの感染力は非常に弱いものです、日常生活で移るということはまず有り得ません。それともあなた達は人の血を舐めるのですか? 舐めないでしょう?」

 

「で、でもきたねーだろ!」

 

「あなた達の簡単に人を罵倒できるその心よりもよっぽど綺麗ですよ」

 

「うるせーよババア! 急に出てきてなんなんだよ!」

 

「はぁ……このままでは埒が明きませんね、連れていきなさい」

 

『はっ』

 

「なんだよあんた達!? 離せよこのやろう!」

 

 念の為に何人か連れてきておいて良かった、あとは先生や保護者を権力で抑えつければ完璧だ。

 まぁそれよりも優先すべきことは……

 

「紺野さん、大丈夫ですか?」

 

「えっと……あの、ぼく……」

 

「大丈夫、あなたは何も悪くないんです、あなたはしっかり努力をしている、そこに差別をされるいわれはないのですから」

 

 まだ身長が低いユウキに合わせて優しく抱きしめる、すると耳元から鼻を啜る音と小さな嗚咽が聞こえてきた。

 これでAIDS発症のリスクはかなり減ったはず、私が知っている未来に比べてもだいぶ猶予があるだろう。

 その間に私がすべきこと、それは父上へのある『お願い』だ、そのために誕生日のプレゼントを貰わずに、欲しいものができたらお願いすると言ったのだ。

 

「……ふ……っ……ぼくっ……ずっと辛くて……!」

 

「えぇ、分かっていますよ、だから今は思う存分泣いていいんです、気の済むまで私の服を濡らしなさい」

 

 うむ、やはりここまで泣きじゃくるということは相当辛かったんだろう。

 文章でしか描写されていなかったが、今は現実、寄り添うことができる。

 

 しかしそうなってくると本格的にあの三人のクソガキは許せない、インターネットがある今、貴様らには永遠に消えない業を背負ってもらおう。

 やりすぎだと思われるかもしれないがそんなのは知らん、力を持っている私がルールだ。

 

「先生、早退させていただきます」

 

「えっ……と〜、どうしたのかな?」

 

「早急に父上に話さなければいけないことがあるんです、それではさようなら」

 

「ちょっ、皐月さん!?」

 

 後ろで先生が騒いでいるが気にしない、今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。

 ポケットから携帯を取り出し、いつも送迎してくれている運転手に電話する。

 

「──あぁ、私だ。本気で急いでいるんだ、なるべく早く来てくれ」

 

 すると数秒後に校門へと突っ込んでくるリムジンが見えた、そしてドリフトをして私の前に横付けした。

 

「お嬢様、お乗り下さい」

 

 いつになく運転手も真剣だ、私があの口調で話すことは滅多にないし、話す時は本当に真剣な時だ。

 

「できるだけ早く向かってくれ」

 

「お任せ下さい」

 

 凄まじい速度を出しながらも揺れを一切感じない辺り、本当に我が家の使用人達のレベルは高いのだと感服する。

 

「到着致しました、お嬢様」

 

 おっと、もう着いたらしい。

 運転手へ礼を言い、早足で父上が居るであろう執務室へと向かう。

 

「父上、お願いがあります」

 

「……そんなに急いで、どうかしたのかな」

 

 父上ならきっとどうにかできるはず、時間はあるんだからきっと。

 

「はい、私は誕生日に言いましたよね、本当に欲しいものができた時にお願いをすると」

 

「あぁ、確かに言ったね」

 

「ですから今、その願いを使います」

 

「ふむ、まずはその願いを聞こうか」

 

「HIVを完治することができる薬を何としてでも開発して頂きたいのです」

 

「……理由を聞いてもいいかな」

 

「今日、私の学校でHIVキャリアであることをリークされた少女がいました、感染力は非常に弱いのに移るだの汚いだのと」

 

 ここで語気に熱を込める。

 

「私は、私の前でそういう行為が横行するのが許せないのです、どうしても、手を差し伸べたくなるのです」

 

「……」

 

「難しいお願いをしているのは承知しています、ねですが私は結局力のないただの子供、父上や母上に頼るしかないのです」

 

「お願いします、父上、どうかお力を貸してください」

 

 深々と頭を下げる、最敬礼よりも深く、慈悲を乞うように深く。

 

「……やれやれ、いつからそんなことを言うようになったのかな、私の娘は」

 

 ……っ、やはり駄目か、こんな無茶な願いなんて聞き届けられる訳が無いか。

 

「なんて、やっと子供らしい我儘を言ってくれたね」

 

 その時の父上は、とても穏やかで、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。

 

「え?」

 

「皇、君は確かにこの皐月家の一人娘だ、でも一人娘だからといって自分を押し殺さなくてもいいんだよ」

 

「もっと自分の意見を言ってもいい、ということでしょうか……?」

 

「う〜ん、少し違うかな、もっと僕達に甘えていいってことだよ」

 

 確かに私は小学生の中での地位を確立しようとして毅然とした態度を取っていたが、家の中でもそれが出てしまっていたということだろうか。

 もっと甘えてもいいなんて考えたこともなかったが、確かに今は小学六年生、まだまだ親に甘える年齢だろう。

 

「父上、それはもっとお願いを聞いてくれるということでしょうか?」

 

「いいとも、子供の我儘に振り回されるのが親というものだ、何でも言いなさい」

 

「でしたら父上、もう二つお願いがあるのですが……」

 

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