剣皇─英雄の師   作:狐のこんこん

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第五話 月夜の黒猫団

 このデスゲームが始まってから約五ヶ月が経った、現在二十五層をクリアしたが、これから先は加速度的に攻略の速度が落ちるだろう。

 

 そういえばアスナはキリトとのコンビを解消してギルドに入ったのだったな、茅場……いや、ヒースクリフのどこが良かったのか、私にはてんで理解できないが。

 そろそろ私も攻略組に参戦してやるべきだろうか、キリトからは何度も懇願されているし、一部の過激な連中は私を参加させろだなんだと騒いでいるらしい。

 

 まぁ騒いでいた連中は全員デュエルで黙らせたが、キリトが青ざめて震えていたのは気のせいだろう。

 

 それよりも気にするべきはこの謎のスキルだ。

 いつから存在したのか分からないこの『剣皇』というスキル、中々に厄介な代物かもしれない。

 

 というのも、このスキルに関して情報屋である鼠のアルゴに調査してもらったが、一切かすりもしなかったというのだ。

 このことから、恐らくこのスキルはユニークスキル、それもかなり癖がある。

 

 なぜならこのスキル、他の武器スキルを習得することができない上に、スロットから外すこともできないのだ、つまり通常攻撃よりも高い威力を誇るソードスキルが使用不可能となってしまう。

 その代わりなのかは知らないが、尋常ではないSTR(筋力)AGI(俊敏性)のバフがつく、やけにソードスキルなしでも威力が出ると思ったらそういうことだったか。

 

 ……だが、このスキルは私にとって一番ぴったりのものかもしれない。

 私にとってソードスキルというのは一種の枷でしかなかった、しかしこのスキルがあれば、私のパフォーマンスを最高まで引き上げることができる。

 

 昨日試してみたが、このスキルはどうやら敵を倒した回数で熟練度が上がってゆく仕組みらしい、早速狩場へ向かうとしよう。

 とりあえず一週間ほど篭ってみよう、かなり熟練度が上がるはずだ。

 

「──はあああっ!」

 

 そして一日十二時間狩続けて、ようやく熟練度が三〇〇に到達した、一〇〇〇に到達するのはまだまだかかる、気長に上げるとしよう。

 しかし中々疲れたな、流石に睡眠時間四時間半は疲労が抜けきらない、ここからは少しづつ上げていくことにしよう。

 

「ふぅ、流石にここまで連続でやり続けると飽きるな、低層だからこその単調さも相まって気が狂いそうだった」

 

 するとピロン、というメッセージの着信音が鳴った、差出人はアルゴ、何かあったのだろうか。

 

『キー坊がギルドに加入した』

 

 その文面を見た瞬間、私は固まってしまった、あぁもうその事件が起きるのかと。

 その事件は、キリトが病的にソロに拘る原因と言っても差し支えないものだ。

 

「たしか六月十二日にことが起きる、で、アラームトラップに引っかかって馬鹿弟子以外、月夜の黒猫団が全員死亡と」

 

 たしかに最前線から僅か三層下の二十七層の迷宮区、いくらキリトがいてもたしかに全滅するだろうな、『私が居なければ』。

 スキルによる圧倒的な補正で、大体のモンスターは一撃で葬ることができる、しかしギルドメンバー全員を守り通せるかと言われれば疑問が残る。

 

 恐らくそこで延々とモンスターを狩り続けるだけなら私一人で十分だ、しかし守りながらとなると怪しい。

 いくら私が圧倒的な戦力を持っているとしても結局は一人、戦い続けることはできても守り通すことは不可能に近い。

 よしんば助けられて三人……いや、キリトと協力しても一人が限界だろう。

 

「となると一番守るべきなのはサチ……いや、しかし……」

 

 そう、サチを助けるということは、他のギルドメンバーを犠牲にすることと同義なのだ。

 それをした瞬間、私はオレンジどころかレッド以下の屑に成り下がる。

 だが、一人でも助けられるならいいじゃないかと言っている私が居る、それは駄目なことだと分かっているのに。

 

「……はん、何を今更。私ははじまりの街でクラインを見殺しにした、オレンジプレイヤーだって何人も殺してきた、なら今更背負う罪が重くなったところで私が罪人なのには変わりない」

 

 罪なんてどれだけでも背負ってやろう、逃れる術は無いのだから背負えるだけ背負うまでだ。

 

「さて、そうと決まればまだスキルを上げなければな、万が一の事があっては困る」

 

 

 

 ──さて、今日が月夜の黒猫団全滅の日だ、剣皇スキルも熟練度が五百になって更にステータス補正がかかった、迷宮区のモンスターを一撃で葬れることも確認済だ。

 しかし焦ってはいけない、ここで私がキリトに接触しては攻略組だということがバレてしまう、あくまでも転移門付近に居て偶然、というのを演出しなければならない。

 

 ん、来たな、キリトとサチ、その他三名のプレイヤー、一応驚いた表情でもしておくか。

 

「師っ──!」

 

 互いの視線が交錯する、呆れ顔の私に対して人差し指を口に当てて静かにしてくれのジェスチャーをするキリト、ここは頷いておく。

 そしてメッセージを飛ばしておこう、『何をしている貴様、前線から離れるのではなかったのか』と。

 

 するとすぐに返信が帰ってくる『理由があるんだ師匠、また後で話すから黙っておいてくれないか』か。

 一応『いいだろう』と返信してやると、キリトはほっとしていた。

 

「どうしたんだキリト? 早く行こうぜ!」

 

 キリトはニット帽のようなものを被っているいわゆるシーフのような格好をした青年に呼ばれていた、あいつがトラップを作動させてモンスターがなだれ込んできたんだったか。

 

「あ、あぁ! 今行くよ!」

 

 キリト、貴様はなんでこちらをチラチラ見ている、師匠を信用できないとでも言うつもりか?

 

「……まぁいい、私も準備に取り掛かるとしよう」

 

 宿屋の部屋に戻って私は装備を整える、装備の耐久性、ヒットポイントが満タンかも確認する、よし、何も問題ないな。

 さて、急いで追いかけるとしよう、いつトラップ部屋に足を踏み入れるか分からないからな。

 マッピングは済んでいるから部屋の目星はつく、入口からそう遠くない位置だ。

 

「なるべく全速力で行くとしよう、私が行くまでに死なれていては困る」

 

 そう呟いて私は宿屋の屋根に飛び乗って全力で疾走した、人が溢れる道を使うよりもずっと効率的だ。

 物珍しいものを見るような目線を向けてくる輩が大量に居るが無視だ、そんなものに構っている暇はない。

 

 そして迷宮区に飛び込んで駆け抜けること数分、目的の部屋が見えた瞬間、その部屋から赤い光と共にアラームが鳴り響き始めた、そして通路からなだれ込んでゆく大量の敵が見える。

 

「はっ!」

 

 一切足を止めることなく通路に並ぶ敵を切りつけ、無理やり道を開けて部屋の中に飛び込む、すると丁度槍使いと思われる男が死んだ。

 

「跪け!」

 

 そう私が叫ぶと、モンスター達は上から何かに押さえつけられたような挙動をする、これが剣皇スキル熟練度五〇〇で開放されるスキル、『皇の威圧』の効果だ。

 レベル差があればあるほどモンスターの動きを鈍くできる、安全マージンを取れたフロアならとても役に立つスキルだ。

 

 今回私は異常な量の狩りを続けていたためかなり経験値が入っている、恐らく攻略組よりもレベルが高くなっているため、この辺りのモンスターには効果てきめんという訳だ。

 

「そこの槍使い! 伏せろ!」

 

「ッ!」

 

「ぜあっ!」

 

 すぐさまサチを飲み込もうとしていたモンスターの波に飛び込み、一息に切り伏せる、そしてサチを抱き抱えてキリトの元へ向かう。

 

「おい馬鹿弟子! これはどういう状況だ!」

 

「宝箱にアラームトラップが仕掛けられていたんだ! しかもこの部屋はクリスタル無効エリアだ!」

 

「それが分かっているならさっさと煩い宝箱を破壊しろ! この槍使いは私が守り抜いてやる!」

 

「ありがとうございます師匠!」

 

 ──よし、これでアラームを止め、ある程度まで減らしたところでAGI(俊敏値)にものを言わせて脱出する、それまでサチを守り抜ければいい。

 

「おい槍使い、名前は?」

 

「え? な、名前はサチ……です」

 

「そうか、ではサチ、貴様をここから助け出すまで私が守ってやる。私はスメラギ、覚えておけ」

 

 

 

 そこからは比較的簡単だった、キリトが宝箱を破壊した後は全てのモンスターをポリゴン片へと変えてやった。

 AGI(俊敏値)をフル活用して脱出しようと思ったが、その必要も無かったな。

 

「これでひと段落といったところか、モンスターもこれ以上押し寄せてくることもないだろう」

 

「助かったよ師匠、あなたが居なかったら俺たちは……」

 

「嫌な予感がして着いてきたのは正解だったな、だがキリト、なぜ貴様がついていながらトラップを未然に防げなかった?」

 

「それは……」

 

「……キリト、話したくなかったら話さなくてもいいよ」

 

「サチ……?」

 

「話せないってことは理由があるんでしょ? それなら無理して話さなくても良いんだよ」

 

「違うんだサチ……俺が……俺があいつらを殺したんだ! 俺がトラップの事を話していればあいつらは死ななかった! 俺が攻略組だと告げていれば! 俺が嘘をつかなければ!」

 

「キリト……」

 

 部屋にキリトの慟哭が響き渡る、モンスターが来るかもしれないということも考えない心の底からの懺悔が。

 

「確かに貴様が話していれば助かっただろう、だがそれを今更後悔してなんになる? 死んだ者はもう戻ってくることはないのだぞ」

 

 そう現実を突きつけてやる、するとキリトが凄まじい殺意を込めて睨みつけてきた、あの私を見ると震え上がっていたキリトがだ。

 

「あんたに何が分かるんだよ!」

 

「貴様の問題なんぞ私が分かるわけなかろう、だが真実を告げなかったのは貴様のエゴだ」

 

 そう告げてやるとキリトは悲しみと絶望が入り交じったような生気のない表情を浮かべた、それはゲーム開始時のような、もしくはそれ以上に酷かった。

 

「この世界で必要なものはステータスでも装備でもない、情報だ。それを渡すことを怠った貴様が殺したのだ。そして、貴様はそれを背負って生きていかねばならない」

 

 ……流石に言いすぎたか、キリトの顔が見るに堪えないものになっている。

 

「すまない……本当にすまない……」

 

「死者にいくら謝ったところで答えが貰える訳ではない、貴様の懺悔なんぞ価値を持たんのだ愚か者」

 

 ……言葉の刃で切りつけても謝り続けるキリト、その姿は何とも悲痛なものだった。

 瞳には深い闇が浮かんでおり、絶えず涙が溢れていた。

 サチもへたり込んですすり泣いていた、キリトもそうだが、友人が目の前で死んだサチの悲しみは計り知れない。

 

「……サチ、これを渡しておく、この愚かな馬鹿弟子をよろしく頼んだぞ」

 

 そう言って私はベルトポーチから一つの青い結晶を取り出した、転移結晶である。

 

「会話内容な概ね聞いていた、貴様らのギルドマスターが待っているのだろう、使え」

 

「分かり……まし……た……」

 

 何とか言葉を発したサチは、私の手から弱々しく転移結晶を掴んだ、あとはキリトだ。

 

「愚かな馬鹿弟子」

 

「……」

 

 私が呼びかけてもキリトは延々となにか呟くだけだった、壊れたオルゴールのように。

 

「馬鹿弟子、死んだのは自分のせいだと責めるのもいい、しかしその罪の意識を背負っても私達は進まねばならないのだ、立ち止まった瞬間、貴様はその死を無駄にするのだ」

 

「……」

 

「しばらく稽古は休みにしてやる、待っているぞ、最前線で」

 

 それだけ告げて私は迷宮区の出口へと足を進めた、他の黒猫団のメンバーを私は見殺しにしたのも同然なのだ。

 ならキリトに言った通り進み続けなければならない、師匠とは弟子の道を指し示してやるものだから。

 だが暫くは待ってやろう、今のあいつに必要なのは時間だ。

 

 それまでアスナを鍛えてやるとしよう、最近指導し始めたのだが中々筋がいい、流石は未来の『閃光』だな。

 

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