聖女が世界を救う話   作:麻婆炒飯

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初めての短編なので初投稿です( ˇωˇ )





前編

「お前との婚約、今日この場でもって破棄させて貰う!愚かにも聖女の名を騙る偽聖女リティッ!!」

 

 

その日、私の希望は崩れ去った。

私が信じてきた全てが、嘘のように壊れて消えた。

 

 

時は聖暦1594年、世界最大の国土を誇る大国、神聖国シディアの中心に位置する聖都ラスラ。

 

私、リティ・リーフィスは聖都の郊外に並ぶ平民街のごくありふれた家庭の次女として産まれた。

 

厳しくも優しい両親と、大好きな姉サクリと私の四人家族が暮らす家は、これと言って貧し過ぎる訳でも、豊か過ぎる訳でも無い、ごく普通の家庭であった。

 

平凡でありながら穏やかで掛け替えの無い、楽しい毎日を3人の家族と生きていた。

 

 

そんな日常が塗り変わったのは突然だった。

 

姉サクリが12歳の誕生日を迎えたその日、姉の左手の甲に聖なる紋様が浮かび上がったのだ。

 

それは、世界を救う役割を担うとされる『聖女』が宿すという『聖紋』に間違い無かった。

 

 

この広い世界に住む人々は、創造神の加護で護られた『聖域』の外側では常に命の危機に晒されている。

 

外には人類に対して強烈な敵意を持ち、人に仇なす獣達『魔物』が溢れているのだ。

 

だが、だからと言って全ての人類が聖域の中で暮らせる程、聖域は広くはない。聖域の範囲は王都とその近辺に限られていて、その外側に住まう人々も確かに存在する。そんな人達は村の周りに防壁を築いたり、近付く魔物を討伐したりして命を繋いでいる。

 

しかしそれにも限界がある。

 

だからこそ世に現れた『聖女』が外界を渡り歩き、魔物達を『聖女』の力で浄化してその数を減らす事で聖域の外側で生きる人々の平和と安寧を護るのだ。

 

そしてその力は行使すると同時に、王都周辺の『聖域』をより神聖なモノへと強化していく事も出来るのだという。だからこそ世に生まれた聖女は覚醒と共に親元から離れて国に手厚く保護され、いずれは「世界を救済する」という尊い道へと旅立っていく。

 

それは神聖国に住まう人々にとってとても羨ましい事であったし、当時の私も喜んで姉を見送った。

 

だが……今思えば、姉はあの頃から既に、己に待ち受ける運命を知ってしまっていたのかも知れない。

 

そうでもなければ────、

 

 

 

 

「……リティ?」

 

「なぁに?お姉ちゃん。」

 

「一緒に、家出しちゃおうよ。お父さんも、お母さんも連れて4人で、何処か遠くに────。」

 

「ダメだよお姉ちゃん。寂しいのは解るけど、これでも神様が授けてくれたお役目なんだもん。」

 

「っ……うん、ごめん。」

 

「大丈夫だよ。一生会えなくなる訳じゃ無いんだから。節目の日には会いにだって行けるんだし。」

 

「リティは……強いね。…おやすみ。」

 

「うん。頑張れお姉ちゃん。おやすみなさい。」

 

 

 

 

───あんなにも気丈で大人ぶっていたお姉ちゃんが、最後の夜に妹と一緒のベッドで寝ようだなんて言い出すはずも無いし、別れの時に向けた顔が、今にも泣きだしそうな笑顔であったはずが無いのだから。

 

そうして姉サクリは聖女として旅に出て……

 

 

そのまま、二度と帰って来る事は無かった。

 

旅に出てから1年半が経った頃、神聖国の長い歴史においても類を見ない「魔物を統べる魔物」…『魔王』の攻撃を受けて瀕死の重傷を負い、護衛の騎士達の奮戦も虚しく伝達役を残し全滅してしまったのだという。

 

その訃報を聞いたその日、父も母も、無論私自身も、丸一日泣いて過した事を今でも覚えている。

 

そしてその2ヶ月後…私の左手に「聖紋」が顕れた。

 

まだ家族を喪った心の傷が癒えていない両親はどうにか私を隠そうとしたようだが、そんな足掻きが通じるはずもなく、聖教会によって私は聖女としての教育を受けるべく家族の元を離れ、王都中央の聖教会本部で「聖女見習い」として生活する事になった。

 

私が己の中で掲げた目標は、世界の救済。聖女の役目を果たす事。そして…お姉ちゃんの仇を討つ事。

 

その為に辛い訓練も、難しい勉強も乗り越えて、他にも幾人かいる見習い達の中でもトップを維持したまま1年…ついに、正式に聖女として認められた。

 

 

私の聖女としての最初の仕事は、教会の地下に捕らえられ弱った魔物を浄化する事だった。

 

何でも教会によって認められた聖女が正しく力を行使できるように、最初は必ずこうして教会の側で予め捕らえた魔物を浄化させるのだという。

 

私に用意されたのは、全身が黄金色の毛で覆われ、左腕の無い、人と犬の中間のような怪物だった。

 

どうにも私の姿を見てから急に酷く暴れだしたようだけれど、神聖力を纏った十字架に磔にされた状態であった為に意味は無かったし、かなり弱っていたから、まだ拙い私の浄化でも数分程で塵になって消滅した。

 

それ以降何度も魔物を浄化したけれど…あの日の……「お姉ちゃんと同じ色の体毛を纏った女性型の獣人」の魔物だけは、忘れられそうになかった。

 

それから数日後、私はかつてのお姉ちゃんと同じように七人の優秀な護衛騎士を連れて、世界各地の魔物を浄化して回る旅へと出る事になる。

 

最終的な目的地は世界の東の果てにあるという、「魔王」が本拠として住まう禍々しい古城。

 

そこで魔王を浄化する(お姉ちゃんの仇を討つ)為に、私の持ち得る全てを賭けて戦い、戦い、戦い続けて────、

 

 

「成程…確かに君は、「最高の聖女」だ。」

 

「勝敗は決しました…貴女を浄化します、魔王。」

 

「くふ…そうだね。今は敗けを認めよう。」

 

「……その潔さにだけは、敬意を評します。」

 

「有難う…君はこの先の要だ、決してこの世に在る最大の悪意が何者なのか…見誤ってはいけないよ?」

 

「聖なる神の御名のもとに、悪しき魂の浄化を…!」

 

「うん、良い腕だ。また逢おう、リティ───。」

 

 

 

────長い戦いの果てに、魔王の浄化は成功した。

 

当初7人いた護衛の騎士はおよそ2年間の戦いの中で2人にまでその数を減らし、私自身も身体のあちこちそれなりの生傷を負っての辛勝だった。

 

浄化の間際に魔王が呟いた最後の言葉はささくれのように胸に引っ掛かったままだったけれど、それでも私は世界を救う(家族の仇を討つ)事が出来たのだ。

 

そうして私はどうにか近場に設営した拠点に戻り、事の顛末を伝えて世界に魔王の討伐を発信した。

 

 

────戦いは、終わった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

戦いを終えた私を待っていたのは家族との平穏ではなく、世界を救った英雄として、救国の聖女として神聖国の政治的な神輿にされるという嫌な運命だった。

 

聖王陛下から問答無用で爵位を与えられて貴族教育を受け、神聖国の臣下序列第一位にあたる公爵家、ノイデア家の後継となる長男ソフル・ノイデア様との婚約を私の意志とは関係なく強制的に決定付けられた。

 

それでも、私が神聖国の道具として生涯を過ごさなければならないとしても、それで大好きな家族が何一つ不自由なく生きて行けるのだと思えば、こんな運命でもどうにか受け入れる事が出来た。

 

幸いにも婚約者になった()は貴族社会の中でも有数の「優しい人」で、顔立ちも良く、私の意志を国の決定に背かない程度には、尊重してくれていた。

 

そうして抱いた感情は決して愛では無かったと思うけれど…彼と一生を添い遂げる自己犠牲の覚悟は、思いの外すんなりと決める事が出来ていた。

 

なのに─────、

 

 

 

「よくも今まで僕を、僕達を騙してくれたなッ!この醜く穢らわしい魔女めッ!」

 

「な、何を言って…ソフル様…?」

 

「穢れた魔女が、気安く僕の名を口にするな!」

 

「そんな…どうして…!」

 

「言わねば解らないか。貴様は魔物の分際で、"リティを殺害し、彼女に化けている"だろうがッ!」

 

「………は…?」

 

 

意味が分からなかった。

 

私は私だ、聖都郊外の街で生まれ育ち、たった1人の姉を喪い、その仇である魔王を聖女として討ち果たした、正真正銘"人間"の"リティ・リーフィス"だ。

 

それがどうして、そんな話になっているのか?

 

全く以て、理解する事が出来なかった。

 

あぁ、周囲の貴族達の視線が刺さる。

ここに来てすぐの頃、何度も感じた嫌悪感だ。

 

ただの平民でありながら爵位を授けられ、序列一位の公爵家に名を連ねる婚約者となる事が確約された私を妬み、嫉み、煩わしく思っていた悪意の視線。

 

今は私の状態をほくそ笑み、「ざまぁみろ」「たかが平民の分際で」と、私の没落を望む悪意の視線。

 

それはとても気持ちが悪く、五臓六腑がズタズタに切り裂かれるような虚像の痛みが全身を苛んで…

 

 

「ちが…私、は……うっ…ゲホッ、ゴホッ…ゥェ…」

 

「ッ!やはり…正体を見せたな化物ッ!」

 

「っ…!?だから、ちが…!」

 

「黙れ醜い魔物風情がッ!尊き聖女が…人間が、そんな"黒く悍ましい血"を吐き出すモノかッ!!」

 

「ぁ……え…?」

 

 

何を言っているのか解らない、私は……私は?

 

私は……どうなってしまったのだろう。

私は、本当に…"黒くドロドロの血"を吐き出していた。とても人間が吐き出すモノとは思えない血は…私自身、己が人でない事を疑わせるに足るモノだった。

 

「ようやく理解したか……最高司祭!」

 

「うむ……リティ…否、聖女に扮した魔物よ。大人しく我等の浄化を受け入れよ。騎士達よ、聖句をッ!」

 

 

あぁ…歌が聞こえてくる。

 

聖女見習いであった頃、何度も何度も練習をしてやっと覚えた、魔物の自由を縛る聖なる歌…聖句。

 

強力な神聖力を纏った歌が拘束具となって私の身体を絡め取り、その意識を混濁させていく。

 

否…たとえそんなモノが無かったとしても、私は…私には、拘束に抗う精神力は遺されていなかった。

 

この日、私は…"聖女殺しの魔物"として、聖教会の主導のもと捕縛、地下牢へ収監された。

 

 

「……まったく、だから言ったじゃないか…真の悪意を見誤るな、って。…まぁ、こうなる事は目に見えていたし、その為にこうしているんだけど…」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ぁ……う…」

 

「随分と強情ですな…いい加減、その皮を脱ぎ捨てたら如何です?聖女様の御姿を穢すなどと…」

 

「そんな、事…言われても……」

 

 

私は地下に囚われてからというもの、神聖力を纏った十字架に磔にされ尋問を受けていた。

 

とはいえ、私には自分自身が魔物であるという自覚が無い。血がヒトのソレでは無かったからそうなのだろうとは思うが、自分がどうやって擬態しているのか、どうやって聖女を殺したのか、いったい何時から魔物と入れ替わっていたのかさえも解らなかった。

 

けど、教会がソレを聞き入れてくれるはずも無い。

 

私は磔にされてあらゆる力を封じられたまま、似た質問に同じ返事をする度に拷問を受けている。

 

爪は両手両足併せて20枚全て剥がされ、全身は打鞭の痕と切り傷に刺し傷で、ボロボロになっていた。

精神力はとっくに限界を迎えて、助かる糸口を見つける気すらも起きなくなっていた。

 

もう、このまま息絶えてしまった方が楽なのではないだろうか。そう考える時は日に日に増えて、もはやあれから何日経ったのか解らないし、そんなネガティブな考えが浮かぶ時の方が多くなってしまった。

 

そんな時────、

 

「君はここで死ぬべきじゃない。」

 

声が、聞こえた。

それは何処かで聞いたような声。けれど今は、そんな事を考えている余裕なんか残っていなかった。

 

「君には役目がある。」

 

「ぁ……う…」

 

私には役目がある…

役目ってなに?これ以上私に何をしろって…

 

「リティ、君は本物の聖女だ。」

 

「わたし、は……」

 

「…む?懺悔をする気にでもなりましたか?」

 

私は、聖女。

……そうだ。私は、役目を果たせずに殺されたお姉ちゃんの代わりに、この世界を救うんだ。

世界から、悪意を取り除く事…それが……

 

「せ……ょ…わ、り……」

 

「……何です?もう少し声を大きく。」

 

「わたしは、世界を救う為に生まれた聖女。その役目を果たすまで、死ぬ訳にはいかない…ッ!!」

 

「なッ……この期に及んでまだ…!」

 

『よく言った、満点だよリティ。』

 

今度は、ハッキリと聞こえた。

 

そして同時に、磔にされた私の身体から大量の黒い靄が溢れ出て、1つの人型を形作っていく。

 

けれど、私に認識出来たのはそこまでだった。

元々かなり身体に負荷が掛かっていたのだ。急にあんな気勢を張って、疲れきった身体が少しでもその身を癒そうと、意識を遮断しようとしていたのだ。

 

一気に重たくなった瞼に閉ざされようとしている瞳が最後に捉えた光景は……紅い髪、濃褐色の肌をした女性…黒い軽鎧を身に纏った、忌々しくもよく見知った、因縁深いその姿は────、

 

 

『よく頑張ったねリティ、今は私に任せてゆっくりお眠り。…役目を果たす刻限まで、君を護ろう。』

 

 

 

 

 

その日、救国の聖女リティ────、

 

否、聖女に扮した悍ましき魔物は、突如として現れた人型の魔物…第二の『魔王』によって強襲、奪還され、聖都からその姿を消したのだった。

 

 

 

 

────To Be Continued.

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