孫悟飯は実力至上主義の教室へ。 作:PPキャンディ
人と触れ合うのが苦手だ。
人の目を見て話すのが苦手だ。
人が集まっているところで過ごすのが苦手だ。
いつからそれを苦手と思うようになったのか、それはワタシが初めて人を殺したあの日から…。
逃げ惑う人々の頭を後ろからつかみ、そのまま握りつぶす。
そのまま腕を横に振れば衝撃波で逃げ惑う人間達の体はたやすく粉々に粉砕される。
中には銃を手にして抗う人もいるが、放たれた銃弾は避ける必要すらなく、傷一つ負うことはない。
手から放たれたビームが人を、街を飲み込み、全てを破壊し尽くしていく。
やめて…もう…殺させないで…ワタシ、こんなことしたくないのに…。
何度叫んでも、ワタシの身体はその意に反して惨たらしい殺戮を繰り返す。
動くものが何一つなくなるまで…。
血塗れで帰ってきたワタシは研究員の前で裸にされ、下卑た目で見られる中で汚れを落とす。
そしてワタシは思うのだ。
ワタシはただの人形なのだと。
もうニンゲンでは無いのだと。
世界は綺麗なことばかりではない。そんなことはワタシにとっては当たり前のこと。こんな綺麗な街でもちょっと路地に入れば直ぐに闇は広がっている。でも、それでも心のどこかで綺麗な世界を望んでいる。いつか誰かがワタシを救い出してくれることを望んでいる。
そんなことはありえないのに。
ワタシは朝日に照らされ、キラキラと自室の床に輝く飛び散ったガラス片の上で佇み、今朝届けられた手紙を読む。
「やっぱり、ここももうダメなのかな…」
▽
最悪のタイミングだ。
いつものように人気のない場所を徘徊していたワタシが見つけたのは、暴力事件の現場だった。
些細な言いがかりが相手を挑発する暴言に変わり、たちまち殴り合いに発展してしまった。
片方の男子はクラスで見たことのある人だった。
(どうしよう、彼が本気になったら…)
そう危惧して相手の強さを計測するが、彼よりは多少少ない程度でほぼ互角だった。
(これならお互い怪我はするだろうけど、死んだりとかはしないかな)
そう少し安堵して様子を見ていた。
だけど、その戦いはワタシの想定とは違った展開になった。
▽
「はぁぁぁぁああああ」
悟飯は気を集中させて一気に相手の懐へと飛び込む。そして左右左の3連続突きから右中段回し蹴り、右上段回し蹴りの2連蹴りを叩き込み、瞬時にしゃがみこんで左足での足払い、そのままの勢いで身体を一回転させ右足による後ろ回し蹴りを放つ。
そして吹き飛ぶ相手を追いかけて足を掴み一気に上空へと投げ飛ばす。
悟飯は両手を額の前で交差させ、気を高め…
「魔閃光!!」
叫ぶとともに前に突き出すと、両手から気の奔流が放出される。
解き放たれた魔閃光は上空に飛んでいった敵めがけて突き進むが、その敵は空中でピタリと止まり両手を右腰の辺りで合わせ気を一点集中、一気に前に突き出す。
「かめはめ波!!」
そして飛び出す気の塊。
両者から放たれた気光波はお互いの中間で激しくぶつかり合い、しばらく拮抗したのちに相殺された。
そこで両者疲労で限界が来たのか、悟飯は息を乱し座り込み、上空にいた同じく悟飯は空気に溶けるように消え去った。
悟飯が今まで対峙していたの四身の拳で作り出した自身の分身である。
四身の拳は自身の気を分けることでもう一人の自分を作り出すことができるという技で、一人での修行に非常に便利ということでこの学校に入ることが決まってからピッコロに習ったのだ。
悟飯は分身を1体しか作れないがおかげで組み手相手に困らず満足していた。
「ねぇ、悟飯君。毎日毎日本当に飽きないね。それ以上強くなってどうするの?」
悟飯は上空を見上げると、巨大な松下さんの顔がベッドの上から覗き込んできていた。
悟飯は一旦休憩にしようと、腕に嵌めた時計のようなものを操作する。
すると悟飯の身体は急激に大きくなっていく。否、今まで小さかった身体が元に戻っていく。
ここは寮の悟飯の部屋であった。
今まで悟飯はブルマの発明品であるミクロバンドという体を小さくする装置で5センチぐらいまで縮まっていたのだ。
これもまた、この学校に入る前に修行用として便利だということでブルマが入学祝にくれたものだ。ちなみに、悪用すると犯罪にも使えてしまうため、セーフティがかけられていて、重力装置の範囲内で重力装置が稼働している間しか作動せず、万が一盗まれたとしても大丈夫なようになっている。故に今の室内の重力は200倍である。
「僕なんてベジータさんに比べればまだまだですよ。それにいつまたセルのような悪人が現れるか分かりませんから」
「そんないつ核戦争が起こるかわからないからーみたいなこと言われてもねぇ」
「松下さんもそれだけの力があるんだからちょっとは鍛えれば良いのに。修行もしていないのにそんなに強いなんてクリリンさんが聞いたら死ぬほど羨ましがりますよ」
「私はこうしてベッドでゴロゴロしてるだけでもまだ結構辛いからね」
そういって松下さんはベッドの上で横になったまま両足を交互に上げ下げする。
確かに松下さんがこの200倍の重力室で過ごすようになって10日程しか経っていない。
6月の中頃に松下さんが合鍵(いつの間にか勝手に作られていた)で悟飯の部屋を尋ねてきた。
その時、悟飯は買い物にでかけていたのだが、今まで部屋に誰も来たことがなかったため重力装置を50倍に設定して動作させたままだった。
重力装置はセーフティがかかっていて部屋が密室でないと動作は停止される。だが彼女は悟飯が帰ってくるまで中で待とうと部屋のドアを閉めてしまった。そして重力装置は設定通り50倍で動作を再開してしまい、彼女は悟飯が部屋に戻ってくるまで1時間ぐらい潰れたカエルのように床を舐めつづけることになったのだ。
それ以来、悟飯は外出する際には装置を忘れず切るようにしたのだが、松下はゴロゴロするだけでダイエットになりそうだと連日悟飯の部屋に通っている。
そんな彼女は本当にベッドでゴロゴロするだけで50倍の重力にあっという間に慣れて、今では悟飯の修行中の200倍の重力下でも過ごせるようになっている。
(本当に、彼女って天才なんだな。ただ寝てるだけなのにもうそろそろ戦闘力が1億に届きそうになってる。本当にこの事知ったらクリリンさん泣くぞ)
それでも彼女は来るたびに晩ごはんを作ってくれたり部屋の掃除をしてくれたりするので内心感謝していた。
悟飯は実家では修行と勉強ばかりで家事は全て母親のチチ任せなのであまり得意ではなかったのだ。
料理は切り落としてきた尻尾肉や巨大魚を気光波で焼くだけと言ったら原始人かと言われてしまった。原始人は気光波なんて使わないというのに失礼な人だ。
修行を終えた悟飯は、今日も松下さんが作ってくれた巨大な寸胴鍋にいっぱいの『恐竜の尻尾肉煮込みシチュー』を一緒に食べている。
悟飯が朝一番で取ってきたお肉を松下さんが数時間かけて煮込んでくれたもので、トロトロになった肉が口の中で解けてとても美味しい。付け合せのポテトサラダも最高だ。ご飯が何杯でも食べれてしまう。シチューには普通パンじゃない?と松下さんは言ってたけど、やっぱりお米の方がお腹に貯まるから好きな悟飯であった。
(母さんの料理も美味しかったけど、基本的に量重視の中華ばかりだったからな。こういう洋食って結構憧れてたんだよね。初めは居座られると居心地悪かったけど、今では松下さんが来てくれるのが楽しみになっちゃったな)
そんな悟飯は毎朝彼女の部屋に恐竜の尻尾肉や巨大魚を届けるのが日課になっていた。
「それにしてもさ、良かったの?」
「ん?何が?」
「だから、須藤君のこと。この前のテストから割と仲良かったでしょ。なのに今回は助けてあげないのかなって」
「ああ、そのことか」
それは先日、7月の始まりに起きた事件のことだ。
7月1日。
僕達のクラスは中間テストの結果なども会って54ポイントのクラスポイントを得ていた。
なのに、ポイント支給日にポイントが配られることはなかった。
当然クラスで茶柱先生に問い合わせたが「トラブルがあって1年のポイントの支給が遅れている」と言われた。
どういうトラブルなのかは翌日最悪の形で知らされることになった。
須藤くんの暴力事件の発覚である。
「須藤くんの言い分が正しければ、先に挑発してきたのはCクラスの子だけど。でも実際に殴ったのは須藤くんでしょ。だったらもう無罪は絶対に無理だよ」
「んー、でもあっちは3人だったんでしょ。だったら正当防衛とか」
「正当防衛はそんなに簡単なものじゃないよ。ましてや彼は獣人だ。獣人の正当防衛はたとえ相手がナイフや銃を持っていてもほぼ成立しないようになったからね。分が悪すぎるよ」
なぜ、獣人だと正当防衛が成立しないのか。それは数年前に出来た法律によるものだ。
『獣人及び亜人管理規制法』
それはセルの騒動の後に出来た法律である。今まで人間と共存していた獣人や亜人(妖怪やモンスター型地球人、魔族といった獣人以外の人型種の総称)だが、セルが暴れまわった事によって人間より力が強いことが不安視されてしまい、国王の反対を押し切る形で成立・施行されてしまった。
その内容は、一定以上の人口を有する街・都市への獣人・亜人の立ち入りの禁止。獣人・亜人の犯罪への厳罰化などである。
これによって獣人・亜人はキングキャッスルや西の都を始めとする都市部や少し大きめの街などから一斉に排除されることになった。
彼らは今では特別保護区と呼ばれる田舎や、ニホン自治区のように法律に批准していない地域で息を潜めるように暮らすことを余儀なくされた。
「彼は今までニホン自治区から出たことがないらしいからよく知らないんだろうね。外で獣人がどんな扱いを受けてるのか。知ってたら普段からあんな暴力的な態度は取れないよ」
悟飯の実家は田舎にあるので近所の街(といっても割と離れているが)で獣人を幾度となく見ているが、どの獣人も外では人にぶつからないように道の片隅を縮こまって歩いており、決して粗暴な態度を取ることはなかった。少しでもそんな素振りを見せれば何もしていなくても対獣人用の装備を整えた駐留軍が飛んできて運が良ければ逮捕され、駐留軍の虫の居所が少しでも悪ければそのまま射殺されても文句は言えないのだ。だからこそ、少しでも力が強そうに見える種類の獣人達は人間が住む場所を離れ、保護区内でひっそり暮らしている。
このニホン自治区は労働力を確保する目的で表向き獣人や亜人にも平等な権利を謳っているが、実際に事件を起こして裁判になった場合は他の場所と同じく不利な立場に置かれるのは変わらない。本来なら彼はもっと謙虚に生きるべきなのだ。
「彼がこの学校に入ったのはプロのスポーツ選手になることなんだろうけど、実際選手になって許可証を手に入れたとしても粗暴の悪さが治らなきゃ直ぐに取り消しになるよ。今のうちにあの脳筋は治すべきだよ」
「脅威に備えるために、まず筋肉を育てる悟飯君も大概に脳筋だと思うけどね」
「………」
言い返すことができずに顔を顰めるしかない悟飯だった。
だが、悟飯の言ってることは真実だ。
現在、立入禁止に指定されている街や都市に獣人・亜人が入るには、公的な身分を持っている(国王など)か、社会福祉などの活動に従事するために特別に許可を受けた者(医者など)、またはプロスポーツ選手や芸能関係などの許可証を持っている者のみだ。大型病院で医療処置を受ける際にも院内の厳重な警備の施された区画に運び込まれることになる。
現に悟飯の知り合いであるウーロンやプーアルは表向きカプセルコーポレーションの研究員として登録されており、ブルマが後見人となり特別許可を得ている。
須藤くんは、将来バスケ選手になりたいと言っているが、彼が公的な大会などに出るにはプロの選手になって許可証を得ることが必須になるのだ。その際には素行調査なども行われる。今の彼ではその調査で確実にハネられる。
仮にAクラスで卒業できたとして、学校の推薦で許可証を貰えたとしても、その後で暴力事件を起こせば一発で取り消しになり、彼は逮捕されてしまう。そして彼が有力な選手になればライバルチームはラフプレーなどで彼の暴力事件を誘発させようとするだろう。
今回、彼はレギュラーに選ばれた事が原因で同じバスケ部のCクラス生徒に喧嘩を売られて暴行に及んだそうだが、それと同じことはプロチームに入った後に高確率で幾度となく起こるであろう。
だからこそ、悟飯は今回の暴力事件で、獣人が暴力を振るうことがどれだけ不利益なことなのかを理解して、今後同じことがあった時どう対応するべきかを考えるべきだと考えている。そしてここが彼の成長するチャンスだと考え、手を貸すことをしなかった。安易に彼を無罪にしてしまうと、彼は何も学習しないまま進み、同じことを繰り返すようになるであろう。そして幾度となく暴力事件を起こす獣人を学校側が何時まで庇い続けるのか。
(甘い考えだと本当に破滅しか待ってないぞ、須藤くん)
「でも堀北さんは張り切ってたね。今度こそ悟飯君の鼻をあかすんだーって」
「無理だと思うんだけどなぁ。よっぽどの証拠でもない限り」
「私はまたあの笑える顔が見れるならどんな結果だろうとどうでもいいけどね」
「なんで僕、松下さんと仲良くしてるのかがたまに分からなくなってくるよ」
悟飯はウキウキ顔の松下さんを見て深くため息を付いた。
2巻導入部分です。
戦闘シーンを書くのが難しいです。
悟飯くんは須藤くんの暴力事件は関与はしません。何でも暴力で解決しようとする所を改めるべきだと考えています。自分たちのことを盛大に棚に上げてますね。そんな悟飯くんにこの言葉を送りたいと思います。人の振り見て我が振り直せ。
戦闘力設定(7月初め)
悟飯 20億→22億
松下さん 5000万→8000万 体重○kg減
修行とダイエットの成果が出ています。
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