孫悟飯は実力至上主義の教室へ。 作:PPキャンディ
鬱な展開があるので、苦手な方は注意。
『時間切れだ。明日、0900時までに再開発地区まで来い。来なければ学校を襲撃してお友達を全員殺すことになる』
昨日、審問会が終わって帰宅したら、その手紙が届いていた。
あの男がどれだけの仲間を呼んだのかは分からない。正面から来るならともかく、もし隠れて爆弾などを仕掛けられたとしたら全員を無事に守り切ることなど無理だ。確かにこの学校は強い人も多いけど、1年生の殆どの生徒はまだ近代兵器で攻撃されるとたやすく死んでしまうぐらい弱い人ばかりだ。
「もう逃げられない…それに、綾小路くんはこんなワタシを信じてるって言ってくれた。だったら…覚悟、決めなきゃ」
相手は人間。例え相手があそこの人間だろうが、ヒトには変わりはない。ワタシは未だにヒトを傷つける事に恐怖を感じる。また、あの頃の自分に戻ってしまうのではないかという恐怖を…。
ワタシはココロの奥にある傷からジワジワと染み出してくる悍ましい感覚に身体を震わせる。今でも決して忘れることの出来ない過去。恐怖に震える目、絶望に暮れた目、憎悪に染まった目、侮蔑を顕にする目、嘲笑を浮かべる目、劣情に塗れた目、様々な目がワタシを取り囲む。それだけで今はもうない心臓が激しく波打つのを感じる。少し前のワタシなら独りでそれから逃げ出すだけで何も出来やしなかった。だけど、今は違う。無愛想だけど何時だってワタシを見ていてくれた目、信じているって言ってくれた綾小路くんの目がワタシを勇気づける。
「行こう。そしてもう終わらせるんだ」
例え、またヒトをコロシてしまう事になったとしても、あの男だけは止めないといけない。
再開発地区は何度か来たことがあるが、高学年の生徒が授業などで使っている時以外は人の気配が全く無い。この地区の監視カメラの映像は既に掌握してある。
(外から仲間を呼ぶって、一体誰を呼んだのかな?ヒトなんて何人呼んでもワタシには脅威でないって知っているはずだけど)
疑問に思い、周囲一体の生体反応をサーチしたが、見つかったのはあの男と思しき反応だけ。
(もしかして…学校の方に?でも学校の方の監視システムには異常はないし。もしそんなことをしたら逆効果だと分かってるはずだけど)
不審に思いながらも学校周辺の監視システムを再点検していると、不意に警戒アラートが反応した。その反応に驚きながらも瞬時に飛び退ると、ワタシが今まで立っていた所に黒いブレード状の物体が深々と突き立った。
「なっこれって!」
(対人造人間用の槍!)
それは研究所で開発された人造人間の硬い皮膚を切り裂くために、特殊な振動を付与した槍。佐倉が居た頃は製造コストの問題で試作段階止まりだったはずの物だ。そもそも人造人間を運用しているのが自分たちだけなので当時は研究する優先度が低かった。
(これって、もしかしてワタシが逃げ出したから作られたの?)
佐倉は飛んできた空を見上げる。
すると、空には白いフルフェイスヘルメットで顔を隠して白く金属質な全身タイツを着た豊満な身体の女性が浮かんでいた。更にその上空を無人輸送機が飛んでいて、そこから彼女と全く同じ姿の女性が、先程降ってきた物を同じ槍を手に持ち、次々と降下してきた。その数はみるみるうちに増えていき、総勢9人の女性が佐倉を中心に円を描くように旋回する。
「やはり毒は、同じ毒を持って制するべきだよな」
その光景を遠くから見ていた男は呟いた。
旋回する彼女たちは朝の陽光に照らされて、どこか荘厳な雰囲気が醸し出された。
だが、それを見上げる佐倉の顔は驚愕と警戒で彩られてた。煩いほど鳴り響く警戒アラートと観測されたデータから、佐倉は彼女たちがなんなのかを理解したからだった。
「フラッペシリーズ…完成していたの………?」
佐倉のそのつぶやきと同時に、女性たちは一斉に佐倉へと襲いかかった。
▽
ワタシの最初の記憶は頭頂部の禿げたシワだらけのお爺さんの顔。薬液の詰まったケースの中でワタシは目を覚ました。
「ふむ、起動は成功か。フラッペ、出力はどうだ」
「今のところは高出力で安定している。前モデルより倍以上出ているな」
ワタシが目を覚ました部屋には、もうひとり年配の男性が居た。フラッペと呼ばれた男性はお爺さんよりは若干歳が下のようだ。髪の毛も豊かに生え揃っていた。その二人が、モニターとワタシを見比べながら話し込んでいる。
「前のヤツ同様、お前の研究通り、人間ベースか機械ベースか問わずに人造人間は性格が穏やかな方が出力は安定するようだな。心というものがここまで影響するとは実に興味深い。よし、お前はこいつの改良と金蔓に売るための量産型の開発を頼む。ワシはしばらく新型の構想に入るからな」
「まったくお前は人使いが荒くてかなわん。折角口煩いホワイト将軍が居なくなって1人でのんびり研究していたのに」
「まぁそういうな。ワシの助手が出来る腕があるのはお前ぐらいだ。では後は頼んだぞ」
そう言って、禿げたお爺さんはワタシに興味を失ったようで、もう見向きもせずに部屋を出ていった。
▽
それからしばらくは基地で色々なテストや戦闘の訓練を行った。
ワタシはもちろん、戦いたくなんてなかった。だが、ワタシの前に作られた人造人間が戦いを拒んでいたため、ワタシには製造段階から命令に逆らえないように制御装置が組み込まれていた。
それでもフラッペ博士がいる間はまだマシだった。
精神状態が安定していたほうが安定すると言って、少なくとも人間的な生活は送らせてもらえた。
だが、彼が仕事の都合で研究所を離れてから、ワタシの生活は激変した。
まずは研究所の意向に反する前モデルの破壊。それから街への襲撃と略奪。初めてのヒトゴロシ。更には男性研究員の慰みモノにされる地獄の日々。博士が居なくなってからは常に制御装置で自由な行動を封じられていて、それに抗うことができなかった。ワタシには自分の体をマトモに動かす権利すら取り上げられた。
なけなしのワタシのココロはたった数年で無残なまでに破壊されていった。
転機が訪れたのはほんの偶然の出来事だった。
その日もワタシは街への襲撃を命じられていた。
(今日も何の罪もない人たちを殺さないといけない…)
「12号、目的の街に到着しました。作戦を開始して下さい」
車を運転していた見張り役の試作機がワタシとそっくりな顔を向けて言う。
ワタシのクローンとして生み出された彼女は性能こそ比べ物にならないほど弱い失敗作だが、製造コストは格安だそうで、万が一ワタシの制御装置に異常があった時の見張り役として付いている。
もし、ワタシが制御を離れたら彼女の持っている簡易制御装置によって動作を停止させられるだろう。
(ワタシとそっくりなのに、ワタシと全く似ていない冷徹な顔…)
彼女からは心というものが全く感じられない。フラッペ博士は心が大事だって言ってたのにな。
スポンサーのコスト削減要求に抗えなかったのだろう。
だからこんな自我というものがないモノが出来上がってしまった。
(でも、それはワタシも同じ。抗うことも出来ず、ただ命じられるままヒトをコロシ、街をコワスだけの破壊人形。だったら、こんなココロなんていらなかった。何も感じたくなかった…)
目から涙が溢れるが、それでも身体は命令を忠実に実行しようと、車から降りて街へと歩きだす。
どうやら王国軍もワタシたちの動向を捉えていたようだ。街の前には戦車が並んで、その後ろには歩兵達が銃を構えてこちらを睨みつけている。
「試作機さん…離れていたほうが良いんじゃ」
「ノープロブレム。作戦開始を確認次第、距離を取ります。それに当機は破損しても基地には予備があります。速やかに作戦を実行して下さい」
自身の損傷すら考慮しない彼女にワタシは更に悲しくなり、それでいて足は止まることなく街へと向かう。
「レッドリボン軍の残党に告ぐ!お前らにはこの街には一歩も入れさせない!死にたくなければとっとと帰れ!」
「あ、あの…出来れば財産などを置いて、今すぐ逃げて下さい!そうすれば死なないですむかも知れません!」
ワタシは唯一つ自由になる声を張り上げ、退避を訴える。
だが、当然だがそんな事は受け入れられることはない。
すぐに戦車の砲撃が始まり、ワタシに命中する。
(ああ…やっぱり今日も駄目だった…せめて街の中の人だけでも逃げて…)
戦車の立て続けの砲撃で、ワタシの立っている場所は爆発の煙で覆われる。
(アクティブサーチ。エナジー感知。平均エナジー8。一般人にしては優秀だけど…)
だけどワタシからすれば脅威にもならない脆弱な存在。
サーチ結果から目標をロック。
前方へと伸ばされたワタシの右手の先にエネルギーが充填される。
「マルチロック完了。作戦実行。お願い、当たらないで…」
その祈りは届くことなく、右手から発射された無数のビームが戦車や兵士を1人残らず撃ち抜き絶命させる。
「広域スキャン、生命反応9257。止めて…もう…お願い…」
街には未だ住人たちがいる。恐らくシェルターに隠れているのだろう、反応は何箇所にか固まっている。でもいくら隠れてもワタシのレーダーは捉えてしまう。それに固まるのはワタシ相手では逆に悪手だ。
「排除対象は略取ポイントから離れています。今のうちにまとめて始末して下さい」
試作機が無情にも命じてくる。
「なんで…財産が奪えるなら殺す必要なんてないじゃない…殲滅モード移行。待って!お願い!掃射を開始しま…エラー発生。メインコンピュータとの通信途絶。え…うご…ける?」
その時、突然ワタシを縛り付けていた鎖が外されたように感じた。
フラッペ博士が居なくなってから自分の意志では動かせなくなっていた身体が。
「う、動く…ワタシの意思で…」
「12号!そのまま動くな!」
試作機の方も通信が途絶したのだろう。少しの間動きを止めていたが、すぐに状況を判断して簡易制御装置を取り出そうとする。
「くっ!させない!」
ワタシは彼女へと右手を向け…
「ゴメンね」
エネルギー砲で彼女を撃ち抜いた。
胴体にある動力源を破壊された試作機はそれでも簡易制御装置を操作しようとしたが、瞬時にワタシはそれを取り上げ、握りつぶした。
終わってみれば一瞬の出来事だ。未だに戦車の砲撃による煙が晴れても居ない。
どうして制御が無くなったのか、理由は全く分からない。だけどこのチャンスは逃せない。
(逃げなきゃ!また捕まる前に!)
ワタシは空へと飛び立ち、基地とは逆方向に向かって全力で飛び立った。
▽
それからは遠く離れた田舎でひっそりと暮らす生活だった。
追手に見つからないように、人とあまり関わらないようにと。
人造人間だからか、ワタシは歳を取らないようで余計に一箇所に留まることはできず、親しい人も作らずに1~2年で住まいを変えていた。
ただ、一つ、ワタシは自分のルーツというものには興味があった。
ワタシは人間ベースの人造人間。だとすると元になった人間がいたということ。
静かに暮らしている日々の中で何故かワタシは写真や動画に執着してしまうことを知った。もしかしたら、これがワタシの人間だった頃に関係するのではないか?そう思い、ひたすら写真や動画を撮影することに没頭した。
幸いなことにワタシは製作予定だった量産機の指揮官タイプとして改良されていたので、情報解析目的で写真や動画のデータを扱うプログラムは豊富にあった。今まで見たキレイな景色などは全て保存した。
そのうちに、他人の撮った写真などにも興味が出て、個展などが開催されていると聞けばおっかなびっくりとだが街まで繰り出すことも増えていった。
あの日、ニホンに訪れたのも好きな写真家の個展が開催されたからだった。
個展はとても素晴らしいものだった。自分の中に用意されたプログラムと処理マニュアルでは及びもつかないような高度な撮影技術に美術的センス。それに感銘を受け、ワタシは久々に浮かれてしまっていたのだろう。無意識にフラッペ博士から聞かされた流行歌(今ではもう古臭い歌だろうが)を口ずさんでいた。そんな時、ある女性に声を掛けられた。
「それってシズクの曲ですよね?懐かしいなぁ…あれ?あなた凄くシズクに似てない?」
同じ個展を見に来ていたカメラを持った女性だった。
その女性はワタシの顔をまじまじと見て、それから取り出した端末に何かを表示させて見比べてきた。
「やっぱり…瓜二つだわ…ねぇ、貴方の名前は!どこから来たの!」
彼女は食いつくような勢いでまくし立ててきた。
その勢いに押されてワタシは最近名乗っている偽名をつい喋ってしまった。
「あ…サクラ…です」
「サクラさんかー。あ、ゴメン。私はカドヤマの記者でね」
結局、その女性の逃がしてなるものかと言わんばかりに拝み倒されて、喫茶店でお茶をしながら話を聞くことになった。どうやら、昔、すごく有名なモデルが居て、その人がワタシにそっくりなのだという。実際に当時の写真を何枚も見せてもらったが、自分でも納得するぐらいだった。また、その写真を見ていると何故か懐かしい気持ちになり、また、同時に胸を締め付けるほどの寂寥感に襲われ、自然と涙が溢れてきた。いきなり泣き出したワタシを見て、彼女は慌てていたが、自分でもその理由を説明できず、困らせてしまうだけだった。そのお詫びに彼女に写真を1枚だけ撮らせて、記事にすることを許可してしまった。まさかあんなに反響があるなんて思わずに。
その後、雑誌でワタシの写真が載ってから、テレビやネットで凄く話題になった。特にここニホンはシズクが活動してた本拠地だったので、当時からのファンなどの盛り上がりは凄まじかった。幸い、ワタシがその時に住んでいたのは田舎の山の中だったので、ファンが騒ぐ程度なら余り実害がなかった。
だが掲載されてから2ヶ月ぐらい経った頃、ワタシの住んでいる山に設置してあった監視カメラに見覚えのある人物が写った。それは研究所に居た頃に、ワタシに異常なまでに執着してきた男性研究員だった。そして、その男の姿を見た時、ワタシはその男のある言葉を思い出した。夜になると男は頻繁にワタシの部屋に来ていたが、ある晩、ワタシを使った後に「シズクを俺だけのものにしたい」という言葉を呟いた。当時のワタシは早く終わってくれることだけを考えて、最中は何時も現実逃避をしていたし、彼が発したその言葉の意味が分からなかったのもあり、今の今まで忘れていたのだ。
「もしかしたら…ワタシがシズク、なの…?」
シズクが失踪したのが12年前で、ワタシが稼働しだしたのが11年ほど前。改造に1年かかったとしたら辻褄は合う。何故、有名人のシズクが選ばれたのかは分からないが。
そして、監視カメラの映像に写ったその男をよく解析すると、男の口がずっと小さく動いていることに気づいた。止めたほうがいい、そう思いながらも、ワタシは男が呟いていた声を解析してしまった。
「俺のシズク。俺のシズク。俺のシズク。ああ、やっと見つけたよ。お前をまた抱けるんだ。もうどこにもいかせない。もう誰にも触らせるものか。俺だけのシズクだ。俺だけのシズクなんだ。やっと見つけたんだ。もう逃さない。ずっと二人だけでいよう。君だって本当は分かっているはずだ。お前には俺だけなんだって。今迎えに行くよ。待っていてくれ、シズク。ああ、俺のシズク。俺のシズク。俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク俺のシズク………」
その日、ワタシは、逃げ出した。
なんか長くなってきたので途中で切りました。
バードウォッチングのオッサン。初期案だと普通の強欲な研究員だったんだけど、佐倉の人見知りなどの背景を色々考えていったらこういうストーカー的キャラになってしまいました。
あと、佐倉の過去も最初はもっとマイルドだったんだけど、やはり肉付けしていく段階でどんどん酷いことになっていきました。
特に前回の話では反応がなかったので、まぁこの路線でも良いってことだろう、という判断で書きました。
不快な方はゴメンナサイ。でも書く。
フラッペ博士はアニメ版で出てきた人です。後々の辻褄が合わなくなってアニオリはパラレルとか色々理由付けがされてるけど、このSSではあのお爺さんの助手だったという感じで設定しています。
感想・評価をしていただけるとモチベ維持に繋がるのでありがたいです。
疑問質問罵倒なんでもお待ちしています。
今後もよろしくおねがいします。