孫悟飯は実力至上主義の教室へ。 作:PPキャンディ
天気の良い火曜の午前。教室では茶柱先生による講義が行われている中、悟飯は普段とは違い、横目で窓の外を見ながら冷や汗を流していた。
(不味いな。気が感じられない以上、流れ弾一発見逃すだけで大惨事になるよ)
窓の外、学校より遥かに先の空で迸る閃光。クラスメイトの目だと精々雷でも光ったぐらいにしか見えないだろうが、常人より優れた視力を持つ悟飯には、それがエネルギービームによるものだと分かってしまう。再開発地区の方で戦闘が行われているのだ。それも戦っている者たちは何れも気を持たない者たち。恐らく人造人間であろう。なので、もしこちらにビームが飛んできたとしても、悟飯には感知することは出来ない。故に、一発も見逃さないように目が離せないのだ。隣の松下さんも落ち着かないのか、気を昂ぶらせながら窓の外から目を離せないでいた。
「ねぇあれって佐倉さんだよね。ちょっとシャレにならない動きなんだけど。あと、戦ってる白いのは佐倉さん程じゃないみたいだけど、それでも少なくとも私よりは強そう。悟飯くん、もしこっちに飛んできたら私じゃ死ぬかもだから、本当に頼むね」
休み時間、屋上から上空に飛んで僕と松下さんは佐倉さんの戦いを見ている。
今日の朝、ホームルームの時間に、ふと窓の外に視線をやると、9人の白い格好の人が上空で輸送機から再開発地区へと降下したのが見えたのだ。彼女たちはピッチリした服を着ていて、大きい胸など体のラインがはっきり出ているので女性なのだろうが、顔はフルフェイスのヘルメットに覆われていて分からない。そして、全員が同じ体型なので全く区別がつかなかった。輸送機から現れた後、再開発地区の上空で少しの間旋回していたかと思うと、地上に向かって降下していった。時折、先輩方達が再開発地区の方で色々と訓練を行っているのを知っていたので、最初は何か授業でもやっているのかと思っていた。だけど、それからしばらくしてから上空に登ってきた佐倉さんと女性たちが戦う姿が見えて、悟飯は慌てふためくことになった。
そこで初めて悟飯は佐倉と戦っている女性たちの気を探ったが、彼女たちからも気が感知できない事に気づいた。
「あれってやっぱり人造人間だよなぁ。まだいたのか…」
「悟飯くん、人造人間って何?」
悟飯のつぶやきを聞いた松下さんが問いかけてくる。
「昔、レッドリボン軍って組織があったんだけど、そこいたドクター・ゲロって科学者が作り出した存在が人造人間なんだ。強いけど気が感知できないのが特徴で厄介なところだね」
松下さんに今まで戦った事のある13号から20号までとセルについて簡単に説明した。
(佐倉さんも戦ってる方もどっちも何が目的か分からないし、しばらくは様子見かな。それに佐倉さんの方が強さは上に見えるし)
数で翻弄はされているが、白い人造人間たちに佐倉さんを倒しきれるパワーはないようだ。これなら白い人造人間たちの方が1人でも倒されればパワーバランスが崩れて決着が付くだろう。
それに圧倒的に不利ならともかく、互角に戦っている他人の戦いに横から割り込むのは余り気が進まない悟飯であった。ハーフと言え、サイヤ人としての気質は多少あるのだ。悟飯は流れ弾には注意しつつ、このまま見守ることにした。
▽
再開発地区に閃光が煌めき、爆発が起きる。
「キャッ!もう…本当にやり辛い」
上空からの敵からのビームの直撃を避けた佐倉に、別の敵が背後からブレード状の槍で斬りかかる。それをかろうじて避け、反撃しようとした所にまた別の敵が襲いかかる。
(試作型とはスペックが段違いに上がってる。11号よりはちょっと弱いけど…でも連携されると厄介。死角が全く無い。ネットワークでデータリンクして相互に思考を並列化しているのかな。こんなのを量産できるようになったなんて…)
佐倉の予想はだいたい当たっている。だが幾ら佐倉のクローンを使っていても、こんな高性能な機体を無制限に量産できるわけがない。1体あたりのコストは番号付きに比べれば安いが、それでも個人で賄える額ではない。これをフラッペ博士から9体も借りられたのは、現存する貴重なドクター・ゲロ製人造人間12号である佐倉を渡すという約束があったからだ。もちろん男にそんな約束などさらさら守る気などなく、回収したらそのまま佐倉を連れて逃げ出す気であるが。
(槍だけに気をつければ、それ以外は問題ないけど…)
永久エネルギー炉を搭載している佐倉には幾らダメージを蓄積させても意味がない。実際、量産型のパワーは戦闘力で換算すれば4億程度。佐倉の3分の1程の力しかなく、それでは佐倉の装甲を抜くことは不可能だった。故に、唯一佐倉の身体を斬り裂ける槍にさえ注意していれば問題ない相手だった。
(でも…学校に一発でもビームが飛んでいったら…みんなに迷惑かけちゃうのは嫌)
佐倉は極力、学校側を背にしないように立ち回る必要があり、そのせいもあり決め手にかけて長期戦になっていた。
「けど、だんだん戦闘パターンが把握できてきた。ここっ!」
佐倉はビルの影から攻撃をしようと機を伺っていた1体に、相手が動く前に突進、飛びかかり、両手による鉄槌で頭部を叩き砕きつつ、背後に着地、そのまま持ち上げてアルゼンチン・バックブリーカーで背骨を折り砕く。
「まずは1人…」
佐倉は折り砕かれた量産型から流れる夥しい血を浴びるが、エネルギーを放出して一瞬で蒸発させる。
そして攻撃に先んじて1体やられた為、タイミングを逸して動きを止めた量産型に組み付き、押し倒してからマウントを取り、頭部に拳を叩き込み仕留める。
立て続けに2体倒された量産型は佐倉から一度距離を取ろうと後方へと下がりだす。
「ここで決めないと…」
時間も既にお昼を超えている。これ以上長引かせると再審問に間に合わないと考えた佐倉は一気に攻勢に出る。
一番手近に居た量産型へと牽制のビームを放ちつつ接近、槍を持っている右腕を手刀で切り落とす。そのまま相手の首へ腕を回し、へし折る。そこの別の1体が頭上から斬りかかる。かろうじて避ける佐倉。「これ借りるね」切り落とした右腕が握っている槍を拾い、相手の槍と切り結ぶ。パワーの違いから押し負けた量産機に再度槍を振り下ろし真っ二つにする。
ここまで来ると残りの量産型を全滅させるまで時間はさしてかかることはなかった。
▽
「これで、最後…」
最後に残った1体、何とか逃げ出そうとするそれを佐倉は追い詰めてとどめを刺した。
「時間は…そろそろ放課後。急がないと再審問に遅れちゃ…え?」
唐突に佐倉の身体が金縛りにあったかのように動かなくなる。
「こ…これは…」
「あー、やっぱり量産型はダメだな。原型機の3分の1の力しか出ないんじゃ止めることは無理か」
佐倉が動かない身体に戸惑っていると、暗がりの中から黒いコートを着た中年の男性が現れた。
(量産型を倒して気を抜いちゃってた…もっとも警戒しなきゃいけないのはこの人なのに)
「ご丁寧に全部潰してくれちゃって…これ、フラッペ博士に返さないと行けなかったんだぞ。だが作戦通り俺のところまで誘い込めたんだから上出来か」
男がコートのポケットから端末のようなものを取り出す。
「これ、何だか分かるだろう?お前の簡易制御装置だよ」
「やっぱり…まだ残ってたんですね」
「ああ。といっても、俺が研究所から逃げ出す時に偶然持ち出せた最後の1個だがな。残りは全部研究所ごと、ドッカーン、だ」
動けない佐倉の体を舐め回すように厭らしい目で見ながら男は戯けて言う。
「お前が居ないときを狙って警察と国王軍の特殊部隊どもが攻め込んできてさ。試作機を全部起動して防衛してたんだが、ツルッパゲのチビ警官がやけに強くて殆どぶっ壊されちまった。なんとか俺は残ってた試作機と一緒に逃げ出すことができたんだが…それでお前とは離れ離れになってどれだけ悲しい思いをしたか分かるだろう?お前にも俺が居なくて随分と寂しい思いをさせてしまって。ずっと迎えに来れなかったからスネてるんだろう?可愛い奴め」
佐倉が当時何故逃げることが出来たのか。それは7年前、国連軍が暴れまわっているレッドリボン軍残党を殲滅するために行った奇襲作戦のためであった。その際、新人なのに何故か参加することになった背の低い禿げた警察官が残党相手に縦横無尽の大活躍をして表彰されたそうだがそれはまた別の話。
「だが、俺も運のいい男だよ。たまたま立ち寄ったニホンで売ってた雑誌に、お前の写真が載ってるなんてな」
「やはり、あの雑誌でワタシの事を知ったんですね」
「ああ。だが、そこからの追いかけっこは大変だったよ。居場所は意外とすぐ分かったんだが、ここは侵入するのが結構大変でな」
去年住んでいた山にこの男が現れたのを見た佐倉は、研究所での日々がフラッシュバックし、脱兎のごとく逃げ出すことになった。そして男が追ってこれないようにとこの学校へと入学することにした。その際、学校や役所のデータベースへ侵入して新しく個人情報を作ったのだが、時間がなく、大雑把な改竄になってしまったので、そこから辿られたのだろう。実際、新しい名前を考える手間も惜しんで、当時使っていたサクラという偽名から佐倉愛理という名前にするという安直ぶりだった。
「苦労して敷地内に入ったと思ったら、またお前は逃げ回るし。寮も警備が厳しすぎるぜ。あの生徒会長はなんだよ?1年の寮に忍び込もうとしただけでマジ殺されるところだったし。妹にどうのこうのと訳わかんね―事を叫びながら朝まで追いかけられたんだ。キチガイかよ。護衛兼ダッチワイフの試作機があいつに全部やられたんだぜ。そんで昔の伝手をたどって、フラッペ博士からこいつらを手配したんだけどよ。借り物だって言うのに結局、全部潰されちまったな」
男は上機嫌にペラペラと今までの経緯を話している。
佐倉はその間に、簡易制御装置に抗おうと用意していたアンチプログラムを走らせる。もし連行されてマスター権限をこいつに書き換えられたらもう二度と抗うことはできない。何とか時間を稼ぐしかなかった。
「だけど、それもこれもお前を手に入れさえできれば全部解決だ。試作機は姿形がそっくりでも所詮はまがい物だからな。本物のお前を抱いた時に感じたあの充実感は得られなかったよ」
「なんで…私なんかに執着するんですか」
「なんで?だってシズクは俺のシズクなんだから当たり前だろう?」
「私は………人造人間12号です。ドクター・ゲロに作られてフラッペ博士に改造された人形。………シズクなんかじゃありません」
その言葉に男は呆れた顔をする。
「いや、お前は俺のシズクだよ。俺がお前を連れてきて改造してもらったんだよ」
「なっなんで…わたしなんかを…」
男の言葉に佐倉は動揺する。
「最初、人造人間の素体調達なんて面倒な仕事を押し付けられた時は不満だらけだったんだよ。でもそんな俺に天啓が降りたんだ。俺のシズクがあのままメディアの見世物になっているより、人造人間になって俺の傍にいた方が、俺のシズクが幸せになれるってよ」
男はニタニタと厭らしい笑みを浮かべながら佐倉の胸に手を伸ばす。
「その美貌は何年経っても衰えないな。人造人間は俺のシズクの美しさを永久に保ってくれる最高の発明だ。ドクター・ゲロに感謝だな」
ひとしきり佐倉の胸を揉んだ男は、佐倉を押し倒し、足をこじ開け、のしかかる。
「覚えてるだろ?お前の身体を最初に抱いたのは誰か。何度も愛してやったのは誰か。お前はもう俺のものなんだよ」
佐倉は男から目をそらし、嫌悪とやるせなさで悲痛の涙を流す。
「いや…もうやめて…」
「すぐにお前も分かってくれる。俺だけがお前を幸せにしてやれるって」
動けない佐倉に覆いかぶさり、耳元へ口を寄せて、男は臭い息を荒げながら佐倉へと囁く。
「知ってるか?人造人間でも生殖機能があるって。研究所の時はずっと生殖機能をオフにされてたが…ほら、これで解除された。今、お前の中で排卵されているはずだ。これで二人の愛の結晶を作れるぞ。子供は何人が欲しい?やはり、最初は男の子で、最終的にはベースボールの紅白戦ができるぐらいの人数がいいな」
端末を操作して、おぞましいことを囁いてくる男に佐倉は背筋が泡立ち戦慄する。今までこの男に何度も凌辱されてきたが、子供が出来ることはなかったので、そういう機能は無いと思っていた。だが、そうではないと分かった今、もうこの男に抱かれるのは耐えられなかった。こんな男の子供を宿すなんて考えるだけでも気が狂いそうになる。
「海が見える丘に白い家を用意しているんだよ。子ども部屋もいっぱいあるし、庭も綺麗だからガーデンパーティも出来るぞ。二人の寝室にはお前の写真をいっぱい飾ってあるんだ。使用人は…あの生徒会長に全部潰されたけど、まぁなんとかなるさ。ああ、やっと俺とシズクの二人きりの生活が始まるんだ。でも寂しがることはないよ。すぐに子供が出来るから賑やかになるさ。でも子供だけじゃなくて俺のこともちゃんと愛してくれないと怒っちゃうよ。ハハハ!はははは!!ハハハハハ!!!俺のシズク!ああ!俺のシズク!!」
男は自身の言葉に陶酔し、笑い声を上げながら、ガチャガチャとズボンのベルトを外していく。
アンチプログラムの効力はまだ発揮されない。本当なら男に抱かれてでも時間を稼ぐべきだろう。
だが、佐倉の脳裏には1人の男性の姿が浮かび、彼の事を思うと、たとえ既に穢されている身体だろうが、もうこの男に抱かれるのは嫌だった。私はこんな男の子を産みたくない!産むなら彼の子が良い!
「たすけて…」
「だから俺が助けに来たんだよ!一生俺のそばで幸せにしてやるから!」
男が佐倉の制服の胸元をはだけさせ、直に胸を揉みながら声を上げる。
「俺のシズクがあんなクソみたいなガキどもに厭らしい目で見られて!この顔も胸も全部俺のものなのに!」
男がズボンを脱いで汚らわしい物を取り出し、佐倉の中に入れようとする。その気配を感じ、もはや佐倉の心は絶望の余り砕け散ろうとしていた。
「もう…いや……いやなの……たすけて…………
綾小路くん!」
「もちろんだ!」
その言葉と共に佐倉にのしかかっていた男は吹き飛ばされ、路地の片隅に置かれたゴミ袋の山に叩きつけられた。
「佐倉、言っただろ。オレを呼べ。オレが助けてやるって」
そこには綾小路の姿があった。
■戦闘力参考■
佐倉愛里 12億相当
12号量産計画試作機 3000相当
12号量産型 4億相当
生徒会長 1500→4500(妹の寮に忍び込む不審人物への怒りによってフルパワー化。翌日、極度の全身筋肉痛)
研究員のオッサン 4
綾小路くん 9400(運動不足により順調に低下中)
なんとか日曜には間に合いました。
佐倉達が言っているエネルギー=戦闘力と考えてください。
そして、真のヒーローは遅れてやってくる。
【次回予告】
S2機関によりゾンビのように復活してくる量産型をバッタバッタとなぎ倒す綾小路くん。
彼は佐倉を守りきり、人類補完計画を阻止できるのか?
それともサードインパクトが起きてしまうのか?
そんな展開はないです。
ちなみに、寮へ侵入しようとした際に破壊された試作機、今回の事件で破壊された量産型の残骸は理事長の部下の犬忍者により無事回収されたとの事です。
書いてから気づいたけど、ドクター・ゲロが悟空たちと戦っている時にも佐倉は研究所に居たことに…。
ドクター・ゲロの本拠地とは別にある研究所で、12号は失敗作だから役に立たないと判断して使わなかったことにします。
絶望の未来編では佐倉は人造人間も来ない山の奥のド田舎でスローライフをしています。
その世界線の佐倉はチビ警官が居なかったため、研究所が潰されず、更に長い間ひどい目にあっていて、人間に絶望していて、別に滅んでも良いんじゃない?と冷めた目で17号と18号の事を放置しています。
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