孫悟飯は実力至上主義の教室へ。   作:PPキャンディ

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アンケートで希望されていた綾小路くん回です。
短いですがとりあえずの綾小路くんの現状をお楽しみ下さい。



綾小路清隆の憂鬱

『孫悟空を殺せ』

 

 

握られた赤く染まったナイフ。

周りには惨たらしく解体された死骸の山。

ただ言われるがままにソレを振り下ろす。

どうしてか、など考える事は許されない。

 

 

『お前はそのためだけに育てられたのだ』

 

 

孫悟空を殺すため、それだけがオレの存在理由。

それだけを目的にオレは毎日殺意を尖らせる。

この両手を赤く染め、苦楽を共にした同輩を手に掛ける。

それもこれも全ては…

 

 

『孫悟空を殺して、祖父の、そしてレッド総帥の無念を晴らすのだ』

 

 

…全ては復讐のため。

そんな会ったこともない奴らのためにオレはいつまで…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

端末からけたたましく鳴り響く音で目が覚める。

 

 

目を開けると窓の外は薄暗い。部屋の壁に備え付けられている時計を見るとまだ朝の4時だった。

体は寝汗でぐっしょりと濡れていて朝の空気に触れると肌寒さを感じる。

正直なところもう一眠りしたかったが、何度も鳴り響く端末が執拗にオレを起こそうする。迷惑極まりない目覚まし機能である。

オレは諦めて洗面所へと向かい朝の準備をすることにした。

 

 

洗面台の鏡に映ったオレの顔はいつもどおりの能面顔だ。だが顔の形は多少は整っているのではないかと少しは自負している。これでもう少し愛嬌というものを作れれば恋人の一人や二人出来るのではないか。もしその相手が櫛田みたいな可愛い子だったら少し嬉しい。

 

 

だがやはり朝は憂鬱だ。

 

 

毎朝のようにあの頃の夢を見てしまうから。

未だにオレはあのホワイトルームに囚われているというのか。

 

 

「孫…悟空…」

 

 

その名前をつぶやくと視界が赤く染まりドス黒い殺意が湧いてくる。だがその殺意はオレ自身のものではなく、物心が付く前から思考に植え付けられた怨嗟の鎖だ。その鎖が自由になったはずのオレを未だに縛り付けてくる。

 

 

「孫悟空は死んだ。なのになぜオレはまだ解放されない。いや、理由は分かっている。奴の息子が近くにいるからだ」

 

 

孫悟飯。オレの祖父、ホワイト将軍を殺し、そして父が所属していたレッドリボン軍を潰した孫悟空の息子。

直接会ってからまだたった一月しか経っていないが、彼は父の言っていたような悪逆な人間だとは思えない。

何度か会話をしてみたが素朴な人柄と真面目な性格に好感が持てる男だ。

彼の父親は憎いが、だからといってオレは彼に何かをしようという気はない。

それにオレはもうホワイトルームの人間ではないんだ。

この外から干渉されない楽園で人間らしく自由に生きるんだ。もう父の妄執に縛られたりなんてしたくない。

 

 

ホワイトルーム、外に出たからこそ分かる。あそこは異常な場所だった。

オレだけじゃなく、組織員の子供や孤児などを集めて、最強の天才を作るために過酷な教育とトレーニングが休むことなく繰り返されていた。

あそこでは常に死は隣り合わせだった。今日おしゃべりしていた隣人が次の日は無残な死体になっていて、それを成したのは自分だったなんて日常茶飯事だ。

そんな過酷な生活はオレから人間らしさを欠片も残さず奪い取っていった。最後に人間らしく笑ったなんてこと今では思い出せないぐらいだ。

それもこれも全ては父の復讐のため。

そんなことだけのためにオレ達は使い潰されていた。

 

 

なのにその肝心の孫悟空はオレ達の知らないところで勝手に死んでしまった。

それも発覚したのは死んでから何年もたった頃だった。

 

 

だが父はそれを信じたくなく、ことさら余計にトレーニングは激しさを増すだけだった。

 

 

「孫悟空などもはや赤子の首をひねるように殺せるほどになっていたのにな」

 

 

何度も繰り返し見せられて研究させられた孫悟空の戦闘映像。

第23回天下一武道会の映像だ。

初めて見せられたときは同じ人間とは思えないような光景だった。

目にも留まらぬ速さで動き、空を飛び、手から光を放つ。

まるでSF映画だ。まぁ当時はSF映画なんて知らなかったがな。

だが、その動きもいつしかスローモーションのように見えるまで成長した。

空を飛んだ方法や、手から光を放つトリックも見当がついている。

おそらく孫悟空は高度な暗器使いなのだろう。

肉眼では見えないほど細いワイヤーを予め飛ばしておいた小型ドローンに括り付けて飛んだように見せかけ、ホイポイカプセルで隠し持っていたビーム砲などを使っていたのであろうことは想像がつく。

今、孫悟空と戦えばオレはやつが認識する前に背後に回り込み、軽々と首の骨をへし折れるだろう。

得意の暗器術など使わせる暇など与えない。

 

 

孫悟飯がプール授業で見せたあの泳ぎも、暗器使いだと考えれば納得できる。

彼も父親から暗器術を習っていて、隠し持った小型スクリューを使ってクリアしたのだろう。

でなければあんな水竜のような速さで泳げるわけがない。

 

 

「駄目だ。また思考があの頃に戻っている」

 

オレは復讐対象が死んだというのに未だに固執している父に付き合うのにほとほと愛想が尽きてホワイトルームから逃げ出したんだ。

もうオレは自由に生きさせて貰う。父の思惑なんて知ったことか。

 

 

オレは頭を冷やすように冷水で顔を洗う。

 

 

そして冷静になって…また違う理由で憂鬱になる。

 

煩わしい音を響かせる端末をチラリと見る。そこにはたったの5万しかポイントが残っていない。

プール授業で10万ポイントを貰ったし、節約して残してあった8万をあわせてポイントが貰えなくても本来は18万も所持していたのだ。

だが、昨日山内に6万を貸した後、ポイントが貰えないことが発覚して、生活が出来ないと泣きついてきた親友達。いつのまにかオレにもいっぱい親友ができていて、つい嬉しくなって言われるがまま貸してしまったのだ。

幸い無料食材はあるし、いざとなったら狩猟すればいいが、それでも自由に使えるポイントが減ってしまうのは悲しい。

 

 

端末から響く音をBGMに朝食を取りながら昨日の事を思い出す。

 

 

 

もしかしたらこの学校にはなにかあるんじゃないかと思ってはいたが、外の常識など何も知らなかったためこういうものなのだろうかと油断していた。まさかポイントの支給が1ポイントもないだなんて。プールの授業でも10万ポイントも支給されたのだからポイントというのは簡単に貰えるものなのだなと考えてしまった自分を殴りたい。

 

そして放課後には茶柱先生に呼び出されて堀北の抗議を聞かされ、オレの入試テストの結果を暴露されて堀北に更に絡まれるようになったし。

あの後も「Aクラスになるため」や「中間テストで孫悟飯に勝つため」に協力しろとしつこく詰め寄られたな。特に孫悟飯の事にはことさらムキになっていた。

茶柱先生にお前より遥かに優秀だとか、クビになった面接官が担当でなかったら間違いなくAクラスに在籍になっていたとか言われて般若のような顔になってたからな。

あの時はなんとか断って逃げたが、絶対あの顔じゃ諦めていないだろうな。面倒だ。別にオレはAクラスなんて微塵も興味がないんだがな。

父の追手が入ってこれないここで三年間楽しんだら、その先はまたどっかに行けばいい。

もし仕事が楽なんだったら茶柱先生が言っていた軍に入っても別に構わないと思っている。適度に手を抜いて事務員として働けたら安泰だろうしな。面倒ならやっぱり逃げるだけだし。

 

 

それにしても孫悟飯に点数で負けたことが分かった瞬間のあの堀北の呆けた顔。今思い出しても笑えてくる。あれを見れただけでも日頃の嫌がらせに対する鬱憤が晴れた気分だ。それだけは孫悟飯に感謝だな。

父親の孫悟空は頭が悪かったと聞いているが息子の方は随分優秀のようだ。

体つきを見る限り身体能力の方も鍛えているようだが、所詮はあの程度の父親の息子。オレの敵ではない。

そもそもあそこで生き抜いたオレに敵う奴などもはやこの世に居ないだろうな。

今では銃器ですらオレの体に傷をつけることはできないぐらいに強くなりすぎた。

普通の人間だと危険でもオレにとってはこの学校の生活はレクリエーションみたいなものだろう。

適当に手を抜いてモラトリアムを楽しむとしよう。

 

 

オレは読書などをしながら朝の一時を楽しんでいた。

ふと時計を見ると後少しで8時になるところだった。

 

 

「そろそろ時間だ。登校するか」

 

 

オレはずっと机に置かれていた端末を見る。

 

 

端末からは未だに着信音がひっきりなしに鳴っていて、ディスプレイに堀北という名前が表示されいるが、オレはそれをそっとマナーモードにしてカバンへと放り込む。

 

 

「今日も天使のような櫛田の笑顔を見て癒やされよう」

 

 

オレは面倒から目をそらすように部屋から出た。

 

 

 




綾小路くんは純粋な人間としては超天才です。プロテイン入りの空気を吸って鍛えてきましたので。ちょっと産まれる時代を間違えただけです。


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