孫悟飯は実力至上主義の教室へ。 作:PPキャンディ
「俺」→「オレ」
5月に入って3週間がたった。
明日は中間テスト本番だ。
この3週間、僕は平田くんに頼まれて三宅明人くんと長谷部波瑠加さんに勉強を教えることになった。
三宅くんは寡黙な男子で、教室でも何時も一人で静かにしているのが印象的だった。
長谷部さんも三宅くんと同じく、このクラスでは一人でいることが多く、たまに佐倉さんと話しているのを見かけるだけだった。
最初は小テストの結果が一番良かったからと成績が一番悪い須藤くんと池くん、山内くんを教える話になっていたのだけど、堀北さんが自分の方が教え方は優秀だと言って強引に変わってしまったのだ。そして堀北さんに「ボッチにはボッチがお似合いよ」と三宅くんと長谷部さんを薦められたのだ。その言い方にはちょっとイラッとしたが、三宅くんも長谷部さんも話してみると二人共良い人で直ぐに打ち解ける事ができ、今では少し感謝している。
その堀北さんはいつもの綾小路くんを連れて須藤くんたちを指導していたが、中々にトラブルを多発させているらしい。図書館でいつも騒いでいると昼食の時にビーデルさんが困った顔でこぼしていた。優しくて多少のことには動じなく、他人の悪口など普段は全く言わないビーデルさんにそこまで言わせるというのは一体どんな事をしているのだろう。堀北さんは僕が近寄ると物凄い形相をして威嚇してくるので代わりに平田くんに注意してもらうように頼んだが、あまり効果は無かった。幸いBクラスの一之瀬さんに注意されてからは勉強場所を図書室から別に移したようだが。
最近ではビーデルさんと三宅くんに長谷部さんと4人でランチをするぐらいの仲になった。
(ああ、ビーデルさんの銀色の髪が昼の日差しに照らされて今日も光り輝いている。おっとりした目元もとてもチャーミングだ。小柄な体型もあわさってまさに天使だ)
「そんたん、見過ぎだよー」
「ごっごめん、ビーデルさん、あと長谷部さんも」
長谷部さんが僕の脇を肘でつついてくる。そんたんというのは長谷部さんが僕に付けたあだ名だ。
「もう、そんたん名字禁止!ちゃんと名前で呼ぶって決めたでしょ」
「悟飯、諦めろ」
長谷部、いや波瑠加さんがバンバンと僕の背中を叩いてくる。
「えっと、波瑠加、さん。やっぱり恥ずかしいなぁ」
「ふふふ、悟飯君は照れ屋さんですよね」
「それにしてもひよひよが居てくれて助かったよ。まさかテストの範囲が変更されているなんて知らなかったし」
(そうだ、茶柱先生は何故かテスト範囲が変更されたことを僕達に伝えてくれなかったんだっけ)
実は2週間前、ビーデルさんも交えて4人で勉強したところ、テスト範囲が違っていることが発覚したのだ。
そして慌てて茶柱先生に尋ねたら伝え忘れていたので僕から堀北さんに直接伝えるようにと頼まれた。その際、堀北さん以外に教える事は禁止されてしまった為、堀北さんだけに伝えたんだけど、「私を騙すつもりね。なんて卑怯なの。その手には乗らないわ」などと罵倒されてしまった。茶柱先生にその旨を報告したら、先生から直接堀北に後で説明するから黙っておくようにと命じられたが、皆にはちゃんと伝わっているのだろうか。一応松下さんには禁止事項に当たらないようにそれとなく分かるように伝えて、向こうからも分かったと合図してくれたので彼女から平田くんたちには伝わってるはずではあるが。
(明日は中間テストだし、流石にもう先生から伝わっているだろう。でなければもっと騒いでいるはずだよね)
そんなふうに考えていた時期が僕にもありました。
昼食を食べ終えて教室に戻るとクラスは大騒ぎだった。
僕達が戻ってきたことに気づいた平田くんが青い顔をして慌てて飛んできた。
「大変だよ悟飯君!中間テストの範囲が変更されたって先程茶柱先生から堀北さんに伝えられたんだ!」
それを聞いた僕達3人の顔は、俗に言う宇宙猫だった。
その後、放課後になって櫛田さんが中間テストの過去問を手に入れてきて、その内容が明日出されるから覚えてくるように言われた。
僕達3人には全く必要のない物ではあるが、僕達だけテスト範囲が変わっていることを知っているのがバレてしまうと面倒なことになるから黙っていようと波瑠加さんに口止めされたんだ。
鬼の形相をして睨んでくる堀北さんに辟易しながら僕達はすぐさま帰宅するのだった。
翌朝、中間テスト当日。クラス皆の顔は隈が酷かったとだけ言っておく。
中間テストが終わり、数日が経った。
「松下さん、今日はご機嫌だね」
「んー、だって今日でしょ、退学者が出るかもしれないのは。ワタシ的には三馬鹿が揃って消えてくれると嬉しいんだけどね」
「まさか松下さんが伝えてくれてないとは思わなかったよ。本当にいい性格してるよね」
「えー、なんのことか分からなーい。あー早く先生来ないかなー」
松下さんは、それはもういい笑顔で言うのだった。
そんな笑顔の松下さんとは対象的にクラスの皆は緊迫した様子で身じろぎもひとつせずに教室の扉をじっと見つめていた。
そして運命の扉が、いや教室の扉が開かれ、茶柱先生が入ってきた。
「せ、先生。本日ですよね、採点結果が発表されるのは」
平田くんが強張った顔で茶柱先生に聞いた。
「お前はそこまで気負う必要もないだろう平田。真面目に授業に出ているんだ、テスト範囲が変更されたと言っても授業範囲から出ることには変わりはない。普段から予習復習をしていれば問題ない難易度のテストだったはずだ」
「…僕だけの問題じゃない」
平田くんはポツリと小声でつぶやいた後、キッと顔を上げ、いつなんですか、と再度尋ねる。
「喜べ、今からだ。放課後じゃ、色々と手続きが間に合わないこともあるからな」
手続き、という単語に、心当たりがある生徒たちは一斉に青い顔をする。
「それは…どういう意味なんでしょうか?」
「慌てるな、今から発表する。それに何も悪いことばかりじゃない。今回赤点が出なかったらお前ら全員夏に南の海へとバカンスに連れて行ってやる。今まで経験したこともないとても貴重な体験になるはずだ、楽しみにしていろ」
突然のバカンス宣言にクラスはにわかに活気だつ。
それを背に茶柱先生は黒板に生徒の名前と点数の一覧が載せられた大きな白い紙を広げる。
「まぁ、それなりの結果だな。Dクラスにしてはそこそこ良い方ではないか?中にはかなり優秀な生徒もいるようだしな。孫、佐倉、三宅、長谷部、高円寺。5人ともよくやった。お前らは全教科満点だ。『Aクラスに相応しい』優秀な堀北も彼らを見習って頑張るように」
「くっ」
茶柱先生のその言葉に堀北さんは唇を噛み締め(あ、血が出てる)僕のことを夜叉のような顔で睨んでくる。正直怖いです。
茶柱先生は何故か掘北さんに厳しいようで何かに付けて僕と比較してくる。堀北さんも全教科90点台なんだからそこまで僕に対抗心を燃やさなくても良いと思うんだけど。
「っしゃ!赤点回避だ!」
須藤くんが立ち上がり叫んだ。彼は英語の過去問を寝落ちして殆ど覚えられなかったと言っていたが、それでも39点取れていたようだ。今回英語は選択問題が多かったため、なんとか暗記が間に合ったようだ。だけど、同じ理由で他の生徒の点数も英語だけは高い。
「赤点って確か38点だったよな。おっしゃ、俺も回避だ。見ただろ先生!俺たちだってやるときはやるんだ!」
同じく42点だった池くんがドヤ顔を決める。(なぜ寝落ちせずに暗記した池くんがそんな点数なんだろう)
だけど、今回の英語の赤点の点数って…。
「ああ、認めてやる。お前たちが頑張ったことは。だが…」
茶柱先生は赤いペンを手に持ち、須藤くんの名前の上に線を引いた。
「あ…何だよ。どういうことなんだよ…」
須藤くんは呆然とした顔で立ち尽くす。
「お前は赤点だ、須藤」
「は?ウソだろ?ふかしてんじゃねぇよ、なんで俺が赤なんだよ!」
須藤くんが顔を怒りで真っ赤にして茶柱先生に抗議する。
「須藤。お前は英語で赤点を取ってしまった。ここまでということだ」
「ふざけんなよ!赤点は38点だろうが!クリアーしてるだろ!」
「誰がいつ、赤点は38点だと言った」
「いやいや、先生は言ってたって!なぁみんな」
須藤くんと仲がいい池くんが庇うように叫んだ。
(いや、それは前回の小テストの赤点だ。赤点はおそらく平均点の半分。だから今回は…)
「お前らが何を言っても無駄だ。これは紛れもない事実。今回の中間テスト、その赤点のラインは40点未満だ。つまり1点足りなかったということだ。惜しかったな」
「よ、40!聞いてねぇよ!納得できるかよ!」
「この学校の赤点の判断基準は平均点の半分だ」
先生は黒板にクラスの平均点を書いて計算していく。
「これで、お前が赤点でだということが証明された。以上だ」
「ウソだろ…俺は…俺が、退学、ってことか?」
「短い間だったがご苦労だったな。だが安心しろ。前にも言ったとおり、退学後は軍の教育機関でみっちりと鍛えてもらえる。現場で揉まれることでここにいるより遥かに優秀な人間になれるかもしれないぞ。では放課後には軍の対獣人用の護送部隊がお前を迎えに来る。言っておくが逃亡しようなどとは考えるな。退学者には無条件発砲許可が出ている。逃げようとすれば射殺されるぞ。親御さんには上手くカバーストーリーが連絡されるから大丈夫だ」
淡々と、まるで何気ない報告のように進めていく姿を見て、ようやく生徒たちはこれが本当のことなんだと実感していく。
「残りの生徒はよくやった。危ない生徒もそれなりに居たがなんとかクリアー出来たな。次の期末テストでも赤点を取らないように精進してくれ。それじゃあ、次だが…」
「せ、先生。本当に須藤くんは軍送りになるんですか?救済措置はないんでしょうか?」
平田くんが青ざめた顔でなんとか須藤くんを助けようと声を上げる。
彼は須藤くん達から嫌われていたけど、それでも守ろうとする姿に悟飯は感動した。
「事実だ。赤点を取ればそれまで。須藤は間違いなく退学になり、軍へと送られることになる」
今まで黙っていた悟飯は平田くんの献身に答えようと考え、手を上げる。
「先生、質問良いですか?」
「ほう…孫か。何だ、言ってみろ」
「この学校では何でもポイントで買えると初日に言われました。それはつまり権利も買えるということでしょうか」
それを聞いた茶柱先生は凄く悪い笑顔を浮かべた。
隣では松下さんが「それ今言っちゃうかー」と小声で言いながら頭を抱えている。
「ああ、権利も買える。それで、お前は何を買いたいんだ」
「須藤くんの退学をなかった事にする権利、ではどうでしょう」
僕の発言にクラスメイト達はにわかにざわつく。
「ああ、本当に良い質問だ。まさかこの時期のDクラスでこの質問が聞けるなんてな。いいだろう、教えてやる。退学をなかった事にする権利。それは2000万ポイントで買える。どうだ、足りるか孫」
その言葉を聞いてまたもクラスの空気が重くなる。
「そうですか。流石にそんなポイントは持っていません」
「くっそぉーーー!」
須藤くんが自身のワイシャツを破り、興奮で肥大化した大胸筋をドラミングしながら嘆きの声を上げる。
「…では、もう一つ。テストの点数はいくらで売ってもらえますか」
その言葉に今度こそクラスの空気が凍りつく。
「は、っはははははは!本当に、本当に優秀だな、孫悟飯。それでこそ私達に煮え湯を飲ませた孫悟空の息子だ。いいぞ、それも教えてやる。ポイントは1点で10万ポイントだ。これは割引など出来ないからな。耳を揃えて払ってもらうことになる」
悟飯は茶柱先生から父の名前が出てきたことに疑念を覚えたが、今はそれを問い詰める場合ではないとすぐさま端末を取り出す。
「10万ポイント、ちゃんと払います。だから彼の赤点を取り消して下さい」
茶柱先生も端末を取り出し、悟飯は10万ポイントを送金する。
「確かに受け取った。これで須藤の点数は40点になり赤点は回避されることになった。須藤、孫に感謝しておくんだな。次はないかもしれんぞ」
「悟飯!助かった!すまねー!お前はこれから俺の心の友だ!」
須藤くんが一足飛びで僕に抱きつき万力のような力で締め上げてくる。
(嬉しさのあまり力加減分からなくなってるんだろうけど、これ、普通の生徒にやったら死んじゃうよね)
悟飯は苦笑を浮かべながら須藤くんの感謝の言葉を受け入れた。
ちなみに視界の隅でやはり堀北さんが鬼神のような顔で睨んできてました。凄く怖いです。
■生徒データベース■
佐倉 愛里
1年D組
学籍番号:S01T004738
学力:A+
知性:A
判断力:D
身体能力:A+
協調性:D-
面接官からのコメント:学力や知性、身体能力はどれもAクラス相当だが相手の目を見て話すことや言葉の組み立てなど、他者とのコミュニケーションの力が高校生たる基準に達していない。面接中も終始周りを気にしている様子で落ち着きが足りないように見受けられる。また、知性の割には判断力も劣っていて適切な回答をする割にはこちらの質問への反応が鈍く感じられた。また別途資料に記載されている通り、彼女の入試テスト以前の経歴が全くの不明であり、書類上の中学に問い合わせたがデータベース上でしか彼女の存在が確認できておらず改竄された形跡もある為、Dクラスへの配属する。
担任メモ:交友関係の進展は見られず、クラスメイトの同じく孤立している長谷部と少し会話をする程度です。また、5月に入って既に4回、夜間に彼女の部屋への狙撃が確認されています。銃声は消音されているので今のところは他生徒へは露見していません。そのせいもあるのか放課後や休日は身を隠すように敷地内の人気のない場所を徘徊している姿が監視カメラなどで確認されています。これらのことから何かしらの事件に巻き込まれていると判断します。今後は彼女の周辺も念入りに調査します。
今回は完全悟飯視点で中間テスト期間、悟飯君は堀北さんに警戒されて近寄れなかったので綾小路くんサイドで起きたアレコレについては完全にノータッチです。
実に平和ですね。
長谷部さんとかの口調がイマイチわからないです。もし違っていたらクロスオーバーの弊害だと思って下さい。松下さんとか愉悦部状態なので。
とりあえず、今回の話で1巻部分は終わりですね。
綾小路くんサイドのアレコレについては後で個別回想とかで入るかも知れません。話の流れ次第でどうなるかですが。
次回あたりから2巻に入ります。今までは名前ぐらいしか出てこなかったハムスター系気弱女子の佐倉さんが本格的に登場しますね。
ほんわか癒やされるようなストーリーになれば良いなぁと考えながら原作2巻を読んでいます。
あと色々書き方模索中です。文体が安定してなくてすいません。
そのうち文体調整の改稿入れるかも。
そして私自身は極めて真面目にギャグ小説を書いているつもりなのですが、ここ数話、なんだか妙にシリアスでギャグが迷子です。
ちゃんと笑える話とか入れないとタグ詐欺になってしまうと悩んでいる今日このごろです。
今回の話も書いている最中の仮サブタイトルは『中間テスト』で、投稿する際にこれではシンプルすぎるなと、『忍び寄る退学の恐怖』とかそんな感じのを入れようかともしたのですが、いやいや、ギャグ小説だろう、どうしてそんなシリアスなのよと考え直して、せめてサブタイトルだけでも馬鹿っぽくしようと迷走した結果こんなふうになりました。アオハル良いですよね。
感想・評価をしていただけるとモチベ維持に繋がるのでありがたいです。
疑問質問もネタバレにならない範囲でお答えしますので分かりづらいところがあったら聞いて下さい。
では今後もよろしくおねがいします。