城戸秀宗は近界民である   作:dedede6

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誤字報告本当にありがとうございます。見直してるつもりなんですが。


5、風間隊

 三上歌歩は和菓子党である。

 

 高校入学までは、母親に「甘党」などという大雑把なくくりに入れられていることに不満を持ったことはなく、甘味好きの妹2人にひっぱられ、和菓子でも洋菓子でも好んで食べていた。

 

 三上家の財務大臣である母親は子供が喜ぶのに気をよくし、旅先やお出かけ先などでは、その場所その場所に売られている名物の菓子を買って与えることが日常であった。

 

 子供に喜んでもらいたいという反応は親として至極まっとうなことだが、何を食べても美味しい美味しいと食べてしまう辛党の弟よりも、時には渋い顔をして今日のはイマイチ、などと騒ぎ出す3姉妹を相手にしたほうがより選び甲斐があったのだろう。

 いつもまにか三上家のおやつはいつも甘味となっている。

 

 そんな三上が、自分は甘党ではなく和菓子党だと自称するようになったのは、ボーダーで出会った大先輩、宇佐美栞の影響であった。

 

 

 ふんふんふん、と鼻歌でも聞こえてきそうなくらいご機嫌な三上は、食器棚から4人分の銘々皿を取り出した。

 半月の形を模した揃いの食器。塗りは黒。

 つやのない、上品にしっとりと塗られたお気に入りの一品である。

 お盆の上に4つの皿をことりことりと並べていき、その上に大福を一つずつ乗せる。黒と白のコントラストがたまらない。

 「和菓子とは、五感で楽しめるパーフェクト甘味なのだ」という宇佐美の教えに感化され、三上は配膳の瞬間もにこにことした表情を浮かべていた。

 まずは視覚で楽しんだ後に、味覚と触覚を楽しむのである。

 ここにすこし渋めの緑茶が加われば、本日の防衛任務を終えた4人の、ちょっとしたご褒美が完成だ。

 

 三上は、お盆を持ってフローリングの上にスリッパを履いた足を滑らせるようにしずしずと歩き、6人がけのテーブル席に到着する。

 そこで、あ、と声を上げた。

 

「ごめん、あたらしい黒文字だしてくれない?」

 

 和菓子専用の食器を添え忘れていたことに気がついた三上は、先にソファーに座って準備万端然としていた男子2人に声をかけた。

 現在、風間隊の作戦室にいるのは、髪を後ろに流した歌川遼と、耳まで隠れるように長くのばした菊地原士郎。

 

「りょーかい」

 

 整然とした作戦室は風間隊の特徴とも言える。部隊全員が綺麗好きであるため、ものが仕舞ってある場所も基本的に全員が把握している。

 歌川は立ち上がると、台所へと足を向け、そのままシンクの上にある吊り戸棚の扉を開けた。その後ろから、一歩遅れて菊地原が続く。

 迷いのない歌川と違い、菊地原は不思議そうな表情である。

 

 クロモジって何?。菓子切りだよ、ほら、宇佐美先輩が好きな木の短刀みたいなやつ。なんだ、じゃあ菓子切りっていえばいいのに。

 

 期待が裏切られたせいでぶつぶつと呟く。黒文字の言葉の響きにすこしワクワクしてしまったのが恥ずかしく思えた。

 

「風間さんはどんな感じ? お茶、入れてしまってもいいかしら」

「多分もう帰ってくるよ。防衛任務の定時報告なんて1分もかからない」

「皆モニターで見てるんだから、やらなくていいのに。報告とか無駄でしょ」

 

 

 

「遠征艇の搭乗員名簿を貰った。我々も4人で参加するから、準備しておいてくれ」

 

 大福をもきゅもきゅと頬張りながら、隊長である風間蒼也は3人に向かってそう通達した。

 

 遠征艇。

 文字通り、長距離航行を目的に開発された外界へと望む船である。

 構造基礎概念が玄界のものとは完全に異なるため、海に浮かぶ船とは外観が全く異なっている。

 こどもにそのデザインを見せてみれば、カエルとか、クリスタルとか、靴の裏とか、そういった答えが帰ってくるだろう。

 しかし、見る人が見れば答えは一つ。

 “近界民に似ている”

 手持ちのトリオン技術の全てを近界に頼っているボーダーでは、遠征艇一つとっても近界の模倣の範囲を脱していない。

 足の生えたイルガーのような形の外壁は黒光りし、格納室で禍々しい光を放っている。

 

「!」

 

 予定されていた目標だ、とでも言わんばかりに、こともなげに言う隊長と違って、反応は3者3様。

 事前に風間から話を聞かされていた三上は大福を切る手を止めず、歌川は眉を少しだけしかめる。初の遠征参加となった菊地原は目を見開いた。

 

「風間隊は太刀川隊、冬島隊と共にメノエイデスを目指す。出発日時、期間、用意するトリガーの詳細はそれぞれの端末に投げるので確認してくれ」

「遠征・・・それ、今の風間隊が認められたってことですよね」

 

 少し前にメンバーが交代した風間隊は、一時の間戦力ダウンをしてランクを落としていたが、新トリガーと菊地原のサイドエフェクト『強化聴覚』を用いた連携を駆使し、A級上位まで返り咲いていた。

 

「そうだ。だが評価が落ちるのは一瞬だ。浮かれて遠征でしくじるなよ」

「言うまでもありませんよ」

 

 まあ、近界は特殊だ。体験しなければわからないことも多い。

 

「作戦内容は出発まで極秘だが、乗員については1つ追加連絡がある。今回は3部隊の他に1人追加で船に乗せる予定だ。誰になるか決まっていないが、外だけでなく、中についても固定観念を持つな」

「了解。迅さん関係ですか?」

「わからない。それも含めて先入観を持つな」

 

 乗員の決定は、最高司令官である城戸が決定する決まりだが、ボーダーにはサイドエフェクト『未来視』を持つ迅悠一がいる。

 見た者の少し先の未来を見つけられる迅は、ギリギリまでボーダー内を徘徊し、最良の選択肢を選ぶ。

 迅が情報を収集し、最終的には城戸が決定するのがこれまでの慣例だった。

 

「オペレーターからすると、事前に戦力の方向性がわかっているとありがたいです」

 

 情報を取りまとめる立場からすれば当然の意見だろう。

 それもそうだな、と一つ置き、風間は非公式と断った上で言う。

 

「迅にはごまかされたが、城戸司令には候補を伺っている。追加情報がない場合、船には城戸を乗せる」

 

 

 

 

 風間はボーダー内の通路を、個人ランク戦のホールに向かって歩いていた。

 追加の可能性がある人物の名前を知った後、ぶつぶつと愚痴のような、呟きのような不満をいつもの2割増しで吐き続けて、菊地原はソファーに沈んだ。

 まあそうなるだろうなとも思うが、どうせ知るのなら早くてよかったかとも思う。

 本人にはまだその自覚は無いかもしれないが、菊地原は風間隊の要だ。彼はよくうそぶいて、ぼくのおかげ、なんて発言することもあるが、別に過言でもなんでもない。

 将来的には独立させて、菊地原隊として1隊率いさせたいと考えている以上、精神的なタフさを育てるために多少の心理的ハラスメントはかけ続けたいと風間は思っている。

 

 方向性は違えども、菊地原だけでなく、風間も歌川も、城戸に対しては思うところがあった。

 風間隊の武器であるカメレオンを用いたステルス戦術は部隊全員で練り上げたものだが、チーム単位のステルスでなく、ステルスのみに注目するのであれば、先駆者は風間隊ではない。

 ステルスを利用した一撃離脱戦術を、風間隊よりも前に使い始めていたのは誰であろう件の城戸秀宗であった。

 

 当時、城戸以外のものが混乱し、あの戦術はそういうサイドエフェクトか、と噂になったものだが、カメレオン開発以来その噂も立ち消えた。

 ステルスは技術で再現可能であることが証明されたからである。

 

 当時のことを都合よく忘れたC級隊員たちの間で今流れている噂は、「城戸秀宗は、城戸司令の息子である立場を利用して、配布される前の新トリガーをランク戦に持ち込んでポイントを稼いだ悪いやつ」である。

 最近B級下位に落ちた城戸隊の凋落が裏付けになっていることもあって、少々の真実味をその噂に与えていた。

 

 噂などどうでもいいが、と風間は思いながら目的の場所に到着する。

 流石に情報は正確。

 目的の人物がホールの端、自動販売機の前で腕組みしながらうんうんと唸っているのを発見した。

 

 

 

 

 

 

「ブースに入れ、確かめたいことがある」

 

 突然声を掛けられた秀宗は、自動販売機から目を離して振り向いた。その声の高圧的な雰囲気からつい目線を上にあげ――あれ?と思って下にさげる。

 佇んでいたのは自分よりも少しだけ目線の位置が高い男性。

 

「風間さん」

「お前今どこ見たか言ってみろ」

「すいません。風間さんの背が伸びてればいいなと思った僕の願望が、つい」

 

 風間は、秀宗の正体が近界民であると知っている。

 ボーダー内でも古参で年数が長い上、城戸司令の懐刀である。

 ある程度基礎的とも言える、首脳陣に近いボーダー隊員達の情報については、城戸からデータとして渡されていた。

 秀宗に関して言えば、自分が入隊する前から本部に所属している数少ない人物の1人である。目を引かないわけがない。

 当時10台前半だった秀宗に玄界の常識を教えこんだ1人が、まだ未成年だった風間である。

 色々あった直後だったせいだろう、当時の憔悴した様子からは、こうやって冗談を言えるようになるとは、その時は思ってもいなかった。

 

「珍しいですね、個人ランク戦ですか?」

「ああ」

 

 どう断ろうか、と言い訳を探そうとする秀宗の先回りをして、風間が言った。

 

「設定はプライベートで構わない」

 

 たまには、付き合えよ。

 

 

 

 

 マップ、市街地。

 

 背景に溶け込んだアタッカーを目で認識するのは困難である。

 ステルス戦術と相対した場合、その対応には視覚以外の方法が求められる。

 それは聴覚だったり、気配だったり、観察眼だったり。

 ともあれ、お互いがステルス戦術の使い手同士、1対1である以上、優位性はない。姿を隠した場合の有効な位置取り、攻撃方法はお互いの手の内だからだ。

 

 秀宗が右手のスコーピオンを伸ばして風間の首筋に狙いをつける。

 横薙ぎの攻撃に逆らわないよう、風間はスコーピオンの進行方向に倒れ込むよう、“左”に避ける様子を見せながら姿をかき消した。

 倒れ込んだ様子から想像すれば、消えた先は左。しかし。

 秀宗の右側面から突然現れた風間のスコーピオンが、脇腹から左肩を袈裟懸けるように切りつける。

 それを織り込み済みとばかりに、こちらもスコーピオンで迎撃する。

 

「お前にカメレオンが有効だとは思っていない」

「っ――」

 

 しかしそれも罠。

 第3の方向、道路の下から伸びるもぐら爪が秀宗の右足甲を貫通している。

 

 右足の損傷を無視して接近戦を挑もうとするも、すでに風間はシールドを展開しつつ間合いから飛び退いていた。

 

 現下、秀宗と風間のトリガー構成は似ている。

 メイン、サブの両方にスコーピオンをセットし、シールドとバッグワームをつける。

 秀宗はここにグラスホッパーを入れているが、風間はカメレオンをセットする。

 もっとも、秀宗よりも優れたグラスホッパーの使い手がいるA級で戦いぬいている風間にとって、秀宗のグラスホッパーは決定打になりえない。

 カメレオンよりも優れたステルスを有する秀宗にもまた、風間のカメレオンは決定打になりえない。

 つまり、お互いに攻撃トリガーは両手のスコーピオンのみである。

 

 相対する2者の戦力種類が似通っている場合、待っているのは削り合い。

 スコーピオンの性質上一発の怖さが薄いため、忍耐と精神の勝負へと戦場は誘導されていく。

 

 キン、というスコーピオン同士の交差する音が、数秒ごとに響く。

 数秒待ち、一度、二度・・・・十度以上。

 初手の邂逅以降、風間は勝利への最短ルートを選ぶべく、一撃入れては離れるアウトボクシングに徹していた。

 

 戦線が膠着している場合、圧倒的に強者が有利である。

 この場合の強者とは、五体満足で充足している風間。

 トリオン能力を擦り合わせることを一心にこころがけ、消耗戦を継続するだけで相手の地力のほうが先に底をつく。

 弱者の立場は、程度の同じ削りあいをすれば必ず負けとなるため、どこかで無茶をしなければならない。

 ファーストコンタクトで、無料で右足分を損した秀宗が、圧倒的に不利な立場に陥った。

 

 数分後、秀宗の戦績に、✕が表示される。

 初手のリードを守りきった風間が、そのまま勝利を収めていた。

 

 

 

 

 

 ✕✕✕✕○ ✕✕○✕

 

 残り1戦を残して、秀宗の2勝7敗。

 スコーピオンの捌きあいだけなら5分だと考えていた風間にとって、秀宗の“勝負感”が冴えていないことは不満だった。

 

「鈍ってる」

 

 普段から睨みつけるような目つきの風間が、更にそれを厳しくした。

 

「風間さん、最近は個人戦よりもチーム戦術中心だと思ってましたが」

「チームランク戦だけ戦うならそれでもいいが、ボーダーの本質を忘れたつもりはない。戦闘に入れば、チームがいつも一緒とは限らないからな」

「ごもっとも、戦士の鑑ですね」

 

 最後の一本やりましょうか。

 それまでの9本と変わらぬ様子で風間を誘う秀宗に、風間は言う。

 

「遠征に行く仲間である以上、今のままのお前では納得できないな。城戸司令に言って、メンバーを取り下げてもらおうか」

 

 そのぬるさじゃ、死ぬぞ。警告を込めたそのセリフに、秀宗は予想外の反応を返した。

 

「遠征? なんです?」

「聞かされてないのか?」

「聞くも何も、遠征ですって? 僕が?」

「お前だからこそじゃないのか」

 

 近界民の僕が? と言外に言う秀宗と、近界民だからじゃないのかと返す風間。

 近界民1人の捕虜として考えるのならば、逃げるられることを考えて外に出さないのが普通だが、鎖付きの捕虜であれば利用するだけするのが正しい。

 鎖がちぎれないと確信があるのであれば、それも当然のことである。

 

「まあいい。最後の一本、お上品に試合だと思わなくていいから、近界遠征のつもりでかかってこい」

 

 

 

 

 攻撃が偏っている、と風間は感じた。

 最後の10戦目、秀宗の操るスコーピオンの斬撃は、両脇からの薙ぎの割合が7割を超えている。

 そして、正面からの攻撃が極端に少ない。

 トリオン体を使用しない攻防であるならば、到底考えられないことである。

 狙いは何か。風間は考える。左右に広範囲に広がった攻撃を防いでいる今の状態のデメリットは、視点が広がってしまうことだ。

 グラスホッパーとステルスを組み合わせた広角攻撃は風間の眼球を振り回し、こうして脳に処理負荷を強いている。

 普段と別角度からの攻撃を集中してしのぎ続ければ、少しずつ普段の感覚とはずれてくる。

 これは人間であれば抗えない生理現象だ。

 だとすれば狙いは。

 風間は、秀宗の攻撃の“本命”を正面からの突きに当たりをつけた。

 高速の広範囲攻撃で脳をずらし、最速・最短の突きで締めにくる。

 狙うのは急所の中で最も細い首筋だろうか。

 

 60秒にも渡るノンストップの乱れ打ち。

 トリオン体に疲労がないと言っても、それでも残トリオン量は目減りしていく。

 いつまでもこの攻撃は続かない。

 

 風間が最後まで耐え抜き、最後のカウンター攻撃に賭けようと決めてからその78秒後。

 今まで決して攻撃をしてこなかった真正面に秀宗の姿が現れた。

 

 来た。

 

 この速度では全体像は把握出来ない。攻撃は何か。全てを把握することを諦めた風間は、秀宗のスコーピオンの状態を視認することに心がけた。

 右手だ。スコーピオンの片手持ち。左手は徒手だ。スコーピオンが展開していないということは、右を防いだ後に死角からの二の矢を警戒しなければならないか。

 

 いや―――。

 

 風間は、右手に持った自らのスコーピオンを、襲来する秀宗の首筋に突き出す。

 お互いの右手から出る突きがお互いの首筋を狙う、まるでクロスカウンター。

 最速こそ最強だ。急所狙いの攻撃ならば、一瞬でも先に到達したほうが勝利する。

 だとすれば、リーチの長さがイコール勝敗の分かれ目だ。

 

 刹那、秀宗が左手のガードを首筋に向けた時、風間は勝った、と思った。

 防御に回ったということは、自分の突きが遅いと判断したということだ。

 この攻防で首筋がガードされたとしても、ガードに使った左腕は切り取れる。1戦目のリプレイの様に損耗をしいれば、結果すらも1戦目と同様だ。

 

 風間のスコーピオンによる突きが秀宗の左腕に差し込まれる。

 

 そして、その半ばで固定されたかのように動きを止めた。

 

 

 左腕の中にスコーピオンを展開したのか? その手応えに反応した風間は、瞬時に突きから払いに切り替える。

 しかし、再びの手応え。まるで左腕の中に固定されたかのよう。 

 秀宗が左腕を捻る。その動きは刺さったままのスコーピオンに連動し、風間の右手にそれを伝える。

 自分の意思で無いままに右手の角度を調整された風間の右腕は、先程まで突きを狙っていたはずの秀宗の右手スコーピオンによって両断された。

 

 

 

 

「安心したぞ。この動きなら、俺の隊の誰だって、足手まといだとは思わない」

 

 1回戦とは逆リプレイ。最終戦は、腕一本の有利を保ちきった秀宗が勝利した後、変わらず無表情のまま風間が言う。

 

「別に、風間隊の方に見せる機会は無いと思いますけどね。Aに上がる予定もありませんし」

 

 もちろん、遠征を命令されたなら、全力は尽くしますけど。

 勝負の途中で聞かされた遠征の話にまだ半信半疑の秀宗は、トリオン体の修復を待ちながら自らの身体をチェックしていた。

 個人戦ブースのトリオン体と、近界で展開するトリオン体では微妙に感覚が違う。

 玄界よりもトリオンの濃い近界では、その星その星の特色から、微細ながら影響を受けるのだ。

 

 風間は、風間隊を示す特徴的な戦闘服から、普段着へと換装した。

 フードのついた襟高の私服は、どこかミリタリー色を思わせる深目の緑色だ。

 

「お前、俺が理由もなしに訓練に誘うと思っていたのか。もううちのオペレーターに、今の戦力分析をさせている」

 

「はい?」

 

 何を呆けているんだ、と続ける。

 

「風間さん、さっき設定は秘匿状態(プライベート)って言ってましたよね」

隊内共有(プライベート)と言ったはずだ」

 

 

 

 

 

 

「で、最後のはどういうことなんだ。」

 

 三上が操作するモニターに集まった歌川と菊地原の両名は、最終戦の攻防のみを議題にあげていた。

 トータルで言えば、隊長の7勝3敗。

 B級にしては健闘したと言えるかもしれないが、当然、他を差し置いて遠征に選ばれるようなレベルではない。

 それでも特筆する点があるとしたら、それまでの9戦とは動きが明らかに変化した10戦目。

 歌川が言うのは、風間のスコーピオンが秀宗の左腕に“絡め取られた”シーンである。

 

「モニター越しだと音が濁るんですよね。本気で聞いておけば違いましたけど」

 

 画面越しではどうも正確な情報にはならなかった。

 腕の中に、もぐら爪か枝木を隠していたことは想像できる、しかしそれではスコーピオンが動きを変えても腕から脱出できなかった理由がつかない。

 

 三上は、シミュレーターの表示形態を変化すべく指を走らせる。

 

「トリオン体の反応と、トリガーのトリオン反応を色分けします。どうぞ」

「・・・骨?」 

「骨、だな。いや、スコーピオンの刀身か? 付け根のあたりの二股に別れた部分」

 

 秀宗の左腕内で黒く表示されるトリガー反応は、理科室に存在する人体模型のようである。

 生身の人間の腕に、手のひらから橈骨と尺骨の二本の骨が伸びているように、2本のトリガーが展開してあった。

 

「ああ、そういう。種がわかれば大したことないですね」

「つまり、左腕の中に骨を2本作って、風間さんのスコーピオンを挟んで、巻き込んだわけか」

 

 自身の左腕の骨の位置を確認し、内向き、外向きに動かしてみる歌川。

 動かしてみると実感できる。腕を支える二本の骨は普段は平行だが、回転させれば折り重なるように間を狭める。巻き込まれれば脱出はむずかしい。

 

「これ、ランク戦の実況してても見たこと無いわ。技術的には相当高いのかも」

「典型的な無駄技術でしょ」

 

 そうなの?と疑問を投げる三上。

 

「だってこんなの、素直にシールド使ったほうが早いし。最初からスコーピオンを左手に持ってればいいし。意表を突くにしても、弾くだけなら枝木でいいし」

「まあ・・・そうかもな。曲芸、は言いすぎかもしれないが」

「それに、習得むずそう、繊細だし、使える場面も少ない。第一、トリオンの武器は消せるんだ、スコーピオンを消せば脱出されるなんて、割りに合ってなさすぎる」

 

 こんなのに負けるなんて、風間さんらしくないんだよなあ。

 ぶつぶつと菊地原が呟いているのをフォローするように歌川は言う。

 

「いや、普段の生活で身についた思いつきや動きを戦闘に取り入れるやつ結構多いし、有効に使えば強いんだぞ。相手の意表をつけるしな」

 

 菊地原のあげるアタッカー視点のデメリットと歌川のフォローをふんふんと聞いていた三上が、何かを思いついた様にあれ、と声を上げた。

 

 習得が難しくて、あえて練習するほど効果があるわけでもなくて、トリオン体だと効果が薄い。

 

「つまり・・・、城戸君はこれを生身で習得してるってこと?」

「・・・」

 

 たまに怖いこというなあ、この娘。

 歌川は反論を思いつかず沈黙した。

 

 

 

 

 

 

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