城戸秀宗は近界民である   作:dedede6

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 ワートリ杯お疲れさまでした。

 読み専だった自分が、「書いてみようかな」と思えるきっかけを与えてくださった主催の龍流様に心から感謝いたします。
それから、読んでくださった方々、評価、コメント、誤字報告してくれた方々、本当にありがとうございました。

 自分の作品にコメントやここ好きがつくのがめちゃくちゃ嬉しかったので、これからは自分もドンドン他の方の作品につけていきたいと思っています。(多分、コメント一つで更新速度めちゃくちゃあがるはずです!)

 ありがとうございました。


7、荒船隊

 近界遠征への参加が正式に決定し、その出発を翌日に控えて。

 

 城戸秀宗の心の奥底には、恐怖心があった。

 

 出発前、これから長きにわたる航海へと漕ぎ出すことになる乗組員、すなわち太刀川隊、風間隊、冬島隊の面々との顔合わせと、諸々の準備が実施された。

 作戦内容を忍田本部長が説明し、城戸最高司令官が出発を発令したのが午前中。

 風間隊に混ざって昼食をともにした後、全員参加を義務付けられたメディカル・チェックが午後に実施された。

 

 フィジカル面のチェックについては、全員が異常なし。

 メンタル面のチェックに異常値を示したのが2名。

 遠征初参加となる、城戸秀宗と菊地原士郎の2人だけが、平常心を示す数種類の項目で標準値を超えていた。

 

 初参加という条件を考えれば、それはさほど珍しいことではない。

 実際、メディカル・チェックを担当した医師も、この程度の範囲内であれば許容範囲内であるとして遠征自体は計画通りに実施されることなった。

 

 秀宗は、自身のメンタル制御には一定の自信を持っていた。

 戦場のあらゆる場面に至るまで、精神のコンディションを平静に保つことこそが、相手依存ではなく、自分依存で能力を十全に発揮される最も効率的な方法である。

 精神を落ち着ける方法は常に、本当に常に訓練して身につけているはずだった。

 

 では、メンタルが異常値だったのはなぜか。

 秀宗にはその恐怖心に心当たりがあった。

 

 

 ―――近界に、置き去りにされるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

『狙撃警戒』

『―――っ!』

 

「痛烈ぅ! 3方向からの遠距離狙撃が城戸隊員に突き刺ささったあ!?」

 

 右手の肘から先と、左腕そのものが吹き飛ぶ。

 普段と同じつもりであったが、攻撃に対する反応速度が鈍っていただろうか。

 

『おいおい』

『すいません、立て直します』

 

 オペレートをしてくれている寺島雷蔵に詫びる。

 

 Bランク戦、夜の部。

 マッチアップ、荒船隊vs那須隊vs城戸隊。

 マップ『展示場』、『快晴』、『無風』。

 オープニングは荒船隊の集中砲火で幕を開けた。

 

 

 

 解説席に座った竹富桜子は、初見の攻撃に興奮を隠さなかった。

 

「開幕そうそう、ド派手な攻撃が見られました! 痛手を追った城戸隊員が逃走しますが、攻撃をした荒船隊の三人もバッグワームを起動して姿を消しています」

 

 大型モニターには、各隊員の配置が光で表されている。

 攻撃を受けた1つの点は逃げ惑うように、攻撃回避を目論むようにジグザグに移動しているが、攻撃をした3つの点はその動きに委細構わず、次の配置へと移動する。

 

「では、戦闘が仕切り直しになったところで解説の東隊長、今の攻撃はいかがでしょうか」

「そうですね、止めを刺すまでには至りませんでしたが、3人スナイパーの特性を活かした、素晴らしい攻撃だったと思います」

 

 東春秋は、ボーダーの中で最もスナイパーを熟知している隊員である。

 その東が真に感心した表情を浮かべているのを見て、竹富の実況魂が質問する。

 

「今の攻撃は、難易度が高いんですか?」

 

 そうですね、と言葉を選んで東が解説する。

 

「シューターやガンナーなどが、複数方向から射線を交差させる攻撃を『十字砲火』なんて呼んだりしますよね」

「はい、避けにくくて、高ランク戦でも使用頻度の高い技です」

「そうです。しかしこの攻撃、実は中距離以外でやるのが非常に難しいんです。やっていることは火力の集中という単純なことに思えますが、近距離だと、よほど連携が取れた部隊でないと味方同士の攻撃がかち合う可能性がありますから」

「なるほど。確かに部隊戦では、アタッカーが重なってしまう場面などはありますね」

「そして遠距離からだと、そもそも火力を集中することが難しい。皆さんが普段見るような十字砲火では、シューターやガンナーは多くの場合、タイミングを合わせて連射しているでしょう? あの一番の目的は、相手に同じタイミングで攻撃が到達することなんですが―――先程の攻撃、荒船隊の位置はどうなってましたか?」

 

 東はそう逆質問をしながら、桜子の手元のモニターに、攻撃当時に確認した荒船隊の位置図を表示させる。

 

「あ――、はい! 荒船隊長が距離300m,穂苅隊員600m,半崎隊員が1,000mです」

「つまりそれだけの距離から、お互いの攻撃が同時に城戸に刺さるように計算して撃ったわけです。これは荒船隊各員の腕もさることながら、加賀美隊員のオペレーション能力の高さも関係しているでしょうね」

「―――なるほど! すごい腕だ荒船隊っ! スナイパー部隊は伊達じゃない!」

 

 

 

 

 城戸秀宗は、荒川隊からの攻撃で手痛いダメージを食らった後、展示場ステージの端にある1階建ての建造物に身を寄せていた。

 両腕を失ったが、トリオン供給機関を狙っていた3発目の弾丸だけは防ぐことに成功していた。露骨に一発だけ急所を狙っていたことから考えると、防がせるための攻撃だったかもしれないが。

 

『どうだ、緊急脱出するか?』

『いえ――。ちょっと今日は、勝ちに行こうかなと』

『へえ?』

『明日からの戦友が見ているかもしれないので、ちょっと無様なところは見せられないな、と』

『ああ、そういうことか』

『すいません』

 

 元々ソロでランク戦に臨んでいる秀宗にとって、ランク戦のポイントに執着はない。

 B級から落ちてしまうのは少々困るが、それを防げば良いだけの話。

 しかし、戦友から能力を疑われる状態というのは、非常によろしくない。

 

 自分がどれだけ能力が高くとも、指揮を取るリーダーや、その下で戦う同僚たちがこちらのことを信頼していなくては、作戦行動に支障をきたす。

 

『おそらくですが、荒船隊の攻撃が僕に集中したのは偶然ではありません』

『ふーん?』

『荒船隊のポイントを考えると、ここで大量点を獲得できれば上位が狙えます。そうなると、生存点の2点は大きい』

『こそこそ隠れて探せないやつだけは最初に消さないとってことね』

 

 荒船隊は、全員がスナイパーだ。

 そんな尖った戦力構成で大量点を獲得することを考えれば、その尖った部分を相手に押し付けて完封するしかない。

 そして、最初に秀宗を狙ったのならば、基本戦略はおそらく、那須隊とのタイマン。

 これまでの記録から、荒船隊が大量得点をするパターンは2つ。

 1つは、敵チーム同士の戦力が実力伯仲であることを利用して、漁夫の利を得続けるパターン。

 しかし、城戸隊という1人構成の部隊がいるせいで、それは使えない。

 そしてもう1つは、近接攻撃が出来る隊員を早めに撃破してからの、距離を押し付けての封殺である。

 

 那須隊の主攻となる那須玲が操るバイパーは間違いなく強力であるが、中距離の範囲の外に攻撃できるということはない。

 防御寄りのアタッカーである熊谷も、本領を発揮するのは那須との連携がある時で間違いない。

 ならば、全員が距離を取れる荒船隊とがっぷり四つに噛み合えば、一方的に強圧を掛け続けられるという理屈に間違いは無いように思える。 

 

 

『言ってることはわかるが、そういっても、那須隊にもスナイパーがいるぞ?』

『そう、ですね。でも、多分それは――――』

 

 

 

 

「―――どうしよう、熊ちゃん。私達、舐められてるみたい」

 

 那須隊のオペレーター、志岐小夜子からの情報を分析したあと、那須玲は静かに怒りに燃えていた。

 

 那須隊の転送位置は最悪だった。バッグワームをつけて単独行動を目指すスナイパーの日浦茜が単独だったのはさておき、那須と熊谷はステージの一番離れた場所に転送されていた。

 これは、最初に合流を目指すという作戦が失敗だったか、と思えたが、結果として那須と熊谷は無傷で合流を果たしている。

 7名中5名がバッグワームを起動した極端な戦場とはいえ、ランダム転送は各隊員を一定の範囲で距離を開けて転送する。

 マップを横断するように合流した那須と熊谷が、スナイパーとして視界を重視する荒船隊に2名とも補足されなかったとは考えにくい。 

 

 そして、秀宗に対する超大技。

 

 秀宗に3人全員からの集中砲火が入ったと聞いた時、那須の中で荒船隊の狙いは氷解した。

 それと同時に、誰がどう舐められているのかも。

 

「玲」

「わかってる」

 

 熊谷に返答すると、那須はマップを確認し、自身の周辺に輪を描くように十数個のトリオンキューブを展開させる。

 すぐにバッグワームを起動したとはいえ、那須隊のオペレーターは優秀だ。

 だいたいの位置はわかっている。

 3人のうち、浮いているのは西、おそらく十字砲火の最長狙撃を担った狙撃手である。

 

『小夜ちゃん、茜ちゃん、今からいうことをよく聞いて』

 

 メインアタッカー兼、指揮官。

 気心知れた友人からは勝ち気と評される少女は、チームメイト全体に指示を飛ばしたあと、親友を引き連れて外へと歩き出す。

 

「1人1人順番に。獲りに行きましょう」

 

 

 

「こりゃダルいわ」

 

 荒船隊の最年少狙撃手、半崎義人は“3人”固まった那須隊からの猛攻を受けて逃げ惑っていた。

 マップ中央にある展示場ステージを包囲するように展開した荒船隊の作戦では、1人に狙いをつけられた場合、それ以外の2人が後ろから狙撃で援護することになっていた。

 つまり今、半崎が那須から放たれるパイパーから逃げ惑って時間を稼いでいることは作戦の範囲内。

 予想外だったことは、

 

『狙撃警戒』

『『了解』』

 

 熊谷に加えてスナイパーである日浦までもが、那須のガードに回っていることである。

 

 荒船が放った狙撃を、日浦のシールドが防御する。

 穂苅が放った狙撃を、今度は熊谷が防御する。

 

 マップ選択権の無かった那須は、この展示場ステージを熟知はしていない。

 建築物群に逃げ惑う半崎を仕留めるには、バイパーのみを使用して虱潰しにしては時間がかかる。

 ところが、2人の隊員によって狙撃から完全に守られた那須は、シールドを展開することなく両手を攻撃に使用する。

 那須はメイントリガーからメテオラ、サブトリガーからバイパーを出現させると、合成弾、トマホークを中空に向かって打ち出した。

 狙いはアバウト。

 半崎がいると思われる一帯中心に降り注ぐその雨は、弾というよりはどこか爆撃じみていた。

 

 

「トマホーク、トマホーク、トマホオオオオク! 那須隊員の連発する合成弾の雨あられ! 隠れる場所を失った半崎隊員緊急脱出!」

「すさまじい破壊力ですね」

「那須隊がスナイパーの日浦隊員を集合させて陣形を固めた時には我々も混乱してしまいましたが、これが狙いだったわけですね。トリオン量の豊富なシューターを中心とした飽和攻撃、まるで二宮隊のような陣形です」

「那須隊は発想が柔軟でした。荒船隊の狙いに近接攻撃が無いのならば、近寄られると弱いスナイパーでも防御役には十分です」

 

 

 

 

 

 

 荒船哲次は、その手があったか、と素直に感心していた。

 序盤に城戸隊を半壊させて那須隊と雌雄を決しようという作戦は途中まで上手く行っていた。

 

 今回の荒船隊の作戦の肝は、スナイパー同士の打ち合いにあった。

 スナイパーというポジションが最も特殊なのは、攻防を制した時、“無傷”で相手を制圧することができることである。

 アタッカーであれば勿論のこと、シューターやガンナーであっても、彼我の距離が近ければ近いほど、相手の反撃を受けやすい。

 打ち合いを行えば必ずと行っていいほど損傷するし、トリオンを消費する。さらに言えば、自らの持つ位置、姿、使用トリガーその情報全てを相手の眼前に晒すこととなるのだ。

 

 荒船隊は、那須と熊谷を遠距離から攻撃して焦りを誘い、日浦茜の狙撃を誘うつもりであった。

 居場所が割れれば、距離の近い人間が日浦を攻撃する。荒船自身であれば距離を縮めれば勝てるし、穂苅、半崎共に日浦と遠距離射撃戦になれば完封できる公算が高い。

 当然、舐めているわけではない。

 

 荒船隊はスナイパーチームだ。

 荒船は、隊員2人の長距離戦能力に絶大な信頼を置いている。それがやれると思ったから、この作戦を採用したのだ。

 第一、スナイパーがスナイパーに技術で勝てなくて、勝てると判断できなくて、何がスナイパーチームなのか。

 

 さておき、結果として、こちらの近接攻撃の乏しさを利用されて陣形を建て直され、今半崎を落とされた。

 接近戦に弱いのはスナイパーの常であるのは仕方がないが、相手のスナイパーにまでガードに回られてしまっては、流石に近接攻撃のバリエーションも欲しくなる。

 

 やはりオールラウンダー。

 オールラウンダーこそが全てを解決する。

 

 自身の理想が間違っていないことを確信した荒船は、反撃を開始すべく、イーグレットを弧月に持ち替えた。

 

 

 

 

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