0円至上主義のバカ+α   作:一汎人

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2-3 友情トレーニング

 カリカリと、シャーペンで字を書く時に鳴る音が静かな図書館に響いているのが聞こえる。

 ひたすら手を動かし、目の前にあるワークを解き進めながら、チラリと横目で隣に余裕ぶった感じで座る柄の悪い男──Cクラスの龍園(リュウエン)(カケル)を見る。

 

 龍園は集中して勉強している、俺含めた今この図書館にいるメンバーと違って、だらけた姿勢でペラペラと教科書をめくり、時折よからぬ事を思いついたような表情を浮かべる。

 

「……なあ、龍園。いきなり老若男女問わずギャン泣きしてしまう程気持ち悪い笑みを浮かべてどうした? 猿山の大将には多過ぎた知識を取り込んでついに頭をやったか? あっ、悪いな、お前のオツムがアレなのは元々だったな。これは失敬」

 

「ククッ、おいおい、図書館(ここ)はいつからペット同伴可能になったんだ? ソウに由良、気分が良くて笑っているやつに態々めくじらをたててキャンキャン吠えやがるそこの子犬の躾くらいまともにやっとけよ」

 

 うわぁ、と思いながら楽しそうに軽口を叩き合う龍園とひなたの2人を見ながら、助けを乞うように同席しているメンバー……魅音や由良、椎名の方を見るも、彼女ら3人は我関せずといった感じであるので、援護は期待できなさそうだ。

 何とかできないかと思い、他の同席しているメンバーである、石崎(イシザキ)とアルベルトの2人に目線を向けるが、2人してそっと目を伏せた。なんて薄情な奴らだ。

 

 そう内心で項垂れていると、誰かに俺の両肩が掴まれるのを感じた。

 一体誰だろうかと疑問に思う間も無く、その下手人達は思わずブルっちまうような恐ろしい表情をしながら声をかけてきた。

 

「ほぉう、無視をするなんて良い度胸じゃねぇか。うん?」

 

「もうちょっとちゃんと話そうぜぇ、ソウ。なあ?」

 

 本当にどうしてこんなことになってしまったんだろうかと遠い目をしながら、俺は2人の不良の言葉を聞き流すのであった。

 

 ◆

 

 そもそもどうしてこうなったのかというと、話は数分程前に遡る。

 

 今日は特に何も用事がなかったので、図書館にでもいって本を読もうとしたのだが、図書館の先にはひなた、由良、椎名の3人が集まっていた。

 今日は特に集合もかけられてなかったし、ひょっとしてハブられたかと思い、ほんのちょっと傷ついた。

 すると向こう側はこちらに気づいたようで、3人で何かを話すと……ひなたがこちらの方へ邪悪な笑みを浮かべながらこちらへ近づいてきた。

 

 怯んだ俺はその場から逃げようとしたが、運の悪いことに俺はこのタイミングでとある人物に肩を叩かれ、何者かと思い振り向こうとしたら頬に指が刺さる感触があった。

 こんなことをする人物は、たとえ周囲にGやらムカデやらがいたとしても眉一つ動かすことのない鉄仮面の持ち主、世蔵魅音ただ1人に絞られるだろう。

 

「おい、一体何す──」

 

「ソォォォウゥゥゥッ、いきなり逃げ出そうとするとは酷ぇじゃねぇか、ウン?」

 

「ひっ!?」

 

 思わず情けない声を漏らしてしまったが、それは仕方のないことだろう。

 文句を言おうと魅音の方を向いたら、地獄の閻魔のような恐ろしい声でこちらを呼びかける大魔王が真後ろに立っていたのだから。……一体どう言った運動神経をしているんだ? 

 

「ひ、ひなた? 一体何の用だ?」

 

「おいおい、そんなビビらなくたって、別に取って食おうって訳じゃねぇよ。ただちょっとツラ貸せや」

 

「おまっ──」

 

 その言い方は完全に不良、と言う間も無く首根っこを掴まれた俺は何かを言う前にひなたに連行されたのであった。

 視界の先では何故か無表情のまま勝ち誇った雰囲気を漂わせる魅音の姿があった。あいつだけは絶対に許さないと心に誓った。

 

 ◆

 

「取り敢えず、ソウゲットだぜってな」

 

「ぴっぴかちゅー」

 

「……お前らあとで覚えておけよ」

 

 珍獣を捕らえたマサラ人の台詞を言うひなたと、それに合わせて電気ネズミのような真似をする由良に文句を垂れながらも、椎名からは「大丈夫ですか?」と心配されたので、ひとまずは大丈夫とは伝えておいた。

 ホント兄妹で性格が違いすぎる……

 

「それで、一体何なんだよ」

 

「もうすぐわかる。折角だ、魅音も一緒にどうだ?」

 

「特に用もないし、いいよ」

 

 こういった感じに、俺は中学時代の3人+椎名の4人と一緒に図書館で待機することとなった。とはいえ、このまま何もしないのもアレだったので、近くにあった適当な本を一冊手に取ってみることにした。所謂オススメコーナーというところにあったものだ。

 どうやらこれはライトノベル──それも恋愛小説らしく、やや捻くれ気味の少年と才能に溢れた少女の2人を主軸に描いた、こういっちゃ悪いがよくある恋愛ものだった。

 

「それ、面白い?」

 

 実は恋愛小説とかが好きな魅音が、パラパラとページを捲る俺に声をかけてきた。どうやら魅音も魅音で暇らしく、丁度恋愛小説を読んでいる俺に絡みにきたようだ。

 しかし面白いかどうかか……取り立てて個性が目立つような文章ではなく、ストーリーも表現も特にこれといってああだこうだ言えるところはなかった。……所謂普通という奴だった。

 

「普通、てか微妙」

 

「そっか」

 

 そう言って俺の隣に座り、俺の読む本を覗き込む魅音。

 中学の時から距離感が近いこいつとの関係は、この学校に入り、競争相手となった(といってもあまり実感はないが)今でも大切な友人で、心地よい距離感を保っていた。

 ……まあ、流石にいくら元カレ相手だからといって距離が近い気がするが、ひなたや由良相手に対してもそうなのだからそういう個性だと割り切ることしかできないか。

 

 ◆

 

 本を読み始めてから数分が経った後に、どうやらひなた達が会う予定らしき人物らが図書館内へと入ってきた。

 どのような人物かというと、その風貌はおよそ物静かな図書館に来るような生徒のそれではなく、どちらかと言うと、暗い路地裏で気弱そうな者に跳んでみろといいそうな雰囲気の人物──龍園翔(とそのご友人一行)だ。

 

 龍園とはこの学校に入学してからできたCクラスの友人で、かなり残虐かつ嗜虐的な性格をしており、悪意を持ち過ぎたひなたと言ったイメージの輩だ。

 龍園と出会った経緯に関しては劇的な出会いをしたわけでもなく、偶々昼食時に相席したりなんやかんやあったりして交遊した結果友人になった。やはりひなたら辺と同じような性格の奴と仲良くなれるので、俺は暴力的な人と波長が合うのかもしれない。……いや、なんか赤髪の生徒とは仲良くなれない気がするから多分気のせいだな。

 

「よお、来てやったぜ由良、ひなた。それと、お前も来てたのか、ソウ」

 

「まあ、成り行きでな」

 

「来てくれてありがとー、まさか来るとは微塵も思ってなかったからビックリー」

 

 苦笑しながら龍園に返す俺に対し、やや棘を含んだ声で嬉しそうに返す由良。口が悪くなければその容姿と口調から癒し枠とされるだろう由良の性格は元々暴力的で、そのせいか同類のひなたや龍園とは波長が合って気安く話すことができるのだろう。

 そんな由良のニヤついた返答に対して、青筋を浮かべながら龍園は尋ねた。

 

「あ? お前が来いって言ったんだろうが。……まあいい。それよりもこんなところに呼び出して一体なんのようだ?」

 

「いやー、折角リーダーになったのにー、チンパンレベルの脳味噌の龍園のために勉強を教えてあげようかなーって思ったのー」

 

「ほぉう? 他に言い残すことはあるか? あ?」

 

 そう言って握り拳をつくってジリジリと由良の方へ距離を詰めていく龍園。本当に殴るつもりではないのだろうが、それを考慮したとしてもその姿はまあなんとも恐ろしく、だからこそ冷や汗ひとつかかずに涼しい表情で軽口を叩ける由良の事を、俺は凄いなぁと思った。

 

「あーやだやだー、こうやってすぐ暴力に走ろうとするー。私みたいなー、か弱い女の子相手に失礼じゃないかなー?」

 

「「「「……か弱い?」」」

 

 中学時代に平然と自分の体よりもひとまわりもふた回りも大柄な野郎共10人を同時に相手取って傷一つ負わずに全員ぶちのめしたあの由良が? *1全国各地の格闘技を扱う道場を片っ端からひなたと2人で道場破りしたあの由良が? *2周りに女子生徒を侍らせた、強者の風格を漂わせた2年生の金髪の男子高校生を一睨みしてガクブルさせたあの由良が? *3

 

「あははっ」「ククッ」「ふふっ」「クハッ」

 

「「「「あっはっはっはっ」」」」

 

「冗談は大概にしとけ?」

「大丈夫か? 熱でもあるんじゃねぇか?」

「保健室まで連れて行こうか?」

「おいおい、寝言ならせめて寝てから言えよ」

 

 

 

「……表でろ」

 

 

 

 

 ◆

 

「と言うわけでー、まあ龍園のサポートという事で取り敢えず学力をなんとかしようかー。ついでにひなたと石崎の勉強も教えれるしー、一石二鳥ー?」

 

 という一言によって、なんとも奇妙なグループで勉強会が行われることとなった。各々が各々の勉強をやり始め、魅音と椎名はそれぞれ黙々と、由良は有無を言わさずひなたと龍園の2人に同時に勉強を教えている。そして俺は今現在石崎とアルベルトの勉強を見てやっている。

 

 石崎とアルベルトの2名は龍園と同じくCクラスの生徒で、龍園の部下という存在らしい。

 この2人はどちらも体格に恵まれており、特に純日本人ではないアルベルトなんかはかなり屈強で、俺が腕相撲なんてした日には一瞬というには長過ぎるほどの僅かな時間で負けてしまう。……まあ、魅音や由良、篝に一之瀬らへんの女子にまで負けているから今更なのではあるが。

 

 ともかく、このような感じで勉強すること数十分の後に、冒頭の発言である。

 いい加減現実逃避している場合ではなくなってきて、心無しか2人からそれぞれ掴まれた肩からみしりと嫌な音が聞こえてきたので、なんとかしなければならない。

 

「ひ、一先ず休憩しないか? 勉強疲れでピリついてるのかもしれないし」

 

「良いですね。丁度私も一息つきたい所でしたので」

 

 俺が提案し、椎名が賛同したことで、魅音や由良も一息つくかという感じの流れになってきた。このまま休憩時間に入って、その間にこの2人を引き剥がす方法を探さなければと思っていたら、まーたこの2人はやってくれた。

 

「ククッ、そいつは名案だな。俺もこんなかったるい勉強にうんざりしていた所だ」

 

「へえ? Cクラスの大将はたった数十分の勉強如きでへばっちまう軟弱低脳野郎だったって事か。Cクラスの大将がこれなら俺らでもすぐにCクラス……いや、Bクラスにまで上がれそうだな」

 

「強がりは辞めといたほうがいいぜ? 手前も超密度の由良の教えに脳がガタついてる事なんざお見通しだ。それともあれか? 休息の大切さもわからない真正の間抜けなのか?」

 

「「…………」」

 

 お前らどこまでやるんだって言うほどギスギスした言い合いをした2人は、互いの胸ぐらを掴み合って睨み合っていた。

 両者の姿はまさに恐ろしく、差し詰め龍と虎と言った所だろうか? 

 

 しかし、幾らなんでもここまで顔が怖い人達と一緒に勉強する気にはどうしてもなれないので、魅音らを誘って別の場所で勉強しようぜと声をかけようとした瞬間だった。

 

「へー、2人ともまだ元気がありそうだねー。特にひなたはまだまだいけそうだねー」

 

「げっ」「やばっ」

 

「それじゃー追加で勉強頑張ろー。それもー、さっきよりも厳しく行くよー」

 

「いや、ちょっ、待て」「おい待て、本当に待て」

 

「厳しく、行くよ?」

 

「「…………ああ」」

 

 ……勉強、やるかぁ。

 

 ──勉強会をした事で絆が深まった気がする。

*1
相手側には最低でも全治半年以上の傷を与えていた。

*2
ちなみに俺と魅音も当然連れて行かれた。

*3
堀北先輩が後に教えてくれた事だが、どうやらその人物はこの学校の副会長らしい。




取り敢えず生存報告です。

勉強会参加の理由(補足)
創:暇だったから
ひなた:由良に強いられたから
龍園:由良に強いられたから
魅音:皆がいるから
由良:Cクラスのトップと友人の学力を上げたいから
椎名:暇だったから
石崎:龍園が参加するから
アルベルト:龍園(ボス)が参加するから

尚この面子のうち創と魅音と椎名の3名はクラス間の争いにさほど固執していません。だから、敵に塩をまぶしたりしてるわけですね。

この作品で現状1番好きなオリキャラ

  • 芽吹創
  • 篝京香
  • 浅乃悠人
  • 椎名ひなた
  • 世蔵魅音
  • 赫鐘由良
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