0円至上主義のバカ+α   作:一汎人

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2-6 無課金勢の解

「──過去3年間くらいの、中間テストの過去問って貰えたりしますかか?」

 

 俺の質問に対し、星之宮先生は人の良さそうな笑顔から一転し、何か腹に一物を抱えたような、意味ありげな笑顔を浮かべ始めた。

 値踏みするかのような視線を感じて、居心地が悪くなるのを感じたが、そのような視線は今まで何度も受けてきたから、ある程度の耐性は付いていた。

 

「うーん、理由を聞いていいかな?」

 

 どうやら先生は簡単には渡してくれないらしく、まずは使用用途をきちんと説明しなければならないようだ。だが、過去問の使用用途なんて古今東西たった一つの理由しかないため、此処にわざわざ理由を聞く必要は無いとは思う。

 ……待てよ、態々理由を聞いてきているということは、つまりこの学校の過去問には何か秘密があるというのか? 普通渡せるなら渡すだろうし渡せないのならムリと答えるだろうに。ここでイエスでもノーでもなくホワイで聞いてくるということは、きっとそういうことなのだろう。……まあ、今はそれに関しては置いておこう。

 

「そうですね、やっぱりこの学校のテストの難易度がどの程度なのか目安が知りたいっていう感じですね。後は、この時期のテストで出る所は大体似たり寄ったりだと思うので、模擬試験的な使い方としても使えますし」

 

 結局のところ、過去問の使用用途なんて本番に向けた練習程度のものでしか無いのだ。だから、俺はその部分をほんのちょっと飾って伝えることにした。俺の隣に居る篝も、まあそうだよねと言ったような、納得したような表情を浮かべていたことから、やはり普通はそういう使用用途だろう。

 けれど、先生の中では違うらしく、何処となくがっかりしたと言ったような、そう言った雰囲気を感じた。

 

「そっか、成る程ね。けれどごめんね? 学校側からは過去問を渡すことはできないの」

 

「……そうですか。ありがとうございました」

 

 そう一例してから、俺は星之宮先生に背を向けて歩き出す。

 後からついてきた篝は、何かを思案するような表情で、こちらに声をかけてきた。

 

「ねえ、ソウ。気づいた? 今先生が言ったこと」

 

「ああ、多分同じことに気づいたとは思う」

 

 篝の言いたい事は、先程先生が『学校側からは』というフレーズを発していた事だろう。さっき考えたように、無いのなら無いと言えばいいのに、態々渡せないという言葉を使ってきたのも着目点だろう。

 

「もし過去問が欲しいんだとしたら、その時は先輩から貰うしか無いって事だよね」

 

 アテとかあるのという篝の疑問に対して、俺はニヒルな笑みを浮かべながら、愚問だなと格好つけて返してやった。フッ、自然な流れで言いたいセリフランキング8位のセリフを言ってやったぜ。

 

 ◆

 

「──と、言うわけで過去問が欲しいのですが、譲っていただけませんか?」

 

 口を震わせながら、はわわとでも言いそうな篝をよそに、この1ヶ月と少しかけて繋いだ縁を持つ人物──現生徒会会長こと堀北先輩のいる生徒会室を訪れていた。

 

「成る程、事情は分かった。だが、タダでやるわけにはいかんな」

 

 そう言って堀北先輩は鋭い目で此方を見つめてくる。どうして俺の知り合いにはこう目力が強い人が多いんだろうかと、知人共の顔を浮かべながら思う。

 

「何かを得るためには代価が必要、というのは昔からある原作だ。芽吹、お前が過去問を望むというのなら、それに対応する対価──そうだな、30000ポイントを支払ってもらう」

 

「さんっ!?」

 

 隣に座っている篝が思わず声を上げ、それと同時に何かを心配するような目でこちらを見てきたが、それは無理もないのかもしれない。

 過去問というものは“普通の”学校ならば大した価値のないものであり、それ故にそれに約三万円相当を払えというのは割に合わないだろう。そして、その金額をふっかけられたのが、“所持ポイント0の俺だというのだから尚更だ。

 

 当然、ここで払うと即決できるわけもなく、また万一払うとしてもそんな法外な額を馬鹿正直に払ってはどう考えてもディスアドなので、ここで俺が撮る行動はたった一つ。値切りだ。

 

「三万、ですか。それを安くできませんか?」

 

「場合によっては考えてやらなくもない。幾らで買うつもりだ?」

 

 さあ、どうするというような態度の堀北会長だが、俺の厚かましさをなめてもらっては困る。

 

「0ポイントです」

 

「ほう」

 

 続けて見せろ、と目で催促する堀北先輩だが、ここで理詰めで0ポイントまで値切る手を俺は持っていない。だから、ここは別方面からアプローチをかける。

 

「話は少々変わりますが、俺と先輩って互いに面識があって、連絡先を交換していて、なんなら世間話とかもしますよね?」

 

 いきなりどういうつもりだと言いたげな表情の堀北先輩だが、やや眉間に皺を寄せながらも頷いてくれた。ならば、後は一気にたたみかけるだけだ。

 

「それなら、世間一般的に言って、俺と堀北先輩は“友達”って奴なのではないでしょうか?」

 

「「「っ!!」」」

 

 はっと何かに気づいた様子の篝に堀北先輩、そして実はいた橘先輩。

 先輩は、そう来たか、と言いたげな表情を浮かべたのちに、数秒間何かを思案したかと思えば、ようやく口を開いたのだった。

 

 

「……まあ、確かにそう言えるだろうな」

 

 よし、と心の中でガッツポーズを浮かべながら、後はトドメの言弾がクリーンヒットするのを祈りながら、弾丸を放つ。

 

「またまた話は変わりますが──友達としてのお願いって事で、譲っていただけませんか?」

 

「……いいだろう。そこまで言われては、お前の“友人”として応えないわけにはいかないな」

 

「えっ!?」「会長!?」

 

 ふっ、と笑みを浮かべながら、机から数枚のプリントを取り出して、何故か生徒会室にあるコピー機でコピーを取ってから俺の方へと渡してきた。

 

「“友人”としての親切だ。解答もつけておいてやる」

 

「ありがとうございます」

 

 勘違いしてはいけないのが、例えば先輩が友人、と認めてくれたとしても流石に年齢の上下関係があるので、フランクに接するわけにはいかないというわけだ。だからこそ、言葉遣いには気をつけた方がいいな。

 とはいえ、無事に無料で過去問を入手できた事で俺はやや浮かれていた。それも三万をゼロにしたのだ。お得にも程がある。

 だがしかし、それでそのまま終わりっていかないのが世の中というもので、この後の堀北先輩の発言で、俺はフリーズすることとなった。

 

「所で、だ。話は変わるのだが──実はまだ生徒会の枠に空きがあってな」

 

「そうなんですか」

 

「ああ。それでこの間誰かを勧誘しようかという話になった」

 

「ほお、先輩が直々にですか?」

 

「当然、生徒会長として新たな役員を登用するためには自ら出向くのが筋だろう」

 

「成る程。それはそうですね」

 

 堀北先輩の話に適当に相槌を打っていると、少しした後に、ニヤリと言ったような笑みを浮かべたのちに、俺に対して致命傷を与える弾丸を打ち込んできた。

 

「それで、ここからは“友人”としての頼み事だが……芽吹、生徒会庶務にならないか?」

 

「っ!?」

 

 姑息にも堀北先輩は、あろうことか俺と同じ手段で俺に生徒会に入ることを要求してきた。おのれ、さすが会長汚い。まあ、自分のことを棚に上げていうのだが。

 企みがうまくいったかのような笑みを浮かべる先輩──いや、会長に対して、俺が選べる選択肢など、たった一つしか残されていない事は誰から見ても明白だろう。

 

「……わかりました。今日から改めて、よろしくお願いします」

 

 ……こうして俺はこの学校の生徒会庶務に任命されることとなったのだ。

 

 ◆

 

「はぁ、なんか疲れたな……」

 

「まあ自業自得じゃない? それよりも、凄いじゃん、会長から直々に勧誘されるなんてさ」

 

 一通り生徒会室での話を終えた俺達は、今回の戦果を手に寮へと向かっていた。

 

「それにしても、どうやらこの学校って、本当に一筋縄じゃいかないんだね」

 

「ああ……まさか定期テストが毎年同じ問題とか、誰が予想できんだよ」

 

 そう、あの後過去問を見て気づいた事実とは、来年定期テストとして出される問題は、一字一句違わず同じという事だ。

 実際に堀北会長に話を聞いても、それがこの学校の“仕様”というものらしく、以前にも俺たち同様過去問を貰って退学を免れた生徒が居た──主にCクラスやDクラスの生徒だった──らしく、定期テスト攻略の裏技としては昔からある手段のようだ。

 

「その仕様に気付けたのは、ソウがテストに対する熱意があったからっていう、偶然っていうのも予想できないだろうね」

 

「や、まあ確かに熱意はあったかもしれないけど、言われるほど強くはないはずだぞ?」

 

「そうかな? 過去問から出題パターンを想定してまで勝とうとするその熱意は異常だと思うよ、私は」

 

 ケラケラとこちらを揶揄ってくる彼女に対し、俺は苦笑しながら返すことしか出来なかった。

 しかし、成る程。どうやら俺は自分で思っている以上に負けず嫌いなのかもしれないな。……いや、違うな。多分前回の0点取った時に連中が煽り散らかしてきたから、それにややキレているだけだな。

 

「ああ、そうだ。この過去問なんだけど、篝の方から一応一之瀬に伝えておいてくれないか?」

 

「いいけど、自分で言わなくていいの? 自分の手柄にもなるし、多分一之瀬は賞賛してくれると思うよ?」

 

 美少女からの賞賛を直に受けなくていいの? と揶揄う篝に対し、俺はニヤリと口角を上げながら、今は必要ないものだ、と返しておいた。

 

「てか、俺あれなんだよ。縁の下の力持ちって奴? ああゆうのってやっぱカッコいいと思うし、憧れるから、そういうのになりたいって意味でもな」

 

「あー、わかるかも。うん、それじゃあ、そんな縁の下の力持ちさんの為に、私の方から一之瀬の方に伝えておくね」

 

 そのような、特に何の意味もないような、他愛のない会話をしながら、俺と篝は寮へと足を進めていた。

 

 ──一緒に話したことで絆が深まった気がする。

 

 

 

「因みに、俺の手柄だという事は大々的に伝えてもいいぞ」

 

「あはは、最後の最後で台無しだよ」

 




個人的に思った事なんですが、この過去問の仕様って多分CクラスかDクラスの生徒じゃなきゃ使わないないし気づかないと思うんですよね。そもそもAクラスとBクラスの生徒って基本的に裏技を使って切り抜けなければならないほど学力がピンチって人はそこまで居ないでしょうし。


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