0円至上主義のバカ+α   作:一汎人

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 楽しいお喋りの時間というものはあっという間に過ぎ去ってしまうもので、3人と話していたらどこか聞き覚えのある音、始業のベルが教室中に響き渡った。

 俺らはその音を聞いたら即座に話をやめてそれぞれの席へと戻っていった。本来ならベルが鳴った時点で席に座っているのが普通だとは思うが、入学初日で浮かれていたということでそこはご愛嬌だ。

 しかし改めて自分の席を見ると、どうやら窓側の1番後ろの席といった、ライトノベルとかの主人公にありがちな席だなと思った。もし彼らのように愉快な日常が送ることができたら楽しそうだな。

 そうぼんやりと外の景色を見ながら考えていると、教壇の方から何者かの元気のいい声が聞こえてきた。

 

「はーい、みんな注目! 今日から3年間の間Bクラスの担任となった星之宮(ホシノミヤ)知恵(チエ)です。普段は保険医として保健室にいるから、具合が悪くなったらすぐに保健室に来てね」

 

 ニコリと明るい笑顔を浮かべてBクラスの生徒たちに笑いかける姿は数多くの純情ボーイの心を揺れ動かしたらしく、数人照れたように目を逸らしている生徒が視界に入った。

 そんな様子を見つめていると、俺の前の席に座っている生徒が「3年間?」とボソリとつぶやいているのが聞こえてきた。

 すると星之宮先生はその疑問に答えるかのように説明を続けていった。

 

「それと、この学校では原則としてクラス替えはないから卒業までの3年間はみんな同じ教室で過ごすことになるからね」

 

 3年間同じクラスで過ごすのか。となれば俺は少なくともこの1ヶ月である程度はクラスメイトと交友を持っておきたい。一応中学時代の友人もこの学内にいることは知ってはいるが、やはり同じ教室で共に学ぶ級友とギスギスした関係でいるのは嫌だからな。

 

 その後は星之宮先生が色々とこの学校について説明してくれた。といってもそのうち半分は合格通知と一緒に送られてきた入学資料に書いてあった内容で、要は外部との連絡禁止といった内容のものだ。まあ俺らからすれば苦にもならないどころかむしろありがたいくらいだ。尤も、今更この内容を聞いても特に気にする必要はないな。

 だが残り半分は3年間の俺の学校生活を大きく左右する意味不明な情報だった。

 

「学生証カードはみんな行き渡ってるね? この学校の敷地内にある施設はその学生証カードに入ってるポイントを使うことで利用することができるよ。施設を利用するだけじゃなくて、食べ物や服来みたいな物でもなんでも買えるよ」

 

 はえー、科学の力ってすげーと漠然とした考えで先生の話を聞く俺であった。確かに時代はキャッシュレスの時代が到来しつつあるからな。納得だ。

 

「それとその学生証カードに入ってある金額を確認してもらっていいかな?」

 

 どうやらもうお金が割り振られているらしい。どれどれ、と自分に配布された真新しい学生証カードの水晶画面に映る金額を確認してみると……6桁の数字がそこには記されてあった。

 

「ばっ!?」

 

 思わず声に出して驚いてしまったが、それは仕方がないことだろう。このリアクションを取ったのは俺だけじゃなかったようで、中には「ファッ!?」と驚いた声を上げた輩もいた。

 俺……いや、俺たちに支給されたポイントは──10万という大金だった。

 

 ◆

 

 色々と衝撃のあったHRが終わり、星之宮先生が退室した後、休み時間となったことで各々が動き始める中1人の女子生徒──一之瀬が声を張り上げた。

 

「ねぇみんな、せっかく私たちは3年間一緒に過ごすクラスメートになったんだからみんなで自己紹介しない?」

 

 もちろん無理強いはしないけどねと付け加えながら笑う彼女に対し、反対意見は特に出なかった。俺としても特に反対する要素もないので素直に受け入れることにする。

 

「じゃあ言い出しっぺの私からだね。私は一之瀬帆波! このクラスのみんなと仲良くなれたらいいなって思ってるからみんなよろしくね!」

 

 途端に教室中から巻き起こる拍手。どうやら一之瀬は先程の呼びかけと挨拶、恵まれた容姿を持ってしてクラスのみんなから好印象を得ることに成功したらしい。

 

「じゃあ次は、神崎君かな? お願いしてもいい?」

 

「あ、ああ。俺は神崎(カンザキ)隆二(リュウジ)だ。これから3年間よろしく頼む」

 

 神崎、と名乗った男からは物静かで落ち着いた印象を感じたが、それ以上に俺が直感的に感じたのは、彼が俺の同類かもしれないというものだ。……機会があったら話しかけてみるか。

 

 その後も自己紹介は続いていき、元気のいい男子生徒である柴田(シバタ)や物腰の柔らかそうな印象の白波(シラナミ)、他にも様々な生徒が自己紹介を続け、なんの因果かまた最後になってしまった。

 

 大トリを務めることになってしまったのは厳しいが、しかしそれでもやるしかない。緊張でどうにかなりそうな心臓から意識を話し、落ち着いて息を整えてから俺は口を開いた。

 

「俺は芽吹創。好きなものは本と絵で嫌いなものはクリスマスの日にイチャついてやがるバカップルだ。BクラスのBはベスト(Best)のBだと思いたいから、これから3年間よろしく」

 

 俺が自己紹介を終えるとしっかりとみんな拍手だななんだのリアクションをとってくれている。クリスマス云々に関しては苦笑しているものが多数いた気がするが、気にしないでおこう。

 

 ◆

 

「やっと終わった……」

 

 その後はお偉いさんの話やら何やら色々聞いた後、ついに放課後となったので、各々が寮へ帰ったりなんなりとそれぞれが行動を開始し、俺もとりあえずどこへ行こうかとふらついていたら、ちょうどいいところにコンビニがあったので入ろうとしたら、誰かから左肩を叩かれた。

 ……しかし俺は似たようなシチュエーションに朝遭遇したばかりだ。俺は同じ過ちを繰り返さないと決めているんだ。だからこそ俺は敢えて右側から振り向くことにした。

 ──勝った! と思っていたが、どうやら考えが甘かったようだ。相手は2人もいたのだった……

 

「……ブルータス、お前もか」

 

 と俺は下手人のうちの1人である、眼鏡をかけたガタイのいいオールバックの銀髪野郎で、俺の中学時代の友人の1人である椎名(シイナ)ひなたに声をかける。するとその男は喧嘩腰で俺に向かって聞き捨てならないようなことを言ってきやがった。

 

「誰がブルータスだその無駄に目立つアホ毛引っこ抜いてやろうか?」

 

「やるか? お前のそのお高いメガネがどうなってもいいっていうのならやるぞ?」

 

「上等。以前から決着をつけようと思っていたんだ。いい加減ここらで白黒つけるのも悪かねぇな」

 

 一触即発とはまさにこのことを指すのだろう。俺とひなたの間にぴりついた空気が流れるのを感じた。戦いの火蓋を先に切るか、それとも迎え撃つかどうかを慎重になっているところだ。

 後頭部からパシーンッ! といった気持ちのいい音と同時に強い衝撃を感じた俺は前のめりになってしまう。軽く涙目になったことで滲む視界の先では、どうやらひなたも同じ目にあっているらしい。

 

「2人とも何やってるのさ」

 

「馬鹿をやるのはいいけどさー、バイオレンスなのは勘弁してよねー」

 

 呆れた声を出すのは今朝あったばかりの中学の友人である、プラチナブランドの三つ編みが特徴的な少女である世蔵(ヨグラ)魅音(ミオン)と、同じく中学時代の友人の、間延びした声を出している日傘をさした白髪赤眼の少女赫鐘(アカガネ)由良(ユラ)の2人だ。

 どうやら同じ中学の頭のメンツ4人がこの場に揃ってしまったようだ。

 

「ふぅ、にしてもまさか全員クラスがばらけるとはな」と俺が声を出せば、そこに反応して由良が「誰か1人は同じだと思ったのにー」と返してきた。するとひなたが「けど、創がBクラスなのは納得だな」といえば魅音が「わかる」と短く同意した後、息を合わせて3人同時に言ってきやがった。

 

「「「だってソウはバカのBでしょ?」」」

 

 喧しいわ! 

 

 ◆

 

 とりあえずコンビニの外でわちゃわちゃしているのもアレなので、中に入ることにした。内装は特に変わったこともなく、置かれている商品もこれといっておかしなものはない。

 商品の値段表示が“日本円”であったことには少々驚いたが、よくよく考えたらポイントは1ポイント=1円だと星之宮先生が言っていたことを思い出した。こういうことだったのかと俺は納得していた。

 ひとまず買うものも決まらないまま4人で店内を物色していると、俺たちは店内の中でも異彩を放っている商品を見つけた。

 

「……無料?」

 

 誰が漏らした声だったかはわからないが、その商品を見て何かしらの違和感を覚えたのはみんな確かである。その違和感の原因を真っ先に解明し終えた魅音が真っ先に口を開いた。

 

「変だね。月に10万ポイントだけじゃなくて無料商品まであるなんて」

 

「救済措置って奴じゃねーか? 何も考えないで無駄遣いするアホ共(池とか山内とからへん)に対する」

 

 反応したのはひなただ。ただ、そう発言した本人も喉に骨がつっかえたような表情をしており、まだ何かが引っかかっているようだった。そんなひなたを差し置いて発言したのは由良だ。

 

「んー、そもそも10万ポイントが毎月支給されるっていうのは本当なのかなー?」

 

 何かに気がついたらしき由良に魅音が「というと?」と言って続きを促すと、由良が「えっとー」と言って少し間を置いてから語り始めた。

 

「確か私たちがもらった10万ポイントってー、入学した時点の私たちの価値とか言ってた気がするんだよねー。だからー、もしかしたら私たちの評価がこの先変わったらー」

 

 ──支給されるポイントが変わっちゃうかもねー

 

「…………(無視)」

 

「…………」「…………はぁ」

 

「……ねー、ソウ。さっきから静かだけど、ソウは一体何を考えてるのかなー?」

 

「え?」

 

 考え事をしていたら、唐突に呼びかけられたので由良の方を見ると、何やらジトーといった目で見られていた。一体なんなんだと他の2人を見てみると、他の2人も同じような目で俺を見ていた。どうやら俺が何かやらかしたらしい。

 何をやらかしたかは特に心当たりはないが、とりあえず聞かれたことには答えておこうかと思い、口を開いた。

 

「もし無料商品がこれだけじゃないのなら、もしかしたら俺は0ポイントで生活できるんじゃないかって考えてたんだ」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

 もしできたらお得だよなー。ポイントはとりあえず貯めておけば月を跨ぐごとにどんどん増えていって、おまけにリアルマネーじゃないから経済を回すとかそういったことをしなくていいっていうのは良いよな。

 と考えていたら、他の3人は顔を見合わせていて、だんだんと笑い始めるようになった。よくわからないのでとりあえず俺も笑うことにした。

 

「あははっ」

 

「ふふっ」

 

「くくっ」

 

「へへっ」

 

「「「「あっはっはっはっはっ」」」」

 

「無理だろ」「厳しくない?」「無謀ー」

 

「ですよね」

 

 まあこうなることは知っていた。

 しかし、しかしだ。まさかとは思うが本当にできるかもしれないと思って、ひとまず今日は全員無料コーナーの商品を手に取って、0ポイントで過ごすことを決めたようだ。

 

 ──心なしか絆が深まった気がする。

 

 ……後日本当に0ポイント生活ができるようになって驚いたのは別のお話だ。




高度育成高等学校在学生データベース
氏名:芽吹創
クラス:1年B組
部活動:【2話時点では不明】
誕生日:12月24日
評価
学力:A
知性:D
判断力:C +
身体能力:D
協調性:B -

面接官からのコメント
学力面においてはAクラスの生徒と遜色ない能力を秘めている反面、所々抜けているような、所謂ポンコツと言った印象が感じられ、また身体能力の低さも相まってCクラス配属が妥当かと思われたが、別途資料によりB組への配属とする。

担任メモ
第一印象は頭がキレそうという印象を感じるけれど、実際に話してみると意外と抜けているところがあって面白い子。友人を作るのが苦手だとぼやいていたけれど、意外と交友関係が広くて安心です。


よう実の好きな巻

  • 1〜2巻
  • 3巻
  • 4巻
  • 未読です(買ってきて♡)
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