まさか水道代や電気代までタダだとは思ってもいなかった……と昨日寮に着いて初めて知ったことに対する衝撃をいまだに引きずっている俺は、登校するために服装などを整えて、最後の確認として部屋に備えられている鏡を見ているところだった。
鏡に写っている自分を見てみると、やや釣り上がっている目と、親譲りの焦茶の髪が特徴の理知的なハンサム(自画自賛)が写っていた。
僕は美しい! と声に出していうわけではないが、少なくとも世間一般に比べたら整っている方の顔立ちだとは思う。サンキューパッパマッマ。
いまここにいない両親に感謝をしつつ、俺は寮の自室を出て教室へと向かっていった。
しかし昨日1日で散々見たから目が少しは慣れてきたといえ、やはり道に広がる赤一色の人混みはなんとも違和感を感じるものだ。本当になんでこの学校は赤色なんていう奇抜な色合いにしてしまったのか。わけがわからないよ。
◆
朝のHRを終えた後、さっそくこの学校での初めての授業が開始されることとなった。授業といっても、今後どうやって学んでいくかの方針だとか、授業に必要な道具類、あとは先生本人の自己紹介等で今日のところは終わった。
先生方の話を聞いて思ったのが、なんかフレンドリーだなというものであった。そういう気質の学校なのか、それとも高校というものが元々こういった雰囲気のものなのかは知らないが、少なくとも中学の頃の教師に比べたら生徒との距離感が近かった気がする。
驚いた点といえば、居眠りしている生徒を叱っていなかったことだ。先生が話している途中、特段目立つようなものでもなかったが、極少数の生徒がコソコソと話していたり、1人が2人くらいは
授業は基本滞ることなく進行し、気がついたら昼休みの時間となっていた。周りの人たちは既に何人かで集まったりして昼食をとっていたりするので、俺も昼飯を食べるかと思って自分の席を立ち上がる。
折角だから学食で食べてみるのも悪くないなと思って教室を出ようとすると、背後から声をかけられた。
「ねえソウ君。良ければ一緒にお昼どうかな?」
声をかけてきたのは1日でクラスの大多数の面々と良好なコミュを形成した美少女、一之瀬だった。一之瀬の後ろには篝と白波の2人が見えた。……心なしか白波から向けられる目線が怖いな。気のせいだと信じたい。
しかし一緒に昼食か。一之瀬たちと一緒に昼食を取るのは魅力的だが、彼女らは弁当やパン類を持っているところを見ると、どうやら教室で食べるらしい。残念ながら今の俺は学食で食べてみたい気分なので、ここは断らせてもらうとしよう。
「悪い、今日は俺学食行こうと思っててさ。また今度機会があれば頼む」
「そっか、じゃあまた今度ね!」
そう言って笑った後に篝たちの方を向いたので、俺も教室を出て食堂の方へと向かう。心なしか背後から『何一之瀬さんの誘い断ってんだよあぁん?』みたいな視線を感じた気がしないでもないが、気のせいだろう。
◆
食堂に着いた俺はさて何を注文しようかと思って悩んでいると、誰かに肩を叩かれた気がした。この感覚は間違いなく昨日2回も俺の肩を叩いてきた魅音のものだろう。そう思って俺はそのままの体制で後ろにいるやつに声をかける。
「魅音さ、お前そればっかりやってよく飽きないな」
「残念。私はこっち」
「え? ってうおっ!?」
いきなり右から声が聞こえたかと思うと、なんと俺の右にはいつもと変わらない無表情の魅音の姿があった。じゃあ一体俺の後ろにいるのは……
「くくっ、残念だったな」
耳に入ってきたのは昨日ぶりに聞いた不良の声。誰彼構わず……というわけではないが、敵対する者を容赦なく血祭りにあげていた(ただの噂)、あの†鮮血の悪魔†と全国の不良から恐れられてる(事実無根)男の声、ひなただ。
「それにしても俺のことを魅音だと思っていたお前の姿はお笑いだったぜ?」
「お前……っ!」
芽吹は激怒した。必ずやあの邪智暴虐なるひなたを倒さねばならぬと。
じとっとした目で2人を睨みつけるとひなたが「悪い悪い」と言ってきたのでひとまずは許すことにした。そして改めて3人でメニュー表を見てみると、昨日のコンビニに続いてまたもや無料の商品を発見した。
「“山菜定食”? ここにも無料のメニューがあるのか」
「これも救済措置ってことかな? 食べている人もそこそこいるし」
「あまり美味しそうには見えねえけどな」
俺のこぼした声に魅音が反応し、さらにひなたが続くと、魅音はひなたの発言に同意するかのように頷き、テーブルとかが並んでいる方に顔を向けた。
俺とひなたもそれに合わせて顔をそちらに向けると、学食を食べながら談笑などをしている生徒たちの姿が目に映るが、中には絶望的な表情をして“山菜定食”を食べている生徒もいた。成る程、この光景を見た後だと確かに“山菜定食”が美味しそうとは思えないな。
と思っていると、魅音が俺たちに話しかけてきた。
「それで、2人は何にする?」
「私は醤油ラーメンにしようかな」と魅音が言えば、ひなたもそれに続く形で「無難にハンバーグ定食にしとく」と答え、俺の方を見てきた。
正直2人の頼むメニューは気にはなっているのだが、それよりも気になっているのは“山菜定食”だ。無料メニューということだけあって、特に俺の中での興味は深い。もっとも、単なる怖いもの見たさっていう話だが。
取り敢えず「俺は“山菜定食”を試してみる」と伝えて、3人でそれぞれの料理を頼みにいった。頼んだ後に「そういったのばっかり食べてるからこんなに細いんだろ」とひなたが鼻で笑ってきたので踵を蹴って仕返ししてやった。
少し経てば出来上がりの料理が来たのでさっそく食べることにした。同じテーブルには魅音とひなたが座ることとなった。因みに由良はどうやらCクラスの者と食べるから来ていないらしい。
……前からラーメンの、隣からデミグラスのいい香りが鼻腔をくすぐってくる。しかしそんなものを気にせずに俺は目の前の“山菜定食”を食べ始める。
──っ、これは……
「どうだ? いけるか?」「大丈夫?」
珍しく2人とも心配そうに俺に声をかけるが、それに反応することなく俺は口の中に含んだものを咀嚼し続け、やがて呑み込んだ後。そして顔を上げて逆さまを開けた後、俺は口を開いた。
「これ結構いけるぞ。正直無料だからって舐めてたが、これは金払ってもいいレベルだぞ」
「まじかよ!?」とひなたは驚いた反応を示した後、俺の皿から野菜の揚げ浸しを一つひょいっともっていき、そのまま食べやがった。抗議の目を向けるも、どうやら伝わっていないらしく、おまけに「普通だな」と感想を漏らしていた。あとさりげなく魅音にもつまみ食いされた。
「お前ら、自分のやつあるんだからそれ食べろよ」
「悪い悪い、つい気になってな。お詫びにハンバーグを少しやるよ」
と言って俺の方に切り分けたハンバーグをよこしてきた。それを見た魅音は「私はラーメンだからどうしよう……あ、
その後は3人でワイワイガヤガヤしながら楽しい昼休みを過ごした。ついでに言うと、しっかりとハンバーグと焼豚は味わって食べた。とてもおいしかったです、まる。
──昼食を共にしたことで絆が深まった気がする。
班長利根川さん、カミジキダイチさん評価付与ありがとうございます!
流石に山菜定食抜きだとどう足掻いても詰む未来しか見えなかったので山菜定食を好物という設定にさせてもらいました(もしかして:ご都合主義)。
よう実の好きな巻
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1〜2巻
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3巻
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4巻
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未読です(買ってきて♡)