0円至上主義のバカ+α   作:一汎人

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1-5 沈没までの10秒間

 突然のことだった。一瞬の鋭い痛みの後に、口内に何かの液体が入ってきたのだ。

 驚いた俺はどうにかこの状況を打開しようとして足掻くが、全くと言っていいほど効果がなく、むしろより痛みが激しくなるだけだった。

 朦朧とする意識の中、俺は誰かの声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

「おい! 大丈夫かソウ!?」

 

「衛生兵ッ! 衛生兵ッ!!」

 

「馬鹿野郎ッ! ふざけるなァーッ!」

 

「素数だ! 素数を数えるんだ!」

 

 ◆

 

 時間が過ぎるのは早いもので、入学してから既に一週間が経過し、その間にも俺は着実にコミュニティを築くことに成功していた。一度に大勢の人は無理でも、少しづつ交友関係を広げることによって、クラスの大半の人とは接触することはできた。

 この一週間で感じたことは、とてもユニークな奴らが多いと言うことと、揃いも揃って優秀な生徒だなと言うことだ。

 例を挙げると例えば柴田(シバタ)。アイツは初日の自己紹介を聞いていた時から思っていたが、とにかく明るく、このクラスのムードメーカー的な役割を担えるだろう。また、運動面に関しても、と言うよりも運動面に関しては他の生徒よりも少し抜きん出ている感じがある。体育祭などがあれば活躍間違いなしだろう。……話してみたら意外と相性が良くて驚いたな。

 他には白波(しらなみ)とも話したな。話してみると大人しい印象を感じて、特に言動におかしな様子はなかったが、どういうわけか一之瀬が一緒にいたりするとちょっとテンションが高くなっていたような気がする。見た目は可愛らしいんだが、俺のことを親の仇の如く睨むのはやめてほしい、

 

 今あげた2人以外にも個性的なクラスメイトがたくさんいて、これから退屈しなさそうだなと気楽なことを考えながら、俺はBクラスの教室の扉を開く。

 

「おはよう。って、まだ誰もきてないか」

 

 誰もいない教室で1人苦笑しながら、自分の席へ向かい、荷物を置いて座る。そして改めて周りに誰もいないことを確認してから、俺は一枚のルーズリーフと筆記用具を鞄から取り出した。

 こうしていち早く教室に来て、今日やる科目の予習復習を少しでも授業の理解度を深めるためにやっておく。

 

 この学校の授業はとてもレベルが高く、また先生方もわかりやすく解説してくれるためにサラサラと頭の中に入っていくのだが、それでも苦手科目の地理や日本史は授業だけでは覚えられなかったりするので、こうして朝から勉強していたりもする。

 正直こうでもしないと地理なんかはついていけず、授業中に宇宙猫状態になってしまうので嫌いな科目だろうが頭に詰め込む他ない。

 

 自習をしていると、チラホラと数人のクラスメイト──真面目な分類の生徒たちが教室に入ってくるのが見えた。

 

「おはよう! 今日も早いね〜」

 

「おはよ、ソウ。毎日毎日よくやるよ」

 

 話しかけてきたのは一之瀬と篝だ。2人に対して俺は「おはよう。まあ習慣だからな」と何でもないようにいう。

 こうすることによって俺がなんか頭良さそうに見え、2人からの印象も上がるはずだ。間違い無いな。

 

 それから暫くして、クラスメイトの大半が教室に揃った。この時間に来るクラスメイトが大多数のような気がする。因みに由良やひなたも大体この時間に投稿しているはずだ。

 

「おはよう。おっと、地理の勉強中だったか」

 

「ユートか、おはよう。昨日やったところが全然頭に入らなくてな」

 

「ふーん。そうだ、こんな話を知ってるか? タイの首都の名前はバンコクだが、正式名称はクルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシットていうらしいぞ」

 

「よく噛まずに言えるな!?」

 

 くそっ、覚えた内容が一気に吹っ飛んだ! 

 おのれユート、絶許。と静かにメラメラと内なる憎悪の炎をたぎらせている間に、奴は他のクラスメイトに絡みに行った。

 

 それから更に数分後、HRが始まる5分前くらいになると時間にややルーズだったり、部活をやっていたりする生徒がやってきて、40名のBクラスが全員揃う。

 

「よっ! 調子はどうだ?」

 

「まずまずって感じだ。そっちは調子良さそうだな」

 

「おう! 絶好調だぜ!」

 

 クラスメイトの1人の柴田はこのグループに属しており、席が近いこともあってかよく絡んでくる。

 しかし今日の柴田はいつにもなくテンションが高いな。テンションがただ高いと言うよりかは、気持ちソワソワしているような気がする。

 よく周りを見てみると、それは柴田だけでなく数人の男子もそうだった。一体どうしてだろう? 

 疑問に思っていると、いつも以上に元気な柴田がその答えを言ってくれた。

 

「それよりも楽しみだよな! 今日の水泳の授業!」

 

 水泳。水を泳ぐと書いて水泳。学校の授業などにおいては大体夏の間……1学期後半から2学期前半あたりか? そこらへんで行われるものだ。

 そして泳ぐともなれば制服やジャージなどではなく、水着を着ることになっている。

 恐らく柴田や他の男子がソワソワしているのは、お顔がよく整ってらっしゃるウチのクラスの女子達の水着姿目当てだろう。

 

「俺はそうでもないな」

 

「え? どうしてだよ?」

 

 純粋な疑問といった感じで聞いてくる柴田にたいして、俺は水泳が気乗りしない訳を話した。

 

「単純に泳ぐのが苦手なんだよ」

 

 そう。泳ぐのが苦手なのだ。

 別に泳げないわけでは無いのだが、普通に泳ぐ速度が遅かったり、息継ぎするのが苦手だったり、手やら足やらを攣ったりした経験から、苦手意識があるのだ。

 そんな俺に対し、善意100%の表情で柴田は俺に提案してきた。

 

「ふーん。ならさ、泳ぐ練習手伝うか?」

 

「機会があれば頼む」

 

 機会があればって便利な言葉だなと、しみじみ思う俺であった。

 

 ◆

 

 ついにやってきてしまった、水泳の授業が。

 更衣室で手早く着替えた俺はユートと柴田の2人と一緒に他のクラスメイトを待っていた。いや、正確には女子を、といったほうがいいのか? 

 待つこと数分、着替え終えたクラスメイト達が広いだのなんだのと騒ぎながらプールへと続々集合してきた。

 

「いやー、眼福眼福」

 

「素晴らしい光景だな」

 

 2人で勝手に友情を深めあっているユートと柴田を横目に、プールへとやってきたクラスメイト達をみてあることを感じた。

 

 ──数が少ない。一体どこへ? 

 

 不審に思った俺はあたりを見渡してみると、俺は制服のまま2階の見学用の建物にいる数人を発見した。

 やられた、そう俺は思った。

 見学用の建物にいたメンバーは女子の割合が多く、本来であれば体調不良などで休むものがあるべき場所に何故いるかというと、十中八九男子連中からそういう目で見られるのが嫌で仮病したのだろう。

 俺がやられたと思った理由は、何で仮病という小学生でもわかるような休む手段を思いつかなかったんだという自分への怒りからきている。

 しかし今更知ったところでどうしようもない。結局俺はプールに入らざるをえないと思い、1人orzるのであった。

 そんなorzっている俺に声をかける変人が1人。誰だろうか? 

 

「どうしたの? 具合でも悪いの?」

 

 女神様(一之瀬)だった。心配そうに俺のことを見ていることから、きっと俺が体調を崩したと思ったんだろう。

 心配させまいと「大丈夫だ、問題ない」と返すと、「そっか。具合が悪くなったらいつでもいってね」と言ってきた。何ともまあ人の良いことだ。こういう性格が皆から好かれる要因になるんだろうと俺は思った。

 

 ◆

 

「よーしお前ら集合しろ」

 

 ザ・体育会系のマッチョな先生が集合をかけたことにより、俺たちB組の生徒は先生の前に即座に整列する。

 その様子を見た先生は見学者の数に反応しつつも、俺たちは指示を出した。

 

「早速だがお前達の実力を測るために、準備運動を終えたらすぐに泳いでもらう」

 

 そう告げる先生に対して、おずおずと1人の生徒──俺が挙手をした。先生は「何か質問か?」と聞いてきたので、俺があまり泳げない旨を伝えると、「大丈夫だ。夏までには必ず泳げるようにしてやる」と返してきた。

 泳げるようにしてくれるのならいっかと軽く考えた俺は軽く礼を伝えて座る。

 

 準備運動を念入りに、それはもう念入りにした後、いよいよプールへと入水する。去年の夏にひなた達に連れられて行ったプール以来に入るプールは、程よい温度調整がされていて、安っぽいプールのように冷たいと感じることはなかった。

 先生から50mを流しで、それも泳げないものは足をつけても良いと言われたので、俺は足をつけながら、50mの距離を泳いだ。

 

「それでは今から男女別50m自由形で競走してもらう」

 

 先生の話を聞いた俺は内心で頭を抱えていた。

 そんなことしたら俺だけ1人寂しく最後にビリを取ることが確定してしまう! と思っていると、更なる絶望が俺を襲った。

 

「1位には俺から特別に5000ポイントを支給しよう。逆に1番遅い生徒には補修を受けてもらう」

 

 一位にはボーナスが入ることに衝撃を受けたが、その後の補修があるという言葉を聞き、絶望のどん底へと叩き落とされるのだ。例えるなら裏切られた某満足さんとか魔法少女の真実を知った黄色(マミさん)と同じくらい絶望しているだろう。

 

 俺が絶望している間にも時間は進み、まずは女子からということになった。

 女子の中で早いなと思うのはやはり水泳部の生徒だが、余計な抵抗がないからか意外にも篝が27秒で総合2位と、水泳部がいる中でかなりの上位へと食い込んだ。

 泳ぎ終えた篝に対して手持ち沙汰な俺は声をかけた。

 

「凄いな。水泳でもやってたのか?」

 

「ま、多少はね。釣りだけじゃなくて素潜りとかもやりたかったから、スイミングスクールに通ってたんだ」

 

 それでか、と合点がいった。

 競技用の泳ぎと素潜りの泳ぎは別物だが、結局水の中を泳ぐという点は変わらないので習い始めたと補足を聞き、やりたいことのために努力してて凄いなと、篝に尊敬の眼差しを向けた。

 そんな俺の視線がむず痒いのか、「や、やめてよ。それよりももうそろそろソウの番だよ」と言ってきたので、非常に気乗りはしないが向かうことにした。

 

「よし、全員ついたな?」

 

 と確認を取る先生の声を聞くも、これから泳ぐということへの恐怖心でいっぱいになり、とてもじゃないが集中できなかった。先生がやがて笛に口をつけてスタートの合図を鳴らそうとする。

 笛が鳴るまで、かなりの時間を感じた。永遠に続くかと思えた時間だったが、このまま始まらなければ良いのになとも思った。

 しかし現実は非情だった。耳をつんざくような笛の音とともに水は飛び込む。

 

 前へ、前へと進むように必死になって手足を動かしていると、俺は自分がしっかりと泳げている事がわかった。恐らくは去年散々連れ回された結果だろうか? 

 いける! そう思った間際だった。スタートしてからおよそ8秒の段階で、俺の足に鋭い痛みが走った。──足を攣ったのだ。

 

「あがっ! もがががっ!?」

 

 あまりの痛みに口を開いてしまったが、口を開けてしまった場所は水中。水で埋まっている地点に唐突に穴ができたらどうなるか。そんなのは火を見るよりも明らかなもので……

 

「ごぼぼぼぼっ!?」

 

 プールの大量の水が流れ込んできたのだ。

 むせ返りそうになる衝動と吐き気に嫌悪感を感じるが、水が流体であるという事を嫌でも感じさせられている俺にはどうしようもなく、意識も朦朧としてきた。

 

 ──やばい……もうだめだ……

 

 ★

 

 自分のクラスの男子達がスタートするのを見ている最中、私は先ほど話しかけてきた男子生徒であるソウに対して思い返していた。

 

 芽吹(メブキ)(ソウ)、入学初日に出会った私の友人。

 初めてあったはずなのに、気がついたら出会って数ヶ月前からの友人のように感じ、気安く名前を呼ぶことになった男子生徒。

 Bクラスの他の生徒と話している姿を時折見かけるけど、割とすぐに打ち解けて名前呼びされることが多く、それは一之瀬や柴田とは違った親しみやすさがあるからだろう。

 

「ねえ京香ちゃん。京香ちゃんは誰が優勝すると思う?」

 

 考え事をしていると、友人の1人である一之瀬が声をかけてきた。

 どうやら周りを見てみると誰が勝つかとかそういった話をしていたようで、女子の中で2番目に早かった私の意見も皆聞きたいらしい。

 

「一之瀬は?」

 

「私は柴田君かな」

 

 たしかに柴田は運動神経がいい。それはサッカー部での彼の活躍を見ればよくわかることだ。優勝候補として彼の名が上がるのも何らおかしなことはない。

 

「私はユートだと思う」

 

 ユートもユートで運動神経が良く、何より先程の流しで泳いでいる姿を見ていると、フォームが綺麗だった。まあ私には遠く及ばないけど。

 

 そんな話をしていると、開始の合図である笛の音が聞こえた。

 プールを見てみると皆良いスタートを決めて、ぐんぐんと先は進めている。その中でもやはり柴田が他の生徒に抜きん出ているなと思いながら、私の中の体内時計が10秒を経過した時だった。

 1人の生徒が突然もがき出したのだ。

 

「おい! 大丈夫かソウ!?」

 

 ユートが焦った声を出すや否や、泳いでいる生徒を除き、観戦していた生徒達がややパニック気味になった。

 何をとち狂ったのか、衛生兵を呼び出す生徒もいたが、そんな生徒を無視して私はソウを見ると、ソウは苦痛に悶えたような表情を浮かべていた。

 

 ──足を攣ったの!? 

 

 そう思った私はプールへと急いで向かい、飛び込んだ。

 必死になってもがくソウの所まで泳ぎ、ソウを回収してからそのまま陸地へと出してやる。

 

「大丈夫か芽吹!?」

 

 救命活動を行なった先生がソウに声をかけると、ソウは虫の息といった様子で「は、はい……」と返事を返した。どうやら命に別状はなかったらしくて安心した。

 

「ソウ君大丈夫っ!?」「大丈夫か!?」

 

 このクラスの生徒は人がいいのか、溺れかけたソウを笑ったりするような人はおらず、皆ソウを気遣うような声をかけていた。

 だんだんと意識がはっきりしてきたソウも「悪い、心配かけた……」と申し訳なさそうにしている。そして私が助けたという事を聞くと、さらにソウはこちらの方を申し訳なさそうに見てきた。

 

「その、ごめん……」

 

「ごめん、じゃなくて、こういう時はありがとうのほうがいいかな」

 

「そうか。それじゃ、ありがとう」

 

 私が茶化したおかげか、場の雰囲気も明るくなり、その後は特にトラブルなく授業が進行した。

 ……言った! 言ってやった! アニメとかのセリフで言いたかったやつ第4位を言えた! と内心とてもアガッていたのは内緒だ。

 

 余談だけど、男子1位はユートで2位が柴田になったのと、男子で補修を受けることになったのはソウだった。

 




dさんさん、魎魑魑魍魅魍魅之助さん、尼ヶ坂さん、タルタルマヨネーズさん評価付与ありがとうございます!

溺れているヒロインとかを助けたりするのはラブコメとかでも良く見かける気がします。まあ今作の場合溺れていたのは芽吹君ですが。

よう実の好きな巻

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