入学してからもう2週間くらい経過し、あいも変わらずクラスメイト達と仲良くやっている俺だが、やはりクラスメイト達と放課後の過ごし方の都合上、少し壁があるような気がしないでもない。
とはいえ仲良くカラオケ行ったりショッピングしたりというのは柄ではないのでついていけないので、放課後一緒に過ごしていないのが原因なのだが。
放課後といえば、部活動に勤しんでいる生徒も中には数人いる。必死に汗水垂らして青春している彼らを見ていると、未だに部活動について踏ん切りがついていない自分が少し矮小な存在に思えてくる。
部活動の締め切りは今月までなので、早いうちに決めないとなと思いつつも、結局は手持ち沙汰のまま放課後を過ごしていた。
しかし俺もただ無意味に過ごしてきたわけではない。この数日間に学校を見て、素晴らしい場所、もはや聖地と呼んでも過言ではない場所がある。
それは図書館だ。流石は進学校というべきか、図書館にはさまざまな本が置いてあり、辞典や図鑑などのものや、小説なんかも普通に置いてあったりする。その小説も、ライトノベルやらミステリやらなんやらと、かなりの種類を揃えており、俺のように本を読むことが好きな人種ならば一生困らないだろう。
最初にこの場所に気づいたのは先週の半ばくらいからで、毎日毎日やっているというわけではないが、少なくとも平日は大体空いているというのと、本を無料で借りることができるという点から、俺はここをかなり愛用している。
そう、本を借りることができるのだ。無料で。
これは嬉しい限りだ。これによって俺は娯楽に対するポイントを払う必要が全くと言っていいほど無くなり、さらに
丁度帰りのHRが終わったので、俺はクラスメイトと少々話してから図書館へと向かう。話しかけてくるクラスメイトには、放課後一緒に遊ぼうと言ってくる者もいるが、残念ながら今日の俺はとても図書館で本を読みたい気分だったので、それを断った。
道中やや通行人とかの話し声とかで雑音が多かった気がするが、図書室へ向かうということに集中していた俺には何も聞こえなかった。
◆
図書館の中は空調が効いており、最適な温度で読書を楽しむことができるため天国と言っても過言ではないだろう。
そうしみじみと思いながら、俺は昨日借りていた本を返却し、新たな娯楽を求めて小説コーナーを彷徨う。
改めて見ると、本当にさまざまなジャンルの本が置いてあり、某フルダイブVRデスゲームのライトノベルや桃から生まれた小童が鬼を薙ぎ倒す絵本、メビウスを潰す本に祇園精舎の鐘の声が聞こえる本など、本当にさまざまなものがある。
先日俺が借りたのは、いわゆる恋愛小説というやつで、男女の甘酸っぱい恋に胸をドキドキさせながら楽しませてもらった。
今回はギスギスした雰囲気の小説が見たいので、ミステリーにでもしようかと考え、ミステリーコーナーへ向かう。
ミステリーといっても、俺が読む本は“アガサ・クリスティー”などが書いた不朽の名作のようなものではなく、近年に発売された面白いミステリー作家の小説、例えば“Another”のようなものだったりする。
……よく考えたら“Another”も不朽の名作だった。
ミステリーコーナーで何かいいものはないかと物色していると、とある本が目につき、それを取ろうと手を伸ばした時だった。
丁度俺が取ろうとした本の本に、何者かの手があったのだ。
誰かと思ってその手の主の方へと目線を向けると、丁度相手方もこちらを見つめてきたところで、目がバチこりと合ってしまった。
相手はおっとりとした雰囲気の銀髪少女で、キョトンとした表情でこちらを見つめている。その様子を見ると、何故かひなたの野郎が頭の中にチラつくが、銀髪という共通点だけでしゃしゃり出てきたのだろう、
ここが不良が屯している路地裏や、ポケットなモンスター*1の世界ならここでバトったりするのだろうが、ここにいるのは純粋な文学少年(理系)だ。
特に何事も無かったかのように目当ての本を取り、そのままその場を去ろうとした時、背後から「その本、“ 魔眼の匣の殺人”ですね?」と声をかけられてしまい、反射的に振り向いてしまった。
一瞬の硬直ののち、ひとまず俺はその女子生徒に向かって「ああ、そうだ」と言いながら手に持っていた本を見せると、「好きなんですか?」と聞いてくるので、「かなり好きな本だな」と返す。俺の内なるクラウンはもちろんさぁと言いたいようだが、心の奥底へと封じておく。
やや心の中のクラウンがランランルーしたがるので必死に押さえ込もうと格闘している最中に、目の前の女子生徒は花が開くような笑みを浮かべた。
「私もそのシリーズが好きなんです」
「分かるクチか? 個人的にはミステリに超常現象を入れているところが好きなんだが、そっちは?」
「登場人物の描写の仕方とかトリックとかですね」
どうやら目の前の女子生徒は同志だったらしく、その後もミステリや他の本などの話をして盛り上がっていた。
女子生徒の知識の引き出し量は凄まじく、著名な本はもちろんのこと、割とマイナーな部類の本まで網羅している本物の文学少女と言っても過言ではないだろう。
そんな彼女と雑談に興じるのは思いのほか楽しく、また俺の周りに読書を習慣化する人間がほとんどいなかったこともあり、俺は久々に趣味の分野で熱く語ることができた。
同志と話しながらおすすめの本を互いに紹介しあっていると、一組の男女がこちらへ近づいてくるのが見えた。ひなたと由良だ。
「ひよりー、また図書館にいたのー?」
「クラスメイトとかと遊んだりしないのか?」
どうやら2人は目の前の女子生徒と知り合いらしく、ひよりと呼ばれた女子生徒も「私は本を読んでいる方が好きですから」と返していた。
「って、ソウもいたのか」
「居たら悪いか?」
「いや、そういうわけじゃねえ。むしろ、お前の趣味を考えたら妥当だったな」
苦笑するひなただが、これは俺が中学の3年間の昼休みと放課後を殆ど図書室で費やしたことを知っているからこそだろう。
中学の図書館にも色々と面白い本があってよかったなと、物思いに耽っていると、女子生徒が2人に対して「知り合いなんですか?」と聞くと、由良が「同じ中学校なんだー」と相変わらず間延びした声で返事をする。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はCクラスの
「Bクラスの芽吹創だ。どうとでも呼んでくれ」
「それではソウ君とお呼びしますね」
……どうとでも呼んでくれとは言ったが、やっぱり名前呼びされるか。
まあこの学校に入る前、小学生の頃からずっとだったから、いい加減割り切るしかないか
「それで、椎名と2人はどういった関係なんだ?」
「ずっ友ー」「妹」
どうやら俺の友人達は着実にコミュニティを形成できているようで安心し──っ!?
「い、妹ォ!?」
「おいおい、ここは図書館だぞ。あまり大きな声を出すなよ」
衝撃的なカミングアウトに驚かさせられていると、ひなたから至極真っ当なことを言われて落ち着く。
改めて椎名とひなたを見比べてみると、よくよく見たら何処か似て……ないな。全くもって似てないな。
俺が怪訝な表情を浮かべていると、由良が「そもそも2人の苗字同じだしねー」と呆れたように言ってくる。
「いや、納得がいかないぞ? どこをどう間違えたら美少女と不良の兄妹が成立するんだよ」
「環境の違い、でしょうか」
ぼーとしたような雰囲気で答える椎名だが、その答えは的確*2で、環境の違いという言葉を聞いて納得がいった。
たしかに中学時代、同学年に椎名ひよりという生徒は居なかったはずだ。仮にいたのならば俺と同じように図書館に居たはずなので気づくだろう。実際に確認してみたところ、どうやら昔から図書館などを根城にしていたそうだ。
また、ひなたも中学時代……いや、小学校の頃から日々喧嘩に明け暮れるバイオレンスな日々を送っていたようだ。所謂不良、というやつで、この学校にも
そんな両者の生活環境の違いが、ひなたと椎名の2人の成長の方向性の乖離を出したのかもしれない。些か方向性が両極端な気がする。
と考えていると、一つ思いついたことがある。別々の環境に育ってこうなっているというのなら、同じ環境で育ったら、活発的な陽キャになるのではなかろうか?
そんなことを考えていると由良から「またくだらないことを考えてる気がするー」と言われてしまった。解せぬ。
◆
「そうだ、折角だしこの4人でサ店でも行かないか?」
「おっ、いいねー」
数分程度4人で雑談に興じていると、ひなたが喫茶店でお茶することを提案すると由良が乗っかり、椎名も「いいですね、行きましょう」と賛成の意を示していた。
どういうわけか、この学校は色々なものが揃っているので、学校敷地内だというのにもかかわらずさまざまな施設が置いてある。中にはゲームセンターやカラオケなど、およそ教育機関とは思えないようなものも置いてあったりするが、それからは一旦目を逸らす。
兎も角、さまざまな施設がおいてあり、喫茶店なんかも何箇所もある。
しかしこれらの施設を利用するには基本的にはポイントを支払う必要があり、喫茶店なんか、ポイントを支払わずに飲めるものなどどこの自販機でも無料で売ってある“水”くらいしかないだろう。
「悪いけど、俺はこのまま図書館にいるわ」
「どうしてですか?」
疑問に思った椎名が聞いてきたので、「コーヒーのためにポイント使いたくないから」と伝えると、納得した様子で引き下がっていった。
「えー、そんなこと言わずに行こうよー」
「機会があればな」
「今がその機会でしょー」
むーっ、といった感じでむくれている由良だが、俺の意思が固いことを悟ると、「いつか絶対引きずっていくからねー」と恐ろしいことを言っていた。怖すぎる。
「まあ本人が嫌がっているのなら仕方ないですね。3人で行きましょうか」
「そうだな。それじゃあソウ、また明日な」
「ああ、また明日」
別れの挨拶を告げて俺はまた図書館の本を漁ろうとすると、椎名があっ、と声を漏らし、こちらの方に声をかけてきた。
「もしよろしければ、連絡先を交換しませんか? これからも本の事とかで語り合いたいので」
「そういうことなら、お安い御用だ」
どうやら連絡先を交換したいらしく、俺はそれに快く応じた。
これでまた1人俺の連絡先が増え、椎名で丁度50人目となった。
「それでは、また今度」
「気をつけて行けよ」
そう声をかけて別れた。
しかしひなたに妹が居たとは驚きだ。いままでそのような話は一言たりとも話したことがなかったので、考えもしていなかった。……兄妹、か。
──楽しく語り合ったことで絆が深まった気がする。
ニュさん、さすまたさん、Lunenyxさん評価付与ありがとうございます!
高度育成高等学校在学生データベース
氏名:椎名ひなた
クラス:1年D組
部活動:無所属
誕生日:1月20日
評価
学力:C +
知性:B +
判断力:B +
身体能力:A
協調性:B +
面接官からのコメント
提出された資料とは違い、面接時には物腰が低く理知的な印象を感じさせられる。交友関係も広く、同中学の一部の生徒からは強く慕われている。学力、勉強に取り組む姿勢や知性には特別問題が見られないため、Bクラス相当の実力を持つが、本人の喧嘩を好む獰猛な性格からDクラスに配属とする。
担任メモ
暴力行為などはせず、他クラスの生徒と交友を深めている姿がよく見受けられます。
よう実の好きな巻
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1〜2巻
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3巻
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4巻
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未読です(買ってきて♡)