2-1 今明かされる衝撃の真実
こつ、こつと足音が鳴る廊下を歩きながら、オレは目的の人物のところまで歩いていた。
あまりにも無機質な廊下を歩いた先には、また今日も1人で本を読んでいる少年──オレの半身とも呼べる存在が1人そこで本を読んでいた。
なんの本を読んでいるか尋ねたところ、何やら1、2世紀くらい前のミステリー小説を読んでいるらしかった。
昔からこの少年はそうで、自分から話しかけに行く事はあまりせずに1人で本の世界に耽ることが割と多かった気がする。
ただ、話せばちゃんと返してくれるし、なんならユーモアを交えたジョークを言ってくることもある。決してオレのようにコミュニケーション能力がないわけではないのだ。
どうしてこの少年がこう積極性に欠けているのかというと、やはりアイツらの仕業だろう。
アイツらは少年を人形のように操り、少年のことを見ないままに少年を称賛し、愛する。そんなアイツらに嫌気がさし、そして最も身近な人間がアレなのだから他者と交友関係を持つことすら億劫なのだろう。
それでもオレとはちゃんと会話してくれるのは、やはりオレが根気強く話しかけたことで、心を開いてくれたからだろうか。もしそうだったのなら、オレは嬉しい。
けれども、この少年の交友関係がオレ1人しかいないのは随分と寂しく感じられた。この先この少年は心を閉ざしたまま生きて行くのだろうかと思ったら、同情の心も湧き出てくる。
──どうした? いきなり変な表情をしてさ。
……周囲からは表情筋が死んでいるとも言われていたのにも関わらず、この少年はオレの些細な表情の違いを平気で捉えてくる。だからこそ、オレはこの少年と話していると本音を打ち明けることができるのだが。
しかし心優しい少年のことだ、きっとオレのことを心配してしまうだろう。だから、オレはこの少年の“家族”として、この少年を安心させるために口を開いた。
──いや、なんでもない。本当になんでもないんだ。だから──
──そんな心配そうな顔をするな、“ソウ”。
◆
月が変わって5月。
この学校に入学してから約1ヶ月が経過したことを実感させられる。
ひとまず俺はいつものように身支度を整え、寮の自室を出て教室へと向かう。相変わらず教室には誰も居ないのだ、今日もまた一番乗りかとぼんやり思いながら、折角なので椎名からお勧めされた本である“アクロイド殺し”を読むことにした。
この本は“アガサ・クリスティ”の書いた本でもかなり有名な部類の本だという事は知っていたが、実際に手に取ってみるのは初めてで、正直言ってワクワクしている。あの読書好きな椎名から『絶対に面白いと思わせるような本なので、是非読んでください』と強くお勧めされたから尚更楽しみだ。
というわけで読み進める事数分、全体の3分の1くらいを読み終えたところで、始業のチャイムが鳴った。
名残惜しかったが、また休み時間や放課後に読めばいいかと思い、本をしまって教壇の方を見た。
教壇にはいつもと違い、神妙な表情をしたBクラスの担任、星之宮先生が手にポスターの筒を持った状態で俺達Bクラスの生徒達を見ている。
いったい何があったというのだろうか? もしかしたら先生の友人らしき“サエちゃん”とやらでも喧嘩でもしたのだろうか?
そんなくだらないことを考えていると、星之宮先生が緊張で張り詰めた教室に一石を投じるかの如く、HR開始のために口を開いた。
「それじゃあこれからHRを始めるけど、皆は私に聞きたいことがあると思うけど、先にこちらから話をさせてもらうわね」
そう言って星之宮先生は、その手に持っていたプリントのうちの1枚を黒板に張り出した。
張り出されたプリントには、上から順にAからDまでのクラスと、その隣に数字が書かれており、Aクラス940、Bクラス645、Cクラス530、Dクラス0となっていた。これはいったいなんの暗号だろうか?
そう思っていたら、星之宮先生が「察しがいい子はもう気づいていると思うけど」と前置きしてから話を続けた。
「今日あなた達に振り込まれたポイントは、クラスのポイントによって変動します。つまり、あなた達はクラスのポイントが645ポイントだったから、6万4500ポイント振り込まれている筈ね」
その言葉を聞いた瞬間、生徒の1人が「えっ? 毎月10万振り込まれるっていう話じゃなかったんですか?」と疑問を声に出していた。
確かに、俺もひなた達の話を聞いていなければ今日俺にポイントが10万振り込まれるんだろうなとしか思わなかった筈だ。
……ポイントを確認してなかったせいで6万4500ポイント振り込まれたっていうのは初めて知ったが。
男子生徒の疑問に先生は困った表情で、「それが、私は“毎月10万ポイントが振り込まれる”とは言ってないのよ」と答えていた。
「この学校に入学できるという実力を示したから、あなた達は最初に10万ポイントが振り込まれていたの。けれど、あなた達はこの1ヶ月で学校から改めて評価され、その結果がこうしてポイントが下がったという結果に繋がったわけだね。それでも、さすがはBクラスの生徒! やっぱり半分を切らなかったね」
つまり、BクラスとCクラスは入学当時から半分くらいの実力だと思われ、Aクラスの生徒は超優秀、Dはもうなんかやばいっていう評価を下されたということか。
そう思っていると、1人の生徒が「あの、それってどういう……」と質問をしていた。
「ああ、そう言えば言ってなかったね。この学校のクラス分けは
実力に、応じて。
俺はその言葉を意識の中で反芻させながら、中学時代の友人の面子と、俺のこの学校に来てから出来た友人達について考える。
実力、これがただ純粋な学力だけじゃないという事は、俺と魅音と由良、そして椎名のクラス分けを見れば多分わかる。
魅音は確かにテストの点は高いが、少なくとも中学時代に俺が負けた事は一度としてない。
逆に由良に対しては引き分ける事はあれど勝ったことはなかった。
そして椎名も一緒に勉強するときはあるが、やはり勉強はかなりできることはよくわかる。
では他の基準とは体力だろうか? それも当てはまらないということは俺と由良とひなた、それからCクラスの
自慢じゃないが俺は体力に自信がなく、由良とひなたの2人には腕っ節で勝てるビジョンが全くと言っていいほど見えない。本格的に喧嘩などすれば、それこそ赤子の手を捻るが如くボコボコにされるだろう。
後にあげた3人もそうで、実際アルベルトなんかは俺のことを持ち上げることもできるほどのパワーがあった。アルベルトさんマジパネェ。
学力でも体力でもないのであれば、実力とはいったいなんなのだろうか? そう1人考察していると、クラス全員の視線が俺に向いていることに気がついた。
何があったのかと思いキョロキョロとすると、黒板に新たな紙が1枚貼ってあるのに気がついた。
その紙には生徒の名前と、その隣に2桁くらいの数字が並んでいることから、何かの成績──恐らくは先日のテストの成績であろうか?
そう思ってその紙を注視していると……1番上に名前の欄が空白で100と書かれている欄を見つけた。
一体なんだあれ? と思いながら徐々に目線を下げて行くと……悍ましいものが視界に入った。
【芽吹創 0点】
……は?
「っはぁ!?」
そのプリントを見た瞬間思わず声を出して立ち上がってしまった。何が起こっているのか分からなくて、本当に錯乱していた。
混乱している俺に対して、先生は引き攣った表情で俺に対して1枚のプリントを返してきた。
そのプリントは解答欄のところに赤い丸がいくつもついており、点数が書かれているところに100としっかり記入されていた。
しかし、このプリントのおかしなところは、
「あのっ、このプリントはいったい? 模範解答かなんかですかっ? いや寧ろそうであってほしいです!」
「えぇっと、ね? 名前はしっかりと書かないと0点だからね?」
Nooooooooo‼︎
◆
時は過ぎ去り、昼休みとなった。
衝撃的なテストの点数を告げられた俺は今の今まで意気消沈していて、辛うじて残っていた俺の中の理性が俺に授業を真面目に受けさせたが、それでもあまり頭には入ってこなかった気がする。……後で復習しておこう。
いや、0点を取るだけならまだ良かった。実際中学の頃も名前の記入忘れやら解答欄がズレるやらで点数が悲惨になったことは割とあったからだ。
ちなみに魅音にテストの点では負けたことがないとは言ったが、それはそういう学校側が出した点数に目を瞑った場合に限る。名前書き忘れみたいなことで下がった点はノーカンだ。……ノーカンッ! ノーカンッ!
確かにテストの点数は確かに衝撃的だったが、俺を襲った衝撃はそれだけではなかった。
どうやらこの学校は定期考査等で赤点をとった生徒は退学になるらしく、今回は小テストだったからこそなんとかなったが、定期考査で同じことをすれば即退学ということを先生から告げられ、さらに衝撃を受けた。
落ち込んで停滞している俺をよそに、情報だけは広まるのが早いらしく、俺の友人達……例えば石崎からは『ドンマイ! そういう時もあるさ!』と励まされたり、Aクラスの
ちなみにひなた、魅音、由良の3人は揃いも揃って草を生やしてきやがった挙句、龍園も3人と同じようなメッセージを送ってきた。
そしてクラスメイト達に関してだが……
「気にするなよソウ! 次の中間で名前を書き忘れなければ問題ないだろ?」
「これからはこれまで以上に注意深くテストを受けた方がいいね」
「本当に気をつけてね。私はクラスメイトが退学なんて嫌だからね!」
「点数は高いんですからそう気を落とさないでください」
「テキスト確認を怠らないようにするのは大事だぞ。今回ので身に染みたと思うがな」
などとありがたいお言葉をもらった。本当にこのクラスの連中は優しい奴らばっかりで、いいクラスだな、と思う。*1
……そんな彼らにこれ以上迷惑をかけないようにと、俺は2度と名前を書き忘れないように心に誓った。
──なんとなく絆が深まった気がする。
◇
【オマケ】
昼休み、私こと
書類の整理がひと段落ついたので、会長に一息入れようと提案しました。
「会長、宜しければお茶をお入れしましょうか?」
「頼んだ」
2人分のカップを取り出してお湯を注ぎ、ティーバックを少し蒸らしてからお湯の入ったカップに入れて、1分くらい経ってから取り出して、会長の机に一つを置いてから、自分のカップに口をつけました。
「助かる」
紅茶特有のフルーティーな香りを感じながら、ホッと一息ついていると、ふと誰かから連絡が来ていたようで、通知がありました。
カップを置いてから確認すると、同じクラスの友人からで、どうやら一年生でおもろい生徒がいるらしいといったないようでした。
どんな内容だろうと思いながら続きを見てみると、そこには衝撃的なことが書かれてありました。
「っ!?」
「どうした、橘?」
「か、会長! 1年Bクラスで名前を書き忘れて赤点を取った子がいたそうです!」
「!?」
やや目を見開き驚いた表情の会長(激レアです!)はすぐさまとある書類の棚を探り始めると、そこから一枚の紙を取り出し、固まりました。
いったいなんなのだろうと思って、一言詫びてから見てみると、今年の1年Bクラスの小テストの成績表らしく、その結果を見て私は固まってしまいました。
【芽吹創 0点】
「……フッ、これは流石というべきか。歴代のBクラスの生徒……いや、Cクラス以上の生徒でテストの名前を書き忘れるというのは当校初の出来事だ。──まったく、面白い奴だ。芽吹創」
そう言って会長は微笑を浮かべながら誰か──恐らくは芽吹君に向かってメッセージを送っているようでした。
私も彼とは一応縁があるので、ひとまずは『次からは同じことが起きないように気をつけてくださいね』とメッセージを送っておきました。
「──時に橘。未だに生徒会の庶務と書記の席が空いていたな」
「ええ、先日Aクラスの生徒を落としたばかりなので」
「……後日芽吹を勧誘しに向かうことにしよう」
生徒会の席が全て埋まるのは、果たしていつになるんだろうと思った私でした。
これが知性D、協調生B -の男。尚知性にはまだ下がある模様。
高度育成高等学校在学生データベース
氏名:篝京香
クラス:1年B組
部活動:無所属
誕生日:9月23日
評価
学力:B +
知性:B
判断力:C
身体能力:A -
協調性:B
面接官からのコメント
特段問題も見られないのでBクラス配属とし、自己の能力を高めることを期待する。
担任メモ
趣味が釣りと同世代の中でも渋い趣味を持っている子。小柄な体格に反して意外とパワフルで、学校にある釣り堀で大きな魚を釣ったこともあるみたい。
この作品で現状1番好きなオリキャラ
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芽吹創
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篝京香
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浅乃悠人
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椎名ひなた
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世蔵魅音
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赫鐘由良