〜???〜
薄暗い大広間の中、数多の妖怪が並んでいた。
「皆の衆、これで全員集まったかな?」
妖怪たちの視線が向かう先である上段に数体の妖怪が八の字に並んでおりその真ん中に一人の妖怪が座っていた。
「はっ。八雲に気付かれた者はおらず問題ありません。翁よ」
翁と呼ばれた妖怪はその呼び名にふさわしく一見見ると老人のような姿をしていた。力も周りの妖怪のほうが強いのだがそれらも従うほどの老獪さを備えていた。
「では始めようか」
翁の掛け声とともに八の字に並ぶ幹部たちは立ち上がり下段の妖怪たちもそれに倣い立ち上がる。
「諸君、我らはなんぞや?」
「「我ら
「左様。我らは人を脅かす存在である。では聞こう。今の妖怪は妖怪としての誇りを持っているか?」
「「断じて否!!」」
「然り!今の妖怪共は人を喰らうことを辞め人間社会に紛れることを選んだだけではなく与えられた餌を食べるしか出来ぬ能無しの集まりに成り下がった!」
幹部の一人、三本の刀を携えた鬼が発破をかける。
それを機に他の幹部たちも続いた。
「元々幻想郷は人間から忘れられた我らのために創られたものだ。我らの存続に人間は必要不可欠ゆえ多少目は瞑った。だというのに賢者共は奴らを甘やかしすぎだ!これでは何のための幻想郷か!」
鎌を持つ者や八つ首の者、角を持つ者など様々な種族がいた。一見バラバラな特徴を持つ幹部だが彼らには一つの共通点があった。
それは彼らは皆「巫女殺し」を成し遂げたことだった。何の巫女かは言うまでも無いだろう。
そんな彼らの鼓舞に妖怪の士気が上がったところで翁の一言で最高頂となる。
「私は八雲紫の狼藉をこれ以上逃すことは出来ぬ」
八雲紫、妖怪の賢者の名を聞き妖怪たちは一瞬沈黙するがそれを気にすることなく畳み掛ける。
「故にワシは八雲を討つ!」
その言葉を聞き大きな歓声が湧き上がる。
「さあ皆の衆!古き良き我らの幻想郷を取り戻すため立ち上がろうではないか!」
その声に同調し、拍手と喝采が聞こえてくる。
「我が名は”ぬらりひょん”!これよりワシは反八雲連合を結成する!さあ同胞たちよ我らに続くのだ!!!」
妖怪の歓声はおさまることはなく遂には周囲の土地を文字通り震わせるのだった。
~博麗神社~
「反八雲連合?」
文から受け取った新聞の見出しを見て博麗霊夢はさも自分は関係ないかのように口に出した。
「いやそんな自分は無関係みたいに言ってますけど大事ですからね」
そんな霊夢に呆れている文のことは目に入れず新聞の内容を読み上げる。
「幻想郷の西側から連合の出現した妖怪の軍勢。その規模はすでに三万も超える勢いであり次々と支配領域を拡大してる模様。さらに各地の実力者を勧誘しておりさらにその規模は大きくなると予想される、ね」
紫はどうしてるんだと、独り呟くと文に聞こえていたようでわざわざ解説までしてくれた。
紫は現在、反八雲連合の蛮行を許容する気はないようで戦力を集めて対抗してるらしい。名前は幻想連盟だとか。
魔理沙や早苗も幻想連盟に所属しているとか。ちなみに文は、というより天狗は中立を取っているという。
そんなことまで喋ってくれると、文は次の新聞配達があるということで去っていった。
「……そこ!」
一人となった霊夢は縁側の方に視線を向け袖口に隠した御札をいきなり投げつけた。
「あら、いきなり物騒ね」
放った御札が空中でピタリと止まりその先からスキマが現れ中から今話題の中心にいる人物が現れた。
「後ろからこそこそと覗いていたくせに何を言ってるのよ?」
「霊夢が烏天狗と何してるか気になっただけよ」
紫は悪びれることもせず御札を回収しながらスキマから身を乗り出した。
「霊夢、単刀直入に聞くけどあなたはどちらの陣営に付くのかしら?」
「どういうことよ?」
「その前に今の状況を説明するわ。まずは連合から。連合を率いるのはぬらりひょん。彼らの目的は私を討って幻想郷を妖怪至上主義社会にすること。人間は奴隷のように使役され、自由になる権利は無いに等しい地獄を作るでしょうね。彼らは過去に退治されたり封印された妖怪たちが主力に「ちょっと待って」どうしたのかしら?」
説明をしてる最中に割り込んだ霊夢からは信じられないようなことを耳にした。退治された妖怪?封印された妖怪はまだしもなぜ退治された妖怪がここに出てくるのか分からない。
「どういうこと?退治された妖怪が蘇るなんて話初めて聞くわよ」
紫はまだ知らないのかと若干呆れたながらも事の原因となった事態を話した。
「数か月前にぬらりひょんの封印が解かれたのよ。私と藍が行方を探したけど分からないままでね。それがまさかこんな事態になるなんて耄碌したものね。
それと退治された妖怪も完全には死なないわ。なぜなら妖怪は人々の恐れから生まれた存在だから。
たとえ死んでもそれは本当の死ではない。存在を忘れられない限り、退治された妖怪も時が経てば転生という形で復活する。そんなことも把握できてないなんて巫女として大丈夫なのかしら」
辛辣に言ったのだが霊夢自身には響いていないのか善処するとしか言わなかった。
「話を戻すけど連合はその妖怪たちを主力としているわ。それに天狗が言ってた通り各地の実力者にも手を伸ばしているわ。実際あなたの知り合いも何人かは向こうに行ったみたいよ。他にも彼らの勢力内にある人間の集落やそこをナワバリにしてる妖精も傘下に入っているわね。
で、これからは私が率いる連盟の話ね。目的は連合を撃退すること。戦力はまだ一万ぐらい。でも幽々子からの支援や萃香を筆頭とした実力者もそれなりにいるから問題は無いわ。ひとまず話したけど質問はあるかしら?」
真面目に聞いてないと思っていたが紫の説明をしっかりと吟味し、いくつか質問をぶつける。
「戦況はどうなってるの?戦にしては静かすぎるわよ?」
「いいえ、まだ戦は始まってないわ。始まるのは一週間後の新月の夜よ」
「どうしてそんな真似したのよ?あんたにしては随分慎重ね」
「私じゃなくてぬらりひょんからの提案よ。彼曰く「この間に敵味方をはっきりしようではないか。その時になっても我らは降伏も寝返りも許さんからな」ですって」
「趣味悪いわねそいつ……。で次なんだけど………」
一通り気になっていることは聞いた霊夢は紫に最初に問われた本題の答えを口に出した。
「で、どっちに付くか、だっけ?最後に決めるわ」
あっけらかんと言った後、風が吹いた。紫も薄々そう言うだろうなと思っていたがそこまで簡単に言われると辛い。思わず固まってしまった。
「寒っ……。悪いけどこれから炬燵に入るからさっさと帰ってくれない?」
そしてこの言いよう。一周回って正気に戻った紫は何か言おうとしたが無駄だと悟ったのか溜息を着いた。だがせめてこれだけでもと中に入っていく霊夢に約束を取り付けた。
「なら開戦前最後の日にもう一度来るからそれまで考えておきなさい、霊夢」
彼女はただ、「分かった」。その一言だけ告げて中に入って行った。若干呆れながら紫はスキマを閉じて設営した本陣に戻った。
「おかえりなさいませ、紫様」
帰ってきた紫に待機していた藍が駆けつけ紫不在時の報告と勧誘の結果を聞いてきた。
「それで……どうでしたか?博麗の巫女との交渉は」
それを聞いた紫は少しげんなりとしていた。
「ええ、失敗したわ。一応最後にもう一度行くけど無駄でしょうね」
藍は普段の巫女の態度を思い浮かべ少し納得の表情を浮かべるがそのずさんな対応に怒りに震えていた。
「お疲れ様です。しかし博麗の巫女は何を考えているのでしょうか、この大変な時にこれとは歴代の巫女が見たら嘆くでしょうね」
「自由すぎるのも考え物ね……」
霊夢の態度に呆れる藍の話を聞きながら同時に思考していた。
(でもあの反応は霊夢は今回の件を異変と見なしていない?あの娘にとってこれはぬらりひょんと私の大勢を巻き込んだ喧嘩に過ぎないと思ってるのかしら。何か理由が?
でも霊夢は分かってない。博麗の巫女は両陣営においてとても重要な立場ということを)
博麗の巫女というのは幻想郷の守護者であり大袈裟に言えば帝と同じ立場なのだ。博麗の巫女がそちらに付くだけでそれは官軍となり相手は賊軍になる。
自身の正当性を示すのなら博麗の巫女を引き入れるのが条件と言っても過言ではない。
おそらく、いや必ず反八雲連合も霊夢に接触するだろう。両陣営に挟まれた霊夢はどう決断を下すのか。
(フフッ、楽しみね)
しかし一瞬、紫の脳内にある考えが浮かんだ。まさかどちらにも付かない気ではないかと。だがその考えをすぐに捨てた。いくら彼女が強いからといって両陣営を敵に回すほど無謀なことはしないだろう。しない、わよね……?