~紅魔館・玉座の間~
「シャアッ!」
将門が自身の怨念で造られたどす黒い刀を抜いたと同時に玉座から立ち上がったレミリアに向かって音速、いや光の速さで斬りかかる。
「甘い」
レミリアは深紅に染まるグングニルを振り回しながら迫る将門の心臓に狙いを決めて突き出すと穂先と刃先が激突して火花が散る。
互いの初撃が不発に終わると将門は留まることはせずに、脚に力を入れて後ろに下がる。
その力によって玉座を含めた床が衝撃に耐えることが出来ずに粉砕され情けない断面を露わにしてしまう。
レミリアは将門が脚に力を入れ始めたその一瞬を見抜き、空に避難し難を逃れる。
そして浮遊から落下に切り替わっていた将門が地面に足を着けた時、レミリアはただ手を振りかざして一言告げる。
「死に絶えなさい。獄符「千本の針の山」」
本来の用途であるスペルカードルールでは小さな弾幕を針に模して、山と思わせる程の物量で攻めてくる技。
だがそれはあくまでも弾幕ごっこ、つまり遊戯としての技で、本来の技を遊戯用に変えたのがこれだ。
では本来の技がどんなものかというと──
「ガ、ア──」
床から何千何万もの赤い針が生えてきて、将門の身体の殆どを貫いた。
千本の針の山とはレミリアの魔力を針状に変化させて視界に入る地面全てにそれを出現させる技のことで幻想郷に入る前は教会勢力との戦いで防衛用の魔法として使われていた。
この技を喰らえば地上から生えた棘によって身体が無理やり吊り下げられ、即死を免れた者は自身の体重によってゆっくりと深く貫かれるという酷い責め苦を味わうことになる。
何十本の棘に刺された将門は身動き一つ取ることは出来ず、レミリアの勝利になった──
いや、違うわね。
レミリアは視線を刺されて動けない将門ではなく、その上に動かそうとする。
その瞬間、レミリアに五本の矢が襲いかかる。
「ッ!」
レミリアならば普通の矢なら受け止めても傷一つにもならないのだがこの矢は将門の呪いが込められているものだと見抜き、弾幕で迎撃をした。
全ての矢が撃ち落されると同時にレミリアは弾幕を矢を撃ったと思われる場所ではなくその正反対の場所に撃つ。
弾幕は針にぶつかり破裂して粉塵が巻き上がると、そこから針で貫かれたはずの将門が矢を番えながら出てきた。
将門は空中で浮遊している不安定な環境で正確にレミリアを狙って何本も矢を撃ってくる。
結論から言うと将門は刺されていなかった。
レミリアが針を出現させて巻き込まれるまでの一秒にも満たない時間で将門は自分に似た姿をする怨霊大将に影武者を任せて、その後は大きく跳び上がり一時的だがレミリアの目から逃げることに成功したのだ。
「その程度の矢で私を殺せると思ったかしら?紅符「スカーレット・シュート」!」
レミリアの身体から赤い魔力が現れると大小の形となって一斉に将門に向かって放たれた。
将門は針の上を器用に走りながら矢で相殺しながら僅かな隙を突いて射撃を行う。
それをグングニルで弾いたり粉砕してまだ余裕はあるのだが、内心焦っていた。
(不味いわ……今の状況はまだ互いに手札を全部見せてないから互角だけど後になったら残機がまだあるあいつの方が有利になるわね。
再生があるから怖くない。と言いたいけど、あいつの攻撃を喰らってしまえば再生よりも呪いの浸食の方が早そうだから厄介なことこの上ないわね……)
戦闘が始まってから僅か数分も経たないうちに戦況を正確に読み、負ける可能性があると判断するレミリア。
(──なら!)
レミリアはここで大きな賭けに出る。
飛んでくる矢を旋回して回避しながら手を横に振り払った。
すると生えていた棘が風に吹かれて飛び散る砂のように消えたのだ。
「何っ──!?」
片足を次の棘に置こうとした瞬間に消えたものだから将門は呆気なく態勢を崩して地面にそのまま衝突する。
その瞬間をレミリアは待っていた。
光の如き速さで将門の懐に潜り込んだレミリアはがら空きとなっている心臓があると思われる場所に槍を構え──
「これで──詰みよ!」
将門の心臓に突き刺した。
槍は将門の身体を貫通しており、意識を失ったのか力が抜けている。
「終わった──なんて言える程甘くはない、か」
レミリアは油断することなく将門が生きていると踏んでおり、次に何をするか分からないうちに離れようと槍を抜こうとする。
が、槍はピクリとも動くことは無かった。
「なっ、まさか──!?」
「──ようやく、捉えたぞ」
手遅れながらもレミリアは気付いた。
自分が誘い込まれたことを。
動かないと思っていた将門の腕がレミリアの肩と槍を強く握り逃げられないように固定した。
触れられた肩から呪いの浸食が始まり、肩に今まで味わったことのない激痛が襲いかかった。
「────!!フッ、貴様の方がが危ない状況なのに随分と、余裕じゃない……」
しかし悲鳴をあげる紅魔館の主として情けない真似はせず、今も続く痛みに耐えながら自身の有利を伝える。
将門の顔は面頬によって表情は分からないがこの状況を楽しんでいることは明らかだった。
「そうだな、我もこんな馬鹿な、賭けに出るまいと思っておったが、避けたい物事ほど、すぐ来るものだな」
そう、いくら怨霊として不死身に近い将門でもレミリアの一撃を喰らえばどうなるか分かったものじゃないのだ。
だが態勢が崩れた時に己に待つ未来を確信していたのだ。
ならば後は覚悟を決めるだけ。
その結果が、今の状況だ。
「この状態では互いに身動きなど取れぬ。貴様に勝ち目は無い。諦めて我の糧になれ」
「それこそお断りよ。そんなことはこの私に従う者たちに対する裏切りよ。
身動きが取れない?そんなの、こっちも承知の上よ!」
啖呵を切った次の瞬間、将門の両腕が突然爆破したのだ。
「っ!?」
(今しかない!)
咄嗟のことに驚く将門の隙を突いて急いで後ろに下がるレミリア。
その彼女の背後には赤い弾幕が宙に浮いていたのだ。
レミリアは将門を貫く前、ある懸念が浮かんだのだ。
──もしこれが罠だったら?
そうなれば将門はレミリアを逃がさんと拘束されるだろう。
その保険として小さな弾幕を背中に張り付かせており、それが功を奏したのだ。
だがその代償は大きく、触れられた肩を見ると腕や胴にはまだ進出してないが肩全体はどす黒く染まっていたのだ。
だからといって肩の機能は無くなってはいないのが不幸中の幸いだろう。
腕の分の怨霊の補充が完了し、腕が生えると将門は刀を構える。その様子ではまだまだ余裕が見える。
レミリアも息を整え、槍を構え直し対峙する。無論、弾幕の展開も忘れずに。
一切、音が響かない空間にて機を狙う二人。
早まれば死に、遅くても死ぬ。
そうして時間は過ぎていく。
そしてその静寂が打ち破られた。
──扉の方から。
「さっきからうるさいと思ってたらなに楽しそうなことしてるのかしら、お姉さま?」
「フラン──?」
両者とも予想していない場所から音が聞こえてきたのでそこを見るとレミリアの妹であるフランドール・スカーレットが立っていた。
フランは最初はこの戦いに参加する予定だったがレミリアが嫌な予感を感じるということで急遽部屋に籠るよう命令されたのだ。
当然フランはこの決定に反対したがパチュリーによって無理やり部屋に移され、結界を敷かれてしまい動けなくなってしまった。
結界ならフランの力で破壊出来るのだがそれをすれば水が流れると脅されていたので何もすることは出来ない。
出来ないのにフランがここにいる。
「フラン、どうして──いえ、どうやって部屋から出たの?」
「あれ、お姉さま知らないの?こいつらが出してくれたのよ」
フランは扉を開けて外に出ると五つの肉塊を持ってきた。
「それは……?」
「こいつら急に女の子の部屋に入ってきて私を殺そうとしたからね、おままごとしてたの。
私がお母さんでこいつらは子供の役でね」
おままごとという言葉は可愛らしい響きをしてるが、この肉塊がその末路のようで実際は可愛いものではないことを明らかにさせる。
「でもお母さんって大変なんだね。子供のご飯作ったり身体洗ったり遊ぶのに付き合わないといけないなんて。
でも私はちゃんとお母さんの役を演じたの!
でも、やっぱり飽きちゃった。だってお姉さまと遊んでる方がずっと楽しいもん!」
成程、それがこの肉塊か。哀れなものね。
結論を出すと、レミリアは将門に問いを投げる。
「将門、って言ったわね。妹を襲わせたあれもあなたの仕業かしら?」
「いや……
将門の言葉に何か疑問があったが今は妹の方だと説得を試みようとする。
だが。
「ところでこいつ誰なの?さっきから地下がうるさいから迷惑だし、殺してもいいよね?」
「フラン──!!」
そしてフランがこの戦いに介入したこととこの場所を話したことで事態は最悪の展開に進むことになる。
先に言うとだがこの玉座の間の周りには魔法がかかっており、その効果は外からの情報と位置を遮断するもの。
この範囲内にいる者は外の情報が受け取れなくなり、将門はずっと自身と同じ存在である怨霊兵の情報を受け取れず、位置が把握出来なかった状態にあった。
しかしフランがこの魔法を無意識に解いたことでその状態が解消されてしまった。
そしてこの好機を逃す程将門は能無しでは無い。
「──成程、ここは館の地下であるか!ならば話は早い!全ての
統一を開始する──!」
~紅魔館・庭~
将門をレミリアの待つ玉座の間に転移させ、大将同士の一騎討ちが始まった時。地上では激しい戦いが続いていた。
将門が目の前から消えたからといって怨霊兵たちはそれで止まることなど無く、さらに防衛結界が消失したことで結界外で待機していた約二千のロード・ウェスタンズの兵が強襲してきたのだ。
「パチュリー・ノーレッジの首はオレが取ったぜ──ガハァ!!」
「馬鹿ね。私の首を取りたいなら百年ぐらい知識を学んでから出直しなさい。まあ、その百年で私はさらに上のステージに登ってるけど」
自身を直接狙ってきたウェスタンズの兵と怨霊兵を地面から生やした土の棘で刺し殺すパチュリー。
「遅いっ!」
「い、いつの間に……!グゲェ!」
的確に急所に狙いを付けて放たれるナイフによって息絶えていく連合兵。
「来いよ、連合……!このミノタウロス様が肉塊にしてやるからなぁ!」
「我らも隊長に続くぞ!突撃ーーー!!」
「あの馬鹿共……!今突っ込んでも数の差で飲み込まれるのが分からんのか!仕方ない、ミノタウロスたちの救援に向かう!続け!」
将門が目の前から消えたことで士気が多少回復し、意識を取り戻した紅魔兵たちは目の前の敵に防衛戦を強いられていた。
戦場は混沌と化しており、よく数では圧倒的に不利な紅魔兵がよく持ちこたえているのか不思議な程であった。
その理由だが、これは紅魔館での戦いだけでなく幻想郷全体に関係ある話である。
連合と連盟に属する兵の間では練度が大きく違っているのだ。
八雲紫率いる連盟には戦を知らない新参は勿論、八雲藍や伊吹萃香を筆頭とした古くから存在する猛者も当然いるのだが、長い歴史から見ても束の間と言えるほどしかない平和な時間の中でその刃が鈍ってしまったのだ。
対する連合軍は古い時代から存在している上に、封印されたり退治された妖怪が多数なのだ。
つまり彼らの価値観は争いが絶えなかった昔で止まっているため殺すことに躊躇いが無く、戦慣れしてる者が多い。
だから戦慣れしてない者が多い連盟は練度の高い連合に現在負けが続いているのだ。
これはこの紅魔館でも同じで、咲夜やパチュリー、美鈴もこの平和によって誰かを殺すことに少し躊躇があった。
それは敵のロード・ウェスタンズも同じく享受していたため、戦慣れしてない者が多く、決定打を打てないでいた。
しかし、レミリアに封印されたデモン・ワラキアや七代目の博麗の巫女に退治された
彼らの常識は戦の絶えない時代に取り残されてるために、この戦場で功績を挙げる者が多い。
この戦いは彼らの存在が勝利の鍵になっていた。
しばらく紅魔兵と怨霊兵の戦闘が繰り広げられてる時、事態が急変する。
「──承知した」
最初の異変は最前線で倒れている紅魔兵に止めを刺そうと刀を構えた怨霊兵だった。
その一言だけ口にした瞬間、なんと怨霊兵の身体が崩れ、そのまま地面に吸い込まれるように姿を消したのだ。
異変はそれだけに留まらず、次々と怨霊兵は地面に吸い込まれて消えていった。
味方であるウェスタンズの兵もどういうことかと動揺しているが、パチュリーは地下の魔法が破られたことを感じ、その目的が分かってしまった。
怨霊兵は地下のレミリアがいる部屋に向かっている。そしてそこに彼らと同じ存在である将門がいるそこにだ。
「咲夜!」
「はっ!」
パチュリーの焦りようから只事ではないと感じた咲夜は自身のスペルカードを展開する。
「メイド秘技「殺人ドール──」
「月符「サイレントセレナ──」
「「そうはさせん!」」
しかし咲夜とパチュリーは何者かによってそれを阻止させられてしまう。
咲夜の前には般若の仮面を被った侍が。
パチュリーの前には髑髏の面を被った女が立ち塞がったのだ。
彼らの纏う気配は他の敵と一線を画す程の強敵だった。
「あなた、何者かしら?見たところドロドロになった兵士と違うようだけど」
「拙者の名は平景清。頼朝憎しど殺せなんだ無念に囚われていたところを将門公に救われたただの男よ。将門公の邪魔はさせんぞ、女!」
「あなた、見たところ
「我の名か?いいだろう答えてやる。我の名は滝夜叉姫!父、将門公の娘よ!父上の邪魔はさせぬぞ!行け、この戦場で散った者共よ!我のために再び戦え!」
強敵を前に咲夜たちはここが正念場だと覚悟を決めて、対峙する。
だがその一方、他の場所では歴戦の強さを持つ怨霊兵が消えたことで烏合の衆であるウェスタンズの兵しかいないため各地で形成逆転していた。
~紅魔館・玉座の間~
将門が地上の怨霊兵に命令を下した瞬間、レミリアは将門の首を狙って槍を突き出す。
これ以上、こいつが何かしないうちに仕留めようという考えだったが、遅かった。
何故なら首は獲れたが、その次の瞬間にどす黒い液体が将門の胴体を包んだのだから。
「ハハハ……もう遅いぞ、スカーレットよ。全ての我が統一を始めた。この意味は勿論分かっていよう?」
それだけを告げると首も吸い込まれるようにどす黒い渦の中に入っていった。
そしてレミリアは最大級の警戒で渦を睨む。
その額には汗が流れており、槍を握る手も強くなっている。
(まったく……過去の自分を殴りたいなんて思ったのは初めてよ……)
レミリアは先の将門と美鈴の戦いを見ていたために、将門の正体には辿り着いていた。
平将門とは平将門の自我を持った強大な怨念を貯めた怨霊ということを。
怨霊兵はその怨念の一部を分けた存在で奴らも弱い将門ということで、だから合体や分離といった真似も出来るのだ。
そして真の恐ろしさは先程まで戦っていた将門は全力では無かったということ。
レミリアと互角の戦いをしてまだ全力では無いのだ。
(さて、どんな怪物になるのかしらね……)
本来なら死に物狂いでもこれを阻止するべきなのだが、そんなことはもう手遅れだと理解しているし、手を出せばさっきの数十倍の呪いがレミリアを襲うだろう。
だから悔しいが、見守ることしか出来ないのが現状だった。
そして──渦は消え、一人の武者が立っていた。
姿は何一つ変わってはいないが、それはあくまで見た目だけ。
それが纏う呪いや覇気は以前とは格が違い、目の前に対峙しただけで捕食者を目の前にした小動物と錯覚してしまう。
だが、彼女は退かない。
何故退かない?主としてのプライドか?
──違う。
吸血鬼の意地か?
──違う。
妹が見ているから?
──違う。
ならば、何故?
────それは、
「──今の貴方と闘いたいからよ!」
レミリアはなんと槍を捨てて、特攻してきたのだ。
そのまま強靭な爪で攻撃するが、それは難なく躱していく。
成程。貴様、狂っているな。
「吸血鬼なら狂気に堕ちるのもまた一興じゃない?」
──確かに。
「ならば存分に殺し合おうぞ!怨霊新皇、平将門!貴殿を殺す者の名だ!!」
「ええ上等よ!我が名は紅い悪魔、レミリア・スカーレット!千年を生きる貴方に終焉を送る者の名よ!!」
決着はもうすぐだ──