東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

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紅魔館の戦い 伍

 大怨霊平将門とは、平将門という人間が残したただの怨念だった。

 

 将門の生涯は波乱の一言では言い表せない。

 出世を夢見て朝廷に仕官したが低い官職しか与えられず、父の他界によってその夢は断ち切られた。

 その後、故郷へ帰るも叔父によって父の領地の大半が奪われ、妻にしたいと望んだ女も叔父に嫁いでしまい、さらに将門の妻に男の毒牙が迫ったりと散々だった。

 それに怒り、叔父と男たちを殺してしまい、朝廷に目を付けられてしまう。

 その後、朝廷に敵対する男を受け入れ、引き渡しを求める国司と戦をし、勝利して国を奪う。

 この勢いに乗じて次々と関東の国を奪っていき、関東の覇者となると自身を新皇と名乗り、後の世で語られる将門の乱を起こした。

 その結果が、将門は朝敵になり殺された叔父の息子だった平貞盛と大百足を倒す豪傑、藤原秀郷によって討たれた。

 

 どれほど無念だったのだろう。

 死んだ後、都で晒し首にされても故郷に帰ろうと首だけになって飛んでいっても、途中で力尽きてしまいそれすらも叶うことはなかった。

 そうして力尽きた地で将門は怨霊伝説を残していくことになる。

 

 そして妖怪や怨霊が幻想として忘れられていく時代。

 将門も例外ではなく、幻想郷の賢者の誘いで幻想入りを果たすことになった。

 そこで将門は怨霊らしく人間や妖怪を祟り、幻想郷に大きな混乱をもたらした。

 その悪行は当時の巫女だった七代目によって止められ、現代まで姿を現すことはなかった。

 

 平将門には己の生を支える標がなかった。

 夢は幼い頃に消え、天皇を名乗って民を救おうと目指す大業も成すことが出来ず、そしてこの千年という長い時間で生きた屍に成り果ててしまった。

 わざわざ大部分の怨念を三千の怨霊兵に変えたのも生前のことを忘れたくなかったから。

 連合に加わったのもぬらりひょんに助けてられた義理に果たすという生前の行動を忘れたくなかったから。

 

 怨霊平将門は過去に囚われた怨念だった

 

 ──この哀れな存在に成った彼は救われる日が来るのだろうか──?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~紅魔館・玉座の間~

 

 全ての怨霊兵を吸収し、完全体となった怨霊新皇、平将門。

 紅魔館の主であり、幻想の勢いが衰えていく現代で天敵である教会に覇を唱えた吸血鬼、レミリア・スカーレット。

 ありとあらゆる全てを破壊する力を持つ悪魔の妹、フランドール・スカーレット。

 常人では決して歯向かうことなど許されない怪物たちが今、この場に集まってしまった。

 二人は必然に。一人は偶然に。

 

 決戦の始まりだ。

 

 

 本来の力を取り戻した将門はその恐ろしさを、偉大さを知らしめるために威厳ある声で語る──ことはせず、真っ直ぐレミリアに襲いかかる。

 速度は戦ってた時よりも速く、一瞬、レミリアの目の前から姿を消したのだ。

 だがレミリアはグングニルを構えていつどこから攻撃してくるか警戒していたため紙一重だが間に合った。

 

 (……!なんていう力よ……!さっきのスピードといい明らかにパワーアップ──いや、これが本来の力なんでしょうね。

 でも──!)

 

 互いの武器が火花散らして激突している自分と将門の周りに弾幕を出現させると、自分ごと巻き込む形で弾幕をぶつけた。

 多少ダメージを受けようが確実に将門に手傷を負わせねば勝てないと判断したレミリアの弾幕を喰らえばいくら将門とて無傷ではないだろう。

 

 だがその思いは虚しく、弾幕は自分たちに当たる前に突如破裂した。

 何が起きたかと思ったがその答えはすぐ前にいる将門の姿が答えだった。

 

 「まるでキメラみたいな姿ね」

 

 レミリアの言葉の通り、将門の両肩から弓を持った怨霊兵が現れ、全ての弾幕を射抜かれてしまったのだ。

 こんな手まであるのかと驚いたがそんなことを考える時間は与えないと次々と将門の刀が迫ってくる。

 何とか防いているが一つ一つの一撃が重く、押し込まれていた。

 槍を持つ手は疲労で震え、足も衝撃で徐々にふらついてしまっている。

 

 (このままじゃ不味いわね……。何とか、考えないと……)

 「獲った」

 

 だがその思考が命取りになってしまった。

 将門はレミリアが思考することで生じた隙を見逃すことをせずに肩から腰まで斬りつけようと──

 

 したその時だった。

 

 突然、刀が何の脈絡も無く爆発し、その欠片が辺りに飛び散った。

 

 「──何?」

 

 どこから攻撃してきたのか分からず、周囲を警戒する将門。

 

 「はい、ドッカーン!」

 

 だがその声が聞こえたと同時に胴体を中心に刀と同じように破裂し、二つに分かれてしまった。

 何とか危機から脱することが出来たレミリアは誰がやったかなど余計なことは考えずに体力の回復を図り、まだ二つに分かれた将門を少しの動きも見逃さないと注視する。

 その様子を小馬鹿にするように上から声が響く。

 

 「アハハ、何やってるのかしらお姉さま?

 もうそいつは動けないのに怯える兎の目なんかして情けないわね!」

 「フラン、黙ってなさい。それにこいつを舐めないことよ。今ので死ぬほど軟じゃないわ。

 それに、今のあなたじゃ勝ち目は無いわ。後は私に任せて部屋に戻ってなさい」

 

 目の前で無様に破裂した将門より下だと言われたことで笑っていたフランは不機嫌な顔つきに変わる。

 

 「何?私があそこで死んだ間抜けより弱いってこと?馬鹿にしないでよ!お姉さまはあいつに苦戦してたくせに、あいつに傷一つ負わせなかったくせに!」

 「フラン!文句は後で聞くから今すぐここから逃げなさい!」

 

 普段の紅魔館でもたまに見る姉妹喧嘩。

 ただそれがいつもと違うのはレミリアが本気で怒っていることでフランはいつもと違う姉の喧騒に少し困惑していた。

 

 「──危険だ」

 

 だがこの喧騒を止めたのはフランが壊したはずの将門だった。

 空間内に散らばった肉片はすでに一ヶ所に集まり、元の姿に戻りかけていた。

 

 「え?何で動いてるの?」

 「フラン!……クッ、神槍「スピア・ザ・グングニル」!」

 

 破壊したものが動いているという初めての例外にフランが困惑しているのをよそに、レミリアは完全に戻ってないうちに仕留めるべく、グングニルを全力で投擲した。

 その速さは光をも切り裂かんと言わんばかりに進み、呆気なく将門の頭に直撃した。

 勢いが衰えずに床に突き刺さったグングニルには将門の頭だった肉片がこびりついており、頭は完全に消滅していた。

 

 だが、

 

 「──我はそこの幼子の力を見誤ってしまったか」

 

 将門はまだ生きている。

 こびりついた肉片は勝手に動き出し、将門の下に帰ってしまう。

 そうして頭も何事もなかったかのように生やしたのだが将門の様子がおかしいことにレミリアは気付いた。

 

 正直に言うと先程のグングニルは弾かれると想定して、その時に出来た時間でフランをこの空間から出ていかせる算段だったのだが結果はこうなってしまった。

 それに将門の意識は自分に向かわれていない。だからグングニルの攻撃を簡単に喰らってしまったのだ。

 

 なら、今の将門は何に意識を向けているのか?

 

 この空間には三人しかいない。それに将門が言った幼子。

 それらから予想出来るのはただ一人。

 

 「まさか……!」

 

 レミリアは将門の思考をこれだと確信した瞬間にはフランに警告する。

 

 「フラン!あいつの狙いはあなたよ!すぐに部屋に、いえパチェの元まで逃げなさい!」

 

 将門の狙いがフランなら部屋に逃げて結界を敷いても効果は期待出来ない。なら頼れる親友に保護してもらう方が確実だ。

 だがフランは狙われることが分かっても逃げる素振りもせず、不気味な笑みを浮かべていた。

 この笑みの意味を知っているレミリアにとってこの状況の中で最悪なもので、無理やり追い出そうとする。

 

 

 「へぇ、私が狙われてるんだ……ふーん、そっか……。

 ──なら遊んでもいいよね!」

 

 だがその時にはもう遅かった。

 フランは将門に向かって攻撃を始めたのだ。

 

 「こんなに頑丈な玩具、初めて見たわ!どんな遊びがいい?鬼ごっこ?かくれんぼ?ボール遊びはどうかしら?ボールはあなたのその首で!」

 

 大きな弾幕を次々と展開すると一斉に動き始める。

 余程自分の能力が効かなかったのが腹立たしいのか興奮しているのか分からないが弾幕の数は異常なまでに多く、隙間もほぼ無いと言ってもしょうがない程の狭さでこれが弾幕ごっこなら美しくないと言われるだろう。

 だが将門はこの弾幕をただ刀で斬ったり、弓で迎撃するなど驚く様子もなく対応している。

 

 「我はレミリア・スカーレットを我ら連合にとっての障害になると判断した。その判断に間違いはない。数多の強者が忠誠を誓い、その威によって不和の種を潰す。加えて戦上手で、退き時は間違えはしないだろう。まさに面倒な相手だ。

 ──だが、それ以上に外に出してはいけない相手がおったとは思わなんだか!」

 

 迫る弾幕を一閃。

 それは空気をも切り裂く一刀であり、フランは自分が斬られたと錯覚してしまうほどの斬撃だった。

 だが斬られたのは弾幕だけでフラン自身には何も被害は──いや。

 

 「ふむ、頭を斬ったと思ったが外した、か。運がいいな」

 「──え?」

 

 何のことかと聞こうとしたその時だった。

 目の前の将門が上下にずれたと思った瞬間に赤い何かによって視界が埋め尽くされて何も見えなくなった。

 

 「痛っ、痛い痛い痛い?!何、何も見えないよ!」

 

 それと同時に襲いかかってきた痛みに打ちひしがれるフランはたまらず悲鳴を上げる。

 

 それはそうだろう。──何せ眼を斬られたのだから。

 だがこれでもフランにとっては幸運だった。

 将門の空気を裂いた斬撃はフランの首を狙って放たれたもの。

 本来なら首は胴体と別れを告げて死んでいたのは確定だった。

 しかしレミリアがその運命を瞬時に操作してフランを助けたのだ。

 

 その代償としてレミリアは右眼を、フランは両目を失明したが、彼女たちは高位の吸血鬼であるため目の再生にはそこまで時間はかからない。

 だから大きな問題には無かった。

 

 「次は仕留める──!」

 

 だが将門は止まらない。目にも止まらぬ速さでフランに斬りかかろうとする。

 しかしフランも目を斬られただけでは戦意は失われておらず、将門の足音と声で位置を探り、その場所に手をかざす。

 

 「もう、壊れちゃえ……!」

 

 フランは見事に当たりを引いた。

 手の先には将門がいる。

 これで能力を発動させれば将門は爆発(・・)し、元に戻るのに多少の時間が必要だろう。

 その時間があれば目は完治して、動けない将門に攻撃を続ければいつか必ず倒れる。

 

 「待って……待ちなさいフラン!それを使っては──」

 

 姉が何か言っているが最後まで聞こえない。

 だがそんなのは関係ない。これでチェックメイトだとフランは確信しているのだから。

 

 

 

 フランドール・スカーレットはこの期に及んでまだ勘違いしていた。

 確かに能力を真正面から受ければ先程のように遅れを取れるだろう。

 再生しても能力を行使すれば時間はかかるだろうが確実に殺せるだろう。

 それは間違ってはいない。だが机上の空論なのだ。

 

 失明しているフランには分からないだろうが今の将門は笑っていた。

 まるでこの状況を待っていたかのように。

 将門はそもそも刀や弓で殺す気はなかった。

 

 結局のところレミリアは将門のことを自身を超える怪物として相手していた。だが自分の能力が効いたことが決定打となり、フランドールは──

 

 

 

 「──死ね」

 

 頑丈な玩具としか思ってなかった。

 

 

 

 将門──魂を浸食する程の怨念が詰まった人形──がフランのほぼ目の前で爆発した。

 身体の一部だった肉片は消滅することなく辺りに呪いを広げる。

 肉片ですら下手をすれば魂を喰らいつくすそれは大量にフランに向かって降り注いだ。

 

 

 

 

 

 ~紅魔館・中庭~

 

 レミリアとフランが将門に苦戦を強いられている頃、紅魔兵と連合軍の一派、ロード・ウェスタンズとの戦いは紅魔兵に軍配が上がっていた。

 数の差で圧倒的に有利だったロード・ウェスタンズは次々とデモン・ワラキアの兵士によって呆気なく蹴散らされていた。

 

 「これで百人!さあ、このパラディン殺しのミノタウロス様に挑む勇者はいるかぁ!」

 「ミノタウロスに遅れを取るな!かつてかのテンプル騎士団を返り討ちにした我らスケルトン部隊の力をその身で味合わせてやれ!」

 「……枢機卿の失墜者、名は無いが、リビングアーマー参る」

 

 幾度もあった教会の戦いで得た功績を叫びながら敵に迫るデモン・ワラキアの戦士。

 その戦果は同じヨーロッパ出身だったウェスタンズの兵に動揺を与える。

 

 「パラディン!?テンプル騎士団!?枢機卿!?馬鹿な、教会の中でも権威と実力を持つ連中だぞ!?それを、破ったのか!?」

 「冗談じゃない!レミリアの軍勢がここまで強いなんて聞いてないぞ!」

 「おい、退くな!くそ、怨霊兵どもはどこ行ったのだ!なぜ奴らは消えたのだ!」

 

 ウェスタンズの大半が教会による異端討伐から逃れるため幻想郷に来た者ばかりで、その教会と戦って手柄を挙げたデモン・ワラキアに戦意を喪失し、逃げる者が現れ、敵の前線が崩れはじめた。

 怨霊兵という主戦力が消え、残っているのは戦いに慣れていないほぼ素人ばかりの兵と戦に慣れている紅魔兵では話にならない。

 怨霊兵という脅威が消えた今、地上の戦いは紅魔兵の勝利に終わるのは時間の問題だ。

 

 そして、実力者たちの戦いも終わりを迎える。

 

 

 

 「くっ……なんの!」

 「どうしたの?さっきまでの余裕はどこ行ったのかしら?」

 

 平景清は間断なく放たれるナイフの群れを懸命に防ぎつつも、その身体には傷が増えつつあり、苦戦していた。

 傍から見れば突如出現するナイフを難なく防ぐというその反射神経には目を見張るものだった。

 だが攻勢に出ることは出来ずに、刀を握る手に限界が来てしまい、刀身に当たった衝撃で刀を手放してしまった。

 この好機を逃すまいと足の腱を切り、景清は堪らず膝を地に付けた。

 

 「これで終わりよ、平景清」

 

 そして持っているナイフを首元に突きつける咲夜の目はこれから獲物を殺す猟師のようだった。

 

 

 パチュリーの放った炎の球が滝夜叉姫の操る最後の死体を消滅させた。

 

 「う、噓じゃ……我の死兵がこんなあっさりと……」

 

 多くの死体が出る戦場で百体の死兵を繰り出したがどれも手が出せずに簡単に全滅し、残りは滝夜叉姫一人となってしまった。

 

 「当たり前よ。あなたはネクロマンサーとしてのレベルは良くて中の下悪くて下の上。その程度で私を倒せるなんて思わないことよ」

 

 無傷のまま彼女の前に立ったパチュリーは傲慢ではなく確固たる事実を言い渡した。

 それは滝夜叉姫も実感しており反論する気にはなれず、ただ俯くことしか出来なかった。

 

 「でも、それを極めればさらに上を目指せる素質はあるわ。

 ──けどそれはもう叶わないけどね」

 

 最後に情けのつもりなのか魔法使いとしての分析か──おそらく後者だろう──彼女に希望を見せるが、容赦なく雷属性の魔法を叩きつけた。

 雷の力が強すぎたようで死体は蒸発して、残ったのは雷の影響で出来た焦げた土だけだった。

 

 「さて、こっちは私たちの勝利。後、残っているのはレミィだけ……」

 

 後のことは咲夜に任せて親友の援護に行きたいがまだ増援が来る可能性を考えるとまだここを離れるわけにはいかない。

 ウェスタンズが後退したことで負傷者の手当をする余裕が出来ており、噴水の近くで治療が行われているようなので、パチュリーはそっちに向かった。

 親友のことは心配だが今は自分で出来ることをしようと判断した。

 

 だがパチュリーは思いもしないだろう。

 その親友は今──

 

 

 

 

 

 己の妹を庇って、確実に死ぬであろう将門の呪いを背中で受け止めていることを。

 

 「お姉、さま……?」

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