東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

13 / 16
紅魔館の戦い 陸

 棺桶の中で眠る中、彼女の目にはある光景が映った。

 見てるだけでも顔が顰める程の恨みや憎悪を身に纏った侍が突然爆発してその血肉が妹に飛び散ろうとしてるところを。

 

 ただの肉片ならば別に問題はない。

 だがあれほどの呪いに侵されている、或いは呪いそのものだとしたら話が違う。

 一欠片のものでも魂すら喰らう危険な毒だ。

 

 だから妹を守るために敵と接触させないように少ない時間の中で出来る限りの手を尽くした。

 その過程で敵を迎撃する戦力が心もとなくなり、苦渋の決断としてかつて自分が封印した部下(デモン・ワラキア)たちに任せることにした。

 だが、やはりその件で嫌悪、まではいかないが多少の不満があった。加えて彼らを解放したのがこのような非常事態のために、終われば用無しとして捨てられるかもしれないという不安もあったことで不信感が募っていた。

 そこで彼女はあることを宣言した。

 

 まず、自身の一時の感情で功臣である部下を封印したことに対して頭を下げての謝罪。

 この戦いが終われば封印や消すことは決してしない。だがその後は下野でもそのまま自分に刃を向けてもいい。

 だから今だけは自分たちと共に戦ってくれ、と。

 

 その態度は彼らの知る主ではありえない行動で戸惑いを見せたが彼女の覚悟を受け取ったミノタウロスやスケルトンジェネラルなどの隊長たちが賛同したことで全員が渋々ながら納得してくれた。

 おかげで何倍もの数の差がある連合相手に互角以上の戦いをしてくれている。

 これで妹を無理に出す必要も無くなり、後は自分が総大将を消すだけだった。

 

 ──しかし運命が変わることは無かった。

 

 総大将である将門に苦戦を強いられている中で、本当なら来るはずのない妹が来た時点で悟ってしまった。運命が覆らないことを。

 妹には多くの苦労をかけさせてしまった負い目もあるが、姉として幸せになってほしいと思っていた。

 だが刻一刻と運命は迫ってくる。いつあの光景が起こってもおかしくない。どうすれば回避出来る?

 ──いや、一つだけある。

 

 目を斬られて視力を失った妹を獲物を捉えたかのように走り出す将門。

 だが武器を手にしてはおらず、しかしその目には喜びの感情が浮き上がっていた。

 聴覚で位置を捉えたのか、妹は真っ直ぐ将門に手を向けた。

 ここであの光景の真相をレミリアは理解した。

 

 運命を見ると言ってもそれがどうしてそうなったかという経緯は分からないことが多く、それを変えるには多大な労力がかかる。

 それでも、簡単に覆す方法もある。

 例えば殺されようとすれば下手人を殺せばいい。借金を返せずに自殺しようとすれば借金を返せばいい。貴重品を盗まれるのならそれを別に保管、もしくは所有権を他人に移す、等々ある。

 今回はその例に漏れずに簡単な部類だった。

 しかしそれは短期的に見ればの話であり、その後がどうなるのかはまったく分からない。

 下手人を殺してもそれが主犯では無かったら。借金を返してもまた借金を作ったら。保管場所を移しても取られたら。このような運命もあり得るわけだ。

 

 それでも、それでも構わない。少しの間でも妹が生きていれば賽の目は変わるはずだ。

 だから──

 

 「お姉、さま……?」

 

 (フラン)を庇った()は背中で呪いの肉片を受け止めることに、何の躊躇もなかった。

 

 

 

 

 

 

 ~紅魔館・玉座の間~

 

 「まさか妹を庇うとは……」

 

 フランの能力を至近距離で、しかも直撃を喰らっても大きなダメージなど無いようですぐに再生する将門。

 だがその顔は忌々しいと言わんばかりに厳しい顔をしていた。

 

 確実に仕留められたはずの攻撃だったのに、避けられたから。

 しかもそれは全てフラン自身ではなく姉であるレミリアのおかげ。

 そして助けられた本人はまったく状況を把握しておらずにただ突っ立っているだけ。

 それが何よりも気に入らない。

 

 

 なぜ将門がここまでフランのことを執拗に狙うのか。

 それは彼女を最も、下手すれば八雲紫と同じくらいに恐れているからだ。

 

 フランの持つありとあらゆるものを破壊する程度の能力。

 直に喰らったからこそ分かる。あれは大きさや硬さ、強さというもので防げるモノではない。

 あれを喰らえばたとえ同じ巫女殺しの大嶽丸と八岐大蛇や圧倒的な強さを誇る鬼の四天王でも簡単に死んでしまうだろう。

 ならなぜ将門は生きているのかと言えば相性が悪かった、ただそれだけ。

 

 怨霊とは憎悪や悲しみといった強い感情が楔となって現世に留まっている存在。つまり楔となっている感情が消えなければどんな攻撃だろうが祈りであろうが不滅なのだ。

 だが感情というのは長年経てば風化しやすく、感情の原因となった人や物によっては綺麗さっぱり無くなることがある。

 だから長い時間を生きた怨霊ほど、弱体化しやすい傾向がある。

 ただ、将門はどれだけ時が経ってもその感情が薄まることは無く、たとえ世界が消滅しても存在を保てる自信があった。

 そしてフランは、感情を破壊することは現時点では出来ない。

 成長すれば出来るかもしれないがその時はもうやってこない。

 その意味ではぬらりひょんの人選は正解だった。

 

 そんな強大な力を持つフランの精神はその力に明らかに釣り合っていなかった。だから何の躊躇いも無しで周りを破壊し、力の制御も出来ないからフランの部屋に侵入した者が肉塊になったようにコントロールが出来ない。

 もしそんな奴が外に出たらどうなる?

 多くの同胞たちが死に、味方すらも巻き込みかねない災害になるであろう。

 ──なら、それを防ぐのは我の役目である。

 そう思いながら将門は守る者がいなくなった小娘(フランドール)に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 さっきまで自分が罵っていた姉が飛んでくる肉片から庇ったことに彼女は困惑していた。

 レミリアの顔からは既に生気が失われており、接触した部分からどんどん呪いが身体を蝕んでいる。

 そこでやっとフランは自分が命の危機に晒されていたことを理解した。

 

 「お姉さま……お姉さま……!」

 「大、丈夫よ、フラン……」

 

 立っているだけでも相当の激痛が走っているはずなのにレミリアは優しい笑みを浮かべていた。

 まるで、桜の花が散るかのような終わる間際に見せる刹那のけれど儚さを感じた。

 気が付けばフランは涙を流しながらレミリアに抱きついた。

 

 「ごめんなさい……!私、私……!」

 「もう、何言ってるの……これは私が決めたことよ……。あなたが謝ることは、ない……んだから」

 

 それを、レミリアは拒んだ。

 正直に言えば抱きしめたかった。無事な姿でいてくれた妹をこの感情のまま受け止めたかった。

 だがもうこの身体は呪いに浸食され、僅かでも触わってしまえばこの行動は水の泡になる。

 もう運命を見ることも出来ない。だがこれだけは確信している。

 

 ──紅魔館(私たち)は勝つ。

 

 根拠は無い。

 けれどそれで良いのだ。

 運命とは絶対という言葉は無いのだから──

 

 レミリアの浮かべた笑みは先ほどの儚げなものではなく、勝利を確信した王者の笑みを将門に向けていた。

 そして最後まで敵と妹に背を見せることなく天井を、空を見上げながら息絶えた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──残念だけど地獄に行くのはまだ早いわよ、レミィ」

 

 と思っていたら、親友の声がどこかから聞こえると同時に身体が少し軽くなり、意識が戻ってきた。

 レミリアは事の真相を確かめるべく、呪いの浸食で悲鳴を上げる身体を無理に起き上がらせ、声のした前を見ると地上で紅魔兵の指揮をしているはずのパチュリーがいた。

 

 正直、助かったのはいいが死ぬと思い色々と感傷に浸っていたのが恥ずかしくなりずれた帽子で顔を隠した。

 

 ふと気になってちらりとフランを見ると、困惑と驚愕の顔をしていることから急に現れたのだろう。

 将門が襲ってくる可能性があったため警戒をしたが、なんと将門は水、炎、土の鎖で縛られて身動きが取れていなかった。

 だがその鎖も呪いの浸食を受けていることから数分も持たないだろうが、パチュリーから事情を聞くには充分だ。

 

 「私はさっき死んだと思った、いや間違いなく死んでいたわ。それがどうして五体満足、とはいかないけど生きているのかしら?」

 「正確に言えば死ぬ直前よ。その時には意識が消えかけてたから死んだと思ってもおかしくないわ。

 で、時間も無いから答えを言うけどこれのおかげよ」

 「──これは賢者の石、のようね。……そういうことね」

 

 掌に握っている賢者の石を見せるとレミリアは目を丸くした、

 この賢者の石は長い年月をかけて作ったもので、レミリアでさえも実物を一瞬しか見ることが叶わなかった代物だ。

 命を長らえさせることが出来るそれなら、レミリアを生かすことは容易いはずだ。

 そしてそんな大事な物を惜しみなく使ったということはレミリアのことが──いや、これ以上は無粋というものだ。

 レミリアは今、立っている。それが一番大事なことだ。

 ただ、呪いの浸食は今もなお続いているのでここからは時間との勝負になる。

 

 「そういえばパチェ、あなたがここにいるってことは地上の方は終わったの?戦後処理はあなたがやっていると思っていたのだけど」

 「いいえ、今も私は地上にいるわよ。ここにいる私は持っている魔力の半分を与えられた分身。嫌な予感がしたからやったけど、間に合って良かったわ」

 

 レミリアの質問に首を横に振って否定すると共に、パチュリーは指先に火を灯すと、変化はすぐに現れ、パチュリーの身体がぼやけ始めた。

 親友の言葉が本当だと理解すると、パチュリーはそれが分かったようですぐに火を消すと、ぼやけていた身体も元に戻った。

 

 それと同時に何かが千切れた音が響いた。

 将門がパチュリーの仕掛けた魔法の鎖を突破したのだ。

 

 「──死ね」

 

 そのまま三本の矢を構えてレミリア、フラン、パチュリーを狙って同時に射出した。

 

 「まだ大人しくしてなさい」

 

 パチュリーは己にある全体の四割の魔力を使い、見えない防壁を展開した。

 しかし将門が触れるだけで防壁は呪いに侵され、取り込まれるためこのままでは無意味である。

 

 「もう一手必要ね。

 ──賢者の石の抜け殻と五割の我が魔力を贄とする。これに応えんとする者、己が武勇を示し、主を守護せよ。

 行きなさい、上級悪魔(アークデーモン)!」

 

 パチュリーは結界の内部に器用に悪魔を召喚した。

 

 この召喚に使用した賢者の石の抜け殻は一般的に見ればゴミのような物と捉えられるが魔法の世界ではその認識は大きく異なる。

 たとえそれが道端に落ちてる小石だろうがダイヤモンドであってもそれが賢者の石だったという事実が重要なのだ。

 賢者の石であるならたとえ抜け殻でもそれを調査すれば作ることが出来るかもしれないという希望はこの世界に住む者にとって絶大な価値を誇る。

 

 その声に応えた悪魔は頭部が山羊で翼を持つ一般的な姿だが、身に纏う魔力はアークデーモンと呼ばれるに恥じないものである。

 その悪魔に将門への足止めに使うとパチュリーはレミリアとフランを近くに呼んだ。

 度重なる魔法の行使によって、分身であるパチュリーの魔力は大きく消費したため、身体全体がぼやけており消えるのも時間の問題だろう。

 

 二人が自分の前に来ると、パチュリーはここに来た目的を伝える。

 

 「いい、二人とも。平将門はほぼ不死身の存在に等しいわ。でも、突破口はあるわ。二人の力を合わせれば、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 ~紅魔館・中庭~

 

 連合軍の敗北が決定し、軍の指揮官の一人である滝夜叉姫をパチュリーが止めを刺した直後のことだった。

 

 (何か、嫌な予感がするわね……)

 

 根拠があるわけではない。

 自分の中にある何かが警鐘を鳴らしているのだ。

 ここではないどこかで危機が迫っていると──

 

 (一応、レミィの様子を見た方が良いわね)

 

 レミリアが負けることなど考えていないが、この警鐘を無視するわけにはいかない。

 しかし、いくら敵方が負けたと言っても覚悟を決めた死兵になったり、やけくそで自爆する者もいるこの戦場で自分が抜けては要らない被害が増えてしまう。

 

 なら身体を分ければいい。

 先程までいた怨霊兵も将門が己の力を器にして中に自我を与えた存在だ。ならそれと同じように魔力を器にして自我を与えるなど、パチュリーにとって簡単なことだ。

 

 万一の場合に備えて今ある魔力の半分を器として練り上げ、自我を与える。それで分身であり第二のパチュリー・ノーレッジは誕生する。

 分身は目を覚ますとすぐに自分が生まれた経緯を理解して即座に行動に移った。通常、分身は与えられた命令を基に動くものだがそれを飛ばして動くとは流石、賢者パチュリー・ノーレッジの魔法と感嘆に値する。

 紅魔館へ消えた分身を見送ると将兵たちに再び指揮しようと前を向いた。

 

 だがここで異常が起きた。

 怨霊兵がいなくなり勢いを無くした連合軍に追討ちをしていた兵たちはその動きを止めてざわついていたのだ。

 一体何があったのか。

 その答えはざわめきの中心──滝夜叉姫に止めを刺した場所にあった。

 そこは今も激しく燃えており、辛うじて生きていても酸素不足で死ぬのが確定している墓場だというのに、何かが動いているのが見えた。

 滝夜叉姫?いや違う、彼女にはあの翼(・・・)は生えて──

 

 

 

 「──間に合ってよかったー。この娘が殺されちゃったら悪魔とメイドの現ご主人様に殺されちゃうところだったし」

 

 声が、聞こえた。それと同時に金属音が別の場所で鳴り響く。

 音のした方は間違いがなければ咲夜がいた場所だ。

 只事ではないと急いで顔を向けると平景清に止めを刺そうとした咲夜のナイフを鎌で受け止めている白い帽子を被った少女が相対していた。

 

 「確かに。将門さんには個人的にも現ご主人様的にも結構大きい恩ありますし、何も出来ずに帰りましたじゃあ、ねえ?」

 「くっ……!」

 「……何者だ、女?どうやら将門公のことを存じておるようだが」

 

 助けられた景清本人も彼女が誰か知らないようで啞然としているが刀の柄を握っていて何時でも攻撃、或いは迎撃出来るように警戒をしていた。

 

 「おや、そう警戒しなくてもいいじゃないか。少なくとも私たちは味方なんだから。でもあんたの言う通り、何者か名乗らないといけないのは確かだ」

 「交流の最初は自己紹介。当たり前の話だよねー。じゃあこの炎は邪魔だから──消えちゃえ♡」

 

 パチン──。

 指から鳴る音が一つ響いた時、炎は消えていた。

 その中にいたのは瀕死の滝夜叉姫と翼を生やした少女。

 

 「……吸血鬼、のようね。レミィとフラン以外で久しぶりに見たわ。それに……咲夜、気を付けなさい。そいつはおそらく死神。下手をすればあっさり魂を取られるわよ」

 「死神……?ではあなたは地獄の閻魔の手先かしら?

 聞いた話じゃ、地獄はこの騒動に乗じて地上に向かおうとする魂の鎮圧でこっちに介入する余裕は無いはずだったと思っていたけど、間違いかしら?」

 「安心しな、私はフリーの死神だから。それにしても懐かしの地獄はそんなことになってるのかい?思わぬところで良い収穫を得た。

 っと、話が逸れたな。では自己紹介をしよう。私の名はエリー。夢幻世界の誇る、頼れる門番さ」

 

 エリーと名乗る少女はナイフを弾いて後ずさりした咲夜を放置して膝をついたままの景清の腕を掴んで門の手前まで大きく退がった。

 

 「エリーったらずるーい!私を置いてかっこよく自己紹介して任務まで果たすなんてー!よーし私もって……プギャッ!?」

 

 吸血鬼の少女は何故か味方のエリーを羨ましがり対抗心を燃やしていると突然、でかい土の塊が少女の顔に激突した。無論これはパチュリーの仕業である。

 

 「敵が無防備でいるところをむざむざ見逃すわけないでしょ。もっとも、死んではないでしょうけど。まったく、これでも現時点じゃ強めの魔法なのよ」

 「痛ーって、いやこれでも本気じゃないの!?自慢じゃないけど私が痛いって思うなんてどっかの侵入してきた巫女以来なのに!

 ええーい、私の名はくるみ!夢幻世界と幻想郷を繋ぐ湖の守り手とは私のことよ!この痛みの十倍の苦しみを味合わせてあげる!

 ……と言いたいところだけど今のご主人様からは戦闘はしないでって言われてるから、覚えてなさい!」

 

 頭から血が流れているのにも関わらず生命力は強いようで騒がしく自己紹介を終えるとすぐに滝夜叉姫を抱きかかえてエリーの隣まで飛び退がった。

 その時、さっきの仕返しと言わんばかりに魔力弾を地面に向かって撃つと土煙が空高く上がり、パチュリー、咲夜以下紅魔兵の視界を奪った。

 

 「あらーこっぴどくやられたね。こりゃくるみだけお仕置きかね?」

 「げー!それは嫌だー!エリーフォローお願い!」

 「OK、じゃあ貸し一つだ。ちょうど西の恩知らず共(・・・・・・・)の住処も見つかったし、将門さんの部下の治療もすればなんとかなるでしょ」

 「ありがとうエリー!やっぱり持つべきものは長年付き添った同僚だよ!」

 「というわけで紅魔館の精鋭諸君、我ら連合はこれにて撤退させてもらうよ!後は将門さんにお任せしよう!」

 「っ待ちなさい!」

 

 咲夜は見えない視界の中、声のする場所を辿り一切の迷いなく銀のナイフを四本、足元に向かって投げつけた。

 ナイフは土煙の中に消えていきしばらくするとナイフの刺さった音が聞こえた。

 パチュリーが風の魔法で土煙を吹き飛ばすと視界は一気に晴れていった。

 だがそこには咲夜のナイフしかなくエリーとくるみ、平景清と滝夜叉姫、連合兵の姿は無く、それが意味することは逃げられた、それだけだった。

 

 「逃げられたみたいね」

 「申し訳ございません、パチュリー様」

 「別にいいわ、責任があるっていうならこの場にいる全員だから。──でもおかげでレミィの援護に行けるわ」

 

 分身から送られた情報からレミリアといつの間にか脱走しているフランが将門と対峙しており、レミリアは死の淵にいたようだ。

 今は無事、とは言えない容体だが峠は遠ざかったようで安心した。

 咲夜にそれを伝えると、一瞬で姿を消していった。レミリアの援護に向かったのは明白だ。

 しかし、この場にいる紅魔兵の指揮を放棄するとは困ったものだとため息を吐いた。

 

 「やっぱりどれだけ紅魔館にいても咲夜は変わらないのね。

 無事な妖精メイドは負傷者の手当てを、時間が惜しいわすぐにやりなさい。傷が浅い、もしくは無事な部隊は二手に分かれなさい。

 一つは紅魔館の警備。もう一つは美鈴の捜索……は門番隊がやってるようね。なら館内に戻って瓦礫の撤去、及び敵残党の捜索を。もう一度言うわ。時間が惜しい、急ぎなさい」

 「「ハッ!!」」

 

 パチュリーはすぐさま部隊を編成して指示を与えると紅魔兵たちはすぐに行動を開始した。

 この様子ならもう自分はいらないと判断し、レミリアの応援に行こうと足を動かした。だが、

 

 「ーーー!!痛ッ……!」

 

 足に硬い何かがぶつかり悶絶した。その痛みは四肢が裂かれるような激しいものより地味なものだが何度も反響して消えることがない。

 

 「誰よこんなところにこんなもの置いたの……!──って、これは……」

 

 それが何かは今は語れないが、少なくともパチュリーが見つけたそれはこの戦いの終結の鍵になるものだった。

 

 

 

 

 

 

 ~紅魔館・玉座の間~

 

 結界に閉じ込められたが将門にとってそんなものは塵と呼ぶに等しいものだった。どれだけ強固な結界でも将門にかかればすべて己の呪いに浸食されて取り込まれるのだから。

 だがそれを防ぐのはパチュリーが呼んだアークデーモンだった。

 来た理由は賢者の石、ただし効力を失った抜け殻を求めたため。

 いくら魔の道に詳しい悪魔でも賢者の石を造れたものは誰もいない。だからこそ、賢者の石を造ることが出来れば次の悪魔の王はその者と言われるほどだ。

 抜け殻という手がかりになるものは喉から手が出る程欲しい一品であり、それを造り出した賢者の半分とはいえ高純度な魔力もアークデーモンを呼ぶに相応しいものだ。

 故にこそ契約を守るために一切の手加減など無く将門を殺す。

 パチュリーですら目を光らせる魔法を滝のように振る舞い、屈強な肉体で如何なる戦士をも粉砕するまさに無敵と呼ぶに等しい悪魔だった。

 

 ──しかし

 

 「鬱陶しい。行け、怨霊兵」

 

 それで将門に勝つどころか足止めにすらならなかった。

 三百ほどの怨霊兵を繰り出しアークデーモンを襲わせた。

 アークデーモンの力があれば三百という数は無駄だと思っていたが、その考えは無情にも否定された。

 怨霊兵が一人触れた。それだけで魂は浸食され、さすがのアークデーモンも動きを止めた。

 それで決着は着いた。

 三百の怨霊兵はその隙を逃さずにアークデーモンに群がる。数秒も経たない内に全身が呪いに浸食されて悲鳴をあげる間も無く息絶えた。

 永遠の命を司る賢者の石を求めたアークデーモンの最後は転生も叶わない将門の呪いの一部になったのは一種の皮肉なのだろうか。

 その光景を横目に将門は結界を取り込み、自由の身になった。

 その間、僅か二十秒。

 それに真っ先に気付いたのは結界を張った分身のパチュリーだった。

 

 自由となった将門が最初にしたことは目の前に迫る何らかの魔法を詠唱しながら進んでいるパチュリーの迎撃ではなく、レミリアとフランの姿を探すことだった。

 そして呆気なく見つかった。パチュリーがいたさっきまでいた場所に二人は立っていた。

 いや、ただ立っているだけではない。彼女たちの下には魔法陣が敷かれており、その道に疎い将門でも大きな術を、それもこの状況を覆す類のものだと分かってしまう。

 どう覆すのかが分からないがこれを見過ごすことをするほど将門は愚かではない。

 向かってくるパチュリーをすれ違いざまに首を一閃。パチュリーの首は胴体から離れて地に落ちた。しかし魔力で出来た身体故に、血は出ることはなく遺体は元の魔力となって消えていった。

 

 「愚か、貴様の考えていることなど容易に見破れるわ」

 

 その言葉が放たれた後、将門はパチュリーを斬った刀を捨てると突如刀が爆発した。

 パチュリーは残された魔力を全て、つまり身体に自爆の魔法を組み込んでいたのだ。もし将門がパチュリーを体内に取り込んでいたら身体は真っ二つに爆発して再生に時間を取られてしまっただろう。

 もっとも、そんなものはたらればの話になったのだが。

 

 盾を失ったレミリアとフランを仕留めるために将門は身体を二つに分けて一人は呪われた弓矢を番え、もう一人は刀を構えて狙いを定めた。

 もう躊躇も躊躇いも迷いは無い。矢は迅雷の如き速さで放たれ、刀は疾風の速さで振られた。

 

 

 ──しかしそれは目に見えない壁に阻まれた。

 

 「何っ!?まさか結界か!?」

 

 将門が見た魔法陣はレミリアとフランの魔法の準備のものだと思っていた。しかしそれは違った。

 この魔法陣は結界を展開させるものだったのだ。

 急いで結界を取り込み、息の根を止めようと動くがもう、遅かった。

 

 

 

 そして準備は整った。

 

 

 

 レミリアが、フランが、瞼を開けた。

 その瞬間、激しい光がこの空間を襲った。

 

 「──!?」

 

 目という器官など今ではただの飾りとなったはずなのに網膜が焼かれると錯覚して目を閉ざした。

 光が収まると将門は目を開けた。

 そこに二人はいなかった。

 将門は急いで周りを見渡したがすぐに見つかった。いや違う。隠す気など無かった。

 

 

 

 二人を包むは紅い光。黒すらも塗り潰すほどの激しい光が空間を炙っていた。

 二人を纏うは紅い雷。近づくもの全てを焼き尽くさんと球状に奔流する。

 悪魔と恐れられた運命を視る吸血鬼(ヴァンパイア)は雷よりも迸る紅い槍を構えた。

 全てを破壊する吸血鬼(デストロイヤー)は見るだけで焼却してしまうほどに滾る炎の剣、いや杖を構える。

 一つだけでもどんな敵も滅ぼせると誰もが思ってしまう武器が二つ。

 しかし将門はそれを一つの武器だと思った。

 

 杖は縦に構えられ、槍はその後ろに、将門を狙っている。

 その姿はまるで──

 

 「槍、杖……いや、弓と矢、か」

 

 

 矢は番えられ、目標を捉えた。──そして矢は放たれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。