東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

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大怨霊の死

 

 ──“巫女殺し”平将門、紅魔館にて討死。

 

 その報せはすぐに幻想郷全体に知らされ、戦況を大きく変えることとなった。

 

 

 

 

 

 ~幻想連盟・本陣~

 

 紫は将門討死の報せを受けてすぐに最前線で戦っているところを除いた諸将を招聘し、緊急の軍議を行う。

 

 「急な呼び出しに応じてくれて感謝するわ。これより今後の展開について話し合いたいと思うから各々方もそのつもりで」

 

 紫の言葉に一礼する将軍たち。ここから軍議は始まった。

 

 「しっかし、将門が連合に付いていたってのは驚いたけど、まさか討死したとか信じられないねえ。本当に死んだのかあいつ?」

 「それに関してですが伊吹様、我々も真偽を確かめるため紅魔館で確認しましたが間違いなく死んでいます」

 「それにしても“巫女殺し”に将門公……これは他の連中……巫女を殺した連中も連合に加わったと考えるべきでは?」

 「その件については……」

 

 三十以上はいる人妖が思うように発言をしながら軍議は進んでいく。その様子は会議は踊る、されど進まずといった状況だがそれと違うのは確実に話が進んでいることだ。

 

 「今この街道を通っている連合の将は泥田坊か。ならこの先にある砦は私が受け持とう」

 「おお、風を操る一目連殿ならば安心して託せるわい。よろしく頼みますぞ」

 

 「河童の連中が武器の商談に来たと聞きましたが、何か買われたので?」

 「最新式の鉄砲というものを買わせられた。実物もあるが見るか?」

 「それは是非とも……」

 

 進軍してくる連合に対して守備の変更や軍備増強など無駄にならない話を交わしながら時間は進んでいき、終盤に入る頃。

 

 「で、伝令!」

 

 息を切らした伝令兵が唐突に入ってきた。

 その様子から只事ではないと軍議を邪魔したことを咎める者もおらず、紫も話を聞くことに集中する。

 

 「幻想郷各地にて連合幹部と思わしき者らが多数出現したとのこと!魔法の森付近に八岐大蛇、地底へと続く街道にて大嶽丸ら”巫女殺し”が布陣してるとのこと!

 さらには妖怪の山近くに大百足、鉄鼠と野槌を筆頭に各地で連合幹部の姿が確認されたとのこと!」

 「何だと!?」

 

 伝令の告げる言葉は名のある人妖たちを騒がせるには充分なものだ。

 博麗の巫女を殺した豪傑と知られる大嶽丸と八岐大蛇に“英雄”と呼ばれた大百足。それだけではなく、鉄鼠と野槌といった幹部もまた彼らに遅れは取らない強者だらけ。

 

 だが伝令はこれだけではなかった。

 

 「加えて我らの側に付き、そのまま連合の支配領域に組み込まれた集落、それらが次々と離反し連合の傘下に入ったとのこと……だったのですが……」

 「ですが……何?」

 「阿呼という怨霊によって集落の民衆は虐殺されているそうです……!」

 「阿呼!?阿呼と言ったのか貴様!?」

 「いきなりどうしたのですか、わいら殿?」

 

 手が鎌の妖怪、わいらの様子に驚きを隠せずにいる寅丸。

 幻想郷でも古参であるわいらの顔には汗が大量に流れており、深刻さを物語る。

 

 「阿呼というのはその者が呼ばれていた昔の名だ。おそらく奴は真名を明かされるのを避けているふしがある。奴の真名は皆も知っているはずだ。

 崇徳、将門と同格に扱われる大怨霊──菅原道真だ」

 「なっ!?三大怨霊の二人が連合についていたのか!?」

 

 菅原道真の名が出され、混乱する人妖たち。いくら伊吹萃香や星熊勇儀、茨木華扇に風見幽香と強力な妖怪が味方していてもそれらと並べる力を持つ妖怪が敵に回っていては無理もない。

 しかもこれらもまだ氷山の一角にすぎない。彼らの中に一瞬、ほんの一瞬だけ降伏したほうが良いのでは、という思考が出てきてしまった。

 そして一番恐ろしいことだが、

 

 「そんな連中が一つの意思で統率されているのが今聞いても信じられんな……」

 

 豊聡耳神子の言う通り、一体だけでも幻想郷を崩壊させる力を持つ妖怪たちが一個の集団、徒党を組んでいることが問題なのだ。

 もちろん、反八雲連合という集団が出来る以前にも八雲を、幻想郷を打倒せんとする者たちはいた。

 しかしそんな妖怪たちは必ずと言っていいほど我が強いもので協力することなんてことはありえず、たった一体や二、三体だけ、多くても十数体の愚連隊程度の規模だった。

 だからこそ、十万もの我が強い妖怪たちがぬらりひょんという妖怪の下で暴徒ではなく訓練された軍隊のように動いているというのは奇跡にも等しいことを意味していた。

 

 「しかしいくらなんでも進軍の速度が早すぎる!いくら十万の大軍を擁しているとはいえまだ一ヶ月にもなってないのに半分近くの砦が戦闘になっているのは異常すぎる!」

 「それなのだが連合は砦を落としたら周囲の集落を無視して次の砦に向かっているそうだ。略奪もしないし無理強いもしない。……本当にそうなのか疑ったがそうでもないと説明がつかないしな」

 「略奪も何もしない!?ならば奴らはどうやって物資を確保しているというのだ!?いくら必要数集めたといってもここは戦場だ!物資は必ずと言っていいほど不足するし、命を懸けた兵の鬱憤を晴らすことも兼ねているのだぞ!」

 「それは連合の妖怪共に聞け!今するべきは対策を練ることだ!お前の疑問に答える時間は無いことぐらい分からんのか!」

 「何をっ!?」

 

 不味い事態になった。

 言い争っている二人は気性が荒いことでも有名だがその空気がこの軍議に浸食されてしまっては彼らを招集した意味が失われてしまう。

 この空気にあてられて機嫌を悪くする者もいれば、冷静になろうとして更に冷静さを失う者もおり、軍議どころでは無くなってしまっ──

 

 

 ズンッ!!!

 

 

 その音が響くと同時に何かの破片が四方に飛び散る。

 幸いにも怪我人はいなかったがそれをした犯人を音源から察知した全員は一斉に沈黙するしかなくなり、場が落ち着いた。

 

 「お、どうした?下らない喧嘩はおしまいかい?残念だねえ。私も参加したかったのに」

 

 机を玉砕した犯人──伊吹萃香はあっけらかんとした声で場を支配した。だがその声とは裏腹に憤怒、とまではいかないがかなり切れているようで目が笑っていない。

 何か発言すれば、狩られる──!

 幻想連盟の諸将たちは満場一致でそう確信し、発端となったニ体はすぐに目配せして和解したようでこの状況をどう打破するか視線だけで会話している。

 しかしそんなことをせずともすぐに救いはやってきた。

 

 「軍議の途中、失礼致す!参と捌の砦から急遽連絡が入り、こうして参った次第!」

 

 別の伝令兵が当然入ってきて伊吹萃香の空気が変わった。

 

 「いやよくぞ来てくれた!ここに来たということは重要なことなのだろう!」

 「さあ遠慮なく話せ話せ!伊吹殿もひとまず話を聞きましょうぞ!」

 

 それを逃す手はないと諸将たちは一斉に伝令兵に促すよう進める。

 それを見て萃香も威圧する必要はないと落ち着いた。

 伝令兵は自分より上の立場の将軍たちの必要以上な歓迎を受けて困惑しているがすぐに我に返り本題を口にする。

 

 「で、ではご報告いたします!つい先ほど連合軍の一派ロードウェスタンズが──」

 

 その後に続いた言葉は将軍だけでなく、紫も、藍も驚くものとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~反八雲連合・本陣~

 

 時を同じくして反八雲連合も将門討死の凶報を受け、今本陣にいる幹部たちと軍議を開いていた。

 

 「まさか将門公が破られるとは……」

 「将門公の凶報は既に幻想郷中を駆け回っているようで、兵たちの動きも疎かになっているという報告もありますぞ」

 「いや、それも大事だがウェスタンズはどうする?奴らは将門公に抑えてもらっていたが、お亡くなりになられた今、離反するかもしれん。かと言って討伐する戦力もここの守備のために外せん。さて、どうしたものか……」

 

 将門を失ったことで起きる問題を明らかにしながら話は続いていく中、首領であるぬらりひょんは黙って静かに見守っていた。

 各地の戦線で戦っている同志たちの戦意が低下しているのも問題だが、やはりこの件で大きな問題になるのは連合からの離反だ。

 幹部の一人が口にしたロードウェスタンズを筆頭に完全に従っていない派閥というのがあり、それらの大半を将門が抑えていたのだ。

 その将門がいなくなった今、抑えられた不満からいつ離反してもおかしくない状況だった。

 “裏切った者には敵味方関係ない裁きを”を第一に置いている連合にとってこれは許し難い所業。だがそれを討伐する戦力が今の連合に不足していた。

 

 不足しているとは言ったがウェスタンズら離反勢力を撃ち滅ぼす戦力はある。だがそれらは幻想連盟との戦いや本陣の守りのために行かせられる余裕がない。

 すると、連合に入ってきた連盟側の集落を滅ぼしている阿呼──菅原道真が話に入ってきた。

 

 「翁、魔法の森に進軍している八岐大蛇殿から連絡が」

 「そうか。どうした、八岐大蛇?」

 

 ぬらりひょんは菅原道真を通して念話をする。八岐大蛇もそれに気付き報告する。

 

 『ぬらりひょん。将門がやられたんだって?なら率いている三千の兵士帰させてるからそいつらで粛清させて』

 「何……?」

 

 八岐大蛇の言葉に流石のぬらりひょんでも理解出来なかったようだ。

 預けた兵たちは魔法の森の制圧の手助けになるものだ。それを返すとは誰も想像出来なかった。

 

 『そもそも僕たちがここまで来れたのは将門が通り道に近い紅魔館や砦を牽制してくれたからだ。将門がいない今、兵士たちの安全は確保出来ない。だったら必要になる場所に行った方が格段に良い。

 ──で、どうする?』

 「……どうする、とは?」

 『決まってるじゃん。兵士たちは立場が上の僕の言うことを聞いて退いている。僕に命令出来るのはぬらりひょん、君しかいない。

 だから、どうする?僕は撤退しても、単身で魔法の森を制圧しても、文句は無い』

 

 これは八岐大蛇の覚悟の表れだ。

 容易に災害を起こす大妖怪がぬらりひょんの指示一つで死んでも、悔いは無いことを告げたのだ。

 その覚悟を気付かず、まして否定する程ぬらりひょんは腐ってはいない。

 だからこそ、確固たる信頼を持ってこれに応える。

 

 「ならばよく聞け、八岐大蛇。これは反八雲連合首領の命である。

 一歩も退くことは許さん。身体が朽ち果て、魂が消滅するまで進軍せよ!」

 『──了解した、我が主、いや同胞(はらから)よ』

 

 その言葉を最後に八岐大蛇からの通信は途切れる。

 連合には幹部、最上幹部と上の立場を持つ者がいるが、それらはあくまで肩書きに過ぎず、立場は皆同じだという方針を掲げている。

 だから八岐大蛇の主君呼びより同胞という言葉はこの連合において、最上級の敬意を意味する。

 

 八岐大蛇の覚悟を聞き、またぬらりひょんは、ここに集う幹部たちは覚悟を決める。

 

 「阿呼殿、全軍に儂の声を聞かせることは可能か?」

 「無論でございます。それと、翁と他の皆々様にもお伝えしますが麻呂のことは阿呼ではなく、菅原、或いは道真と呼んで下され」

 「よいのですか?阿呼…菅原殿は真名を呼ばれるのを嫌っていたのでは……」

 「良い。八岐大蛇殿があのようなことを申したのだ。いつまでもこのような小さなことを気にするべきではなかろうて。

 ──さて、準備は終えましたので、何時でもどうぞ」

 

 道真は周囲の妖気を集めると、水晶玉のようなものを作り上げ、ぬらりひょんの前に置く。

 これがどんなものか悟るぬらりひょんは水晶玉を持ち上げてそこから声を出す。

 

 

 

 『八雲を打倒せんとする同胞たちよ。聞いてくれ』

 

 将門討死の報せを受けて士気が下がっていた者はいきなり聞こえる首領の声に驚き、どよめきが起これば、連盟に降ろうと考えていた者はもしやバレたのかと恐怖に怯える者もいた。

 それらを率いる部隊長、幹部たちはこの行為にどんな意図があるのか考え、黙っている。

 

 『諸君らも聞いたであろう。最上幹部“巫女殺し”の一人、平将門が紅魔館にて散ったことを。

 それで戦意が落ち、敵に降ろうと考える者もいるだろう。こんな状況だからこそ、儂は言う。──諦めるな。

 これはあの戦いから生き残った兵に聞いたが、将門は最後まで勝利を諦めずに抗ったと聞いた。どれだけ劣勢に立たされようが、どれだけ窮地に陥ようともな。

 あの八雲に、幻想郷に我らは牙を向けたのだ。無傷で勝てるとは思ってはいない。だからこそここで膝を折るな。

 この戦いは古き幻想郷を取り戻すためのもの。だがそれと同時に志半ばで討たれた将門の弔い合戦となった!

 将門の武勇を後世に伝えるために同胞たちよ!今こそが正念場!我ら連合の力を、調子に乗った連盟に見せてやろうではないか──!』

 

 そこまで言い終わった後、連合軍は静寂に包まれていた。

 その様子はまさに嵐の静けさと言うべきもので、相対している連盟は不気味に思い前線の兵士たちは下がり始める。

 そして数秒後、世界が揺れた。

 

 突如、連合の兵たちが大声を上げて興奮しだした。

 先ほどまで士気が落ちており弱体化していたのに、今では完全にその勢いを取り戻してしまった。

 

 「やってやろうぜお前ら!俺たちで将門公の敵を討つんだ!」

 「そうだ!我々は八雲に牙を向いたのだ!もう後戻りは出来ん!なら連合兵の精強さを八雲に思い知らしてやる!」

 「ぬらりひょん(おう)万歳!我ら連合に勝利を!将門公は我らの軍神となって守護してくれるのだ!」

 「私はなんて馬鹿なことをしようとしたのだ!八雲に降るのはやめだ!この償い、全力で晴らしてくれん!」

 

 「ほう、ぬらりひょんめ。言いおるわ。これで士気を上げるなと言われても出来んではないか。

 貴様らぁ!気を引き締めろ!俺たちの相手は地底の軍団だ!星熊勇儀を筆頭にその武勇が今も残る怪物たちだ、気合い入れろ!」

 

 「……ふふ、ぬらりひょんは凄いや。さて、僕も本気でやりますか、と」

 

 将門を討たれて衰えた勢いはぬらりひょんの演説によって消えた。

 むしろ、これから将門と並ぶ幹部らが討たれても連合はさらに士気を上げかねない状況となってしまった。

 この戦、まだ終わる気配を見せることは無かった。

 

 

 

 「見事でした、ぬらりひょん翁」

 

 幹部たちの平伏に、程々にの、と窘めるぬらりひょんに疲れた様子は無く、次の一手を打つべく思案していた。

 

 「そういえば、あっちの方はどうなっておる?塩は足りそうか?」

 「はっ、塩に関しては問題ありませぬ。ただ、地底湖全体に塩が混ざるまでには多少時間がかかるようで……」

 「ふむ……まあ今のところ問題は無いのなら良い。さて、八岐大蛇の兵が戻っているのならさっさと離反勢力が大きな問題を起こさぬうちに叩き潰さねば……」

 「報告!報告!」

 

 離反勢力をどうするか悩んでいるぬらりひょんたちの元に一体の伝令兵が入ってきた。全力で走ってきたようで大きく肩を上下させて呼吸をしている。

 軍議も落ち着きを見せていたため、荒立てることもせずに、伝令兵の報告を聞く。

 だがそれは奇しくも八雲と同じ情報で、両陣営を驚愕させることになる。

 

 「も、申し上げます!連合傘下の一派、ロード・ウェスタンズが──壊滅したとのこと!

 下手人は夢幻世界の幻月と夢月とのこと!」

 

 「「な──何だと/何ですって!?」」

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