開戦開始まで残り一刻まで迫る
~博麗神社~
夜、月が隠れる新月の日。紫は再び博麗神社にやって来た。
この一週間で幻想郷は完全に二つの勢力に分かれた。妖怪の山や永遠亭など中立を選んだ勢力もあるが今は関係ないので省略しよう。
ここで今の勢力を確認しよう。
まず兵力。幻想連盟は現在五万の妖怪が味方となった。ほかに冥界から百の援軍、地底から五千、人間の義勇軍三百など加えて合計五万五千四百の勢力となった。
対する反八雲連合は合計十万。歴代の巫女に退治されたり封印された古い時代に闊歩していた妖怪や幻想郷に恨みを持った妖怪が味方となった。また彼らの勢いに恐れ、降伏した人間も兵士に数えているらしい。だがそれども戦える者は八万はくだらない。
すでに二倍もの差が付けられたがそれをどう挽回するのかは八雲の力次第だろう。両軍とも兵の士気が盛ん。それを率いる将の実力も互角といってよいだろう。
次に支配地域。幻想連盟は人里を中心とした東側を押さえておりレミリアやさとりなど連盟に属する者の支配領域が各地に点々と存在している。
反八雲連合は西側を掌握しているものの連盟よりは少なくどれほど素早く動けるかが鍵となる。
最後に基本戦略。連盟が何としてでも守らなければいけないのは人妖共存を目指している中で重要なのは多くの人間が住まう人里だろう。
戦略上防衛戦は必須なのだが最悪人里が無事ならば全ての領土の放棄もやむを得ないと考えている。
逆に連合の目標は八雲紫の首を獲ることより人里の掌握を第一と定めている。八雲が唱える共存には人里が必要不可欠でそこを獲れば連盟は終わるからだ。
ゆえに支配領域の拡大や略奪といった無駄なことはせず迅速に人里を攻める。
以上。
紫は境内に入ると二人の姿が見えた。
一人は霊夢で間違いない。ならもう一人は誰か。
その者は異常に長い頭があり、それがあるのは紫の中で一人しか知らない。
「驚いた。まさか首領自ら来るなんて。久しぶりね、ぬらりひょん」
連合の首領、ぬらりひょんは紫の姿を見る一礼して目を合わせる。
「お久しぶりですな、八雲様。こうしてお顔を見るのは何百年ぶりでしょうか」
「あら、そんなに私の顔を見たいのなら今すぐ降伏しなさいな。そしたら胴体と首が分かれるけど毎日私の顔が見れるわよ」
笑顔で直球に処刑すると脅してきたがそれに対してぬらりひょんはただ笑った
「いえいえ、結構でございます。まだ胴とは別れたくないですし私自身、裏切りも降伏も許さない堅物ですので」
断られても紫はふふっと微笑み懐かしい気持ちでいた。
「そういう固いところは何百年経っても変わらないのね」
「何?あんたたち知り合いなの?」
このやり取りを見ていた時間をとられたくないのか霊夢は問い質す。
「ええ、そうよ。彼、元々私の部下だったのよ」
そのことを聞いた霊夢は意外だったのかポカンと口を開けた。
「八雲様。いや八雲紫。そろそろ世間話はもうよいじゃろう」
様付けから呼び捨てに変わり反八雲連合を率いる首領としての顔を出してきた。
紫もそれに合わせて妖怪の賢者としての態度に変える。
この二人の間に挟まったら弱者は気を失い、強者でも悪寒が走るだろう。
そんな恐怖の場所に霊夢は平然としており付き合うのがだるいと感じたのか本題を口に出す。
「で、あんたたち私に用があるんでしょう?さっさと言いなさいよ」
その言葉を聞き二人の意識は霊夢に向かれた。
「では単刀直入に言おう。博麗の巫女よ。お主には我ら連合に来てもらいたい。八雲率いる連盟の戦力は数と質ともに我らより劣っており勝ち目など無いに等しい。このままでは人間は我らに支配され、家畜同然の存在になってしまうだろう。
だがお主が入れば話は変わる。博麗の巫女が人間の守護をすれば我らはむやみに人間は襲えない抑止力となるわけだ。お主も人間だ。助けたい者もおるはず。悪い話ではなかろう」
先手を打ったのはぬらりひょんであった。自分が加われば他の人間は助けられると博麗の巫女としては有りな条件を提示して来た。紫は何を思っているのかただ笑っていただけだった。
ぬらりひょんはそれを不気味だと思っているが今のでかなり有利になったと感じていた。
(当たり前じゃ。博麗の巫女といえど所詮は人間。人間寄りの世界になれば奴は来るに決まっておるわ)
実際、この案については騙す気は無くそのつもりで検討をしておりそのことは霊夢も分かっているだろう。
「いやよ」
だが彼の予想を裏切り霊夢は悩む素振りも見せずに拒否した。
それにぬらりひょんは呆気にとられ紫は声は出してないが先ほどよりもはっきりと大きく笑っていた。
そして笑いが治まった紫は余裕で霊夢を勧誘した。
(勝った。ぬらりひょんの誤算は霊夢をただの巫女だと思ったこと。彼女ほど人妖問わず平等に扱う者はいないわ。あの時なんで答えなかったのか気になるけどこれであなたたちは賊軍よ。ぬらりひょん)
「いやよ」
しかし霊夢これも拒否。思わず紫は固まった。
そして頭が理解したのか元に戻った二人の大妖は霊夢に問い質した。
「お主、自分が何を言っておるか分かっておるのか?」
「どういうつもり?私にもぬらりひょんに属さないなんて何を考え……て」
紫の頭に最初交渉した後の記憶が浮かんできた。
そう、まさかどちらにも付かないというのではないかと、と。
あの時は冗談だと思っていたがまさか……。
「ねえ……霊夢?あなた、まさか中立を選ぶ気……?」
嘘であってほしい。ぬらりひょんはその可能性に思い至り正気を疑い、紫は祈るが霊夢は急にニカッと笑った。
「当たりよ。流石紫ね。そういう所は好きよ」
──霊夢に初めて好きって言われたわね。
今まで親だった先代が亡くなった時から霊夢を育てていたがそんなことは一度も言われたことが無かったため、その言葉が年甲斐もなく嬉しかったのだが状況が状況なのですぐに落ち着いた。
「待ちなさい、中立を選んだ理由は何かしら」
「博麗の巫女が動くのは異変の時か幻想郷の危機の時だけ。だから私は動かない。」
「……お主、正気か?」
「ええ、正気よ。1+1は2、新月は月が隠れる日。ほらね」
いやそういうことではない。これを異変と、幻想郷の危機と思っていないのかという意味で聞いたのだ。結果は相手のペースに呑まれかけていたのだが何とか持ちこたえた。
「中立を選ぶ。それは両方の敵でもあるのだぞ?そこを分かっとるのか?」
「……ああ、そういうこと。なら安心しなさい。私は神社から出ないから。ああ、でも必需品はそっちが用意してくれない?野垂れ死ぬ気はないから」
「「──は?」」
これには二人とも驚いた。まさかこんな阿保がいるとは思わなかっただろう。それほど霊夢の取った行動はあまりにも常識から外れていたのだから。
「……それを信用できる証拠は?」
「ならそうね。終わるまでに外を出たら私の右腕をあげるわ」
「なっ……!?」
人間の身体とは妖怪より再生能力が低く部位が欠けたら一生そのまま。それも博麗の巫女の腕は世界を守る腕といっても過言ではない。それを何の躊躇いもなく差し出すという蛮行に二人はゾッとした。
「もし、我らがお主を殺しに来たら、どうする?」
脅そうとするが声が震えており本来よりもかなり迫力がなくなっている。
だが霊夢はお祓い棒をコチラに向けてただ一言。
「──そうね、その時は全員退治してやるわ」
笑顔で淡々と。
博麗の巫女に二言はない。
ここまで言われたら引き下がるしかないだろう。
紫は霊夢の右腕に神社の境内から出ると自動的に腕を千切る術をかけて博麗神社を後にした。
術をかけている時、霊夢はなんの反応もせず、終わると何事も無かったかのように欠伸をして神社の中に帰っていった。
その姿を見たぬらりひょんは本当に人間なのかと疑いを持ち、紫も霊夢の正気を疑っていた。
神社の階段の終わり。
ここで紫はスキマを出し最後に言葉を交わす。
「ぬらりひょん。あなたが何を考えているのか知らないけど私はこの幻想郷を愛しているわ。だから絶対に守る。それを忘れずに」
ぬらりひょんはそれを笑い飛ばして睨む。
「カカカッ、それを言うのならこちらも同じよ。儂は今の幻想郷を憎んでおる。だから壊す。それを決して忘れるな」
「ええ、覚えておくわね」
ぬらりひょんの言葉を聞きながら紫はスキマをくぐるのだった。
~幻想連盟本陣~
スキマをくぐり本陣に戻るとそこには藍の他に数人の人妖がいた。
それは敵ではない。むしろ味方で紫と同じこの幻想郷を守りたいと願う実力者たちだった。
「やっと戻ってきたねー。で、霊夢はどうだった?」
その中の一人である伊吹萃香は腰にかけてる瓢箪からの酒を飲んでおり、酔っぱらっているようで肩をバシバシ叩きながら結果を聞いてきた。
紫は首を横に振り、結果を伝えると周りは驚愕と共に空気が沈む。こちらに来なかったということは連合に付いたと思っているからだ。
しかし、それは勘違いであり、紫はその勘違いを解くと共に、事の顛末を話した。
話が終わると皆有り得ないという表情をしていた。まあ、それが普通だろう。
だが空気が若干軽くなる。敵になったと思われていた巫女が敵ではなかったことへの安堵と言ってもいいだろう。
「紫様、そろそろ時間です。兵たちもすでに待っておりますゆえ、急がれた方が良いでしょう」
ぬらりひょんの指定した開戦の時間まであと一時間。
この時間に連盟の兵の士気を上げるための演説を行う予定だ。
紫はこの場に集った者たちを引き連れて兵の待つ要塞に足を運ぶ。
──この幻想郷を守るために。
~反八雲連合本陣~
転移の術で本拠地に戻ってきたぬらりひょんを幹部たちが出迎える。
「翁、ご無事で何よりでございます。して、巫女の決断は?」
「博麗の巫女は中立を選びおったわ」
その報せにぎょっとする幹部。無理もないかと納得するぬらりひょんはこれまでのことを噓偽りなく話す。
「その巫女、本当に人間か?そんな気の狂った奴なんて初代しか見たことないぞ」
首領であるぬらりひょんに対してのため口、それは本来なら無礼と見られる行為だが誰も彼を咎めない。
それほど彼がぬらりひょんと親しい関係なのか、誰も文句が言えぬほどの力を持つ妖怪なのかどちらか不明、あるいは両方か、それをを知らされる。
「まあ巫女が邪魔せんのならそれで良かろう。さて、そろそろ時間だ。皆の衆、参るぞ」
ぬらりひょんも紫と同じく兵である同胞らを鼓舞するため準備をしていたのだ。
それに従い、彼らは首領たる翁に続く。
──この幻想郷を破壊するために。
人里を守るため造られた要塞の頂上に妖怪の賢者とそれに連なる者たちが立つ。
下を見るとこの幻想郷を守らんとする
そんな彼らを頼もしいと心の底から思う賢者は派手な弾幕を展開し、注意を惹く。
連合を決起させた洞窟の中で翁と呼ばれる首領と同じ望みを持つ同胞たる幹部と共に上座に座らずに立つ。
その姿を見た
──さあ、ここが最初の正念場だ。
「人のために集まった勇敢な
「
──この幻想郷を生きる者としての責任、己を不要として退治、封印された者の憎悪。様々な思いを胸に己を導いてくれる英雄の話に耳を向ける。
「あなたたちはこれまで人妖が憎み争ってきた時代の悲惨さを忘れた者はいますか」
「諸君らの中に幻想郷に不要と判断され退治され、封印された時の憎しみを忘れた者はおるか」
そのことを忘れることなど決して無い。それを本気で思われてるのなら失望してしまう。
全員が否と口に出す。
「しかし現在、数々の犠牲の上でようやく人妖が協力し合う平和な時代を作り上げることが出来ました」
「確かに
苦難の連続の中でこの平和を作り上げた先人たちを思い感動の。
その幻想郷で堕落した妖怪を思い浮かべ憎しみの涙を流す者が出る。
「しかしその平和を破壊しようする者が現れました」
「儂には出来ぬ。この幻想郷を壊したい程に。だがその偽りに依存する者が邪魔をする」
なんだそれは。ふざけているのか。我々がどんなに苦労して作り上げた平和を壊そうとするとは。
我々がどれ程憎んでいるのか知らないくせに邪魔をするとは。
到底許せない。
「ですが怖気づいてはいけません」
「だが恐れるな、同胞よ」
その言葉で我に返る。そうだ何を恐れている。その歩みを止めてはならない。
なぜならば。
「私たちにはあなたたちのようなこの幻想郷を守らんとする一騎当千の英雄が共にいるのだから!」
「我らには勇猛果敢な主らや巫女殺しを成し遂げた豪傑たちがついておるゆえに!」
俺たちには、私たちには、我々には頼れる仲間がいるのだから。
「これは
「これは古き時代を終わらせる時であり
これは時代を変える戦い。次第に恐怖で震える者が武者震いをする強者に変わっていく。
「愛する者を守るため」
──そうだ、我らには愛する者がいる。それを守れるのならこの命、惜しくは無い。
「愛する者の繁栄のため」
──そうだ、この戦いで死んでも愛する者が末永く生きれるのならばこの命、喜んであなたに捧げよう。
「共にいきましょう!この世界を守るために!!」
「蹂躙せよ!我らの怒りをこの世界に思い知らせるのだ!!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
──さあ、戦だ。連合?連盟?何するものぞ。奴らに目にもの見せようぞ。
両陣営の雄たけびにより戦の火蓋は切られた。
幻想郷を揺るがす大乱の始まりだ。