東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

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各地の動向 壱

 新月の夜。八雲紫率いる幻想連盟とぬらりひょん率いる反八雲連合の戦いは遂に火蓋が切られた。

これは開戦前の幻想郷が二つの勢力に分かれるまでの話である。

 

 

 

 ~紅魔館~

 

 吸血鬼が住む悪魔の館。紅魔館を支配する女傑は憂鬱な気分であった。

 その原因は今目の前にいる反八雲連合の使者にあった。

 少し前、美鈴から会いたいと言ってる妖怪がいると連絡を取ってきた。いつもは白黒魔法使いや氷精といったアポなしで来る連中が多くその者はアポは取ってはいなかったものの門番である美鈴に主に合わせてほしいと許可を取ってきたのである。

 それに機嫌を良くし許可を出したが今では後悔している。

 応接間に連れて来させるとその妖怪は反八雲連合の使者を名乗り自分を勧誘したのだ。

 

 「紅魔館の主、レミリア・スカーレット殿。単刀直入に申し上げる。我ら、反八雲連合の陣営に与してほしい所存でございます」

 

 反八雲連合。その名は天狗の新聞で知った。なんでも八雲紫を討ち妖怪至上社会にすることを目的とした正気を疑う連中だと。

 そんな連中に八雲紫を倒せる可能性など無いに等しい。

 レミリアは運命を見るまでもなく判断し、断る気でいた。

 

 「お待ちを、スカーレット公。決断する前にこの書面をご覧くだされ」

 

 使者が懐から出してきた書状をレミリアに見せてくる。内容は分からないがこれは首領からのでは無いだろう。

 そう判断する理由は表にレミリア・スカーレットの名前が書かれた文字の筆跡。それは明らかに西洋で暮らしていた者のものだった。

 怪訝な顔つきで受け取るレミリア。どうやら毒や呪いの類は無くそのまま中身を見ると信じられないものがあった。

 

 「どういう事かしら?なぜ、ロード・ウェスタンズの長の署名がここにあるのか、教えてくれない?」

 

 ロード・ウェスタンズとは幻想郷に住む吸血鬼を始め吸血鬼やケンタウロス等、西洋妖怪たちが幻想郷で相互協力のために作られた組織だ。

 だが、その実態は日本妖怪を下に見て西洋妖怪を一番とする西洋至上主義者で固まっており、レミリアはあまり彼らのことが気に入らなかった。

 とはいえ、それでも同類が少ない西洋の妖怪にとって頼もしい存在になっているので無下には出来ないのが現状だ。

 そんな連中が日本妖怪が主力の反八雲連合に属するなど輝夜と妹紅が仲良く手を繋ぐほどありえないことなのだ。

 使者は何食わぬ顔で淡々と説明してくる。

 

 「いや、彼らは連合の思想に共感を持ってくれて味方になってくれたのです」

 

 ウェスタンズが加入したことがそんなに嬉しいのか機嫌がよく、ベラベラ話してくれる。

 その中でウェスタンズの狙いが読めた。それはよっぽど呆れる理由のようで心の中でため息をつく程だった。

 

 (呆れた……。あいつらただ暴れたいから介入したわけね。しかも連盟と連合が疲弊したら漁夫の利をする気満々じゃない。そんな連中を信用してるこいつらもこいつらね……)

 

 だが、ウェスタンズが連合にいることはレミリアにとって悩ましく、本当なら連盟に付こうとしたがそうはいられない問題となってしまった。

 レミリアは別だが紅魔館の住人の中にはウェスタンズに所属している者も多く、下手をすれば内乱の火種になる可能性があった。

 ──これはすぐに決める問題ではないわね。

 そう決断したレミリアは日を改めて来いと伝えて使者に帰ってもらった。使者を帰らすやすぐに咲夜を呼び、主要な住人を集めるよう命令し、自分だけしかいない応接間で一人頭を悩ますのだった。

 

 三十分後、パチュリー、咲夜を始めとしたメンバーが集まった時、レミリアはさっきの使者と話した内容を彼女たちに伝えた。

 やはりというか何というか、ウェスタンズの参加には皆、虫を嚙み潰したような苦い顔をしていた。

 

 「レミィ、それ本気?あの自分第一の利己主義の連中が誰かの下に入るなんて正直信じられないわね」

 

 あのパチュリーがそう言うほどの衝撃なのだが、その問題点に気付き、目を閉じてため息をついている。

 全員がこの問題を分かってくれたようなのでレミリアは彼女たちに意見を聞くことにした。

 

 「それで、どう思うかしら?」

 ──連合に付くか、それとも連盟に付くか。

 多数決によって決めることにしたレミリアだった。

 

 「…………」

 

 だがその返事は返ってくることはなかった。

 最初は自分に遠慮してるのかと思い、遠慮は無しと伝えても状況は変わらず、このまま一時間経過しようとしていた。

 さすがに我慢が出来なくなってきたレミリアは密かに自分の中で静かな怒りをため続け、それが放出されかけた時、

 

 「甘くなったわね。レミィ」

 

 親友のその言葉で一時的だが鎮火した。

 

 「どういうことかしらパチェ?」

 

 するとパチュリーはため息をつき、やれやれと首を振った。

 

 「あなた、どうやって幻想郷に来るのに私たちをどうやって説得させたのよ」

 

 パチュリーの言葉の意図が掴めないが意味はあるのだろうとその時のことを思い出す。

 あの時、ハンターや教会からの危険が多く魔女狩りが激しくなった頃、レミリアたちは身を守れる場所を探していた。そして探しているうちに幻想郷の存在を知った。それでレミリアはがそこに行くと話して、反対意見もあったけど無理やり力で捻じ曲げて……。

 

 「そうよ。あの時私たちの意見を聞かないで決めたでしょ?それがこうして私たちに意見を求めるなんて昔じゃ考えられないわよ」

 

 その言葉に同意するように皆が頷いた。

 

 「そうですね。以前は私たちの言うことなんて一切耳にしませんでしたけど今は聞いてくれてますね」

 「ニンニク嫌いのお嬢様があの紅白に励まされて食べるようになりましたし言われるとそうですね」

 「お姉さま、前に比べたら私のお願い聞いてくれるしホントに丸くなったわね」

 

 それでようやくレミリアは親友が何を言いたいか分かった。

 

 「そうよ、あなたは傲岸不遜の吸血鬼なのよ。だったら自分のやりたい事を言いなさい。私たちはついてってあげるから」

 

 魔法使いの滅多に見せない柔らかな笑みに住人たちは驚いたがこれもまた変化なのだろう。

 そして自分が何をしたいかはっきりした。

 

 かつてのレミリアたちは今よりも心が荒んでいた。侵入者は皆殺しに。自分に逆らう者には死を。

 だが今ではどうだ?

 侵入者が来ても殺すようなことはせずむしろもてなすこともある。理不尽な理由でぶちのめされても前のように殺したくなるほどの憎しみもなかった。

 そう、彼女たちはこの幻想郷が好きなのだ。

 ならどっちに付けばこの幻想郷を守れるか?

 そんなものはもう決まっている。

 

 善は急げ。この言葉に従いすぐに使者を呼び出した。

 

 「こんな夜分に失礼いたす。随分早く決まったようで何よりで」

 

 こんなに早く呼ばれるとは思っていなかったのか少し急いだようだったがすぐに順応した。使者に選ばれることはある。

 しかし最初の時の親しみやすさは消えて冷たい雰囲気になっていた。

 

 「して、返事は?」

 

 この言葉を待っていたかのようにレミリアは口角をあげた。

 

 「わざわざ書状まで持ってきてくれたのは悪いけど八雲に、連盟につくことにしたわ。ごめんなさいね」

 

 その瞬間使者から殺気が出てきたがレミリアには効果はない。

 

 「……後悔しますぞ」

 「それを決めるのはお前じゃない。この私、レミリア・スカーレットよ。私はね、今の幻想郷が好きなのよ。だからさっさとお帰り願えるかしら?」

 

 使者は殺気は出したままだが理性は残っているのかそのまま出ていく。だが最後に睨み付け脅し文句を告げた。

 

 「巫女殺しを相手にして無事で済まぬぞ」

 

 巫女殺し、歴代の博麗の巫女を殺した妖怪の二つ名と聞くが彼らも参加してるとは驚きだ。

 

 だがレミリアは、幼きツェペシュの末裔は傲岸不遜に言い放った。

 

 「そう?ならそいつにご愁傷様と伝えておいてくれないかしら。だって相手は幻想郷最強の吸血鬼、レミリア・スカーレットなのよ?弱い者いじめをするのは性分じゃないけど来るのなら相手になってあげる。でも、そうね。遺書を書かせる時間はあげるわ」

 

 それに舌打ちしたのを最後に使者は消えていった。

 

 レミリアはすぐに紅魔館の主として命令を下した。

 

 「何ジッと立っているのかしら?これから戦が始まるのよ?さっさと準備しなさい!」

 

 その一言で館は一気に慌ただしくなる。

 

 「随分やる気ね。レミィ」

 「当たり前よ、この私が味方に付くのよ?中途半端は許さないわ。それに巫女殺し?上等よ、たかが人間を一人殺しただけではしゃぐ連中なんて私の敵じゃないわ」

 

 吸血鬼は嗤う。傲岸不遜に、己に天敵はいないのだと月夜に響くほど嗤うのだった。

 

 

 レミリア・スカーレット及び紅魔館、幻想連盟に属す。

 

 

 

 

 

 ~白玉楼~

 

 「そう、覚悟を決めたのね、紫……」

 

 白玉楼の満開の桜の木々が見える縁側に書状を読み上げる麗しい女性が立っている。

 彼女の名は西行寺幽々子。白玉楼の主であり転生を待つ幽霊が住まう冥界の管理を任されている。

 そんな彼女がホゥ…とため息をするだけで絵になる美しさ。だが生憎、その姿を見る者は誰もいなかった。

 

 「どうされましたか?」

 

 お茶請けをお盆に乗せて運んでくるのは彼女の従者である妖夢。落ち込んでると勘違いして心配して駆け寄ってくる。

 そんな彼女の健気な姿をを見てふと笑みを浮かべる。

 

 「大丈夫よ、妖夢。あなたの姿を見て元気になったわ。……妖夢。ぬらりひょんのことを覚えてる?」

 

 笑みとともに背を向いて今どんな表情をしているか分からなくなったが少し、空気が冷えたような気がした。

 

 「ぬらりひょん、ですか?あの、紫様に封印された妖怪のこと……。いえ、そうですね。私が小さい頃ぬらりひょん様とよく遊んでもらったのはよく覚えています」

 

 途中から幽々子の言ってる意味を理解し、彼との思い出を語る。

 

 妖夢がまだ幼かった頃。遊び盛りの子供だったがその頃の幽々子や祖父の妖忌は忙しくしていたため遊んでもらえなかったのだが、当時紫の腹心だったぬらりひょんが妖夢のことを気にかけてくれてよく遊んでもらったのだ。

 鬼ごっこからかくれんぼ、缶蹴りの外の遊びや折り紙や紙相撲といった中の遊びまで教えてくれた。

 だが突如、妖夢の前から消えたのだ。それは紫に封印されたからなのだが、当時幼い頃の妖夢は理解することは難しかったため幽々子から旅に出かけたのだと教えられたのだ。

 しかし、妖忌が出ていく前の日、彼から全てを教えられたのだがその頃はもう妖夢も成長しておりぬらりひょんのことは心のどこかで彼はもういないのだと悟っていた。

 だからあっさり、とまではいかなかったがそれでも全てを飲み込んで理解してくれた。

 

 「それがどうしたのですか?」

 「ぬらりひょんが、蘇ったの。そして今、反八雲連合を作り紫のことを狙っているわ」

 「……!?幽々子様、それは……!?」

 

 いきなり恩師の復活とそれが八雲紫を殺そうとしていると告げられた妖夢は驚愕し、頭の中が真っ白になった。

 

 「紫も対抗して幻想連盟という組織を作っているわ。そしてこの書状は紫からの援軍要請の報せよ。

 でもそんなことは出来ないわ。冥界と幻想郷ははっきり言って無関係、それに私はあくまでこの冥界の管理を任されてるだけでそんな権限は残念ながら無いわ。

 だからね、妖夢」

 

 幽々子は妖夢の方を振り向き手にしている書状で口元を隠した。それはまさに妖艶な策士であり、これを男が見たのなら魅了されて操り人形にされてしまうだろう。

 だが、長年彼女に従ってきた妖夢にはそんな効果は無く、いや、その迫力に圧され項垂れる。ちゃんとそばにお茶請けを置いて。

 そんな彼女の様子を見てつい笑いたくなってしまうのを我慢して主として最後の主として(・・・・・・・)命令を下す。

 

 「あなたをクビにするわね」

 

 一瞬何を言われたのか理解できずに頭を上げて幽々子の顔を見るがようやく理解すると、

 

 「え、ええええええ!?」

 

 ただ、庭師兼剣術指南役の彼女は叫ぶしかなかった。

 

 

 西行寺幽々子、魂魄妖夢を解雇する。

 

 

 

 

 

 ~迷いの竹林・入り口~

 

 月より逃れた賢者と姫を匿うかのように生い茂る竹林。そこに入れば幸運が味方しない限り抜け出すことは出来ない魔境の入り口の前に寝っ転がってる妹紅がいた。

 なぜ彼女がこんな場所で寝っ転がっているのか、それは彼女が口を開かなければ分かることはないだろう。

 まあ、妹紅は熟睡してるようなので今は無理だろうが。

 

 「こら、そんなところで寝るんじゃない」

 

 熟睡する妹紅の前に影が現れ、妹紅を揺さぶって起こそうとしている。

 そんなことをされたら眠気が覚めてしまい目を擦りながら起きてしまった。

 

 「うーん、誰だよ……こんな場所に来て揺さぶってまで起こそうとする物好きは……?」

 「そうかそうか。悪かったなこんな場所に来てしまう物好きで」

 

 声のするところ──と言っても目の前にいるのだが──に目を向けると、そこには不気味なぐらい満面の笑みを浮かべている慧音の姿があった。

 

 「け、慧音、さん?」

 「いやー、最近人里に来ることがなくなったから心配してきたのだがどうやらその必要はなかったらしいなー」

 

 不味い怒ってる。一目でそう分かるほどの怒気を感じ取ると同時に死ぬ未来が見えてくる。いくら無限に生き返るといっても痛いのいやだ。そこで取る行動は一つだけ。

 

 「申し訳ございませんでしたーーー!」

 

 ただ心の底から反省すると同時に土下座をすることだった。

 

 

 何とか許してもらえた妹紅は慧音を家に招いて三日ぶりの食事を口にした。

 

 「やっぱり慧音の作る味噌汁は美味いな」

 「こら、褒めてもお代わりしか出ないぞ」

 

 あの後、食事をとっていないことが慧音にばれてしまい家に招いて作ってもらうことになったのだが慧音の作るものは美味い。

 褒められて嬉しそうにする彼女を見ながらちゃんと食事をとろうかなと思っていた。

 ただし、それは調理をするのが面倒になり生で食べたりするので根本的な治療が必要になるのだが。

 

 食事が終わり、片付けも済んだので二人はまだ熱が残っている囲炉裏に静かに座っていた。

 

 「……なあ、妹紅」

 

 しばらく時間が過ぎた頃、不安そうな表情をした慧音が妹紅に声をかけてきた。

 妹紅は黙ったままで、慧音の次の言葉に耳を傾ける。

 

 「いつも警備と称して里の中で交流を深めていたお前がどうして急に来なくなったんだ?寺子屋の子供たちもお前が来なくて寂しがってるんだぞ。

 子供たちだけじゃない。八百屋のおばちゃんや卸売の青年だってみんなお前のことを心配してるんだぞ?何か理由があるんだろう?話してくれないか。少しでもお前の役に立ちたいんだ」

 

 そう言って頭を下げる慧音。妹紅はそれを見て少し顔を覆いながら大きくため息をついた。すると妹紅は慧音と顔を合わせて観念したのか謝罪を口にすると洗いざらい話し始める。

 

 「ごめんな、慧音。心配かけさせたみたいだな。ちょっと永琳から頼まれたんだ」

 「八意先生が?」

 「ああ。反八雲連合って知ってるか?」

 「反八雲連合?天狗の新聞から聞いたが……」

 「まあ、私も人里の情報は気になるから情報交換だな」

 

 妹紅が話した内容はこうだった。

 反八雲連合が各地の有力者を勧誘しているらしく、永遠亭にも行ったそうだ。どうやって迷いの竹林を抜けたのかと思っていると妹紅が案内したそうだ。

 だが永遠亭の勧誘は失敗したそうだが八意先生が「ここは病院よ。患者に連合、連盟なんて関係無いわ。治療が必要ならいつでも来なさい」と言ったらしい。つまり中立を宣言したわけで妖怪たちはここを使ってくるだろうと予想している。

 妹紅はそこでに八意先生からここに来る患者のために改めて案内人として頼まれたようだ。妹紅も反対する気は無く、放浪の途中で戦いで負傷した兵士を見てきたためその苦しみも理解できる。そういった人たちを助けられるのならと引き受けたようだ。

 なるほど、妹紅らしいな。これで妹紅の謎も解けた。

 なら次は私の番だな

 

 慧音の話によるとこうだ。

 人里では反八雲連合を恐れていてそれから守ってくれる幻想連盟を応援しているらしい。ただ、そういった人たちの中に生贄を用意して助けてもらおうとか馬鹿なこと考える馬鹿もいるらしく、慧音や長老さんだけじゃなく警察の小兎姫たちまで困らせてるらしい。

 人里にいる妖怪たちも巻き込まれるのが嫌なのかはたまた連合に入りにいったのかで妖怪の姿はあまり見なくなったらしい。馬鹿な人間のように良からぬことを考える連中もいるそうだが、連盟についたマミゾウを始めとした宗教家の人たちが治安維持で見回っているから大きな事件は起こっていないようで安心した。

 妖精も姿を見せなくなったそうでチルノや大妖精も寺子屋に来なくなったそうだ。

 

 「さて、もうすっかり夜だな。今日は一緒に寝ないか」

 「ああー、ごめん、私もう行かないいけないから帰ってくれないか?」

 

 そうして情報交換も終わり、慧音が布団を用意してくれたが妹紅は残念そうにしながらそれを止めさせた。

 

 「もう行くのか?身体は大丈夫なのか?」

 「大丈夫だよ。何かあっても生き返るから」

 

 しまった。

 言い終わってから気付いてしまい青ざめる妹紅。生き返るから大丈夫、その言葉は慧音の逆鱗に触れることを。

 

 「妹紅?今なんて言った?」

 「言ってません言ってません。何も言ってませんよ、慧音先生」

 

 誤魔化せるかどうかは賭けだがなんとか頑張って誤魔化す。慧音の怒りは何度でも蘇る妹紅にとって恐ろしいのだ。

 

 「そうか、私の気のせいか」

 

 どうやら誤魔化せたようで心の中でガッツポーズをしながら安心した。だが、ただで助かることは許してくれなかった。

 

 「なら、一緒に寝ようか」

 「えっ?」

 「妹紅が何か言ってたのは気のせいだったみたいだからな。もう一度言うぞ。

 一緒に寝ようか?」

 「……はい」

 

 妹紅は願う。今日は誰も患者が来ませんように。

 翌日、誰も来なかったことに感謝して博麗神社にお参りにいくのはまた別の話である。

 

 

 永遠亭、及び藤原妹紅、中立となる。

 人里、多少の騒動はあるが連盟に運命を委ねる。

 

 

 

 

 

 ~華扇の屋敷~

 

 「………………」

 

 無言で居間に座っているのはこの屋敷の主である華扇。

 今日、古い友人と会う約束をしていたのだがいつまで経っても来る気配は無く少々苛立っていた。無意識に腕に力を入れているためその重みを一心に受け続けてる机はひびが入りはじめ、悲鳴をあげていた。

 もしこの机が付喪神だったら文字通り身が裂けるような痛みが走っていただろう。まあ、もしそうだったら華扇も気遣っていたのでこんなことは起きないのだが。

 だがその机の悲鳴を聞いてたのかは知らないがとうとう待ち人は来た。

 

 「いやー土産の酒選んでたらここに来る前につい飲み干しちゃって遅れちゃったぜ、ごめんごめん!」

 「あの時の萃香の飲みっぷりには恐れ入るよ!あんたホントは蟒蛇(うわばみ)じゃないのかい?」

 「勇儀も人のこと──いや鬼のことは言えないじゃないか!酒屋に戻ったら飲み比べ挑んでくるとは思わなかったよ!おかげであの辺りの店全部店じまいしたからな!」

 「「ワハハハハハ!!」」

 

 ──だがそれは救いではなかった。むしろ止めを刺しに来た。

 酔っぱらい二人は障子を開ける際に力加減を誤り、障子が見るも無残なものとなるも気にせず、彼女の傍に寄ってくる。

 遅れてきた挙句それを悪いと思わないその態度。

 とうとう堪忍袋の緒が切れた華扇は机を粉々に割ってしまいその光景を目の当たりにした酔っぱらいはすぐに酔いが覚めた。

 

 「遅れてきてその態度なんていい度胸ね……。そこに座りなさい!」

 

 だがそんなことは関係無しに今までの鬱憤を晴らすかのように怒涛の勢いで説教をするのであった。

 

 

 「「すいませんでした」」

 

 最終的に誠意を込めた土下座をすることでようやく落ち着いた華扇はダメになった机と障子の破片を片付け始める。あらかた終わると二人を呼んだ理由を話した。

 

 「さて、二人にここに来てもらった理由なんだけど、もう分かってるでしょ?」

 「おうよ、紫とぬらりひょんの戦争のことだろ?当然だが紫との友誼で連盟に付いたからね。勿論勇儀もだろ?」

 「当たり前だ。鬼は友を裏切ることはしないからな。だけど地底じゃ連合に付く連中が多くてねえ、私を襲いに来たんだぞ。まあ返り討ちにしたが」

 

 地底では連合の妖怪によるデモが各地で発生しており管理をするさとりの頭を悩ませるほど深刻な問題だった。

 だが勇儀の連盟参加の報せによって今ではそのデモも無くなってはないが小規模なデモが起こる程度まで収まった。

 なお、この騒動で中立を取ることを決めたさとりは腹いせとして連盟に付くことを決断するのだがそれはまた別の話。

 

 「そう。なら腹を割って話せるわね。でもそれじゃあ、あなたがいない間に問題が起こるかもしれないわよ?」

 

 勇儀不在によって起こるかもしれない問題を心配する華扇だが勇儀はそれを鼻で笑い返す。

 

 「大丈夫さ。旧都は熊童子たちに任せてるからね。仮にあいつらを倒せる相手がいるんなら是非とも会いたいけどな」

 「……そう。彼らは相変わらず苦労してるのね……」

 

 熊童子、虎熊童子、金童子の三人は萃香たちと昔、日ノ本を荒らした仲である。

 しかし鬼が幻想郷に入り山と地底を治めていた時代。萃香と勇儀は面倒な仕事を彼らに押しつけ続けておりその結果、金棒を振るうより手腕を振るうことが得意になってしまった苦労人である。

 だがその実力は衰えることはなく九尾の狐である八雲藍といい勝負ができるほどだ。今ではその力を使い自警団を作っており、旧都の治安を守っている。

 

 そんな彼らを同情する華扇だが、この場では関係無いと切り替え、話を戻す。

 

 「とりあえずここの全員は連盟に所属してるってことね。じゃあ本題に入るわ。

 今、幻想郷では封印された妖怪たちが連合に所属してる話は聞いてるわよね?その話が気になってあれが眠ってる場所に先日行ったんだけど……。──封印が無かったわ」

 「……へえ」

 「ほう……」

 

 一気に空気が、いや圧が重くなる。

 あの幻想郷の誇る最強の一角である四天王がこうまで反応するということはつまりそういうことだろう。

 

 「いえ、あれだけじゃない。強い弱い関係なしに全ての封印が解かれている。かなりまずいわ」

 「それにしては騒ぎが無いけど──そうか、全部ぬらりひょんが統率してるのなら納得だよ」

 「さすが、紫から妖怪の統括を任されただけはあるね」

 

 萃香の言葉に思わず目を向ける勇儀と華扇。

 その姿を見て萃香は何か言ったかと首をかしげる。

 

 「いや待て萃香。ぬらりひょんが八雲の部下ってことは知ってたがそんな大役任されてたのか?」

 「そうよ。ぬらりひょんは幻想郷のはじまりの時代からいたのでしょ?それって国を落とすことが出来る妖怪が好き勝手にしてた時代じゃない。その統括を任されるなんて到底信じられないわね……。

 それにそこまで信頼されてるなら何で──」

 

 ──八雲紫を裏切ったのよ?

 

 その言葉を聞いた萃香は少し寂しそうな顔をしていた。萃香がそんな顔をする時は死んでいった同胞や気にいった人間たちに向ける顔だった。腰にある瓢箪から酒を一飲みする。

 だが酔っているわけではなく蓋をして元の場所に戻すと仰天している二人に語り始めた。

 

 「そうだった、な。この話を知るのは賢者と紫の身内以外だと私だけだったな。この話を知っているのは。

 ぬらりひょんは確かに紫から大役を任されるくらい信頼されていた。あいつも紫のことは信頼していたさ。でも、それ以上に妖怪のことを考えていたんだよ。裏切ろうと思うほどに。

 実際、紫の首を獲る計画をしてたからね。でもそれは身内によって露見し、実行に移ることは無かった」

 「身内?裏切ったってことかい?いや、主の主だから裏切ってない、のか?」

 「それで、その身内って誰なの?」

 「華扇たちも知ってる奴だよ。まああれが正しい判断だったのは間違いないと私は思ってるよ。そいつの名は──」

 

 萃香から放たれた名前に勇儀と華扇は驚愕し妖怪の山、その山頂の方を向くのだった。

 

 

 山の四天王、幻想連盟に属す。

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