~妖怪の山・山頂~
天狗社会の上層部たる大天狗たちが並ぶ伏魔殿。その奥に簾で姿を隠れているがいる気配でいることが分かる者が一人。
その妖怪こそ全ての天狗および妖怪の山の頂点に立つ大妖、天魔である。
大天狗たちは天魔の気配に気圧されるが敵意をその中央に座る妖怪──反八雲連合の使者に向ける。
その妖怪は黒の鎧兜を身に着けており顔は面頬を着けていて分からないがそこから溢れんばかりに出てくる妖気。大天狗といわれる強者たちが震え上がるのも無理は無いだろう。
その妖気は彼らが主と讃える天魔と同等のものだったから。
「それで、返答は?」
使者が天魔に直接問う。この行為は無礼と呼ばれるものだがそれを指摘する者はいない。いや、出来なかった。
「き、貴様!天魔様を前にその態度、無礼であるぞ!」
この緊迫した状況を一切理解できない
この大天狗はいわゆるコネで高い地位を得た天狗で、その権力で問題を起こしているがそれを簡単にもみ消せる厄介者だった。
他の大天狗たちは無言だが他の者が見たら気絶するほど凄まじい眼力でやめろと伝えるがそれに気付かずに使者に詰めかかる。
この男にとってこれは出世のチャンスだと思っていた。天魔様が見ている前でふざけた態度をする使者に他の大天狗が何も言えない中、自分が止めればお側においてもらえると考えてのことだった。
もしこれが成功したのなら他の大天狗も今までの所業を忘れて尊敬し、天魔もこの男を気に留め、側に置くことも考えただろう。
だがそうはならなかった。
ちなみにこの天狗についての特集という名の告発新聞を文が作っていたためどちらにしろ破滅は免れなかっただろうが今言っても仕方ないだろう。
「本来ならば貴様のような雑魚が天魔様のご意向によってこの伏魔殿に呼ばれたことに感謝の言葉を述べ、我ら一人一人に挨拶をしなければならんのだ!それを貴様は感謝の言葉どころかこうして作法を無視しての天魔様に話しかける狼藉、打ち首獄門にしてやる!おい、さっさとこのゴミを摘まみ出せ!」
だが、誰も動くことはない。大天狗どころか天魔警備の衛兵すらも。彼らがするのは視線を合わせずこの馬鹿とは無関係とアピールすることだった。
「おいなぜ誰も動かんのだ!もうよい、わしが連れていく!立て貴様──」
そして胸ぐらを掴んだ瞬間、コネ天狗はすぐに手を放し、そして倒れた。
その光景に無関係とアピールしてたことも忘れて大天狗たちは敵意を強くさせ、衛兵もこれ以上は限界だと天魔を守るため前に出る。
だが、
「グ、ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
コネ天狗の絶叫によって全ての動きが止まった。
コネ天狗の方を見ると使者に触れた箇所からどす黒い色に変色している。ジタバタと藻掻いているが浸食は止まることは無くあっという間に変色は身体全体に及びそのうちピクリとも動かなくなった。
この様子を見て天狗たちは使者の正体を悟った。
「呪い、だと!?こやつ、怨霊か!」
そう、彼らが感じていた妖気は妖気ではなく呪詛の類だったのだ。しかもコネで入ったとはいえ仮にも大天狗。そういう類の耐性も強いのだがそれすらも浸食する呪い。だが妖怪にとってそこまで強い呪いを持てばいずれ身体が崩壊してしまう毒となる。だがその様子は一切感じられない。それはつまり妖怪ではないということ。そんなことが可能なのは怨霊しかいない。
「動くな天狗共。お主らが攻撃するのは構わんがその攻撃が返ってくるやもしれんぞ」
戦闘態勢に入った天狗たちを牽制する使者。もはやこの場の支配者は天狗ではなく使者となった。
いや、まだ天狗の頂点に立つ大妖、天魔がいた。
「呪いを収めよ、相馬小次郎殿。これ以上の狼藉は天狗への宣戦布告と見なす。主は、いや連合は我々と対峙するのがお望みか?」
「……失礼。少々無礼が過ぎたようだ」
天魔の圧を直に喰らっても効いてる様ではなく、だが非がこちらにあると理解すると頭を下げて座った。
だが、使者もただでは転ばぬ気はなく、逆に天魔に圧を向ける。
「それでは改めて申します。ご返答を」
音一つ立てることも許されない空間の中、特段荒れておらず、そこまで大きくない言葉が静かに空間内に響き渡った。
もはやこの空間内には使者と天魔しかおらず、部外者となった大天狗たちは見守るだけしか出来ない。
「──では、妖怪の山の主として単刀直入に申そう」
天魔の言葉によって妖怪の山の行く末が決まる。
「我々妖怪の山は此度の戦──中立となり幻想郷の未来を見極める所存である」
妖怪の山は中立を選んだ。
この選択は同じ中立となった永遠亭と比べると納得できる理由が無く場合によっては漁夫の利を狙っている卑怯者だと思われてしまう。
だがそれでも天魔は選んだのだ。これが天狗を、妖怪の山の住民を守るものだと。
使者もこの返答は想像していたものですんなりと受け入れた。返事を聞くのが任のためここに留まる理由はない。使者は立ち上がり何食わぬ顔で帰ろうとする。
が。用事を思い出したかのように座っていた場所に、厳密には呪いに浸食され息絶えた天狗だったものの元まで来る。
「すまぬがこいつは貰っていくぞ。こいつはもう天狗ではなく我が呪いと化したもの。放置しておればここが第二の首塚になるからな」
「よかろう、許可する」
あっさりと決まり使者は呪われた天狗に手を触れるとそれは吸い込まれるように手の中に消えていった。
「ではさらばだ天魔。いや顕仁よ。……最後に同類の誼として伝えておこう。翁はお主のことを恨んでおらん。ゆえに失望するような真似はするな」
使者はそれを言うと今度こそ伏魔殿から出ていった。
その後ですが、皆様よっぽど腹が立っていたのでしょう。道中で襲撃しようと意見を出す者がいたのですがコネ天狗の最後を見た衝撃が大きかったようで彼を除いて全会一致で中止となりました。
しかし相馬小次郎ですか……。聞いたことが無い怨霊ですね。
あれほどの力を持つのならどこかで耳に入っているはずですが……。射命丸に調べさせておきましょう。
しかし、小次郎の言った言葉が分かりませんね。翁ということはぬらりひょんのことを表していると思いますが天魔様と何かしらの関係が?それに顕仁と天魔様のことをそう呼んでいた。あれはいったいどういう意味か?
考えれば考えるほど分かりませんね。
しかし、一番不可解だったのは……。
──何故、あの時天魔様の気配が一瞬ですが乱れたのでしょう?
解散した後、飯綱丸はそのことに疑問を持ちながら帰っていった。数日後、とんでもない事態が発生し、その疑問は忘れ去られていくのたが。
妖怪の山、中立を宣言する。
~守矢神社~
「そんな……!何とかならないのですか!」
「ごめんよ早苗……。これに関してはどうにもならないんだ」
「下手したら妖怪の山が敵になるかもしれないからねえ。悔しいのは分かるけど我慢するしかないよ」
雲一つない晴れ渡る空とは反対に暗い雰囲気になっている守矢神社ではガックリと机にうなだれている早苗と何とか機嫌を取り戻そうとする神奈子と諏訪子の姿があった。
なぜこうなったのかというとつい先ほどに天魔の使いと名乗る天狗が訪ねてきたのだ。
省略すると、「天魔様が中立宣言したからお前らどっちにも付くな。これを破ったらここから追い出すから」だった。
これには戦では連盟に付く気満々だった守矢勢にとって予想外なもので叫ばずにはいられなかったそうだ。
だがそれはそうだろう。山を守るために中立になったのにその中で二大勢力に喧嘩を仕掛けるような連中がいると台無しになりかねない。
「でも確かに納得いかないねえ。こっちは幻想郷のためにやる気になってるのに急にやめろなんて言われても、ねえ?」
「そうだよね。早苗もだけど私たちだって納得してないからね。で、いい作戦があるんだけどどう?」
「えっ!あるんですか諏訪子様!」
諏訪子から解決策はあると聞くとさっきまでのどんよりとした雰囲気は吹き飛び諏訪子のすぐそばまで飛んでくる。神奈子も興味があるみたいでどんなものなのかと笑みがこぼれている。
「ほら諏訪子。勿体ぶらないで話してくれない?久々にミシャグジさまの頭脳見せてくれなよー」
「落ち着け落ち着け。と言ってもあんまり大したことないでございますが。まずは……」
諏訪子の作戦をまとめるとこうだ。
妖怪の山が求めているのはこちらから喧嘩を売るなということ。
解釈次第では向こうから売られたなら買っても問題ないと見てよい。そして今連合によって人里、というより分社や信者にも危険が迫っている状況だ。
これは守矢神社から見ると連合が喧嘩を売ってきた状態と見てよいだろう。つまり守矢は連合を攻撃する大義名分があるから暴れても問題ない。だからそこにいる連合と目的一致してるので
これは傍から見るとかなりの詭弁なのだが三人は気付かないふりをする。
言い訳を得た彼女たちがすることはもはや一つしかない。
「よしそれでいこう!なら早速準備しないとねえ!」
「善は急げです!信者の皆さんに連絡してきますね!」
「いってらっしゃーい」
こうして守矢はこの戦いに参加する。
なおこの行動はやはり無理があり、山の上層部は守矢を敵視しているがこの後起こる妖怪の山に迫る危機によってそんなことは忘れ去られるのであった。
守矢神社、幻想連盟に属す。
~地霊殿~
「お断りします」
「なっ……!?」
執務室に現れた連合の使者と名乗る妖怪を視認した瞬間、使者の心の中を読み明かし、即答した。
これには使者は最初気が狂ったのかと思っていたが理解が出来なかったがさとりの持つ能力を思い出すと顔を真っ赤にして問い詰め始めた。
「何を言っているのか分かっているのかさとり殿!我らの申し出を断るということは「最上幹部の巫女殺しが攻めてくるぞ、ですか」ぐぬ……」
「本当に来るか分からないのにそんな脅しは無駄としか言えませんね。……ええ、そうですね。あなたも嫌でしたでしょう、心を読める持ったさとり妖怪に会うなんて」
「……っ!」
惜しげもなく第三の目を使い使者の心をどんどん暴いていくさとり。それに対して内容が全て本心のため何も言い返せず黙る使者。
「あら、怒りの感情で隠してきましたか。良い手ですね。私には無駄ですが。……ほう、まさか連合に海の──おや?
……開き直って心の中で交渉ですか。さすがかの有名な翁から使者に選ばれるだけありますね。臨機応変に対応出来ている。
では正直に申しますと私は最初は中立になる予定でした。が、やめました。理由はあなたも知っているでしょう。ここであった暴動ですね」
地底の管理者としてさとりは中立を選ぼうとしていたのだが気を変える事件が起きた。
それは地底各地で起きた暴動だった。
この事件は連合に付いた地底の妖怪たちがデモという名の暴動だったものだ。
最初こそ旧都の外れで妖怪たちに勧誘をしていただけだったのだがどういった経緯か分からないがどこかで解釈がねじ曲がり暴動が各地で起きてしまったのだ。
現在は星熊勇儀の連盟加入の表明と熊童子ら自警団による過激な取り押さえによって事態は収束していった。
だがその間にさとりは被害報告や損害請求などで仕事が一気に増えてしまったのだ。それこそお燐やお空といったペットたちまで手伝わせるほどに。
こちらも今はなんとか落ち着いたがそれでも腹が立ったのだ。
つまりこれは──
「単なる仕返しです」
それによって頭を抱えたのが使者だった。
(あの馬鹿共は何をやっているのだ!?確かに戦力は欲しいが一勢力と敵対したいなど言っておらんぞ!)
これに関しては連合の上層部には何の非もない。悪いのは完全にこの騒ぎに便乗して暴動を起こした妖怪たちだった。
だがそれを言ってももう和平など出来ないだろう。そう考えると使者は覚悟を決めた顔つきに変わる。
さとりはおそらく何をする気なのか知っているだろうが止めたりはしない。
使者は深呼吸をしてさとりをジッと見つめると、深く頭を下げた。
「この度は誠に申し訳ありませんでした!」
「おや?悪いのはあなたたちではなく暴動を起こした地底の妖怪です。あなたが頭を下げる必要はありませんよ?」
「いや、今回の件は監督しなかった我らの責任だ!こちらに幹部を派遣するなり必要最低限の教育すべきだった!それを怠った結果、あなたたちが被害に合ってしまった。改めて申し訳なかった……!」
使者は本心から謝っている。多少誤魔化すかと思っていたさとりはその態度に少し面喰ってしまった。
しかし彼女は地霊殿の主、この程度で動じることはない。今もなお頭を下げている使者に頭を上げるよう伝えるが頑なに拒む。
そんな使者にさすがに呆れてきてさっさと帰ってほしいと思い始めたので現実を突きつけることにした。
「はあ……。そんなことをしても取り消すことはしませんよ。それにもう連盟に加入しましたのでお帰り願いたいのですが」
「なっ!?」
実はさとり、すでに連盟に加入する書状をお燐に持たせて向かわせたのだ。使者が頭を下げている時に受理されたと連絡が入ったのだ。
これには使者も頭を上げざるをえない。悔しそうな顔で最低限の礼儀をすましてトボトボと執務室を出ていった。
そして一人きりとなった執務室で独り言をポツリと呟いた。
「……やっぱり本心からの謝罪なんていつまで経っても慣れませんね」
「ただいま戻りましたー!」
紫の下に向かわせたお燐が帰ってきた。使者とはすれ違いになったようで使者のことは聞いてくることはなかった。
さとりはお燐を招き寄せるとしゃがむようにさせると頭を撫でる。
「おかえりなさい。よく頑張ったわね。お疲れ様」
「あ、ありがとうございます……」
人型の影響なのだろうか顔が赤くなっていたが嬉しいそうで尻尾が犬のようにブンブンと振られていた。
(それにしても……)
さとりは使者の心を読み解いた時に見たものを思い出す。
使者と思わしき妖怪が一人の妖怪の前で泣いていた。おそらく事切れているのだろう。そしてその瞬間から人間を恨む憎悪の感情が湧き上がる。
一人の人間を殺そうとにじり寄っていると後ろから現れた巨大な影。振り向こうとしたその瞬間、それは途切れた。
あの巨大な影。あれはおそらく博麗の──。
「さとり様?どうしましたか?」
「……いいえ。何もありませんよ」
心配してくれるお燐の声で意識をそちらに向ける。そんなお燐にお空が寂しがってるから会いに行ってと伝えると嬉しそうに出ていった。きっとお空も喜んでくれるだろう。
さとりはこれからのことを考える。
最初、使者は巫女殺しが来ると脅していたが確定ではないことを見抜いたため言い返したが来ると踏んでいる。
もし中立になっていればそんなことは起きなかっただろうが連盟に付いたとならば話は違う。
さとりは子飼いの怨霊に今、地上に出ている勇儀に戻るように、それと橋姫に警備を強化するよう伝えるよう命じると頷いたあと去っていった。
一応探すようにと言ったが今も地上のどこかにいるであろう妹のこいしのことを心配する。
「こいし、あなたは今どこにいるのかしら?」
しかしいくら心配しても現れることはない。そんな簡単に見つかれば苦労はしないのだ。
悔しいがそのことは置いておくとしてこの大戦、最初は紫が勝つだろうと思っていたが使者の心の内容が本当なら勝利はどちらに転ぶか分からなくなってくる。
だがこれだけは言えるだろう。
(どうやら今回の件は一筋縄ではいかないようですね……)
戦いの時も終わった後も。
そんなことを考えながら地底の管理者として残っている今日の書類を片付けるのだった。
地霊殿、幻想連盟に属す。