東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

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初戦

 開戦より一時間。丑の刻に入ろうとしていた頃。

 連合と連盟は幻想郷各地に軍を進めておりいつ衝突するか分からない事態であった。

 

 

 ~幻想連盟・本陣~

 

 連盟の盟主である紫と式の藍、それとこの本陣守備に徹している人妖が数名、この陣幕に集っていた。

 

 「全員持ち場に着いたみたいね」

 「後は彼らがどれだけ持ち堪えるか……」

 

 紫は連合が通る道、百ヶ所に砦を建て、それぞれ二百の兵で防衛している。五万のうち二万を砦に配置し、残りはここ、本陣のある要塞を守備している。

 

 「そうね。でも命を懸けてまで守る必要はないわ」

 「紫様、先ほどさとり様より出立したとの報告が。ここに到着するまで三、四日はかかるようです」

 「なら無理に合流せずに後ろから攻撃するように──」

 「伝令!」

 

 話し合いが行われてる中、一人の妖怪が慌てながら勢いよく飛び込んできた。

 

 「ほ、報告!壱の砦と参の砦、壱と陸の砦にて戦闘が開始されたとのこと!」

 

 その報告にどよめく人妖たち。平然としていた者もとうとう来たのかと憂いを見せる。

 本当に起こってしまったのだ。幻想郷を根幹から揺るがしかねない大戦争が。

 

 「大戦争の始まり、ね」

 

 悲しげに呟いた紫の言葉は誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 ~壱の砦~

 

 ここは反八雲連合の支配領域に最も近い場所にある砦だった。

 だからこそ真っ先にぶつかるのはここだとこの場にいる兵士たちは薄々覚悟をしていた。

 そして、ついに来た。

 

 「連合の軍勢、視認!その数五百!」

 

 見張りをしていた一つ目小僧がこの砦の司令官である将軍、一本だたらに知らせながら警鐘を鳴らした。

 実力のある者百名を将軍に抜擢し、一人に一つの砦の司令官に任命している。

 警鐘を聞いた兵たちは急いで武具を準備する。

 兵士たちの手には刀や槍、弓矢や鉄砲。さらに大筒があった。

 全ての砦にはそれぞれ武器が人数分置かれており大筒は十門ある。そのほとんどが河童製で性能も申し分ないものばかりだ。

 

 「……チッ。本当に古臭え連中ばかりじゃねえか」

 

 そこそこ古い時代からいた一本だたらは見慣れた連中ばかりと分かると思わず苦い顔をする。

 連合の兵は博麗の巫女や人間、生存競争で妖怪と争って消えていった者ばかりでその威圧感は想像してた物より凄まじい。

 思わず冷や汗をかいてしまう。

 

 ──本当にこんな奴らを相手にできるのか?

 

 だが出立前に聞かされた紫の話を思い出す。

 

 (本気で戦うことはしなくてもいい、無理だと思ったらすぐ逃げろ、か)

 

 簡単に言いやがって。

 だがその言葉で落ち着きを取り戻すことに成功することが出来た。

 そして兵たちに指示をしっかりと伝える。

 

 「籠城だてめえら!弓、鉄砲はしっかり狙って撃て!大筒は射程距離内に入ったらドンドン撃て!槍持ちは門の前で待機だ!他はどこでも行けるよう準備をしろ!」

 「「はっ!!」」

 

 一本だたらの指示通りに展開する兵の動きには一切の無駄が無く、わずか数分で準備は整った。

 後はどう出るか……。

 敵の正面を見据える連盟軍。大筒の準備も終わりその強力な火力を戦の最初の華として撃とうと狙いを定める。

 しかし砦を照らす月明かりが彼らの動きを止めた。

 

 「?、なんだこの影は?」

 

 大きいものから小さいもの、丸いものや四角いもの。それの形は全てバラバラだった。

 それにつられて上空を見るとそこには。

 

 「──!?」

 「て、敵襲ーー!!」

 

 巨大な岩や比較的小さな岩などが雨あられのように連盟軍を襲うのだった。

 

 

 「全弾命中!全弾命中!」

 

 連合軍の放った投石攻撃の結果を知ると部隊長の絡新婦(ジョロウグモ)は毒婦のような笑みを浮かべる。

 

 「それは重畳じゃ。連盟軍め、正面におる同胞らの威圧で怯えてそちらばかりに注目するからじゃ」

 

 だが絡新婦は笑みを止め、すぐに将として切り替わり攻撃の全軍に指示を出す。

 

 「何をしておる?連中も雑魚ではない。すぐに立て直して反撃してくるぞ。総員攻撃せよ!」

 

 その号令に従い連合軍は今まで一時間に百歩という遅い速度での進軍をしていたがゼンマイを回して動き出すおもちゃのようにその速度を大幅に上げ始めた。

 

 

 「何の音だ!上は大丈夫か!?」

 「馬鹿!何をしている!敵が来たぞ!」

 

 塀の内側にいたおかげで連合軍からの投石攻撃から凌ぐことが出来た大筒とその兵だったが周りが見渡せないため何が起きたのか把握出来ずにいた。

 もう一人が急かすおかげで撃つ準備は整い、今迫りくる連合軍を迎撃しようとしていた。

 だが、

 

 「そうはさせんぞ」

 

 後ろから聞こえる声と共に羽交い締めにされる大筒兵。

 

 「ぐっ…が、ぁ…」

 

 後ろからの奇襲と狙いをつけるため正面に集中していたせいで抵抗出来ずそのまま気を失うのだった。

 

 

 投石攻撃により一本だたらと遠距離攻撃部隊は激しい被害に見舞われ、急いで立て直しを図っていた。

 

 「くそ…やられた。おい、遊撃兵!瓦礫の撤去と負傷者の手当てを頼む!弓と鉄砲は気にするな。攻めてくる連合軍を撃つことだけに専念しろ」

 

 地上からの応援を呼び、混乱から回復するとようやく攻撃を開始した。

 迫りくる地獄の軍勢のような光景を作り出す連合軍に無数の矢や弾丸が打って出る。

 

 「攻撃が来るぞー!」

 

 強靭な肉体や武器を振るい矢や弾丸を弾いたり、神通力や妖術で防いだりして進もうとする連合軍。

 しかしそれでも限界があり身体に刺されたり、弾丸が目に入り痛みのあまり動きを止める者が出てくる。

 だがそれでも進軍は止まることはない。

 

 「くそが…!矢や弾丸じゃ効果は薄いのか…!」

 

 そばにあった数人がかりじゃないと持てない大岩を簡単に持ち上げ、投げて応戦する一本だたらは止まらない連合軍に毒づく。

 妖術や放った矢や弾丸を返されて直撃して倒れる兵が出てくるなど被害は次第に大きくなり地上に待機している遊撃兵全員を動員せざるを得ない状況になってしまった。

 

 「それにしても大筒は何してるんだ!?何で撃たないんだよ!?」

 

 一人の連合兵が愚痴をこぼすかのようにここにはいない大筒兵に文句を言う。

 大筒からの攻撃は一度も無く、そのせいで敵に致命的な一撃を与えられず終始不利な状況になってしまっている。

 しかし兵のいう事は最もだ。なぜ攻撃しないのか?

 それはすぐに分かることになる。

 

 「ぐっ、は…将軍、どの……」

 

 悲鳴や怒号が飛び交うこの戦場で一本だたらを呼ぶ弱くか細い声は彼の耳に入った。

 

 「どうした!」

 

 だが振り向くと呼んだであろう兵士は倒れていてそれを行ったであろう下手人の姿も明らかとなった。

 

 「なっ…子泣き爺だと!?」

 「如何にも。じゃがワシだけじゃと思うなよ?」

 

 子泣き爺は口笛を吹き、それを合図としたのか隠れていた子泣き爺や夜泣き石が姿を現した。

 

 「てめえらいつの間に……!まさかあの投石の時か!」

 「その通り!おかげで簡単に入り込み大筒を無力化出来たから感謝しかないわい」

 「貴様らぁ!!」

 「おっと、流石かの有名な吸血鬼異変で五十体の吸血鬼を滅ぼした豪傑と名の知れた一本だたら。怖いのう。

 じゃがよいのか?わしらだけ見てても?」

 「──何?」

 「しょ、将軍!!」

 

 悲鳴のような自分を呼ぶ声。子泣き爺たちを視界から外すというのは躊躇いがあるが声からして尋常じゃない様子なのでさっさと用件を終わらせようと素早く振り向いた。

 

 「どうした!何があ…った…?」

 

 途中から声が途切れてしまった。だが無理も無いだろう。なぜなら彼らの目に映るのは──

 

 「がしゃどくろ、だと?」

 

 五、六体のがしゃどくろがだんだん近づいていく姿だった。

 実は子泣き爺、大筒の無力化した合図を出したことでそれを見た後方に待機していた攻城兵器の役割を持つがしゃどくろたちが進軍を始めたのだ。

 大筒という高火力の兵器が無い今、弓や鉄砲では効果はいまひとつで待機している白兵戦部隊でもその巨体で潰されて終わりだろう。

 一本だたらなら対応出来るがそれをしてももうこの砦の陥落は免れないだろう。

 

 「……!総員撤退だ!撤退しろーーー!」

 

 もう無理だと判断し全軍に撤退命令を出した一本だたら。

 だがそれは本人にとっても悔しいもので握る拳に力を入れすぎて血が流れ出ていた。

 子泣き爺たちは姿を消しており、おそらく逃げたのだろう。

 それから兵たちは武器を捨ててその場に倒れている者たちを抱えながら後方にある”スキマ”に入る。

 それから間もなく、がしゃどくろによって砦の壁は崩壊し五百の連合軍は砦内になだれ込んで来た。

 だがそこには兵の姿は無く、残っていると思われた一本だたらの姿すらも無かった。

 

 「奴らどこに行きおった?負傷兵まで運んで撤退したのなら尚更見つかるはずなのじゃが……。まあよい。砦は落とした。

 他の者には申し訳ないが我々が一番槍を貰ったぞ」

 

 勝鬨を上げる連合軍。

 この大戦の初戦は連合の勝利に終わった。

 

 

 ~反八雲連合・本陣~

 

 「報告。絡新婦率いる部隊が壱の砦を攻略したとのこと」

 「そうか。それで今はどうしておる?」

 「はっ、絡新婦は死亡者を確認し、負傷者を永遠亭に転送した後すぐに進軍を開始した模様です」

 「報告は以上か。なら下がってよい」

 「はっ失礼いたしました」

 

 伝令を下げて幹部のみとなったこの空間で一人の妖怪が声を上げて笑いだした。

 

 「五月蠅いぞ、大嶽丸(おおたけまる)

 「ガハハッ、すまんな。だが我らはとうとう成果を出したのだ。お前らも嬉しいだろう」

 

 ──大嶽丸。

 坂上田村麻呂と天女の鈴鹿御前によって討伐され現世を去った鬼神。

 何者にも害することは敵わないと言われる三明の剣を持ち強大な神通力を持っている。

 そして八代目の博麗の巫女と相打ちになった最上幹部”巫女殺し”の一人。

 

 「だが確かに。我らはあの八雲に対して一定の成果を出した。そしてこれからもその報告が次々と来るだろう」

 

 先日、妖怪の山に使者として赴いた怨霊。相馬小次郎、ではなく本当の名は平将門(たいらのまさかど)である。

 

 ──平将門。

 かつて朝廷に仕えていた武士だったが新皇と名乗り関東に君臨した朝敵。

 藤原秀郷によって討たれたがその怨念は今もなお残り続ける生きた伝説となった怨霊。

 こちらも同じく七代目の巫女には敗れはしたが呪い殺したことで”巫女殺し”となった。

 

 平将門の言う通り、次々と伝令が入ってきて戦果を報告してくる。

 

 「伝令!鉄鼠(てっそ)様率いる部隊が参の砦を落としたとのこと!」

 「報告します!野槌(のづち)様の部隊が壱と陸の砦を陥落させたとの朗報が!」

 「朗報!百目鬼(とどめき)の部隊が伍の砦を完膚なきまでに潰したと!」

 「お喜びください!妖蟲王(ようちゅうおう)が漆の砦を占領したとの連絡が入りました!」

 

 続々と戦勝の報告が入り思わず顔がにやけそうになる者が続出している。

 まさに破竹の勢い。これほど心地いいものはないだろう。

 だが彼らの首領であるぬらりひょんは決して油断はしない。

 彼の頭にあるのは先の展開のことだけだった。

 

 「大百足(おおむかで)はどうした?」

 

 それに答えたのは正座をして一切話に入ってこなかった雑面で顔を隠している道士の服を着た者だった。

 

 「大百足殿ならすでに妖怪の山に向かいましたぞ。それに御安心を。天狗どもを刺激するかしないかの距離で待機しておりますゆえ」

 

 それを知るとぬらりひょんは良き哉と珍しく喜んでおり、その者を称えた。

 

 「ワシの自慢の伝令兵ですら掴んでおらん情報を持っておるとは流石、阿呼殿よ」

 「感謝の極みでございます」

 

 一礼する阿呼のことをひどく気に入ってるようで最上幹部の数人は嫉妬する程だった。

 

 「しかし突破した砦の兵全員が行方不明とは不吉な話よな。この件、どう思いまする翁」

 

 平将門がこの空気を変えようと話を振るとその思惑通りに周りも疑問を持ち始めた。

 だがぬらりひょんにとっては簡単な話で分かっていない者たちに説明しだした。

 

 

 ~幻想連盟・本陣~

 

 「で、伝令!一反木綿(いったんもめん)将軍が守る壱と肆の砦が陥落したとのこと!」

 「三日目で二一つも……。紫様、何か対策をした方が良いのでは?」

 

 次々と砦陥落の報せが入ってきてそれを聞き続けている藍はぐったりとした表情で紫に進言するが紫にとっては何も問題が無いようで笑みを浮かべていた。

 

 「対策なら現地の兵たちでしてもらうわ」

 「どういうことでしょうか?」

 「ふふ、そうね。あなたに話しても問題無いわね。なら一から説明するわね。

 前線の砦が落ちるのは私の計画通りよ。各将軍には砦が落ちると思ったらすぐに撤退するように伝えたわ。そのためにスキマを各砦に設置してるのよ」

 

 「恐らく連盟は八雲のスキマで撤退しておるのだろう。その目的は我らの戦力を削るのもあるだろうが情報収集じゃろうて」

 

 「情報収集、ですか?」

 「ええ。まだ私たちには連合の戦力がどれくらいなのかそれをまだ把握出来ていないわ。

 でも連合が進む道に砦があったら彼らは攻めざるを得ない。絡新婦、鉄鼠、野槌、百目鬼、妖蟲王。これだけでも上々よ。そして他にもメリットはある」

 

 「撤退した兵はどこかの砦に転移される。そして合流されたら戦った情報を基に対策を立てられるし、その分兵の数も増える。

 最初は対策が取れぬから我らの快進撃じゃが中盤あたりから膠着状態になるじゃろう」

 「だが兵数で見れば我々の方が有利だ。じっくりと攻めていけば勝利は確実だと思うが?」

 「残念じゃがそれは出来ん。何故なら──」

 

 「ぬらりひょんは月の民の介入を恐れているから」

 「月…ですか」

 「ぬらりひょんはこの戦が長引けば月の民が攻めてくることと考えている。だから介入する隙を与えたくないのよ、ぬらりひょんは」

 

 「八雲の月侵攻は愚策であった。いたずらに同胞を殺した上で敗北によって奴らに侵略される口実を与えてしまった。

 下手に長引けば連中は正義の味方面でこの幻想郷を侵略する。仮に勝てても疲弊した幻想郷に戦を強いるのは酷というもの。故に早々にけりを付けなければならん」

 「しかし、いずれ来る膠着に対しての策はおありなのですか?」

 「ある。それはお主らじゃ」

 「「!!」」

 

 その時のぬらりひょんの顔はまさに数多の妖怪を従える反八雲連合としての威厳と老獪さを表すような悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 連合が現在投入してる戦力は砦制圧のために五百の兵を百に分けて進軍させてるので五万。残りの半分は現在もここで待機している。

 ぬらりひょんは幻想郷の全体を記した地図を開き、幹部たちに見えるように大きくする。

 まず妖怪の山を指差した。

 

 「まず妖怪の山。これに関しては大百足が牽制しておるから問題は無いじゃろう。そして次は──」

 

 紅魔館を指差した。。

 

 「吸血鬼が住むという館。比較的新参者だがその戦力は馬鹿には出来ぬ。ここは将門。二千の兵を率いて攻撃してもらいたい」

 「翁の御命令であれば異論無く」

 「その館の主は巫女殺しを成し遂げた主らとは弱い者いじめになると豪語しおった。その意味が分かるな?」

 「はっ、西洋から落ち延びた落武者もどきに礼儀を教えに参ります」

 「それでよい」

 

 ニヤリと笑うぬらりひょんだがこれは怒っている。ここにいる誰もがそれを理解している。

 ぬらりひょんは許せないのだ。自分たちを下に見たことを誰よりも怒っているのだ。

 他にも西洋の吸血鬼には悪い印象しか無く吸血鬼異変の時、幻想郷を好き勝手に荒らしたことを腹立たしいと思っていた。

 次に指を差したのは魔法の森。

 

 「ここを占拠出来れば里への進軍をより素早く出来る。ここは八岐大蛇(やまたのおろち)、兵を三千率いて向かってくれんか?」

 

 将門の隣にぬっとどこからともなく首の一つが現れ、そこから辿ると本体が座り込んでいた。

 

 ──八岐大蛇

 日本最古の書、古事記に登場する怪物。

 スサノオノミコトですら酒を飲ませて酔わせなければ倒せないという強さを誇り、水や山を司る神としての側面を持っている。

 十代目博麗の巫女と相打ちになった”巫女殺し”の一体。

 

 八岐大蛇は疲れているのかめんどくさいのかやる気の無い目をしていたが、

 

 「……了解」

 

 渋々、というよりも無口なため口数は少ないが了承した。

 ぬらりひょんは八岐大蛇の態度は慣れているようで気にも留めずに進めていく。

 どこに指を差すかと思ったらぬらりひょんは地図を裏返してある場所に差した。

 幹部たちはそれがどこか分かり緊張が高まる。

 

 「本来ならば予定には無かったが地底に向かう。地霊殿の主が八雲と手を組み挟み撃ちにしようとしておる。これに関しては制圧ではなく防衛と肝に銘じよ。

 大嶽丸、主には一万の兵で迎撃を頼みたい。出来るか?」

 「はっ、当たり前だ。あの星熊勇儀とやれるんだ。その任務は俺に任せろ」

 

 大嶽丸も特に異論は無く地底の強者との戦いを楽しみにしているようだ。

 

 「──おい、俺は出なくていいのか?」

 

 それは、ぬらりひょんの後ろから聞こえてきた。

 野太いが野蛮なものは感じられず聞いただけで膝を付きたくなるような声。

 その場にいる者は何とも言えぬ悪寒がし、最上幹部である”巫女殺し”も芯が震えていた。

 だがぬらりひょんは微動だにせず後ろの壁に振り向き宥める。

 

 「主はまだ出る時では無い。その時が来るまで待ってくれ」

 

 妖怪たちの首領であるぬらりひょんよりも上の存在だと彼らは本能で理解している。

 そんな上の存在を宥めるという行為は蛮行に見えても仕方のないことだ。だが、

 

 「分かった。じゃあその時になったら呼んでくれ」

 

 納得した。

 それっきり声は聞こえずさっきと同じ空気に戻る。

 

 「お、翁。い、今のは……?」

 

 阿呼は先ほどまで同じ態度を貫いていたが今は声が震えて発音が上手くいかない。

 ぬらりひょんは人差し指を差して口元に近づけるとニヤリと笑って、

 

 「内緒じゃ」

 

 子供がよくする静かにするポーズで無理やり黙らせた。

 幹部たちはこれをされては何も聞けないと諦め、首を縦に振った。

 

 「では、同胞諸君。出陣の準備をするがよい。呼ばれなかった者はまだここの護衛をよろしく頼む。

 八雲のスキマを封じる結界は維持するのに多大な労力がかかるからのう」

 

 ぬらりひょんは連合の勢力領域内に紫のスキマを使えなくする結界を展開しておりこの中ではスキマが使えなくなってしまっている。

 だから紫たちはこうして消極的に動かざるを得ないのだ。

 この結界は地底にも影響を及ぼし、さとりたちは直接進軍しなければならなくなったのだ。

 出陣を許可されなかった者も不満は無くぬらりひょんを守ろうとする忠誠心で一杯だった。

 

 ──平将門、八岐大蛇、大嶽丸。

 彼らが戦場に出ることで戦況にどのような影響をもたらすのか、まだ誰にも分からない。

 だがこれだけは言える。

 幻想郷は怨嗟や血の色で汚れるのは間違いない。

 

 ”巫女殺し”、遂に動く。

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