東方争乱譚 ぬらりひょんの乱   作:ryugann

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千年の時生きる怨念 平将門

 ~参と参の砦~

 

 この砦には、もう秩序は無かった。

 一騎当千を謳う猛者や数多の知恵を得た知恵者は狂乱した。誰も彼もが脱出路であるスキマに逃げ込んだ。

 まだ門は破られてないのに、城壁には傷一つ付いていないのに、まだ敵はギリギリ視認出来る距離にいるのに、まだ戦ってもいないのに。

 これはもはや敗走だ。

 もう、秩序は無かった。

 

 

 「待って!何で逃げるの!?私たちはまだ戦ってすらいないのに!」

 

 連合軍がこちらに進軍したのを確認しただけで逃げ始める兵たちをこの砦の将軍である二口女(ふたくちおんな)が必死に呼び止める。

 だがそんなものなど狂乱する兵に効果は無く、六百の兵はあっという間にこの砦を後にした。

 残ったのは彼女と八名の兵だけだった。

 

 「はあ…しょうがないわ。こうなったらもう戦いは出来ないわね。せめて情報を集めないと八雲に顔向けは出来ないわね」

 

 残った彼女たちは自分の仕事を果たそうと撤退はまだせずに情報収集をすることを決め、敵の様子を知るために城壁に上がり敵軍を見た。

 見てしまった。

 

 ──なぜ彼女たちは錯乱せずにいられたのか。二口女は将軍としての責任とそれを見ていなかったから。兵たちは単にこの脅威を知らなかったから。

 無知というのは罪である。それを知るにはよい光景だったと先に言っておこう。

 

 「な、に…これ……」

 

 それはこの砦に転移して来た兵たちの言う妖怪たちでは無かった。

 そっちの方がどれほど良かっただろう。

 だが彼女たちの前にいるのはあえて言うなら狂気だろう。

 兵と思わしき者たちは皆、紫がかった黒色の靄を身体全体を覆っていてその身体はどす黒く色の違いは赤、黄の眼光しか分けることが出来ない。

 その兵たちはいくつか種類があった。

 幻想郷でよく見るが千切れてる箇所が目立つ百姓の服を着た武装をしていない者が六割。

 傷跡が残っていること胴丸を身に付けて刀や槍、弓を装備している者が三割。

 見るからに立派だったであろう大鎧を身に付け、業物だった武具を手に持つ者が七分。

 その大鎧に加えて目に狂気が走っている赤目のどす黒い馬に乗った者が三分。

 それら合わせて三千。これが今迫っている軍だった。

 

 「無理…勝てるわけない…!情報収集なんて出来ない…!」

 

 狂気を見てしまいさっきまでの考えが音すら立てずにされど激しく崩れていく。

 そして二口女に残ったものは、

 

 「撤退……総員撤退ーーーーーー!!!」

 

 逃げることだけだった。

 だが兵士は違った。

 

 「くそがっ!喰らいやがれ化け物共!」

 

 無知という罪を持つ兵たちは本能が警鐘を鳴らしているのにも関わらず明らかに不要な見栄でそれを無視してしまう。

 残された手付かずの大筒で狂乱するように無鉄砲で当てまくり、狂気は爆発と共にはじけ飛ぶ。

 それに喜んだのも束の間、狂気は再び再生する。

 しかもその際に「イタイ、イタイヨォ……」「タス…ケテ」「ウラミウラミウラミ……!」と喋るのだ。

 もし二口女がここに残っていれば狂気に飲まれて外に飛び出て狂気に身を捧げただろう。だが彼女はここにはいないのは人生最大の幸運といって良いだろう。

 今頃、彼女は戦うのは現時点で不可能と判断した紫によって永遠亭にて逃げた六百の兵と共に精神治療を受けているだろう。

 

 この時点で彼らはようやく気付いたのだ。これはもう自分たちの手には負えないものだと。

 彼らは悟ると死に物狂いで急いでスキマに向かう。さっきまであった見栄や武装も全て捨ててほとんど裸の状態になって。

 だがもう遅い。運命は彼らを見捨てたのだから。

 

 「何で……何でスキマが無いんだよ!?」

 

 このスキマは各砦の将軍に連合に悪用されないようにと紫から閉じる権限を与えられており、将軍の二口女がそれを使用したからだ。

 そしてスキマを再び開かせるには一度紫に連絡しないといけないのだが今からではもう間に合わないだろう。

 二口女は自分が飛び込んだ後、狂気が入らないようにとスキマを閉じてしまったのだ。

 

 「くそ、くそ、くそがーーー!!!」

 

 狂気に当てられ正気を失った兵の内三名は囲まれていない方の門の城壁から飛び降りて脱出した。

 残る五名もそれに続こうとしたが止まってしまった。

 

 「待て、待て……嫌だ、嫌だああああああああああ!」

 

 そこには見慣れない妖怪──ロード・ウェスタンズ所属の西洋妖怪──が逃げた三名を達磨にして遊んでいたのを見てしまったから。

 もう既に全方位囲まれていたのだ。

 どう動けばいいのか分からずに動きが止まった──

 

 運命に捨てられたのなら狂気が君たちを拾おう

 

 終わりが来た。城壁から這い上がってきた狂気が我先にと新鮮な肉を喰らわんと彼らを貪る。

 門が開いた。馬に乗った狂気が兵の姿をした狂気と共に手柄を頂かんと功績に向かい突撃する。

 

 そこは、地獄だった。

 体の全てを喰らわれる痛みよりも魂が浸食されるような不快感が大きく襲う。まるで自分ではない誰かになろうとしていると思うように。

 生きたまま生皮から肉、骨まで無造作に剥がされ、それを勲章のように月に見せるように大きく掲げている。

 砦の外にいた兵はとっくに息絶えていた。その死体はグールとして眷属にされ、死後も辱められるがそれでも彼らの方がマシだろう。魂は輪廻に帰れたのだから。

 

 「クク。見世物としては良い物だったな」

 

 地獄の光景を見てそんな感想を残すのはロード・ウェスタンズの幹部でこの部隊を率いている吸血鬼だった。

 

 ロード・ウェスタンズとは幻想郷にいる吸血鬼やケンタウロス、ゴブリン、オークといった西洋の魔物や怪物で構成されている組織でその目的は日本の人外が多いこの幻想郷で肩身が狭い西洋妖怪の相互協力するための組織である。その影響は大きく西洋の大半が所属しており紅魔館にいる者も大多数が所属している。

 だが上層部はこの幻想郷を支配しようと企む西洋第一主義者で固まっており組織を悪用する者が多く、レミリアを筆頭とした幻想郷を気に入ったり日本妖怪と仲の良い者らとは仲が悪い。

 そんな彼らがぬらりひょんを筆頭とした日本妖怪が率いる反八雲連合に属したかというとだが、そっちの方が面白そうだから。という何とも言えない理由である。

 しかも両者が疲弊したら漁夫の利を得る気満々で連合からは全く信用されていない。

 

 

 しばらくすると砦の中にいた狂気──怨霊兵──は姿を消し、ウェスタンズの前の門が開くと平将門が堂々とした振舞いで歩いてきた。

 幹部の吸血鬼は目の前で止まった将門に貴族のような優雅のあるお辞儀をする。

 尤も、内心は最上幹部の将門のことを馬鹿にしており、お辞儀で顔が見えない時、屈辱のあまり怒り狂った形相だったが。

 

 「砦攻略おめでとうございます。流石、我らの仇敵博麗の巫女を殺した巫女殺し。この程度の砦など一瞬で落とすとは吾輩、感服致しました。

 ──しかし、見世物としては迫力はありましたが優雅さが欠けておられるかと。野蛮な兵を持つ苦労、心中お察しします」

 

 この吸血鬼の言い草に将門の怒りを買いかねないと周囲の、あの惨状を見た者は顔を真っ青にしたが、将門は気にすること無く伝令兵の役割を持つ山彦(やまびこ)を傍に呼んだ。

 

 「翁と各地の奮戦している部隊に伝えよ。参と参の砦を我が、平将門が攻め落としたと」

 「承知しました!」

 

 山彦は砦の高い所に上り、各地に将門の活躍を伝える。

 それを横目にして無視されたことに吸血鬼は怒り狂い、青筋を立てていた。

 だが将門にはそれが見えていないのか──はたまた無視してるのか、特に気にすることなく、用件を告げる。

 

 「先に紅魔館を包囲している千の部隊からは連絡は入っておるか?」

 「──!………はい、我らだけでは攻略出来ないと援軍を要請しております」

 

 名前も言わず、召使いに接するような態度をされて、怒りが爆発しそうになるが何とか落ち着いて返答をする。

 だが将門はこれに対して火に油を注ぐ言葉を放った。

 

 「そうか。奴ら、攻略は任せろと大口を叩いておったが無様に援軍を要請したか。──お主ら弱いな」

 「──!!!きさ──」

 「だが援軍要請が来たなら動かなければいかん。急ぎ軍を纏めて紅魔館に進軍するぞ。早くしろ」

 

 それを言うと将門はこの場を去っていった。

 残されたウェスタンズは幹部の吸血鬼の怒りに巻き込まれないようじりじりと離れる。そしてとうとう怒りを爆発させた。

 

 「ふざけるなよあのくそ老害がああ!!!」

 吸血鬼は近くにいたグールになった元連盟の兵三体を殴りつけ殺した。

 

 「下手に出てやったら調子に乗りおって!!一番に声をかけるべき相手である吾輩を無視してあんな雑魚を相手にしおって!!」

 

 それでも怒りは収まらず、今度は砦に向かって魔力弾を放ち、大きな爆発を起こした。

 

 「挙句の果てに吾輩らを弱い!!弱いだと!!舐め腐るにも限度があろう!!」

 

 気付けばこの一帯は吸血鬼の癇癪によって大きな爆発があったのかと疑うほどに荒れ果てていた。

 しばらくしてようやく落ち着いたようで激しい動きをしたため大きく息を荒げながら、命令を下す。

 

 「……くそ。紅魔館に進軍する。支度を急げ。この怒りはレミリアにぶつけることにする……」

 

 しばらく惚けて動けないでいた兵士だったが吸血鬼の睨みによって正気に戻ると、慌ただしく動いていく。

 

 「……」

 

 その様子を茂みに隠れていた怨霊兵は赤く光る目でずっと見つめていた。

 

 「……そうか」

 

 林の中で佇む将門はそう呟きながら月を見る。

 

 「ウェスタンズに反乱の兆しあり。だがそれを鎮圧する戦力は全て出払っておる、か。……あの姉妹に頼むしかあるまい。」

 

 だがそれは諸刃の剣にもなり得るもの。ぬらりひょんもあまり戦線に出したくないのだがこの状況では仕方ないと納得するしか無いだろう。

 そう判断すると周囲に誰もいないことを確認するとポツリと誰もいない空間に話しかけた。

 

 「おい、お主ら聞こえているか。聞こえなくても話すがな。

 ロード・ウェスタンズが裏切ったなら我の代わりに主らが討伐に出向け。用はそれだけだ。ではな」

 

 誰もいないのに一方的に話を切ると歩くのを再開する。

 目標は紅魔館の制圧。戦力は未だ不明。主のレミリアの実力も未知数。骨が折れるならまだ良い方で最悪、討たれる可能性も考慮するべきだろう。

 

 「だが負けぬ、負けられぬ」

 

 さっきまではいなかった隣に馬が現れた。その馬も例外無くどす黒い靄に覆われている怨霊兵の一部。だがその馬には角が二本生えている兜と全身に鉄の鎧が装備されており、ただの馬では無いことが一目で分かる。

 将門は馬の頭を優しく撫でると跨り、進む。

 

 「奴が五百年生きた吸血鬼ならば千年以上存在する怨念の力を見せつけてやろう」

 

 将門が通った跡から怨霊兵が現れ、彼に着いていく。

 いつの間にか将門の後ろには三千の軍勢があった。

 並みの妖怪が見たら正気を失い錯乱するだろう。

 強者が見ても吐き気や悪寒が襲ってくるだろう。

 その軍勢はただの怨霊の群れに非ず。

 千年経ても消えること無い恨みを持つ武将の率いる百戦錬磨の軍勢である。

 彼らが向かうのは紅き吸血鬼が座す館。

 そんな彼らが光を吸い取ってしまったのか月は今宵、現れることは無かった。

 

 

 

 

 

 ~紅魔館~

 

 紅魔館は現在、反八雲連合の千の先遣隊の攻撃を受けていた。

 

 「烏合の衆ね」

 「辛辣ね、パチェ」

 

 大図書館で呑気にチェスをしているレミリアとパチュリーはそんな会話をしていた。

 こんなことはしているが外では連合が攻め込んで来ており、美鈴率いる門番隊が防衛している。

 

 「だってそうでしょ?レミィもこの映像見てたらそう思うわよ」

 「まあ、そうね」

 

 パチュリーの指差す方向に置いてある水晶玉から拡大された映像を見ると戦っている美鈴の姿が映った。

 

 

 連合軍が迫っているのに気付いた時、美鈴が最初にしたことはストレッチだった。

 腕や足を伸ばしたり回したり、首を動かしたり。

 それが終わると次に咲夜から貰った夜の賄いを食べ、完食した。

 そして最後に身だしなみを整えた。

 なぜそれを今やるのか分からない。それは連合軍も感じただろう。

 

 「あの女何してるんだ?」

 「吞気に飯食いやがって、あれが最後の晩餐ってやつか!」

 「ひゃひゃひゃ!笑えるなそれ!」

 「よっしゃあ!一番槍は俺がもらうぜ!」

 「あっずりいぞ!」

 

 そうして帽子の被る角度を調節している美鈴に一体の狼男が迫ってくる。

 だが彼女はまだ戦闘態勢に入らない。

 

 「隙だらけだぜお嬢ちゃんよお!」

 

 鉄すら綺麗に切断されそうな強靭さを感じる爪が美鈴の顔まであと十センチ。

 そのまま彼女の顔は一生残るであろう傷が出来ることになる。

 はずだった。

 

 「ヒャッハー!女討ち取ったリュゲエ!?」

 「──全く、女性の顔を狙うなんてマナーがなってませんね」

 

 だがそうはならなかった。

 狼男は美鈴の顔に爪で引っ搔こうとした。

 だが美鈴は動作無しで回し蹴りをしただけだ。それだけで狼男は遠くまで吹っ飛んでいった。

 それに驚いたのは狼男だけでは無く、これを見てた連合軍もだった。

 

 「今、何が起きた?」

 「あいつが回し蹴り喰らった……?」

 「だが予備動作も無しであんな素早く出来るのか?」

 

 戸惑い進軍を止めた連合軍は美鈴に隙を見せてしまった。

 もし指揮官が多くの戦いをしてきた猛者だったら最初こそ美鈴の動きに戸惑うだろうが彼女の危険性が分かるため隙を与えないよう一斉に攻撃を命じるはずだろう。

 これで美鈴の戦闘準備は整ってしまった。

 

 「さて、準備も整いましたし……」

 

 美鈴は己の中にある気を一気に放出する。

 これは相手への威嚇もあるがこの事態を紅魔館に、主であるレミリアに伝えるために。

 気の放出によって美鈴の周りの地面は表面が吹き飛び、中身が露になる。

 

 「──紅魔館門番、紅美鈴、参る」

 

 そして蹂躙劇が始まった。

 

 

 「っ!こ、この女ーーー!!」

 

 最初の犠牲者となったのは回し蹴りを喰らった狼男だった。

 これに怒り、がむしゃらに突っ込んでいく。

 しかしその速度は先ほどと比べると比にならないほど素早く襲い掛かる。

 

 「ふんっ!」

 

 だが美鈴はこの速度にも難なく対応し、正拳突きで心臓がある箇所を撃ち抜く。

 その衝撃に耐えられず身体にぽっかりと穴が空き、死んだ。

 

 「ひっ…!攻撃だ、全員で攻撃しろーーー!!」

 

 ようやく命じられた攻撃命令に従い、連合軍は一斉に美鈴に襲い掛かる。

 だが美鈴は次々迫りくる攻撃を躱していき確実に一人一人仕留めていく。

 空から来るガーゴイルやデーモンを足技で撃ち抜いていき、チャンスがあれば掴み取ってそれで攻撃をしていく。

 

 はっきり言って勝負にはならなかった。

 しかしこれは勝負では無い。戦争なのだ。

 

 「弓兵、魔術師、一斉に撃てぇーーー!!」

 「なっ!?待て、まだ俺たちがいるぞ──がっ!」

 

 遠距離から味方を巻き込む攻撃もあれば。

 

 「ウェスタンズに栄光あれー!」

 「しまっ…!くっ!」

 

 自爆や毒など不意を突いた攻撃もある。

 そして数。例え烏合の衆でも数の力は馬鹿には出来ない。

 美鈴も疲労が溜まり避けれる攻撃も避けることが難しくなっていき傷が増えていく。

 それでも美鈴の周りには百を超える死体があるので見事というほかない。

 

 「どうした?もう来ないのか?貴様らのその牙は、その爪は、ただの飾りか!」

 

 啖呵を切る美鈴だがその身体は傷だらけで血が流れ、満身創痍の状態であった。

 そんな状態で啖呵を切っても彼女の強さを目の当たりにした連合軍にとってはやせ我慢にしか見えない。

 連合軍はニヤニヤと笑みを浮かべて美鈴を包囲していく。

 

 「よくも散々やってくれたなあ?お嬢ちゃん?」

 「囲め囲め。この女どうやって仕留める?」

 「炙り殺すのはどうだ?」

 「少しずつ肉を削ぎ落そうぜ。そっちの方が長く楽しめる」

 「いいなそれ」

 

 自分たちが勝つことを確信したのか捕らえてもいない美鈴の処遇について話し合う妖怪たち。

 美鈴は疲労を回復することを優先してるのか動きを見せない。まるで何かを待っているように。

 

 ここで繰り返し言おう。これは勝負では無い。戦争なのだ。

 連合軍は大きな過ちを犯している。

 

 一つ目は誰も紅魔館に向かわずに美鈴に集中したこと。

 一部は美鈴を無視して進軍した者もいたが数が足りず既に壊滅してしまっている。

 

 二つ目は美鈴を仕留めていないこと。

 彼女が満身創痍である今が最後のチャンスだったがもう時は遅い。

 

 そして最後は撤退して本隊の平将門に応援を要請するべきだったこと。

 美鈴の奮闘により先遣隊の一割が被害を出してしまった時には士気は大きく下がっており撤退し、援軍を要請するべきだったのだ。だが要らない見栄によってその決断を下すことは無かった。

 

 もう一度言おう。これは戦争だ。

 

 

 「無様に死に晒せぇーーー!!」

 

 連合軍は一斉に美鈴に向かって走ってくる。

 どうやら話し合いの結果は早い者勝ちということになったそうだ。

 対する美鈴は、まだ充分な回復は出来ておらず万事休すか。

 だがそれでも一歩も動くどころか迎撃さえしておらず目まで閉じている。

 そして目の前に迫った時、目を開いた。

 それと同時に──

 

 「よく粘ったわね。紅魔の龍はまだ健在のようね」

 

 銀のナイフが美鈴を囲むよう全方向にいる連合軍に一斉に襲い掛かった。

 

 「ぎゃっ!」

 「がっ!?」

 

 そしてそのまま倒れていく連合軍。

 

 「なっ!?銀のナイフだと!?まさか……!」

 「少し遅くないですか。咲夜さん」

 

 内容は咲夜を責めているのだがそんなことは本気で思っていないようで美鈴はいつの間にか隣にいるメイド長、十六夜咲夜に声をかける。

 

 「ごめんなさいね。ちょっと準備するのに時間をかけすぎたわ」

 「うーん、咲夜さんが言うには説得力がありませんねそれ」

 「だけどその分の働きは期待出来るわよ。ほら上を見なさい」

 

 それに促されて上を見ると紅魔館から一筋の光が走っていた。

 やがてそれが一定の距離まで着くと霧散するとそこから透明な膜が広がり、それを紅魔館を中心に包まれた。

 完全に包まれるとに連合軍に異変が起きた。

 

 「グッ!?なんだ、力が……!?」

 

 急に苦しみだした連合軍。何が起きているのか。

 気を操る程度の能力を持つ美鈴には連合軍に何が起きているのか簡単に理解出来た。

 連合軍の兵士たちの持つ気が消失、いやどこかに散っていた。

 

 「咲夜さん、これは?」

 「説明は後よ。そんなことより彼女たちもあなたの応援に来たみたいよ」

 

 囲んでいる連合軍の後方、紅魔館側にいた方から騒ぎが聞こえてきた。

 前方の兵士たちは混乱を始めた。

 

 「なんだ!?今度は何の騒ぎだ!?」

 「伝令!紅魔館の軍が攻めてきました!その数、百とのこと!」

 「何!?我らの十分の一の兵士だと!?」

 「百…?まさか…!」

 

 美鈴には心当たりがあるのか驚いていたが包囲の中から一人の人影が彼女の前に現れた。

 それは左目に眼帯を着けた歴戦の雰囲気を出している妖精だった。

 

 「隊長!ご無事ですか!?」

 「副隊長!?」

 

 門番隊の副隊長を任されている妖精でその実力はチルノやクラウンピースには負けるが指揮能力は門番隊では美鈴に次ぐ高さを持っている。

 

 「遅れてしまい申し訳ありません!我々が早く気が付いていれば隊長が深手を負うことは無かったというのに……!」

 「大丈夫ですよ、こんな傷なんてあっという間に治りますので。しかしなぜ突出した?」

 

 門番隊の隊長として副隊長を 責するがそれを承知で副隊長は誇らしげに笑う。

 

 「我らの隊長が戦っているのです。我々が手をこまねいていては門番隊の恥です。それに御安心を、応援は続々来ています!

 あれをご覧ください!」

 

 副隊長の指差す方向には七つの正八面体のクリスタルのような物がこっちに向かってきた。

 別々の場所に配置されると動きは止まり、内側から光が見える。

 それは数秒後、一筋の光線となって連合軍を襲う。

 残った力で迎撃するが高速で動き回り、軽々と避けられてしまう。

 

 「驚いた?これがパチュリー様の考案された新型の防衛魔法よ」

 「ええ、驚きましたよ。まさか攻めてくる者の力を奪って攻撃するなんて流石パチュリー様です」

 

 そう美鈴の言う通り、これは相手の力を奪ってそれを利用する魔法である。

 最初に包まれている結界で相手の力を吸い取ってあのクリスタルで攻撃するという代物だ。

 

 そしてさらに追討ちをかけるこのように弾幕が展開される。

 この弾幕を放っているのはメイド妖精たちで殺傷能力は低いがそれでもゼロというわけでは無く、虚仮脅しにも使える。

 

 「隊長殿!もはやこれは戦いではありません!至急撤退を!」

 「…………チッ!後退だ!後退をしろ!」

 

 あくまでも撤退を認めないがそれを待っていたかのように連合軍は全力で逃げていった。

 それを追うことは美鈴たちはせず、周りは勝鬨を上げる。

 美鈴は今までの疲労が重なったのか倒れそうになるが咲夜が抱えてくれた。

 

 「まったく……無理しすぎよ。そんなになってもうちは労災は無いから。まあ、ボーナスは弾むわよ」

 「はは……。それなら頑張ったかいがありましたね」

 

 その後、美鈴は咲夜に医療室に運び込まれ、治療を受けたがあれだけの傷を受けて一日で完治したという。

 

 

 「あいつらが本隊だったら笑えるわね。チェックメイトよ」

 

 映像が終わり、チェックメイトの宣告をするレミリア。

 パチュリーは詰みと理解すると溜息を吐きながら駒を片付ける。

 

 「本当、ズルいわねその能力。で、敵の本隊はいつ来るか分かるのかしら?」

 「あら、そんなことで能力なんて使わないわ。だってつまらないもの。結果が分かってる人生なんてごめんよ。

 ……本隊は三日後、おぞましい何かが来るわ。敵も本気で来るようね」

 「レミィが挑発したからよ。それで、今更怯えて降伏する?」

 「冗談。この私が降伏するとでも?」

 「無いわね。レミィのことだからいっそのこと太陽で焼け死ぬことを選びそうね」

 「どれも嫌よ。さ、迎撃の準備するわよ。大魔法使い様」

 「ハイハイ、わかったわよ。吸血鬼様」

 

 

 

 

 

 三日後

 

 平将門率いる怨霊の軍勢が先遣隊が建てた陣営に入る。

 その時ちらりと紅魔館を見ると直感的に感じた。

 あの中に己と互角の力を持つ者がいることを。

 それがレミリアだと確信を持つと改めてレミリアに対する評価を上に上げる。

 

 「あれがレミリア・スカーレットか。あのような覇気を纏う者がまだいたとは驚きよ。だが恐るるに足らず。

 全軍に通達。西洋より落ち延びて来た落武者共に我らの怨念を、執念を、馳走してやれ!」

 

 怨霊兵は声をあげることはせずただジッと紅魔館を睨むのだった。

 

 

 レミリアは自分が見た運命の通り、おぞましい者が来たと分かると左目を蝙蝠に変えて偵察に出させた。

 そして見た。

 敵の首魁らしき妖怪。平将門を。

 それが纏う覇気、いや怨念を目の当たりにしたレミリアは思わず汗を流す。

 

 「あれが敵の頭ね。これは評価を訂正しないといけないわね。でもそれでこそ私と戦うに相応しい。

 総員に告げる!古い世に縛られた老害共を我ら紅魔館の武勇で完膚なきまで叩きのめしこの世から引退させてやりなさい!」

 

 レミリアの鼓舞により静かに戦闘準備を整え、士気をあげる紅魔館の勇者たち。

 

 

 この戦争の命運を握る戦が今、始まった

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