イルガル物語   作:うたた寝犬

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第1話「プルトナス①」

 遠くで爆発音が響く。それに伴って少しの地鳴りがして、僅かに身体が揺れる。

 

 何度も何度も繰り返されて、もはや音が先か地鳴りが先なのか分からなくなった戦場に、軽装な防具を身に付けた1人の少年が立っていた。

 

 褐色の肌に、冷さを感じさせる赤の瞳。夜より黒い髪を靡かせる少年は、遠くに見える敵の拠点に目線を合わせながら、耳に手を当てて通信機能を起動した。

 

《こちらプルトナス。ニュクス、応答してくれ》

 

 その声は低く淡々としていて、聞き取りやすくはあったが無機質さを感じるものだった。

 プルトナス、と名乗った18歳の少年の通信に、ニュクス、と呼ばれた者の声が返ってきた。

 

《こちらニュクス。首尾は上々、予定通り、あと数分で仕掛ける。そっちは?》

《こっちも予定通り、問題ない。打ち合わせ通り、そっちの動きがあったら行動を開始する》

《了解》

 

 無表情で淡々と確認していくプルトナスだが、不意に、背後に一瞬だけ意識を向けてからクスッと笑い、報告の内容を追加した。

 

《問題ない、と言ったが……、強いて問題をあげるとすれば……うちのお姫様がまだかまだかって顔でうずうずしてる。ニュクス、急ぐなとは言わないかが、遅れないでくれ》

《ははっ! りょーかい了解!》

《頼んだ》

 

 そう言って通信を切り、プルトナスは耳元から手を離す。通信が終わると同時に、彼の背後で待機していた人影が、溜め込んでいた不満を爆発させたように口を開いた。

 

「プルト! 最後の報告は絶対いらないでしょ! 余計な事は言わないでください!」

 

 戦場という場に似つかわしくない綺麗な少女が、どことなく幼さを思わせる言動でプルトナスに抗議した。誰も踏み入ってない雪山を思わせる汚れのない白い肌に、余計な色を取り除いたような白銀の髪。快晴の空を押し込めたと言われたら信じてしまいそうなくらいの透き通った青い色の瞳で見つめられたプルトナスは、

 

「はいはい、すみませんでしたね」

 

 煩わしそうに、でもほんの少しだけ嬉しそうに答えた。そんな彼の返事が気に食わなかったのか、少女はちょっとだけムキになった様子で彼に食ってかかる。

 

「返事は一回でいいから! それと、さっきの通信も無駄が多い! 報告の基本は、余計な言葉を少なく簡潔に! 基本のキだから!」

「申し訳ありませんでしたね、お姫様」

「その言い方、絶っ対反省してないよね!? あと、私はお姫様じゃないですから! あくまで貴族であって、私なんかをお姫様なんて言ってたら、本当の姫さまに失礼ですから!」

「これはこれは、大変失礼しました、上級貴族さま」

 

 言い方こそ丁寧ながらも、煽るような、小馬鹿にするようなニュアンスが込められたプルトナスの言葉を、少女はしっかりと受け取り、ワナワナと震えた。

 

「〜〜っ! プルト! 私にはカロナという名前があります! それと、任務中は私と貴方の立場は同じなのです! だから、そんなかしこまった変な話し方をせずに! カロナと、名前で呼んでください!」

「いえいえそんな、俺のような代々派兵しかしてない平民の身で、貴族さまの名前を呼ぶなどと恐れ多い」

「……っ! この……っ!」

 

 形だけ丁寧ながらも、ふざけたような、のらりくらりとかわすような言動を続けたプルトナスだが、ついに堪忍袋の尾が切れたのか、カロナが動いた。

 

 完全な脱力から、腰に刺した剣を素早く抜き、その切っ先をプルトナスの喉元に突きつける。その速さは女性の身体では考えられないものであり、ましてや男性のものよりも遥かに速かった。

 

 その秘密は、『トリオン体』と呼ばれる特別な身体にあった。

『トリガー』と呼ばれる技術と、人体から生まれる『トリオン』という生体エネルギーから生み出された『トリオン体』は、外見こそ生身の身体と変わらないものの、生身とは比べものにならない速さと力強さ、耐久力を発揮する。

 

 カロナやプルトナスは今はトリオン体に換装……、いわば変身した状態であり、生身を越える挙動を可能にしていた。

 

「……」

 

 突きつけられた刃の切っ先を見て、プルトナスはゴクリと生唾を飲んでから、嘆息する。

 

(今日も、来ると分かっていても見切れなかった……。相変わらず、反則めいた速さだな……)

 

 これを見るために煽っていたとは言え、今日もこの速さを見切れなかったことに悔しさを覚えながらも、プルトナスはそれを悟られないように、表情を変えずに口を開いた。

 

「分かったよ、カロナ。これでいいか?」

「ええ、分かればいいのです」

 

 口調が砕けたことと、名前で呼んでもらったことに満足したのか、カロナはスッと剣先を引いて鞘に収め、ニコリと、柔らかく笑んだ。

 

 2人の間の騒動が一悶着した、その瞬間、

 

『ウゥゥゥゥ────ー!!!!』

 

 耳をつんざくようなサイレン音が、戦場に響き渡った。

 その音に、2人は臆せず反応する。

 

「プルト!」

「ああ、この音……相手基地の警戒音だ。打ち合わせ通り、ニュクスがやってくれたみたいだな」

「ええ! 行きますよ!」

「了解!」

 

 崖から飛び降り、2人は敵の拠点めがけて荒野を疾走する。トリオン体の操作を熟知しきった2人の駆ける速さは並大抵のものではなく、3キロ近くあった距離をあっという間に駆け抜けた。

 

 拠点近くに来ると、白い生物のような機械のような異形な怪物と、人が交戦していた。

 

 異形な怪物の名は、『トリオン兵』。トリガーの技術によって造られた、戦いのための兵器だ。

 

 当たり前だが、基地を守るようにして配置されているトリオン兵と、交戦している人は敵対している。そして今回プルトナスたちは、人側の味方だった。

 

 前を走るカロナは、素早く敵のトリオン兵の数を確認する。

 

「モールモッドが5体! バンダーが12体!」

「先にモールモッドを狩って、カロナはここの指揮官と情報の交換を! その間に俺は、味方兵を助けつつバンダーを封殺する!」

「分かった!」

 

 役割を確認したカロナは、より一層加速し、1番近くにいたモールモッドとの間合いを一気に埋めた。

 

 モールモッド。4本の足に、2本のブレードを持つ、戦闘用のトリオン兵だ。平べったく、腹を地面につけるような体勢のモールモッドはどことなく昆虫を思わせるものがあったが、そのサイズは人が有に数人背中に乗れるほどの巨躯だった。

 

 近くで対峙すれば、思った以上の大きさと、全トリオン兵屈指の硬度を誇るブレードに、多少なりとも恐れを抱いてもおかしくはない。ましてや、戦闘を目的として造られたトリオン兵であるがゆえに、強い。多少の訓練をしただけの兵士では、負けてしまうことも決して少なくないトリオン兵ではあるが、

 

「おっそい、よ!」

 

 戦場で誰よりも速く鋭く駆けることができるカロナの敵ではなかった。モールモッドがカロナの存在に気付き、戦闘態勢に入る頃には、カロナはモールモッドの懐に入り、先程プルトナスに突きつけた剣、『プセマ』を素早く振り抜いた。

 

 カロナの一振りはトリオン兵の弱点である目を的確に切り裂き、モールモッドをあっという間に沈黙させた。

 

「次っ!」

 

 敵どころか、味方すらも何が起こっているかわからない中、カロナは淀みなく次の動きに移り、モールモッドを一体、また一体と刈り取る。

 

 戦場が混乱に包まれる中、プルトナスも動いた。

 

「……『フィラフト』起動」

 

 その声に合わせて、プルトナスの背後に『トリオン』が集まり、彼の武器が現出する。

 

 直径3メートルほどの、円形の盾だった。6枚から構成された盾は空中を滞空し、プルナトスはその全てを制御して自身が思い描いた通りに自由自在に操ることができた。

 

 プルトナスは戦場を広く見て、バンダーという砲撃用のトリオン兵の何体かが、カロナめがけて攻撃しようとしているのを確認した。

 

(こんなのに当たるような奴じゃないが……、万が一のことがあれば寝覚めが悪いからな……)

 

 そう判断したプルトナスは、バンダーの砲撃に合わせて盾を数枚操作し、カロナに当たるかもしれなかった砲撃を全て防いだ。

 

「ナイス防御!」

 

 盾による援護を初めから考慮し、なおかつ全て防いでくれると全く疑っていなかったカロナはそのまま、全てのモールモッドを撃破した。

 

 カロナとプルトナスの救援を見て、劣勢だった味方軍らが徐々に落ち着きを取り戻す。状況を把握しつつある味方側の兵士を見て、通信機能と肉声を合わせて名乗った。

 

「《我々は派兵国家『イルガル』の者です! ここの指揮官はどちらにおられますか!》」

 

 その声に反応した指揮官を見つけたカロナは、彼が声を発する前に移動を開始し、彼が名乗り終わる頃には眼前に達していた。

 

 指揮官だと名乗る彼に一礼し、カロナも改めて名乗る。

 

「今回、依頼を受けてイルガルから派兵されました『オラトロス小隊』代表の、カロナ・オラトロスです。この度はご依頼ありがとうございます。早速ですが、戦況の確認を……」

 

 打ち合わせ通り、情報の交換を始めたのを確認したプルトナスは、戦場に倒れる味方陣営の兵士達の救助に当たった。

 

 倒れる兵士に近寄り、プルトナスは兵士の状態を確認する。その兵士の傷口からはトリオンではなく赤い血が流れ出ていて、生身であることがうかがえた。初めから生身だったのか、それとも戦いの中でトリオン体が破壊されて生身となったのか……、どちらかは定かではないが、意識の確認を兼ねて声をかけた。

 

「おい、生きてるか?」

「……ぅ……ぁ……」

「よし、なら歯を食いしばれ。生きることにしがみつけ」

 

 プルトナスは手持ちの包帯で簡易的な止血を兵士に施し、背後に滞空させていた盾に乗せる。そのまま味方陣営まで運ぶ。浮遊する盾という特性や使い方を、プルトナスはトリガーを手にしてからの四年間で熟知していた。

 

 プルトナスは同じ要領で、戦場に倒れている生身の兵士を救出し、まだトリオン体の兵士には一度戦線から下がるように指示を促す。その間にもバンダーは砲撃を仕掛けてくるが、プルナトスは4枚の盾を駆使してそれを防ぎ、2枚の盾で兵士の運搬を続けた。

 

 救出を続けながら、プルトナスは負傷して倒れる生身の兵士の数が多いことに気づき、ここを攻めている部隊は、生身の兵士が多く配属されているチームなのだと悟った。

 

 トリオン体はトリガーと、生身の身体にある『見えない臓器』とも言われる『トリオン器官』という内臓から生み出される生体エネルギー『トリオン』を元にして生み出される。

 

 トリオン器官は優劣こそあれ、誰もが持つものであるが、トリガーはそうはいかない。

 

 数に限りがあるものであり、全兵士に配属できるようなものではない。そのため戦場には、生身でも使える簡易トリオン兵器を手にして戦う兵士が数多くいる。

 

 この部隊はそれが顕著だったようで、少し意識すれば、焼け焦げた大地の匂いに混ざり、()の匂いが……、敵刃や砲撃によって流れ出た、血の匂いが充満していた。

 

 鼻孔を抜けて脳に刺さるような匂いに、わずかに顔をしかめながらも、プルトナスは兵士の救出を続けた。

 

「無事か? 意識はあるか?」

 

 血の池に倒れる兵士の肩を叩きながら、何人目になるであろう意識確認をしたが、その兵士から返事はない。薄っすらと気づきながらも、それでも一縷の望みをかけて、倒れる兵士の脈を取る。

 

 その身体からは何の反応もなく、あったのは生命の温もりが抜け出た冷たさ。そして、痛みや死への恐怖に絶望といったあらゆる負の感情をまとめ上げ、爆発させたような、最期に際に浮かべた表情だけだった。

 

 生命の喪失を確認したプルトナスは、せめてもの情けとして、遺体をこれ以上傷つけないようにそっと盾に乗せ、丁寧に両手の指を組ませた。

 

 逃れられない運命を全うした名も知らない兵士への敬意として、死によって歪んだ彼の顔を整えてから、物言わぬ身体を仲間の元へと運んでいった。

 

 共に生きた仲間の変わり果てた姿を見た彼らから、生々しい叫び声が聞こえ、それがプルトナスの心に突き刺さり、仄かに揺れ動かす。だが、そこで彼は一瞬だけ意識して目を閉じ、湧き上がってくる死者への同情心(余計な感情)を心の底へと押し戻した。

 

 そのまま救助とバンダーの砲撃を防ぎ続けたプルトナスの元へ、情報と作戦の共有を終えたカロナが戻って来た。

 

「プルト! 防御と救助ありがと!」

「どうも。それで状況は?」

「問題なし! このままバンダーを数体倒して、後は彼らにここを任せて私たちは拠点に侵入! 手筈通りニュクスと合流します!」

「了解」

 

 目的が防御から侵入へと切り替わると同時に、プルトナスはトリガーを切り替える。救助に回していた2枚の盾を操作し、円形の盾の側面に片刃のブレードをそれぞれ4枚展開し、盾のそのものを高速で回転させる。さながら電動ノコギリのような状態になった盾を、プルナトスは空中を走らせて、拠点を守るように並んでいる12体のバンダーの内、2体のバンダーの首を切断した。

 

 首と胴体が離れて活動できる道理もないバンダーは、その場に倒れる。倒れたそこは防衛網の穴となり、2人はそこから拠点へと侵入した。

 

 中を駆けながら基地内部の設備を見て、カロナは呟く。

 

「情報通り、ここは拠点というよりトリオン兵の製造工場ね」

「立派なもんだな。うちの国もこれだけの設備があれば、兵士の疲労と損害は大分減るんだが……」

「うう……。工場のパトロンたる貴族の身としては、耳が痛い話です」

 

 会話をしながらも移動の速度は緩めず、事前に入手した拠点の簡易見取り図に沿って仲間との合流地点を目指す。なおプルトナスの盾は内部で6枚全て操るにはスペースが足りないため、4枚を収納していた。

 

 設備内では以前として警戒のサイレンが鳴り響いていて、内部に緊張感が走っていることが伺えた。そこに、

 

「急げ急げ! 正門に敵が来てる! 援護に向かうぞ!」

 

 この拠点を守る兵士と思わしき集団と遭遇した。数は8人。外見はみな同じような軍服だが、武装はまちまちで、それが生身がトリオン体かどうかは区別がつかない。

 

 敵はまだ、こちらには気づいてない状態。遭遇は避けることも出来るが……今なら、こちらが一方的に先制攻撃を仕掛けられる。その状況で、カロナは判断を下す。

 

《……プルト! 彼らは無効化します! 私に続いて!》

《殺しじゃなくて()()()だな。了解》

 

 目的を共有した2人は、一気に戦闘態勢に入る。

 

 ドンっ、と、地鳴りがするほどの強い踏み込みで一気に最高速度に加速したカロナは低い体勢で8人との距離を詰める。そして、真っ先に目に付いた兵士の足を、愛剣プセマを振り抜いて切断した。

 

 振り抜く一瞬で、束ねた髪の毛を切り落とす時のような、

 

 プツ、プツ、

 

 とした嫌な感触がプセマを通じてカロナへと伝わる。その直後、強い匂いを伴った赤黒い液体が吹き出し、カロナの視界へと飛び込んできた。

 

 鮮やかでもあり痛々しくもある、独特な色合い。

 脳裏を埋め尽くす、鉄分の香り。

 人肌程度の、嫌な温もり。

 

 命のエネルギー、ともいうべきあらゆる要素を内包した生々しい赤黒い血が、カロナの綺麗な顔を汚す。

 

(ごめんなさい、生身だったのね)

 

 心の中で謝りはするものの、カロナは止まらない。

 

 戦いの中に身を投じた始めの頃こそ、生身の人を斬るたびに、命を絶つ罪悪感や、今際の際に見せる怨念じみた強くてどす黒い負の感情を向けられ、ひどい自責の念に襲われ、身体が強張った。そのまま、戦いの場から逃げ出してしまいたいと、思ったこともあった。

 

 でも、いくら自分が反省し、悔い改めたところで。人を切り、人を手にかけた事実は変わらない。死者が最期に向けた恨みは消えないし、残された者たちの怒りの火が揺らぐこともない。

 

 何より。

 

()()()()()足を止めてしまっては、次に命を落とすのは自分であり、戦いの場で剣を振ることを放棄して俯けば共に戦う仲間の命を危険に晒す。

 

 だから、カロナは止まれない。

 心を麻痺させて、彼女は仲間のために戦う。

 

 使命感にも似た感情によって動くカロナはプセマを完全に振り切った。振り切ったプセマは施設の蛍光を反射して鈍く光を跳ね返してから、次の敵に向かう。

 しかしその前に、カロナはふと、その切れ味を物語る滑らかな切断面と、傷口を抑えて倒れこむ兵士に目を奪われた。

 

 とめどなくドロドロと流れ出る、生温かな血。

 痙攣にも似たピクピクとした動きを繰り返すのは、数多のミミズを並べ束ねたような鮮やかな色の筋繊維。

 人の体を支えるに十分な硬さを持ちながらも、無残に切られた白い骨。

 血の赤と痛みに染まって歪む敵兵の顔。

 

 ゾクリ、と、身体の中の神経をゆっくりと、それでいて無造作に手で撫でられたような、心地悪くも拒みようがない感情と感覚が、カロナの中を駆け巡り、口元を少し、ほんの少しだけ、綺麗に歪めた。

 

 カロナの中を駆け回ったその感覚に、敢えて名前をつけるなら、それは愉悦感だった。

 

 敵と自分との間に広がる、埋めようの無い力の差を持ってして見せつけた勝者感。

 自分が与えた痛みで、歪む敵の顔を見て感じる、ある種の支配感。

 倒れる人間の命の手綱を、全てを握っているような、万能感。

 

 あらゆるものが入り混じり、それはカロナにある種の愉悦感を与える。

 心への痛みは麻痺させ、愉悦という蜜の味だけを贅沢に貪る。

 甘くて魅惑的な感情を脳と心は貪欲に求めて、身体を突き動かす。

 

 その感覚に突き動かされたカロナは意識を戦いに戻し、再度加速する。

 

 低い体勢のまま、同じように兵士の足を切る。耳を覆いたくなるような、痛みが伴う絶叫の中で、ひたすら戦闘員を無効化していく。

 

 カロナが不意打ちからの早業で3人の足が切り飛ばしたところで、敵兵は戦闘態勢を整え終わった。

 

 無駄のない動き、洗練された速さで武器をカロナへと向ける敵兵の背後に、プルトナスが迫る。

 

「うちのお姫様に銃なんか向けるなよ」

 

 その一言と共に兵士が持っていた銃を拳で弾き飛ばし、そのまま流れるような無駄のない動きで敵の腕を絡め取り、容赦なく折った。

 

 ゴキン、という鈍い音と共に、敵兵からは脂汗が滲み出て、苦悶に耐えかねてその場に伏せこむ。

 

(念のため)

 

 倒れる敵兵を見て、プルトナスは念のためにと足の骨も踏み砕き、そのまま次の兵士にも組みつき、骨を折った。

 

 プルトナスが速攻の組み技で敵を2人無効化し、カロナは5人の兵士の足を切り飛ばした。

 

 残るは、指揮官然とした兵士1人。だが、

 

「コイツら……っ!」

 

 残る1人はそう言うと、何もない空中から武器を……、それこそさっき、プルトナスがしたのと同じように大型の銃を展開した。

 

 その挙動で、2人は悟る。

 

((こいつだけはトリオン体かっ!))

 

 自分たちと対等たる可能性を持つ敵兵を前にして2人の体に緊張が走るが、

 

「いやいや、それじゃあ遅いっしょ」

 

 戦場とは思えない、軽薄な声と共に敵兵の頭上から1人の兵士が降り立った。

 

 背後を取った兵士は素早くハンドガンを敵兵の頭部に突きつけ、躊躇いなく引き金を引いた。

 

 ドンっ! という内臓に響くような重低音と共に放たれた1発は、トリオン体の弱点たる『トリオン伝達脳』を射抜き、敵兵のトリオン体を破壊へと追いやった。

 

「なっ……!」

 

 何が起こった、と言いたげな兵士の足をカロナは容赦なく切り飛ばし、無効化させた。

 

 切り上げられた足が地面に落ちると同時に、痛みに耐えかねて最後の兵士が叫ぶ。

 

 そうして叫ぶ兵士の手から、プルトナスはトリガーを取り上げる。倒れている仲間にトリガーを渡し、逃げられるのを防ぐためだ。

 

 取り上げたトリガーをプルトナスは、工場内を駆け巡っているであろう排水溝へと投げ込み、そのまま頭上から現れた仲間に声をかけた。

 

「相変わらず、狙いすましたようなタイミングだな、ニュクス。実は、俺たちが侵入した時点から見てたんじゃないのか?」

「おいおい、酷いこというなぁ、プルト。オレは作戦通り、ここの警備システムをちょっとばかし狂わせてから、手筈通り侵入してくる君らの支援に来て、やっとこさこのタイミングで合流しただけだぞ?」

「はっ、どうだかな」

「プルトは変なところ、疑い深いね」

 

 やれやれ、と言わんばかりに、ニュクスは肩をすくめつつ、簡易的な止血の道具を敵兵の手が届くギリギリのところに放り投げた。

 

 色合いにムラのない金髪と、同じような色をした金の瞳、整った容姿。プルトナスより少しばかり背が低いものの、カロナと同じように戦場に似つかわしくない、容姿端麗な少年だった。

 

 男2人の会話に区切りがついたところで、カロナは顔に飛び散った血を手の甲で雑に拭ってから、少しばかり急かすような口調で割って入った。

 

「2人とも、先を急ぎましょう。このままだと、正門で戦っている依頼主達に負担をかけすぎてしまいます」

「了解」

「わかったよ、カロナちゃん」

 

 明らかに返事に余計な言葉を軽薄な態度で答えたニュクスにカロナはジトっとした粘着質な目線を向けるが、

 

「うんうん、カロナちゃんのそんな目もいいね」

 

 ニュクスを喜ばせるだけだと思い、カロナは無視して駆け出した。プルトナスはニュクスのそういうメンタル面は凄いなと思いながらカロナに続き、ニュクスは走るカロナの後ろ姿も綺麗だと思いながら2人に追従していった。




あらすじにもあるように、ベイルアウトが無いワールドトリガーの戦闘を、彼らの物語を書いていきたいと思います。
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