基地内部の移動を再開したところで、合流したニュクスは2人にデータを転送した。
「お2人さんにプレゼント。この基地の詳細マップだ」
データを受け取って、今まで使っていた簡易マップを更新した2人は、その詳細ぶりに舌を巻いた。
「ニュクスは相変わらずいい仕事するな」
「サンキュ。カロナちゃんもオレのこと褒めて?」
「侵入調査を得意としてる貴方ですし、この程度は当たり前でしょう? プルト、このくらいで褒めないでください。彼がつけあがります」
冷たい口調で突き放すように言ってニュクスをつけ上らせないようにしたカロナだが、
「ありがとう! カロナちゃんはオレがこの仕事をやってくれると信頼してたわけだ! オレ嬉しい!」
そんな冷たい言葉ですらニュクスは満面の笑みで喜んだため、カロナは呆れたように嘆息し、プルトナスは彼のメンタルを改めて凄いなと思った。
ニュクスの相手は帰ってからにしようと決めたカロナは、マップを見て2人に指示を出す。
「私たちの目的地は、施設の動力源となっているトリオン収束機です。マップに従って、このまま行きます」
「プルトナス、了解」
素直に返事をするプルトナスと違い、ニュクスは先んじて侵入して手に入れた情報を追加した。
「目的地には異論はないけど、道中はちょいと気をつけた方がいいかも」
「ニュクス、それはどういうことですか?」
「簡単にはいかないって話。どっかから情報が漏れたのか、たまたまなのか……、この規模の施設の常駐守備要員として置くにしては、やたら腕が立つ兵士が配備されてる。敵さんの総司令官によっては、収束機の守りに回すかもね」
ニュクスから得た、腕が立つ兵士という言葉を聞き、プルトナスは考える。
(腕の立つ奴か……。現状、守るべき場所は4つ。依頼主様がドンパチしてる正門、施設の脳みそである司令室、心臓である収束機、そして脱出の際に必要になる出入り口もしくは乗り物……)
守る場所を4つに絞ったプルトナスだが、そこで1度思考を止めた。全体の戦況、敵の兵力、味方の状況、司令官の性格、設備の優先順位……、不確定な要素が多く、どこを守ってくるか読むには情報がまるで足りなかった。
とはいえ実のところ、プルトナスたちの目的としては収束機の破壊であり、それさえ出来れば撤退を許されている立場だ。わざわざその兵士を倒す必要がないプルトナスからすれば、その腕の立つ奴が自分たちのところにさえ来なければ、それで良かった。
しかし、得てしてそういう願望は持ち主を裏切るものであり、動力設備を目前にした広さのあるホールに出たところで、そいつは居た。
門番のように立つ敵兵を見て、プルトナスは仲間同士で通信回線を繋いだ。
《ニュクス、あれか?》
《だな。ここで見聞きした情報と一致する。今この基地を守ってる奴らの中で、個人の実力に限ればこいつがナンバーワンだ》
めんどくさいことになったと、プルトナスは思った。
黙って立っているだけだった敵兵は、やっと、と言った様子で口を開いた。
「……正門での敵襲に合わせて、内部を彷徨くネズミがいる、という報告があってな。ネズミとは、貴様らのことか?」
「違う、と言ったら信じてくれますか?」
兵士の問いかけにカロナが答えるが、兵士は被りを振って否定した。
「信じるかどうかは、瑣末な問題だ。臆病な我らが指揮官は、例え外見が仲間のものであっても擬態している、という可能性を捨て切れず、何人たりともここを通さず守り抜け、という指示を出している。貴様らが同胞だというなら、退け」
「なら、退く理由はないですね!」
堂々と敵対勢力であることを宣言したカロナを見て、敵兵はくっくっくと喉を鳴らして笑った後、武装を展開した。
大柄な敵兵は身の丈ほどある大太刀を武装として展開し、構えた。同時にカロナもプセマを抜刀して構え、仲間2人に通信を繋いだ。
《プルト、ニュクス。ここは私が足止めする。2人はその隙にここを突破して動力設備に侵入して、破壊してきて》
《いや、俺かニュクスどっちかを残した方が……》
《この中でタイマンが1番強いの誰だと思ってるの? 第一、私のトリガーは直接戦闘に特化してて、対応力に欠ける。その点、2人のトリガーならこの先で多少の問題があっても突破できるでしょ?》
指示の内容に納得したプルトナスは頷き、ニュクスも《オレはそれでいいよ》と意見した。
《よし! じゃあ私が仕掛けるから、それに合わせて2人は奥に行って!》
言い終わるや否や、カロナはその場で、トントントン、と、軽く数回跳躍し、
「せー、っの!」
その言葉に合わせて強く踏み込み、敵兵へと特攻を仕掛けた。
速さにものを言わせた勢いのある斬撃を、敵兵はその大刀でしっかりと受け止める。
「ほう……!」
「Go!」
プルトナスとニュクスは指示通りにカロナの足止めに合わせて横をすり抜けて施設の奥へと突き進み、ホールにはカロナと敵兵のみが残された。
敵兵は巨躯と大太刀の大きさを存分に活かして、力ずくでカロナを振り払う。それを見切ったカロナは、合わせて後ろに跳んで、余計なダメージを逃した。
両者は刀を構え、目線を交錯させる。
「単身残るとは、豪気な娘だ」
「今のメンツで最強は私ですからね。残るのは必然です」
自信満々に、自分のことを最強と言い張るカロナを見て、敵兵はそれが嘘か真かを疑う。しかしそれを悟られないように、敵兵もまた強気な言葉で答える。
「なるほど。つまり貴様を殺せば、後の2人は容易に殺せるということか。良い事を聞いた」
「無理無理。だって貴方は私に負けるから、あの2人は殺せないよ?」
言い切ると同時に、カロナは再度最速の特攻を仕掛ける。が、
「甘い」
巨躯の兵士は2度目にして、カロナの速さとリズムを見切り、カウンターの一薙を当てた。
「ぐぅっ!」
カロナは苦悶の声を上げながらも一瞬だけ堪えるが、力の差に負けて弾き返された。一見すると、重量や体格の差が出た攻防だが、敵兵はそこにわずかな違和感を覚えた。
(この感じ……、妙だな)
その違和感に首を傾げながらも、敵兵は一刻も早くカロナを倒すべく、追撃を仕掛ける。
着地して態勢を整えたカロナに向けて、切り裂く、というよりは押し潰すような斬りおろしを繰り出す。受け切れないと判断したカロナは身軽はフットワークを活かした回避に徹し、一撃を躱す。敵兵はカロナではなく地面を破壊したが、それを気にも留めず、素早く刀をめり込んだ地面から引き上げ、カロナを切るべく、2度、3度と大太刀を振るう。
「随分身軽なネズミなことだ」
「そっちが遅いんじゃないの?」
「ほう、言いよる」
遅いと言われた、次の瞬間、大刀の斬撃が加速した。
「っ!?」
急なスピードアップにカロナは驚くものの、プセマで素早く受太刀に転じて攻撃を防いだ。ギリギリギリと、鈍い音を立てながら互いに押し負けないように踏ん張り、両者は微妙に立ち位置を変えていく。
トリオン体の力強さとは、生身と同様に身体のサイズにある程度比例する。巨躯であり重い者の腕力は強く、小柄で華奢な者の腕力はそれにはどうしても及ばない。
明確なサイズの差があるにも関わらず、互角の力比べによる膠着が続いたところで、巨躯の兵士が納得がいったように笑んだ。
「身体の細さに見合わぬ剛力、高い移動速度、そしてその身に纏う軽装……。なるほど、貴様らは『イルガル』の国の者だな?」
「そうですけど、それが何か?」
「いやなに……。節操も大義もなく、金を貰えばどこの国の戦いにも参加するという、尻軽な傭兵集団と相見えるのは初めてでな。よくもまあ、恥ずかしげもなく戦うものだと思っただけよ」
「資源が乏しい私たちの国じゃ、兵力ぐらいしか取り柄がないものでね!」
事実ではあるとはいえ、自国のことを貶されたカロナはムッとして言い返したが、巨躯の兵士は、カロナがイルガルの国の者だと分かると、ニヤッと邪悪さが孕む笑みを見せた。
「イルガルの者なら……、殺してしまっても構わないな」
呟くと同時に、巨躯の兵士は両手で持っていた大刀から左手を離し、それを片刃になっている刀身の峰に添えた。
「……爆ぜろ」
その言葉に応えるかのように、大刀の刃側のトリオンが反応し、爆裂を起こした。規模は大きくなく、持ち手には影響は無いが、その刃と鍔迫り合いをしていたカロナはそれに弾かれ、態勢を崩した。
「きゃっ!」
グラリ、と、姿勢を崩して一歩下げられたところで、下がった脚が、巨躯の兵士の初手で抉られた地面に近づく。
「爆ぜろ」
巨躯の兵士が再度呟くと、今度はその抉られた地面が爆裂した。爆裂をまともにくらい、カロナの態勢は大きく崩れる。そしてそれを狙っていた巨躯の兵士は、タイミングを合わせて斬撃を繰り出す。
「っの! ナメるな!」
寸前でそれに気づいたカロナは横薙ぎの斬撃の振り抜く方向に合わせて跳んだが、タイミングが少し遅く、大刀の切っ先がカロナの細く柔い身体に届き、ズプッとした嫌な感触を伴いながら切り込みを入れた。
「つぅっ!」
ある程度痛覚を鈍くしてあるトリオン体だが、全く痛みを感じないわけではなく、思わず苦痛に少しだけ顔を歪めた。着地を考慮してない回避だったが、カロナは無理やり着地して素早く態勢を整え、受け身にならずに反撃に出た。
鋭い踏み込みから繰り出される速い斬撃を、巨躯の兵士は難なく大刀で受け止め、
「爆ぜろ」
その一言と共に大刀の刃からトリオンを爆裂させ、カロナを弾き飛ばす。再度態勢を崩されたカロナに巨躯の兵士は容赦なく斬りかかり、
「爆ぜろ、爆ぜろ、爆ぜろ」
斬撃に合わせて大刀の刃を爆裂させ、カロナに回避を強いて受太刀をさせない。元々カロナは回避を得意とするが、それは受太刀と言った他の選択肢があってこそであり、回避のみを強いられるのは、それはそれで戦いにくいところがあった。
(ああもう! やりにくいなぁ!)
苛立ちからカロナは大きく後退し、十分な間合いを取って呼吸とリズムを整えた。
右手で剣を構え、左手を切られた腹部に当てながら、カロナは思考に没入する。
(奴の強さは、単純なパワーと、見かけによらない速さ。っていうか、動きと剣の基本がしっかりしてるから、やってることはシンプルでも隙が少ないんだよね。得物は、どうもあの大刀1つだけど、刃の部分と……、深く切り込んだところ? を爆発させるギミックあり。爆発させるには、どうも声紋を必要してるっぽい……)
敵の分析を進めていくカロナだが、不意に、
「あー……、もういいや、面倒くさい」
分析を放棄した。元々、カロナは敵に合わせて戦略を変えるようなタイプではなく、
「どんなギミックか知らないけど、そんなの関係ないや。斬り殺す」
速さと手数と技術で押し切るタイプの兵士だった。
トリオン体が持つ基礎性能である傷口の自動修復によって塞がった傷口から左手を離し、ここまで抜かずにいた2本目の刃に手を伸ばす。自身の戦闘スタイルを最も強く発揮でいる二刀流となり、カロナは巨躯の兵士へと特攻した。
愚直な特攻を見て、巨躯の兵士は嘆息した。
(速さは大したものだが、こうも単調ではな……)
戦いとしてはつまらないが、倒しやすいと判断した兵士はこれまでと同じように受太刀しようとしたが、その構えを見たカロナはニヤっと笑った。
カロナが振ったプセマの剣先は、大刀の刀身をすり抜けた。
「なっ……!?」
目の前で起きた現象を理解できずに、巨躯の兵士の口から驚きの言葉が漏れ出る。
(バカな、今確かに受けたはず……っ!?)
その動揺に漬け込むように、カロナは剣を加速させる。
「はあぁぁぁぁっ!」
鋭い語気とともに繰り出される剣技は、速さと重さ、読む事ができない不規則なリズム、そして何より、時折刀身をすり抜けるという不可解な現象を伴っていた。
致命傷こそ受けないものの、防御を崩された巨躯の兵士は内心で舌打ちをした。
(なんなのだ、こいつの剣は……! 見えている剣のリーチと、振るわれているリーチがあべこべのような……っ!)
そう毒付く巨躯の兵士だが、認識そのものは正しい。
カロナのトリガー『プセマ』の別名は『虚偽の剣』。高い切れ味を持つが、それ以上の売りは、偽りの像を刀身に纏い、実際のリーチより長かったり短かったり見せることができることだ。
実際の刀身より長いリーチに見せかける像をまとわせれば、防げたはずの斬撃が空ぶったような違和感を与えることができる。
実際の刀身より短いリーチに見せかける像を纏えば、当たってないのに攻撃が届いているという不可解な斬撃を繰り出せる。
加えて、プセマには本当に刀身のリーチを本当に変化させる機構も搭載されているため、敵は常に今見えている剣のリーチは本物なのか、偽りのものか、疑わざるを得ない。
嘘と真が入り混じる魔剣。
それがカロナのトリガー『
種が分かっていても防ぐのが困難な剣を、初見で対応しきれる道理もなく、カロナの剣技はついに巨躯の兵士を捉えた。
(ここっ!)
大きく崩れた敵の防御を見逃さず、カロナは巨躯の兵士を斜め下から思いっきり切り上げる。深々と刃が入り込んで斬った感触と、吹き出るトリオンを見て、カロナは勝負がついたと確信した。
その傷口から、ピキピキとした割れる音が鳴り、猛烈な早さで巨躯の兵士のトリオン体にひび割れが広がったかと思うと、それが爆発した。
晴れた煙の中にいたのは、服装こと違えども無傷な姿に戻った巨躯の兵士がいた。
外見こそ怪我が治りまだ戦えるように見えるが、実際は逆で、トリオン体が破壊され生身に戻っていた。
巨躯の兵士にはもはや、カロナと張り合う膂力も、攻撃を防ぐための武器も、痛みを肩代わりする身体も、戦いに必要なものは残されていない。
無力化した彼に、カロナはプセマの剣先を突きつけた。
「トリガーを出して、下に置いて。そのあと、私がいいと言うまで下がって」
兵士の眼球の寸前に剣先を寄せて、少しでも不穏な動きがあれば刺す、というカロナの意思表示を兵士は誤らずに汲み取り、指示に従った。
刀の柄を思わせる形状のトリガーをそっと下に置き、一歩ずつ慎重に巨躯の兵士は下がった。
カロナのトリオン体なら一足で十分届くが、敵兵からは5・6歩かねば届かない程度の距離が空いたところで、カロナは敵兵から視線を逸らさずにトリガーを拾った。
「しばらく預かります」
「……出来れば、返して欲しいものなのだがな。性能はお世辞にも高いとは言えないが……、これまで死線を何度も潜り抜けてきた相棒なのだ」
「そう言われて、はいそうですかって返す兵士がどこにいると思いますか?」
「……ふっ。悔しいが、その通りだな」
自虐さを含んだ笑みをこぼした兵士は、両手を上げて、明確な降参の意思を示した。
「もはや戦う手段も、歯向かう意思もない。殺しても構わぬぞ?」
殺しても構わないと言われたカロナだが、少しばかり気まずそうな表情を浮かべた。
「殺しはしませんけど……、先行した彼らと合流する上で、不確定要素は潰しておきたいですね。脚の腱と、手を縛るくらいはやらせてもらいます」
戦さ場でなければ惚れ惚れしそうな綺麗な顔で、カロナは平然と物騒なことを言う。ああ、この者はやはり兵士なのだと巨躯の兵士は思った。
「そうか……。だが、急いだ方がいいぞ」
「なぜ?」
「この先は動力室だが……、その前にもう1つの防御がある。この施設で生み出されている、新種のトリオン兵による守りの陣だ。早く加勢に行かねば、仲間が危ないぞ?」
巨躯の兵士としては半ば親切心から出た忠告だったが、それを聞いたカロナはクスッと笑った。
「何がおかしい?」
「いえいえ、何も。ただ、最後の砦がトリオン兵だと聞いて安心しただけです」
「安心? どういうことだ?」
「簡単なことです」
勝ちを確信したカロナは二本の剣を鞘に収めながら、答えを告げる。
「どんなに強くても、ニュクスには関係ないんです。トリオン兵相手なら、ニュクスは絶対負けません」
自信満々にカロナが答えた瞬間、施設中を大きく揺るがす爆発が起こり、トリオンによって点灯していた周囲の照明が全て落ちた。程なくして予備の動力に切り替わったのか、非常用の明かりはいくつか灯るが、巨躯の兵士は敗北を察して身体を倒した。
「動力室が落ちたか……。見事だ、イルガルの兵士よ。先程、貴殿たちを貶す発言をしたことを許してほしい」
「いやいや、色んなところから散々言われてますし、気にしなくていいですよ。ただ、許して欲しいと思っているなら……」
「……思っているなら?」
少し間を開けたカロナは、とびきりの営業スマイルを見せて、
「思っているなら、ぜひ私たちの国に仕事の依頼をしてください。今回の敗北でこの国もトリオン兵の生産が減って、何かと戦力が入り用になりますよね? そんな時は是非、派兵国家イルガルにご連絡をお願いします。報酬は要相談ですけど、報酬に見合った戦果をお出しすることを約束します」
今しがた倒して恨みを買った相手に、仕事の営業文句を残して、去っていった。
なお、カロナは姿が兵士から見えなくなったところで声を張り、
「貴方のトリガーですけど、発信機を兼ねてる可能性があるので、最後までは持ち帰りません。退却する時、分かりやすくて、それでいて適当な場所に置いておきますから、回収してください」
それを言い残してから、完全に姿を消した。
1人残された巨躯の兵士は、ずっとなり続けている警告を促して回転する赤ランプを見つめて、呟く。
「……イルガル、か。本当に、たいしたものよ」
敗戦を悔やみつつも、警戒音が響く薄暗い通路を歩き、施設の非常出口から脱出していった。
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合流後、予定通りのルートから脱出したプルトナスたちは、味方陣営の拠点へ訪れ、戦果を報告し、その後速やかに報酬の契約を交わして戦場となった国を後にした。
星の海、と呼ばれる異世界同士をつなぐ空間を、一行は小型の遠征艇で移動している。マニュアル操縦であり、適宜交代して舵を持つことになっている。
しかし、互いの星の軌道がかなり接近するタイミングだったため移動が数時間で済むのでプルトナスが終始舵を持つと言い、運転していた。
プルトナスは遠征艇の運転が好きで技術と経験も伴うため、1人で大丈夫だと頑なに言い張ったのだが、
「ほらプルト、星流に流されて少し進路逸れてるよ。ちょっと左切らないと」
同じように頑なに、「1人補佐がつくのが規則ですから!」と言い張って、カロナが隣の席に座り、ルートのナビゲーターをしていた。なお、2人ともトリオン体の乾燥を解き、正装である国家軍の軍服を着た姿になっていた。
カロナはプルトナスの視界からも分かりやすいように身体を寄せて、指さきで進むべき方向を示す。操縦桿を握るプルトナスの手に、ぽよんとした柔らかい感触が走るが、プルトナスは「こいつ邪魔な位置に身体置くな、舵が切りにくい」としか思ってない。
「ここはわざと流されて、星流の影響がなくなってから元のコースに戻すんだ。その方が船のトリオン消費が少なくて済む」
「そうなの?」
「ああ。……というかこの話、前もした気が……」
プルトナスが咎めるように言うと、カロナはギクリとして冷や汗を流した。
「忘れたのか?」
「……いや、そのー、忘れたというか……」
「忘れたんだな?」
「……はい、忘れてました」
素直に忘れたと言うカロナを見て、プルトナスはため息を吐く。
「うちのお姫様、マジで戦闘以外からっきしだな」
「遠回しにバカって言わないでください! 自覚してるんですから! っていうかそれ言ったらプルトもですからね!? 私のこと何回お姫様って言えば気がすむんですか!」
「お姫様と呼ばれるのが不満なのか?」
「不満……っ、じゃない、けど! 本当の姫さまに失礼って話!」
カロナは顔を真っ赤にして抗議し、プルトナスは煩わしそうな目線を一瞬向けただけで、すぐにガラス越しに広がる星の海に戻る。
戦闘前にもしていたのと同じような会話を繰り返す2人を、ニュクスは後ろの席で仮眠を取るフリをしつつ、
(……プルト、これでいてカロナの好意に気づいてないんだから変わってるよな。カロナもカロナで、好意が周りにバレてないって思ってるし……)
そんなことを思いつつも、野暮なことは言うまいとして、仮眠のフリを続けたのであった。
派兵国家「イルガル」。資源に乏しく、優れた兵力しか売りがない彼らは、戦力を売る。一度助けた国すら、別の国から金と資源さえ積まれれば明日にでも攻撃することもある彼らのあり方を、大義がないと批判する者もいる。
そしてこれは、戦うことでしか生きることができなかった少年少女の生きた証であり、破滅まで描いた物語だ。