シリウスシンボリとヒト雄の肖像   作:かなわ

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 レース成績という視座に立ちシリウスシンボリというウマ娘を評価した時、彼女は強いウマ娘ではあるものの、誤解を恐れず表現するならば、強いウマ娘の中では弱い方だった。
 URAを除く戦績は26戦4勝、G1は東京優駿のみ。その後は勝てない時期が続いた。
 分かるだろうか。残念なことに、決して皇帝シンボリルドルフに並び立つようなウマ娘では無いと。
 だから何だ。
 それで彼女の価値が、輝きが下がるとでも言うのか。
 もしそんな阿呆を宣う奴が目の前にいれば、例え誰が相手であっても訂正させてやる。
 何が成績か。
 私達は大事な事を違えない。
 私達を救ってくれたのは、いと高きに座す皇帝ではなく、泥臭く地を駆ける天狼(Sirius)だということを、決して忘れない。


肖像を語る者は言った「少女のように自由だった」と

「意外に思われるかもしれないが、シリウスシンボリには最終的に二人のトレーナーがいた。

 一人は我々もよく知る胡乱なヒト息子で、もう一人はシリウスシンボリの父親によって当てがわれた、謂わゆるベテランのトレーナーだ。

 担当期間は後者の方が長い。東京優駿が終わってからの挫折と敗北に塗れた海外遠征、停滞に迷走を重ねた国内を担当していたのだから。

 むしろ、前者の胡乱なヒト息子の方が短すぎた、の方が正しいのかもしれない。

 ただ心を通わせていたのは間違いなく彼だった。

 あの、人生に見切りをつけたような、生気とやる気の無い、しかし紛れもなく我らのトレーナーと共に過ごした日々だけが、シリウスシンボリにとって濃密で、喜びに満ちていたと思う。

 それを裏付けるかのように、彼女がシンボリルドルフに対してある種の寛容とも言えるべき態度を示していたのもこの時期だった。以降は一層険悪、というより一方的に激しく噛み付く時期があり、それは再びヒト息子が担当トレーナーの地位に収まるまで続いた。

 

 誰も答えられない問いを自らに投げかける。

 シリウスシンボリにとってあのヒト息子は何だったのだろう。

 盲の杖だったのだろうか、イカロスの翼だったのだろうか、天翔ける靴だったのだろうか、幸運の兆しだったのだろうか。

 両人ともどこにいるのか分からぬ今となっては確かめる術も無い。

 だが、一つだけはっきりしていることがある。

 

 それは、

 あのヒト息子が側にいた頃のシリウスシンボリの走る姿は、

 まるで少女が花畑で戯れているような、

 子鹿が踊るような、

 不良の王という呼び名からはかけ離れた、

 走ることを純粋に楽しんでいる、そんな姿だったこと。

 

 瞼を閉じればすぐに蘇るほど鮮明に覚えている。

 踊るように走るその姿。

 あれこそシリウスシンボリの本性だ、とは言わない。だが彼女の抑圧された一側面である事はきっと正しい。

 そして、彼女のそんな側面を引き出したヒト息子は、おそらく奥深くに共感と愛情があったのだろう。

 あんなにも優しい目をしていたのだから。

 シリウスシンボリも、決して口にはしなかったが、無意識ではヒト息子を信頼していたと思う。

 本人は素直に認めないだろうが、かけがえのない存在であったと言えるのではないだろうか

 

 シリウスシンボリとヒト息子が共にいた時。

 私たちもあの時だけは、仲間達の誰もが、未来は明るく希望に溢れていると、無邪気に信じていた。 

 無慈悲にも、楽しい時間は瞬く間に過ぎ去った。

 シリウスシンボリはシンボリ家から派遣された男と海外へ行った。

 あの時もっと全力で止めていれば。

 後悔し続けている。全ては私たちの弱さのせいだ。

 短い蜜月だった。

 今では許しを乞う相手すら居ない。

 

 

 あの頃の私たちは自分の弱さを棚に上げ、シリウスシンボリを引き止めなかったヒト息子を苛烈に責め立てた。

 それは罪悪感から目を逸らすことに似ている。」

 

 

ーーー

 

 

 いつの間にか外は暮れていた。

 百均のボールペンを置いて背中を伸ばせばポキポキと軽快な音がする。

 書いた文量は大したことないのにひどく疲れた、気がする。実際に疲れているのかもしれない。元々働かない頭がストライキを起こしたみたいだ。

 

 気分転換にコーヒーでもおかわりしようか。

 注文を取ってもらおうと店内を見渡せばどうやら客は私しかいない。マンハッタンカフェさんと親しげに話していた親子連れも居なくなっていた。

 

 カフェさん(名前が長いので省略)も暇しているらしく、自分用にコーヒーを淹れてカウンターの向こうで寛いでいる。

 キッチンから男性の店員さんがデザートを持ってきて、差し入れた。いよいよ本格的な休憩らしい。

 接客中なのに自分もコーヒーを飲んで寛ぐとか、緩いなー。でもそういうの好き。

 店員さんの緩さ、静かで落ち着いた店内、いい感じのメニュー。この店に来たのは初めてだが、とても好きになったぞ私は。

 ところで、二人の店員さんの距離感と、薬指にはめた指輪からあの二人が夫婦だと確信したのだが、そのことよりもあの差し入れで持ってきたデザートの方が気になった。旨そうだなあ、あれ。

 

 「すいませーん」

 「……はい、…少々お待ちください」

 

 寛ぎモードのカフェさんへ声をかけた。

 

 人の少ない静かな店内に空気の読めない私の声がよく響く。音量調節ミスった感が否めないが、気にしない。

 努めて遠慮なく大きめの声で呼んだのは、決してあの若い夫婦の“なんかちょっといい雰囲気“に堪え兼ねたからではない。彼氏いない歴n年の私の恋心が泣きそうになったとか、そういう訳では決してないのだ。

 




シリウスのサポカ来いゾ
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