さて、新しい奴を買おう
森に入りはや二日。少女は宛てもなくふらふらと歩いていた。鬱蒼と生い茂る木々が太陽光を遮り、森はまるで夜のように暗い。行く手を邪魔する雑草を掻き分けながら、ただふらふらと進む。
(あー屋敷を、燃やすのはまずかったかな……)
時すでに遅し。屋敷は面白い具合に焼けこげ、もはや原型をとどめてすらいない。仕方ない、諦めよう。そう自分に言い聞かせ、またあてもなく歩き出した。
ヘルウェティア王国第一騎士団本部
丁度風呂から上がり、気分がさっぱりしていた所、部下からの報告書に目を通した途端にさっぱりした気分がふきとんだ。
小規模ながらも生き長らえてきた戦線が瓦解。あっという間に何千もの人間が食い殺された、とのことだ。
(最悪だ、本当に)
その、生き長らえてきた戦線に支えられてきた我々は、ついに前線に押し上げられるだろう。全くといっていいほど兵士の連度がなってない今、この知らせは、滅びへの第一歩ととらえてもなんら違和感はない。
「せっかくの有給も、切り上げか………」
いやなことこの上ない。休暇を省いてまで戦ったのだ、それがたった三日の休みで補えるわけもない。気分は最悪、人類にとっても最悪。いまならウォッカをがぶ飲みできそうだ。
聞きなれた声が扉の向こうから聞こえる。すぐさま入れと言うと、木製の扉が軋みをあげながら開き、中に入ってくる。
「夜分遅くにすまんな、シーチカ」
練れた太い声。聞きなれたそれは私に懐かしさと安堵を与える。垂れた瞳、愛嬌のある顔立ち、黒一色の制服を纏った初老の老人は、コツコツと足音を立てながら此方に向かう。
報告書を置き、敬礼する。
「スィウェン団長、いかようなご用でしょうか」
そう言うと、スィウェン団長は、ふ、と悲しい目をし
「あの頃のように、おじ様とは、呼んでくれんか……これも成長かの?」
「ち、茶化さないでください……今は職務時間中ですし……」
「職務時間外ならば、よんでくれるのかの?」
「も、もう……お茶目が過ぎます!」
ハハハ!と手を叩いて笑い、すぅ、と目が細くなる。私も表情を引き締め、スィウェン団長の瞳をじっと見つめる。団長がこのような目をするのは、大概かなり重要な事があったときだけだ。私の経験がそう教える。
「その報告書にも書かれているように、西の戦線が崩れ、何千もの民が死んだ。これは知っておろうな?では次じゃ、お前の部隊の一部を貰って行くぞ、旧市街地の掃討作戦、ならびに救助があるのでな」
「ハッ!了解いたしました!」
きたか。これはこれで予想通りだ。一部……とはいえ、私直属の部隊など雀の涙程度、この人のことだ、最低限こちらに残して全部持っていく気だろう。
「とはいえ、お嬢の頭は頭デッカチじゃからなぁ、キチンと戦線は理解しておろうな?」
その言葉にーーーーー正しくは『お嬢』という呼び名にむっとしながらも、つらつらと戦線をあげて行く。
「東のクルーウェル戦線、西のブリュード戦線、海を越えて極東のヤマト戦線、そして我々、ヘルウェティア戦線であります。そして、西のブリュード戦線が瓦解、西の防御が無いに等しいとも言える状態であります」
「うむ、分かっておるようだな。ならばよい」
くるりと反転し、部屋を出て行く……途中で、振り向き、思い出したかのように私に訪ねる。
「そうそう、シューヴェルトはどこへ?」
「彼女なら、中庭では?」
今季騎士団一の美女、シューヴェルト・グレイメン。団長もそのファンの一人なのだろう。美女として知られる中、つられるようにその凶暴性もしれわたっている。
やれ同期を殴って病院送りだとか、やれ上官を殴り、独房に押し込められたとか。私的には関わらない方が得だ、触らぬ神に祟りなし。腕は確かだが、その気性の荒さが裏目に出て、いまだ訓練兵扱いをされているようだ。
「そうか、すまんな」
今度こそ廊下の暗闇に紛れ、どこかへと去っていった。ぽつんと取り残された私は、一人心地に呟く。
「扉、閉めていってくださいよ……」
やれやれと首をすくめ、今日分の書類を片付けるのだったーーーーー。
要望などありましたらどしどしどうぞ。