ぽちゃん、と水滴が頬をうつ。眉間に皺を寄せ、少女は目を覚ます。どこだろうか、どこかの洞窟……?微かに残る痛みに顔をしかめながら、ゆっくりと立ち上がり、傍の石に腰かける。
もはや服とは言えなくなったドレスはなく、変わりに、民族衣装のような独特の服が着せられていた。測ったかのように自分の体に合うそれのスカートの裾を弄りながら、重い溜め息を吐く。それは自身への絶望か、それとも…………。
その後、自分を助けてくれた老人に礼を言い、差し出された干し肉を咀嚼する。なんでも、どこかの防衛拠点が破られ、命からがら逃げてきたそうだ。
「お嬢ちゃん、名前は?」
藪から棒に聞いてきた老人を見つめ、小さく呟く。
「ヴェローチカ、ヴェローチカ・グリム」
その名前に驚きながらも、老人はカラカラと笑う。
「英雄の名前のお嬢ちゃんと出会うとは、中々運がいいのう。わしはベルト、ベルト・ブラウンじゃ」
それっきり会話はなく、焚き火を囲み、ただただ無言の時間が過ぎて行く。老人は気まずさからだろうか、外へと出ていった。
「…………はぁ」
メラメラと燃える炎を見つめ、肩を落とす。薄々分かっていたことだが、こうもまじまじと現実を見せつけられると、もはや溜め息しか出てこない。
今の私を見て、アイツらはきっと笑うだろう。最悪だ。
自己嫌悪に浸るなか、間の抜けた悲鳴が聞こえた。焚き火の光で照らされた老人の顔は、恐怖に染まり、思わず笑ってしまうようなか弱さだ。
震える声で助けを求めるも、それより先に亡霊の剣が心臓を刺し、老人は倒れる。次の獲物を見つけたと言わんばかりに剣を振り回し、こちらにゆっくりと近づいてくる。もはや手が届く距離まで近づいた亡霊は剣を真上に振り上げて…………
「来い」
短く呟き、光の粒子が手元に集まる。脳天から降り下ろされる剣を弾き、亡霊の喉元に刀を突き立てる。断末魔の悲鳴もなく亡霊は灰になり、さらさらと崩れ落ちた。
もはやここに用はない。立ち上がり、老人の死体を一瞥した後、そそくさと洞窟を後にした。
あれから三日、団長の部隊は旧市街地に進行、亡霊どもを蹴散らし、帰ってきた。当然のようにそこに人の姿はなく、掃討及び救助ではなく、ただの掃討作戦だと嘆いていた。
掃討作戦の結果、全部隊の二割が死んだ。無論、私の抱えていた部隊の者も例外はない。これが世界だ、強者が生き、弱者は今か今かと死を待つのみ。
「やれやれ、一難去ってまた一難。有給は潰れて防衛部隊の編成に進行か…………」
そして、その防衛拠点の目と鼻の先には、亡霊どもの巣窟、『シェルド処刑場跡地』だ。
大昔、数多の罪人を殺したそこは、まるで湯水のごとく亡霊が溢れ出すらしい。そして、西の戦線の向こうにも処刑場跡地があり、そこからも夜な夜な亡霊どもが沸き出てくる。
訓練課程を終えた新米は論外、手慣れの古参を出そうにもここの戦力が落ちる。多少の戦力の低下は仕方ないとして、問題はいつ派遣するか、だ。
亡霊どもが活発になる『狂月』は今週末、今防衛拠点に兵を出せば、最悪の事態を引き起こしかねない。
よくて来週、はたまた再来週か…………ギシギシと鳴くイスから立ち上がり、背を伸ばす。小気味いい音がなり、もやもやとしていた頭がさっぱりとする。
「さてと、久しぶりに体を動かさねば…………」
長期のデスクワークで錆び付いた剣の腕を直すため、私はとある旧知の元へと足を運んだ…………。
なんか女の子っぽくない名前になっちまったぜ…………いまさら後悔なう