屈強な男に怒号を浴びせ、俺ーーーーハイル・ドーズは手元の書類に目を通し、欄に書かれた細かい文字に頭痛を覚える。何かと頑張ってくれた西の戦線は崩壊、上のお偉いさんに新人を出すかもしれない、と言われた時は、西の戦線の事よりも数倍ショックを受けた。
ーーーーーーーーまだ訓練課程を消化しきってねえってのに……!
腹の底からふつふつと沸き上がる黒い感情を圧し殺し、あっちへこっちへと動く馬車を横目で眺める。
「
天を仰ぎ、盛大に肩を落とす。雲一つない晴天の青空は、今日も平和だと言わんばかりに輝いている。
と、ここで俺の小さな平和を乱す輩がやってきた。
コバルトブルーの髪を遊ばせながらこちらに向かってくる女が一人、金色に輝くその瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。
「よお、シーチカ・エルハザードさん、ご機嫌麗しゅう?」
「他人行儀はやめろ、気持ち悪い…………それより、だ、一つ手合わせ願おう、なぁに、貴様を笑いに来たわけではない安心しろ」
手合わせという単語に眉を寄せると、やれやれというように笑う。俺はコイツーーーーーーーーシーチカ・エルハザードに剣では一度も勝ったことがない、それも完敗だ。
容姿端麗、文武両道、一騎当千、この言葉が似合うのは、少なくともコイツぐらいしかいないだろう。
生まれもっての剣の才能、整った顔立ち、さらには人を引き寄せるカリスマ性までも持ち合わせたコイツは、少なくとも俺のような普通の人間に会いに来るなんてまずない。
変わり者だ、よくも悪くも、な……。
「大方、鈍った腕を直すんだろ?分かった、これが終わったら…………あー、どこにする?」
しまった、肝心の場所を考え忘れていた。シーチカは暫し迷った挙げ句
「ならば私の家に来い、闘技場ぐらいなら貸すぞ」
洗剤か何かの残り香を放ちながら遠ざかって行く背中に、俺はささやかな憎悪の篭った視線を投げ掛け…………また、いつも通りの仕事に戻るのだった。
空はすっかり茜色に染まった頃、とぼとぼとし石畳の通りを歩く男が一人。腰には騎士団で提供される剣をさげ、再度肩を落とす。ツイてない、そうこぼしながはも、足は目的地へ向け一人でに動くのだった。
左右を薔薇の庭園に囲まれた道を歩きながら、ハイドは目の前を歩く一人のメイドに意識が集中していた。顔立ちもよく、育ちもいい、それと、先程から一切の挙動に隙がない。
(コイツ…………
べとべととする手を何度も小指から握りしめ、震える息を吐き出す。
「あまりご緊張なさらず、いつも通りやればいい、そうお嬢様は仰られておりましたよ」
こちらです。目の前に立ちふさがる扉を開け、俺は闘技場の中へと入っていった…………。
ちかれたで御座る…………。なんか肌がぴりぴりして痛いで御座る…………。