竹林にて
[???]
高く伸びた竹に囲まれた木造の小屋。
その家から、長くのびた白髪をなびかせた少女が現れ、竹林のほんの少しの隙間から射し込む日に手庇をし、歩き始める。少女の目的地は決まっていた。竹林の奥地の屋敷である。ずっとずっと続いている習慣。いつもと変わらぬ日常。
しかし、今日はほんの少しだけ違う日になる。
竹林を歩く彼女には、そんなことを知る由もない。
……
「ここは……?」
[スキマ]を抜けた先は、薄暗い林の中だった。
なんとなく、アレフガルドとは空気が違っていることだけはすぐにわかった。というのも、そこら中にびっしりと伸びている木に違和感を感じたからだ。
「これは、竹よね…、アレフガルドでは見たことがない。旅の中で見たのは一度、[ジパング]でだけだわ。ということは、ここは地上世界?」
ひとまずはここがどういう土地なのか、かつて訪れたことのあるジパングのどこかなのか、または完全に違う世界なのか。確かめなきゃいけない。
そうして私は手荷物を確認してから、あてもなく竹林を進み始めた。
進み始めたんだけど……
「道も、方角もわからないわ!!!」
どこを見ても高い竹ばかり、もと居た場所に戻りたくても来た方角すらわからなくなる。おまけに薄暗いから足元もおぼつかない。なんとか方角を確認しようと思い、かつて習得した”特技”を一つ用いることにした。
「[鷹の目]!!」
鷹の目とは、視覚情報を共有できる魔力を上空へ飛ばし、地形状況を確認することのできるものだ。これを使い、周辺に建物や平地などあったりするかと確認しようと試みた。
が、それでもやはり。
「竹が多いし、高すぎるわ!!!一面竹林だらけじゃない!!」
”特技”を使ってまでも進路は見いだせない。いよいよ手詰まりか、総当りで適当に進むしかないかと思ったその時。竹林の先に人の気配を感じ取る。地元民か、言葉は通じるだろうか、この竹林の道に詳しい人だろうか、野盗の類で、竹林に入り込んだ私の荷物等を襲いに来たのか。様々な危惧を抱きながら、その気配が近づくのを油断なく待つ。 と。
「……ん?こんなところに人か?珍しいな。妖の気配じゃないし」
などと言いながら、白髪の少女がこちらを見据え現れた。よかった。ひとまず、言葉は通じそうだ。
「こんにちは。貴女はここで何を?」
「ん?んー、毎日の習慣をこなしに向かってる、かな?お姉さんこそ、こんなところで何を?」
「……こんな事を言って信じるかわからないけど、別の土地から、空間の裂け目を通ったらここに出て、見渡す限り一面の竹林でどこに向かうべきか途方に暮れていた、という所かしら。」
なんて事を冗談半分にも言ってみると、少女は目をまんまるにした後、目を細め少し俯きがちに顎に手を添えながら「またアイツの仕業か?」などとぼそっと呟いた。
「あー、お姉さん。おそらくだが、心当たりがある。良かったら竹林の外まで案内するよ。」
「本当に?とても助かるわ。是非お願いしたいけど、毎日の習慣とやらは大丈夫なの?」
「まぁ、多少遅れたところで平気だよ。さ、付いてきてくれ」
この土地で出会った1人目が、言葉も通じ結構穏やかに会話もできる人物で、しかも案内まで申し出てくれるという。これぞ渡りに船という気持ちで、お願いすることにした。
……
「ねぇ、案内人さん。いつまでも案内人さんだなんて呼びにくいわ。私はソフィア。貴女は?」
「妹紅だ。藤原妹紅。そっちはソフィアな、よろしく。」
などと世間話をしながら、少女-藤原妹紅-の後に付いて歩く。
器用なもので、何の代わり映えもしない竹林をすいすいと進んで行く。外見は私より幼そうに見えるが、この竹林の進み方を熟知しているところや、物腰のやわらかさなどで外見にそぐわず随分と歳をとっているようにも思える。
「ところで、ここはどこなのかしら?私の知る限りだと、竹が生えてるのはジパングという国だけなのだけど。」
「ジパング?はは、かつて外国からそう呼ばれていた時期もあったね。一応ここは随分と特殊だが、日本という国の土地に属する。幻想郷と言うのさ。良かったら覚えておいてくれ。」
「外国から?日本……、幻想郷、なるほどね。有難う」
妹紅の口ぶりから察するに、かつてジパングと呼ばれていた、ということは、ここは地上世界の未来にあたるのかしら?服装も多少の面影はあるかも知れないけど、作りが異なる。
とりあえず、ここは未来のジパングという事で結論付けさせておく。
「この幻想郷って土地は、さっきも言ったが随分と特殊でね。結界で囲まれて、外の世界とは隔絶されてるんだ。まれにお姉さんみたいなケースだったり、ほかの要因で外の世界の人が迷い込む事もあるんだ。今はその結界の管理所である神社に向かってるところだよ。」
更に、と妹紅が付け加える。
「この土地は、人妖が共存する理想郷を目指して作られたところなんだ。理性のない弱小妖怪以外は、規則正しく、人を襲ったりしない。外の世界に妖怪の居場所が無くなった分、その妖怪たちの受け皿みたいなものかな。」
「妖怪?」
「そう。妖怪だ。別の言い方をするなら、魔物、モンスターとも呼ばれる。」
……魔物。ここにもやはり、魔物がいるらしい。ただ、口ぶりから察するに外の世界とやらには魔物は居ない、あるいはごく少数だけらしい。
ここについての理解を深め、アレフガルドへの脅威にならないかどうかを見定めるのが私の使命だ。
「さ、もうすぐ竹林を抜けるよ。あとは見えた道を進めば人里に着く。そしたら里を抜けて東に行けば目的の神社だ。」
なんてことを考えているうちに、ずっと続いていた竹林の先に開けた所が見えた。随分と長いこと竹林に居たように感じるので、平地と、空から射し込む陽の光がとても眩しい。
「ソフィアはあの竹林にどれくらい居たんだ?見る限り、少なくとも1日も経っては無さそうだが。」
「……どうかしら、正確な時間は分からないわ。体感だと数時間は経ってそう。ただ陽の光は、竹林の間からうっすらと射し込み続けてたから、来たのは今朝以降であるのは間違いないと思う。」
「今はもうすぐ正午になるかってところだから、4時間くらいになるかね。そうだ、ついでだから人里で軽く腹ごしらえでもしたらどうだ?」
「有難いけれど、私の持つ通貨がここで使えるとは思わないわ。」
「あー…それもそうか。まぁ、今日の昼飯代くらいなら奢るよ。」
「本当?助かるわ。いつかお礼しなくちゃね。」
「いいんだ、困ってる人には手を差し伸べるものだよ。」
そうして、私は妹紅に連れられて、この土地に来て初めての町に足を踏み入れることになった。まだ妹紅の話でしかこの土地の事を知らないが、魔物と人間の共存や、結界に囲まれた理想郷であるということ。何よりも、妹紅のような人がいるこの土地は、とても楽しそうだ。
ロト達に連れられて、世界を旅していた時の、未知に触れた際のあのワクワク感を思い出す。
はい。知らないうちに1話の投稿から2ヶ月経ってました。
まぁ、色々あったんです。
いらっしゃるかわかりませんが、いたら嬉しいんですが、待ってくださっていた人には申し訳ない限りです。