立ち込める煙、ジュウジュウと音をたて焼ける肉。
龍夜は若干ながら困惑していた。
「どうした?そのハラミはもう焼けているぞ」
「うん、食べるよ。ただニノとこうしてサシで飲みに来るとは思わなかったなって」
「偶にはそういう日もある、という事だ」
龍夜は同い年の隊員である二宮匡孝と2人で焼肉屋に来ていた。決して仲が悪い訳ではなく寧ろ良い方である。
ボーダーでは隊同士で連携し防衛任務にあたる事もあり、隊員同士は基本的に仲が良い。
しかし、龍夜が二宮と最後に食事したのは二宮が所属していた隊から独立して自分の隊を持つと聞かされた時以来であった。
「そっか、そういう事ならしょうがない」
「そういう事だ。すみません、上カルビ2人前と生二つ」
龍夜は珍しいと思った。二宮は外食する時は決まって焼肉である。そして飲み物はジンジャエール。
二宮は自分の隊を持つ前、ボーダー最強部隊の証であるA級一位部隊、東隊の隊員だった。その時の隊長である東春秋は隊員や後輩を外食に誘う時決まって焼肉だった。
東に薫陶を受けている二宮もそれに習っているのだ。
それは東隊を抜けた後も継続しており、一部後輩の間では主食が焼肉で血管にジンジャエールが流れていると噂されるほど筋金入りの焼肉好きとなった。
そんな二宮だから龍夜は違和感を持ったのだ。プライドが高い二宮は他人に酔った姿を見せたがらない。
(何か……………そっか、あの子の事か)
何かあったのだと思うのとその原因に気づくのは
ほぼ同時だった。
「それで?」
「なんだ」
「なんか相談?」
二宮はプライドの高い男である。他人に相談する事は無いし詮索される事を嫌う。しかし、このままでは特に話す事もなく解散という事になると思った龍夜は切り込んだ。
「なんで…………いや、まぁそんな所だ」
二宮は少し意外そうな顔を見せるが諦めたのか、ジョッキにしっかりと注がれている生ビールを一気飲みする。
そして泡で汚れた口を手元のおしぼりで拭き取り、ボソボソと話し始めた。
「俺じゃなければもっと…………東さんやお前なら………………」
二宮の隊はA級であった。しかし、隊員であった鳩原未来が失踪した。失踪しただけならまだ良かったのだが、鳩原にはボーダーのトリガーを一般人に横流し近界へと密航した疑いがかけられた。
二宮隊はその責任を負わされB級への降格が決定したのだ。詳細は一部の者しか知らない。
「俺だったら鳩原ちゃんを止められたかっていうと多分無理だったと思うよ。最悪の場合殺してたかもね」
鳩原未来は二宮隊ではスナイパーだった。好きなものを聞かれて才能ある人物と即答する二宮の隊に居ただけあってその技術はスナイパーの中でも指折りの実力者だった。
しかし、彼女には一つの欠点があった。鳩原未来は人が撃てなかったのだ。人が撃てないという理由で近界への遠征部隊の選考を落とされた事もあった。
「記憶を消すって手段もあっただろうけど、鳩原ちゃんの場合記憶を消しても似たような事をしたと思うし」
ボーダーには特定の記憶を消すという事が出来る。ボーダーを辞めていった隊員の中にはそうした記憶に関する処置が施された者もいる。
しかし、それも万能というわけにはいかず、何かがきっかけで記憶が蘇る事や記憶を消していても似たような行動で危険に陥ったりといった事もある。
「きっと東さんでも無理だよ。あの人でも鳩原ちゃんは止められなかった」
「じゃあ俺はどうすれば良かったんだ……………」
「迎えにいけば良いんじゃないの?」
「は?」
悔しさに顔を滲ませながら絞り出すかのように言葉を発する二宮に対し食い気味であっけらかんと答える龍夜。
思わず二宮も間の抜けた表情となってしまった。
「何かきっかけがあったんじゃないかな?そのきっかけが分かればこっちに連れ戻す事も出来るようになるんじゃないかな」
龍夜は鳩原と特に仲が良かった訳では無い。だがそれでも何かしらの理由やきっかけがあった事は分かる。
隊長であった二宮なら尚更分かる事もあるだろう。
「そう…………だな。あの馬鹿が自分からそういう事をするとは思えん。何かを吹き込んだ奴がいるんだろうな。連れ戻して説教してやらないとな」
「俺に手伝える事があったら言ってくれて良いいよ。手伝える範囲なら手伝うから」
「あぁ、これからも頼らせてもらう」
いつもの澄ました表情に戻った二宮はメニューを手に取り龍夜に手渡す。
「今日の礼だ。奢ってやるから好きに頼め」
「なら遠慮なく奢られようかな。すみませーん‼︎」
店員を呼ぶ龍夜を他所に二宮はビールを呷っていた。その二宮の瞳には強い意志が宿っていた。
という訳で投稿です。二宮さんが友人はいるかと聞かれたら真っ先に挙げるのが龍夜です。
加古炒飯を乗り越えた猛者としてある種の尊敬すらしています。
というかニノさん登場するだけで面白いんだよな。。。。イコさんとは別のベクトルでなんだけどね。