雷人の詩 作:バリッか
『ギフトゲーム名 鷲獅子の手綱
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
東 礼司
・クリア条件
グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う
・クリア方法
“力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、
ギフトゲームを開催します
“サウザンドアイズ”印』
*
山脈の向こうより飛来した獣の王とも鳥の王とも称される存在、グリフォン。白夜叉の提示したゲームは、このグリフォンを起用した物だった。
主催者権限を持つ者にのみ許された輝く羊皮紙に記された上記のゲーム内容を確認した四人の内、真っ先に手を挙げたのは、グリフォンの鳴き声を聞いた時から興奮が隠しきれていなかった耀だ。
その瞳は、宛らショーウィンドウとトランペットを眺める少年のように輝き、真っすぐにグリフォンへと向けられ続けていた。
「まあ、俺は構わねぇよ」
「気を付けてね、春日部さん」
「む、無理だけはしないように……」
「うん、頑張る」
三人の言葉にもおざなりに、耀は意気揚々とグリフォンの元へ。
「どう見る?」
「ええっと……春日部さんの
「あら、礼司君は気が付いたの?」
「動物と話せるんだよね、彼女」
「その動物の範囲って事だろ?つまり、動物じゃなくて――――」
「生き物って事ね?」
人間同士でもそうだが、コミュニケーションをとる場合において最も大きな壁は言語だ。同じ人間という種族ですらも言葉の壁は存在するのだから、異種族ともなれば、それも人型もしていないのならばそのコミュニケーションは難と言う他ない。
しかし、耀の力はその一歩目を容易く踏み越えてしまう。
そして始まった一人と一頭の勝負。周りの制止を聞くことなく、両者は空の旅へと踊り出た。
コースは、グリフォンの現れた山脈をぐるりと回ってそしてこの湖畔へと戻ってくるというもの。この間に耀がグリフォンの背に跨っていられなければ、グリフォンの勝ち。跨って戻ってこれたのなら耀の勝ち。
勝ち目がないのならこんな勝負を申し出ることは無いだろう。そう内心で呟きながら、礼司は万が一に備えての準備だけはしておく。彼だけではない、飛鳥も黒ウサギもハラハラとしており、もしもの時には一目散に飛び出していく事だろう。
果たして、加速するようにグリフォンは山脈を回り、湖畔へと降下してくる。
獣の王というのは誇張無い。風を踏みしめ、空を駆けるその力は既存の動物を大きく逸脱し、それこそが幻獣の幻獣たる所以というものであった。
だが、耀は耐えた。湖畔に辿り着き、彼女が勝利するその瞬間まで。
「あっ!」
誰かが声を上げた。
湖畔へと戻ってきたグリフォンの背よりグラリと耀の体が傾いたからだ。
咄嗟に飛び出そうとする礼司と黒ウサギ。だが、その首根っこを十六夜が掴んで止めた。
「十六夜さ――――!」
「待て!まだ終わってない!」
荒れる周囲だが、しかしその混沌の大本である耀はと言えば、周囲の情報が完全に遮断されていた。
彼女の脳内を占めるのは、先程の光景。
(四肢で風を絡めとって、踏み締める……!)
真っ逆さまに落ちようとしていた耀の体が、ふわりと翻る。
落下の速度は徐々に殺され、完全に相殺された所で、その体は湖畔に着くことなく、逆にふわりと飛翔していた。
突然の光景に固まる周りだが、今の彼女にはそんな事は関係ない。
不慣れであるからかぎこちなさこそあるものの、確かに春日部耀は空を飛んでいた。より正確に言うのなら、風を束ねて跳ねている、と言うべきだろうか。
それから、彼女のギフトに関して色々と取っ掛かりの様なものではあるが分かった事があった。
一つ、彼女が
一つ、その力の源は、彼女が父より与えられた木彫りのペンダント。白夜叉をして神代の彫刻家と称賛するほどの出来栄えであり、正しく生命の目録と呼べるものであるという事。
因みに、白夜叉が売ってくれないかとねだるが、にべも無く断られていたりもする。当然と言えば当然だ。
そしてここからが本題。そもそも、今回ノーネームの面々がサウザンドアイズへと足を運んだのは偏に、ギフトの鑑定の為だ。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。裏を返せば、如何に敵を知っていようとも自分の事を知らなければ勝てるものも勝てない。
だが、黒ウサギからの依頼に、白夜叉は若干困った表情。というのも、
「ううむ、ギフトの鑑定か……生憎と私は、専門外どころか無関係なのだがな」
そう言って肩を竦める彼女だが、しかしゲームをクリアした手前褒美を与えない訳にもいかない訳で。
とりあえず、と彼女は四人の顔をそれぞれ間近でしげしげと覗き込むことになる。
「どれどれ……ふーむ……四人共に、素養が高いのは分かる。とはいえ、こんなものでは鑑定のかの字にもならんだろうな。おんし等、どの程度己のギフトの力を把握しておる?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「あー……恐らく最低限は……」
「うぬぅ……まあ、ゲームの対戦相手に自分の手札を見せたくないのは、私にも分かるが……ふむ、であるのなら――――」
ピッと白夜叉は、右手の人差し指を立てた。
「星霊の端くれとして、そしてホストとして、おんし等へは景品を与えねばならん。ちょいと贅沢な物ではあるが……まあ、コミュニティの復興記念の前払い、という奴だ。受け取ると良い」
そう言って白夜叉の柏手が二度、湖畔に響く。
すると、四人の元へと光り輝くカードがそれぞれ一枚ずつ現れるではないか。
コバルトブルーのカードには、逆廻十六夜・ギフトネーム“
ワインレッドのカードには、久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”
パールエメラルドのカードには、春日部耀・ギフトネーム“
レモンイエローのカードには、東礼司・ギフトネーム“
名前と、各々が持ち合わせたギフトの名前が刻まれたカード。これに驚きの声を上げたのは、黒ウサギ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「……?」
「おふざけ厳禁です!ソレはギフトカードと呼ばれる超高価な物なのですヨ!これさえあれば、その人の宿しているギフトが一発で確認でき、それどころか様々なギフトの出し入れも可能となるのです!……というか、礼司さんは何を首を傾げておられるので?」
「あ、うん……ほら、あの雷獣さん?がくれたあの種が出てくると思ったんだけど」
「あ、雲海の種ですね。恐らく、雷獣様がおっしゃっていたように、ギフトの統合が行われたのかと」
「成程……」
納得できたのか、礼司は頷く。その他にも気になる事はありそうなものだが、そもギフトカードはギフトの名前をこうして教えるだけ。現状、礼司にはそれ以上の手掛かりは無く、知りようも無いのだから。
その一方で白夜叉が反応してくる。
「ふむ?そっちの童もギフトゲームをしたのか?」
「あ、はい、そうなのですよ。礼司さんは、雷獣様とのゲームで勝利為されたのデス!」
「ほう、あの蛇神の居る一帯の雷獣となれば、神格持ちのあ奴位か」
「お知り合いなのですか?」
「私が神格を与えた訳ではないがな。しかし……あ奴に、勝るか」
「どうかなさったのですか?」
「いや、そう不安がるような事ではないわ。ただ、少し解せ無くてな」
白夜叉が覗き込む礼司のギフトカードに、神格は確認できない。事実、彼は現人神でも神童などでもない。
更に突き詰めようとするが、更なる問題が積み重なるためこの話題は頓挫。
とにかく、四人の準備は出来た。
そして、彼らは相対する。
この箱庭における、“魔王”。その所業に対して。