雷人の詩   作:バリッか

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 侵入者たちとの邂逅から少し間の空いた本拠最上階。

 そこでは、ジンが場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回した十六夜に対して気炎を上げていた。因みに、礼司はその場に居合わせた当事者として付き添っている。

 

「どういうつもりですかッ!!」

 

 目を三角にするジンだが、当の怒りを向けられる側の十六夜はどこ吹く風と気にも留めず。礼司の方もそんな彼の斜め後ろに控えて余計な口出しをする様子はない。

 

「“打倒魔王”が“打倒全ての魔王とその関係者”になっただけだろ。キャッチフレーズは、“魔王にお困りの方は、まずはジン=ラッセルまで”、か?」

「ふざけている場合じゃないんですよ!?魔王の力は、このコミュニティの入り口周辺を見て理解できたでしょう!?」

「ふ、二人とも、少し落ち着いて……」

「礼司さんも話は聞いてましたよね!?」

「え、まあ……一応当事者だから……」

「なら、十六夜さんを止めてください!今ならまだ――――」

「…………でも、僕としてもやり方はどうあれ、逆廻君のやり方しかないと思うけど……」

「ッ!?な、何故ですか!」

 

 半ば八つ当たりの様に噛み付いた相手からの予想外の言葉に、更にジンは目を剥いた。

 年相応に熱くなっているというのもあるが、箱庭に暮らすものとして、そして実際に魔王の災厄を被った者として、彼らの恐ろしさは文字通り身をもって知っている。

 だからこそ、こうして気炎を上げているのだが、この場には彼の味方は居ない。

 熱くなるジンへと、先程までの楽しげな雰囲気は何処にやったのか十六夜が侮蔑の目を向け始めていた。

 

「オマエ、本当に礼司の言ってる事が分からねぇのか?」

「ッ……何がですか」

「なら、質問を変えるぞ。御チビ、オマエはどうやって魔王討伐まで漕ぎつけるつもりだったんだ?」

 

 生半可な言葉は許さない。先程までの軽薄さは何処にやったのか大広間に設置された長椅子へと腰かけてふんぞり返った十六夜の目がジンを射貫く。

 生唾を飲み、ジンは頭を回していた。

 

「……まず、水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を組めば、水神辺りまでなら対抗できるはずでしたから。ただ、この辺りは十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので解決済みですね」

「おう、感謝しつくせよ」

「ッ……それからは、ギフトゲームで力を付けるつもりでした。ゲームを堅実にクリアしていけば自然とコミュニティの地力は上がっていきます。仮に新しい人材が弱くとも、この手なら問題ありませんでしたから……もっとも、こちらもあまり心配する必要ないみたいですけど」

 

 蛇神と神格持ちの雷獣を打倒し、この一帯の顔役となったガルドを一蹴できるだけのギフトを持つ者達。人材という観点で見ればこれ以上ないと言っても過言ではないほどに当たり札だった。

 だが、だからこそ、ジンは腹に据えかねている。

 

「それなのに……十六夜さん!貴方は、自分の娯楽のためにコミュニティを危険に晒すような行動に出た!!魔王打倒を掲げるコミュニティなんて馬鹿げた宣誓を流布されれば、魔王とのゲームは避けられなくなるんですよ!?その事を本当に、貴方は分かっているんですか!?」

 

 半ば叫ぶような怒声と共に、ジンは壁を殴りつける。

 そんな彼を、十六夜は冷めた目で見つめていた。だが、口を開く前に目の前に手が差し込まれていた。

 

「す、少し熱くなり過ぎだよ」

「熱くなってんのは御チビだけだろ。それに、やっぱり()()()()()()()()()()()

「だから――――」

「そんな机上の空論掲げて、再建がどうの、誇りがどうの、よく言ってたな。失望したぜ、御チビ」

「なっ」

「ギフトゲームで力を付ける?そんな事は、大前提だ。俺が聞きたいのは、魔王にどうやって勝つつもりなのか、だ」

「だから、ギフトゲームで――――」

「じゃあ、前のコミュニティはギフトゲームに参加しなかったのか?力を付ける事無く、ただ安穏として結果的に滅ぼされたのか?」

「そ、れは…………いいえ……」

「だから、机上の空論の域を出ねぇんだよ、御チビ」

「逆廻君……」

「礼司も気づいていた事だろ。まあ、迂遠すぎて御チビは気付かなかったみたいだけどな」

 

 困った様に眉根を寄せる礼司を、ジンはチラリと盗み見る。

 

「……礼司さんも、同じ意見だったんですか?」

「僕らには、旗印もコミュニティとしての名前も無い“ノーネーム(その他大勢)”って話だったからね。何かしらハッキリと周りに喧伝できるだけの象徴が必要だと思ってたよ。それに……」

「それに?」

「……本当に、あの惨状を作った魔王を倒すだけで、全てが終わるとは思えなかったからね」

「えっ………」

「成程な。確かに、あの光景を作れる魔王ってんならよっぽど強いな。そして、そんな魔王が倒されたとしたら、周りも放っておかない、か?」

「うん…………明日、ジン君たちがゲームをする“フォレス・ガロ”も魔王の傘下のコミュニティ何だよね?つまり、魔王は一つの集団を作ってる場合があるんだよね。そんな相手、こっちがどれだけ力を付けても数に押されればどうしようもない。だから――――」

「御チビを押し立てて、こっちも連合を作る」

 

 ニヤリと笑う十六夜に、礼司も頷いた。

 一騎当千、万夫不当の英雄であろうとも数の前には膝を屈するのが世の常というもの。

 

「僕の名前で、コミュニティの存在を喧伝する、と?」

「打倒魔王を胸に秘めた奴は居るだろ。そこに、打倒魔王を掲げたジン=ラッセルがコミュニティを率いて、魔王の一派を打倒した。それは波紋になって小さくとも広がっていくはずだ」

「そして、当然魔王にも目を付けられるだろうね。けど、同時に逆廻君が言うように、胸の内に魔王討伐を秘めた人も注目すると思うんだ。少なくとも、僕らが勝ち続けるのなら」

「今回のゲームはその足掛かりで。ここで滑れば、全てがパー。いや、それどころかコミュニティの再興なんて完全に不可能になるな」

 

 脅すような十六夜の言葉だが、誇張は無い。事実、()()()()()立ち往生するのなら、最早復活の見込み無し。箱庭の土となって消えるのが関の山。

 ジンとしても頷けるところはあった。何より、仇を討って終わり、ではないのだ。

 一方で、はいそうですね、と頷くわけにはいかない問題でもある。

 

「……一つ、条件があります。今度、“サウザンドアイズ”でゲームが開催されるんですけど、そのゲームにお二人が出てもらえませんか?」

「なんだ、俺の力を見せろって事か?」

「それもあります。ですが、本題はこのゲームに出品される事になった大事な物です。どうしても、取り返さなくてはいけません」

「それって……」

「昔の仲間か?」

「はい。それも、ただの仲間ではありません。元・魔王の肩書を持つ仲間なんです」

「!そ、そんな人も居たんだね……」

「ハハッ、良いじゃねぇか元・魔王。って事は、先代は魔王のギフトゲームにも勝ったんだな?」

「その通りです。ですが……」

「それだけの実績があっても、三年前の相手には勝てなかった……魔王も一から十まで同じ力じゃないんだね」

「そうですね。彼らにも、力関係がありますから。そもそも、魔王とは凶悪だからそう呼ばれるわけではありません。“主催者権限”を悪用する者たちを呼ぶんです」

 

 とにかく、とそこでジンは一度言葉を切った。

 

「ゲームを主催するのは、“サウザンドアイズ”の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と繋がりがあるのか……一応、商業コミュニティですから、金銭での解決も可能だったんですが……」

「零細コミュニティには、絞り出せる額にも限界があるわな」

「……とにかく、僕らはその昔の仲間を取り戻せればいいんだね?」

「はい。魔王討伐へ向けての戦力になると同時に、どれだけの力があるのか把握できれば今後にも活かせます。何より、この成否で十六夜さんの作戦を遂行するかはっきりさせたいと思います。ただ、コレはあくまでも内密で、黒ウサギには内緒という事で……」

「あいよ」

「了解」

 

 一応の終着点を迎えて、ジンは一つ息を吐き出した。

 壮大な話になったが、しかし納得できる部分があった事も事実。ジンとしては、そこまで性急に動かねばならないか、とも思えてしまった部分もあったが口から出ることは無い。

 話は終わりと言うように、十六夜も椅子から立ち上がる。

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

「はい。勿論です」

「負けたら俺、コミュニティ抜けるから」

「はい……え?」

 

 気が抜けていたのだろう、流れで頷いたジンはその言葉を脳が理解した瞬間に、入口へと慌てて目を向ける。

 だが、既に十六夜は退室済み。扉を見ている礼司だけが残っていた。

 

「……本気、ですかね」

「だろう、ね。少なくとも、逆廻君にしてみれば、落ち目のコミュニティにいつまでも残る理由なんて無いだろうし」

 

 問題児は、何処まで行ってもやはり問題児なのだった。

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