雷人の詩 作:バリッか
夜が明けて日が昇る。
そして今日は、“フォレス・ガロ”とのゲームに臨む日となった。
「……」
きょろきょろと落ち着かない礼司は、フードを目深に被ってソワソワと体を揺すっていた。
周りには、多くの人々が居る。この一帯を〆ていた“フォレス・ガロ”の落日が拝めるかもしれないと多くのコミュニティ関係者が顔を出しているのだ。
比較的に慣れた“ノーネーム”の面々ならば大した事は無いのだが、如何せん不特定多数が相手だと喋る事はおろか、その場に居続ける事すら難しい。
しかし、今回は逃げ出す訳にはいかない。仲間が出場するというのもあるが、今回のゲームは文字通り、今後のコミュニティとしての進退が掛かっているのだから。
「……おえっぷ」
「ちょっと礼司君。ここで吐かないで頂戴」
「そ、それは大丈夫……」
「顔、青いね」
ゲームに参加する飛鳥と耀からしても、こうも具合が悪そうにしていれば気になってしまうというもの。
流石に、彼女らに憂いを抱かせる訳にはいかないと礼司はフードの布の上から両頬を軽く叩いて一つ息を吐き出した。
これから先、もっと人の居る場にも赴く事になるだろう。何なら、自身が人ごみの中心になる可能性もあった。
一つ息を吐き出して、胸の内で小さく数を数えていけば変に昂っていた心臓も鳴りを潜めていく。同時に、血流が落ち着いたからか顔色も漸く人並み一歩手前ぐらいにまで落ち着いてくる。
礼司が顔を上げられるようになった所で、一同は今回のゲームの舞台となった居住区格へと辿り着いていた。
本来は、ゲーム用に設けられた舞台区画などでゲームは行われるのだが、急遽今回は寝食などの生活基盤が根付いた居住区格でのゲームとなっていたのだ。
ただ、その様子はたった一晩で一転してしまっていたが。
「……ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだしな。おかしくは無いだろ」
「いえ、“フォレス・ガロ”の居住区は普通のモノだったはずです。それがたった一晩で……何より、この樹木は………」
密林の様な有様と化した居住区格。
その中で、門に絡んだ蔦の表面を撫でたジンは、眉根を寄せた。
生えている木々含めた植物たちは、まるで生き物の様に脈打っているのだ。実際に触れてみれば心臓の鼓動によって発生する血流の揺れのようなものを感じさせる。
「やっぱり、鬼化している?」
「ジン君、こっちに
飛鳥の言葉に視線が集まる中、ふと礼司は別の方角を見て首を傾げる。
彼の体は、特別性。死から舞い戻った事により奇抜な見た目となり、同時に電気を扱う能力を得たともいえる。
だが、それだけではない。彼の目は、電磁波の波長も捉える事が出来、彼の肌は生物の発する電磁波を探知する事が出来た。
その感覚範囲が、何かを捉えたのだ。ただ、捉えただけで礼司自身にはその捉えた相手の事が分からなかったが。
(何が……)
逆立ったうなじの毛を撫でて、再度礼司は首を傾げた。
自然と一人はぐれるような形となった彼だが、完全に人ごみに分断される前に黒ウサギが回収に走る。
「礼司さん?どうかしましたか?」
「え……あ、いや、何でもないよ」
「でしたら、こちらへ。もう間もなく、飛鳥さん達が突入しますので」
手を引かれ、門の前へ。そこに掲示された契約書類に目を通し、礼司は眉を上げた。
「指定武具……?」
「明示されてはいませんが、恐らく剣のようなものかと。指定
「それじゃあ、指定武具以外じゃ傷つかないって事は、ギフトも無効化するのかな?」
「そうですね。
「成程ね……契約が働くのは、ガルドだけなのかな?」
「そうですね。
「そっか……」
ジッと契約書類の文言を見つめる礼司。
何に気付いたのか。気になった黒ウサギが問おうと口を開く、がその前に横合いからの声が届いた。
「そろそろ行ってくるわね」
「……うん。気を付けて、久遠さん、春日部さん、ジン君」
「ええ、勝って来るわ」
「頑張る」
「行ってきます」
見送られる三人は門を押し開いて、中へと足を踏み入れて行く。
門が閉じると同時に、ゲームが開始したのか門に更に蔦が絡みついていった。
「どう見る?」
「難しいだろうね。幾ら指定の武具と言っても、選定の剣みたいに堂々と岩の上に突き立ったりはしてないだろうし。そもそも武具の形状も振り回せる剣なんかなら未だしも、ナイフみたいな相手の懐に突っ込まないといけない形状なら……」
「あの御チビとお嬢様が動けるとは思えねぇしな」
二人が、というか礼司が気になったのは
この点で言えば、如何なる形状の武具だろうと、接近する手段があり、尚且つフィジカル面で優れた二人の内、どちらかがゲームに出ていれば瞬殺出来た事だろう。
彼らの話が聞こえたのか、黒ウサギも話題に割り込んできた。
「お二人が参加していたのなら、ゲームはどのように進めるのですか?」
「指定武具のゲットが最優先じゃないかな」
「俺としては、
どちらも、常道。もっとも、十六夜の方は少々自身の好奇心の為に遊ぶ嫌いがあるのだが。
それぞれの意見を聞き、やはり惜しい、と黒ウサギは内心でため息を吐く。
蛇神と雷獣を打倒した二人だ。特に十六夜に関しては、黒ウサギもその打倒の瞬間を目撃しており、その力量は未だに底知れない。
だが、悔やんでも後の祭り。今はただ、三人の無事と、勝利を祈るだけだ。
*
時は流れて暫く。獣の咆哮が居住区格の中より響き、更に少し経って火の気が見えた後の事。
門に絡まっていた蔦や木々が一斉に霧散し、燃えた廃屋が崩れ落ちたと同時に、“ノーネーム”の三人はゲームの会場へと乗り込んでいた。
「おい、そこまで急ぐ事無いだろ?」
「いえ!黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重体の筈です……!」
「……居た!」
風の様に駆け抜けた三人は、瞬く間に廃屋の元へと辿り着いていた。
足音を聞いたのか、廃屋の陰に隠れていたジンが声を上げる。
「黒ウサギ!速くこっちに!耀さんが危険だ!」
「ッ……!直ぐにコミュニティの工房へと運びましょう。あそこなら治療器も揃っていますから手当も出来ますから。皆様は――――」
「黒ウサギさん、春日部さんを落とさないようにしっかり抱えて」
「れ、礼司さん?」
耀を抱えた黒ウサギが困惑の声を上げるが、知った事かと礼司は二人に触れる。
「コミュニティで良いんだね?
言うなり、バキュンッとその場に光が走り三人の姿はその場より掻き消え。空に“ノーネーム”のコミュニティの方角へと向けた雷が駆け抜けていく。
「ヒュー♪機動力の一点で言えば、礼司は俺より上かもな」
最早見えなくなった光を見送って、十六夜は感心した様子で口笛を吹いた。
実際、彼は第三宇宙速度で移動可能だが、礼司の場合はその更に上。雷速で移動する。要は光と同然なのだから。
現状、黒ウサギと同じく面白いのは礼司だな、と内心で再度ロックオンしながら唖然とするジンへと向き直る。
「おい、御チビ。黒ウサギは、春日部を助けられるようなギフトをもってるのか?」
「え、あ、いえ違います。彼女が使おうとしているのは、コミュニティの工房に置かれた医療用のギフトです。ただ、扱いが難しくて彼女しか使えないんですけど」
「ふーん」
「……あの、十六夜さん」
「あん?」
「アレが、礼司さんのギフト、何ですかね?」
「さあな。ただ、あの光速移動は前にも見た。多分それだけじゃねぇけど」
ジンに問われて、十六夜が思い出すのはこの箱庭の世界へと引きずり込まれた時の事。
(あの時も、自分から触りに来たな。つまり、一緒にあの速度で動こうと思うのなら礼司に引っ付かないと無理なのか。或いは、箱か何かに詰めれば……)
考察を進めながら、ついでに十六夜は黒ウサギの方にも思考を散らしていく。
“箱庭の貴族”という呼び名は、伊達でも酔狂でもない。修羅神仏に広く知られ、その美貌と愛嬌に惹かれた不埒者は等しくその可憐な容姿と釣り合わない強大な力の前に膝を付く。
彼女が一度出奔するのなら、引く手数多だろう。現に、“サウザンドアイズ”の白夜叉も黒ウサギを引き入れる事には意欲的であったことだし。
だからこそ、十六夜は知りたいと思う。なぜ彼女が、地に這う虫けらレベルで先の見通せない味噌っかすの様な
色々と興味惹かれて仕方がないが、しかしやるべきことはやらねばならない。
その足掛かりの為の計画を実行へと移すのだった