雷人の詩 作:バリッか
襲撃。そして略奪。ただ、相手側の主張としては、商品を回収しただけ。
ただ、到底受け入れられる事でもない為に、“ノーネーム”の数名が“サウザンドアイズ”へと乗り込んでいた。
「……大丈夫かな」
「逆廻君も居るし、久遠さんも居るから多分大丈夫だよ。最悪ゲームになっても、何となる、と思う」
「僕としては、礼司さんにも行って欲しかったんですけど……」
十六夜、飛鳥、黒ウサギの三人が、“サウザンドアイズ”へと向かい。その一方で療養中の耀と彼女を看病するためにジンが残り。交渉では役に立てないと、礼司も辞退してこの場に残っていた。
「いや……うん、僕じゃ交渉は纏められないよ。人前に出て話すのは、苦手なんだ」
「ですが、ゲームともなれば……」
「それも大丈夫だと思うよ」
曖昧に笑う礼司に、ジンは眉根を寄せるがそれ以上は追及できなかった。
礼司が残っている理由には口に出した、交渉に自分が向かないという点も確かにある。だが、ソレは言うなれば理由としては半分でしかない。
もう半分の理由は、この場の防備にあった。
(最悪の場合は、ゲーム無しで僕も暴れる事になる、かな……うん、最悪の場合)
現状、耀は療養中で、ジンも戦力とするには少々心許ない。そんな状況で、主戦力全員が出向いてしまって、コミュニティで何かがあれば取り返しがつかないというもの。
流石に、“フォレス・ガロ”の様な悪辣な手段を採るコミュニティばかりではないと思ってはいるものの、しかしだからといって気を抜いて良いというものでもない。
そして、この内心を礼司は語る気はなかった。
取り越し苦労を態々知らせて、余計な心労を募らせる事などしたくは無かったから。
もっとも、
(逆廻君は、気付いてそうだったけどね)
内心で呟き、思い出すのは場をとりなした十六夜の事。
どうにも、レティシアを助けた場面で、そのロックオンは更に強くなったように思えてならない。
正直な所、いつ
「……ゲームになったら私、出られるかな」
「どう、だろう……少なくとも、黒ウサギさんは二、三日もすれば治るって話だったからね。今日明日直ぐに、という事にならなきゃ参加できると思うけど……」
「今度は、私も活躍する」
「春日部さんは十分活躍してと思うよ」
「でも、最後まで戦えなかったから……」
落ち込む、というよりは不完全燃焼な様子で耀は膝の上に足の上に載る三毛猫を撫でる。
先のゲームで、彼女が活躍しなかった、という事はない。寧ろ、彼女がガルドと対面した瞬間に押さえに動いていなければまず間違いなく、飛鳥とジンは彼女以上の怪我、ないしは下手を打つと命に関わっていたかもしれないのだから。
ただ、周りがどれだけ評価を下そうとも、当人が納得できていなければどんな言葉も意味はない。
ぷっくり膨らんだ頬に、ジンと礼司は顔を見合わせた。
それから程なくして、三人がコミュニティへと戻ってきた。
だが、その表情には喜色は無く、それどころか黒ウサギは深く沈み、飛鳥は不機嫌、十六夜もどこか面白くなさそうな表情。
上手くいかなかったかな、と内心で呟いた礼司だったが、しかし突っ込まない。
代わりに、ジンを伴って温かいものの準備へと動くのだった。
*
「――――あれ?逆廻君、どこかに行くの?」
「まあ、ちょっと野暮用を済ませようかと……」
「……?僕の顔に何かついてる?」
「……ちょうど良いか」
「え?」
「ちょっと付き合え、礼司」
「……何を?」
*
破綻した顔合わせから三日の時が流れる。
とある一件から自室謹慎を受ける事になった黒ウサギは、自身の割り当てられた部屋の窓から外を眺めていた。
窓の外では雨が降っている。天幕が張られている箱庭において、雨の降る状況は基本的に二種類。
一つは、天幕を開いて外に降った雨を呼び込むというもの。もう一つは人工的に天幕の下で雨を降らせるというもの。
この後者に関しては、箱庭という世界の一種の舞台装置の一つに過ぎず。言ってしまえば技術の盛大な無駄遣いと言えるだろう。
ただ、舞台装置と分かっていても雨というものは気持ちを落ち込ませるもの。
「……はぁ」
アンニュイなため息。窓ガラスに指を這わせる彼女は、実に絵になる。
しかし、こういう湿った空気は問題児たちが居る“ノーネーム”では長々と続かない訳で。
ピクリと黒ウサギの素敵耳が反応して、自室の扉へと振り返る。
部屋に響くノックの音。
「はーい、鍵も掛かっていますし、誰も居ませんよー」
「……入って良いという事かしらね」
「多分そう」
どうやら、訪問者は飛鳥と耀であるらしい。ただ、鍵がかかっていると申告しているのに、入って良いと判断する辺り、問題児というもの。
ドアノブが捻られ、しかし鍵がかかっているのだから当然扉は入室拒否。開く筈もない。
「あら、本当に鍵が掛かってるわね」
「ん……ホントだ。こじ開ける?」
そのままガチャガチャと動かされるドアノブ。仮にこれがホラー映画のワンシーンならば扉の向こうでは恐怖の対象が待ち構えている事だろう。
もっとも、今回居るのは恐怖の対象ではなく、問題児だが。
流石にこのまま扉を突き破られては堪らないと、諦めた黒ウサギは扉へと向かう。
「はいはい、開けます!開けますから、お二人様ももう少しソフトに扉を扱って――――」
「いっそ壊したらどうかしら?」
「そうする」
「私の扉ぁああああああ!?」
哀れ、問題児二人を相手に健闘した木製の扉は、しかし強度が足りなかったらしい。
残骸となった扉とドアノブ。黒ウサギは泣いた。
ペソペソとご臨終した扉に思いを馳せながら、黒ウサギは自室に二人を招き入れてお茶の準備を始める。
三日前の一件から、特に熱くぶつかってしまった黒ウサギと飛鳥。コミュニティに戻れば、ジンと耀、礼司からも止められた。
そのまま頭を冷やそうと謹慎期間、となったのだがそこで傍観者となっていた十六夜が礼司を連れて箱庭探索に出てしまったりもした。未だに帰ってこない。
「あの子たちに頼まれたのもあるけど、そろそろ私としても前に進まなくちゃいけないと思ってた所なのよ」
「良い切欠、貰ったよね」
飛鳥と耀が持ち寄ったお菓子は、子供たちの力作だった。
子供というのは、大人が思っているよりも周りをよく見ている。そして、彼らは自分たちに何が出来るかを必死に考えて、そして行動へと移したのだ。
そうして話題といえば、黒ウサギの事。
そもそも、彼らは揃って顔合わせて一月と経っていないのだから。
為人もそうだが、種族柄もそう。というか、問題児たちに関しても互いの事はほぼ知らない。名前と性別ぐらいか。歳も知らなければ、その性格の深いところも知る由もない。
だからこそ、少しは踏み出さねばならなかった。
「――――私たちとしては、貴女を神話の月の兎と
「っ……」
「それに、この文言があったから私たちもここに居るから」
飛鳥の言葉に息を詰まらせた黒ウサギの手を、耀が握る。
二人含めて、四人は招待を受けてこの箱庭へとやって来た。
『悩み多し異彩を持つ少年少女に告げる
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
彼らは文字通り、元の世界の全てを捨ててきた。
理由は様々だろうが、共通して自身の現状を変えたいというものがあっただろう。
だからこそ、大なり小なりその切っ掛けをくれた黒ウサギには感謝しているのだ。いじりは止めないがソレはソレで一種の愛情表現に近いのかもしれない。
「そう、ですね…………はい、もう無責任な事は言いません。もう大丈夫デスから」
「そっか。それじゃあ、作戦考えよう?」
「そうね。意気込んだとしても、現状の時間は無いに等しいもの、早くしないと昔の仲間が売られてしまうのでしょう?」
「え……あ、あの、お二人とも?」
思わぬ言葉だったのか、黒ウサギの目が点になる。
しかし、そんな事二人には関係ない訳で。
「連中が、黒ウサギ以外に交渉で応じるものが必要ね。若しくは、吸血鬼の女性を景品にしても良いとゲームを起こさせるか……」
「黒ウサギ、何か名案ある?」
「そ、そのように都合の良いモノなど……」
箱庭で主流であるギフトゲームではあるが、だからこそ大手は自分達へと挑める相手を選定するためのゲームというものを用意している。
“フォレス・ガロ”とのギフトゲームや、白夜叉とのゲームはある意味で例外。“サウザンドアイズ”総体としてのギフトゲームともなれば、それこそ天地をひっくり返すような難易度となるだろう。
その点を考慮すれば、今回の相手“ペルセウス”もまた難敵と言える。
「……お二人はペルセウスのゴーゴン退治をご存知ですか?」
「え?……私は、星座しか知らないわね。ゴーゴンは……蛇の髪を持つ怪物、だったかしら?」
たどたどしく答える飛鳥と、そんな彼女に同意するように耀も頷く。
二人の知識量を確認して、黒ウサギも一つ頷いた。
「そもそも、ペルセウスとは騎士の名前なのです。そしてコミュニティ“ペルセウス”はその英雄の血を引く子孫がリーダーとなって纏まったコミュニティとなっております」
「あのいけ好かない男が、英雄の子孫って事かしら?」
「YES。ルイオスさんは、ペルセウスの血を引き。それによってゴーゴン退治に用いられた
「それって?」
「輝く翼を持つ“ヘルメスの靴”。姿を隠す“ハデスの兜”。神霊を殺す鎌“ハルパー”。あと一つ、ペルセウスのギフトは存在するのですが、そちらは箱庭では失われております」
「それで?」
「歴史ある強大なコミュニティというのは、自分たちの伝説を誇示するために、それら伝説をなぞったゲームを用意する事があります。勿論、簡単には挑戦は出来ません。挑戦するためにも試練があるのです。それを突破したプレイヤーにのみ、挑戦権が与えられ、コミュニティは自身の誇りと伝説、そして旗印を賭けてゲームを行うのです」
「!なら――――」
「ですが、そのゲームに挑むための試練も生半可な難易度ではございません。それこそ年単位での挑戦を見据えなければならないものもあるのです。ですが――――」
「私たちには、時間が無い」
八方塞がりだ。現状の手札では、どうやっても突破できない。
“ペルセウス”が群体型のコミュニティであれば、付け入る隙があっただろう。しかし、現状はルイオス=ペルセウスの独裁状態。権力が一点集中しており、彼の一存が“ペルセウス”というコミュニティの方針となってしまう。
厄介なのが、ルイオス自身がゲームに消極的で、生半可な挑発では乗ってこない点。己の欲望最優先で、怠惰で傲慢。相手取るにはかなり厄介。
この手の相手というのは、自分から動く事を期待してはいけない。寧ろ、自分の意思関係なく土俵に引きずり出さなければならない。
その為に、旗印を賭けるギフトゲームは最適なのだが、それに挑戦するための試練を突破する時間が無い。
どうしたものかと三人が悩み込む中、不意に廊下からドタドタと足音が近づいてくる。
「邪魔するぞ」
入ってきたのは、十六夜だった。ついでに、彼の入室でただでさえ壊れていた扉が更に破壊される事になる。
「十六夜さん!?いったい今までどこに……というか、扉を態々蹴り壊すとはどういう了見ですか!?」
「あん?だって、鍵掛かってたし」
「あ、成程~……って、それじゃあ私の持っているドアノブはいったいどういう事なんですかお馬鹿様!!!」
怒気と共に投げつけられるドアノブは、しかし十六夜にアッサリとキャッチされてしまう。
手の中で残骸を弄びながら、彼は入口へと振り返った。
「おい、礼司。何してんだよ」
「いや、ソレは僕の台詞じゃないかな?何で扉蹴り壊してるの……」
困惑するように入ってきたのは大風呂敷で包んだ何かを腕に抱いた礼司だった。
この三日ほど姿の見えなかった二人の登場。そしてそれは、この停滞した状況の打破へと繋がる一手となりえた。
「礼司、ソレなに?」
「えっ、ああ、これね。これは――――」
「ゲームの戦利品だな。見るか?」
十六夜の言葉に頷いた耀は、礼司の持つ大風呂敷の中を覗き込む。そして、その目を大きく見開いた。
基本、無表情がデフォルトな彼女の珍しい変化に飛鳥も興味が引かれたのか、同じく風呂敷の中を覗き込んだ。
「!これって……」
「言ったろ、ゲームの戦利品だって」
「といっても、集めたのは逆廻君だよ。僕は、足代わりに動いてただけだから」
「ハハッ!そう謙遜する事ねぇって。オマエの足があったから時間は無くても余裕持って集められたからな」
笑う十六夜だが、この二人の試練突破は半ば蹂躙と呼ぶほかないものだったりする。
片や、神格を素手で打倒する怪力に加えて第三宇宙速度相当で迫る機動力を有し。
片や、箱庭においても最速に至れるかもしれない雷速で自由自在に駆け回る。
最早悪夢と呼んでも過言ではない。
そんな二人はこの三日でとあるモノを集めてきた。
「これでカードは揃っただろ?オマエがペルセウスに行く選択肢を採る理由はなくなったわけだ。後はお前次第だぜ、黒ウサギ」
ニンマリと笑み浮かべる十六夜と、彼に促されて風呂敷を手渡す礼司。
理由はどうあれ、それぞれの胸中にあるのはコミュニティの事。
十六夜にしてみれば、こんな面白い事に水を差されたから。礼司にしてみれば、漸くできた居場所を壊されそうになったから。
受け取った風呂敷を胸に抱いて、零れそうになった涙をこらえて黒ウサギは改めて立ち上がる。
「ペルセウスに宣戦布告します。我らの同士レティシア様を取り返しましょう!」
力強く宣言する彼女に、四人もまたそれぞれに頷く。
かくして、始まる“ノーネーム”対“ペルセウス”の
負ける事は、許されない。