雷人の詩   作:バリッか

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 二六七四五外門、“ペルセウス”本拠点。

 白亜の宮殿へとやって来た“ノーネーム”の一同は、そのまま謁見の間へと通される事となった。

 相対するのは、ニヤニヤと黒ウサギへと熱い視線を送るルイオスと、それからそんな彼を諫める事も無く侮蔑的な視線を向けてくる付き添いの幹部たち。

 “ノーネーム(名無し)”の箱庭(ここ)での扱いなどそんな物。

 前までならば、悔しい思いをしていたかもしれない。だが、今の黒ウサギにとってこの程度の視線は痛痒の一つも感じない。

 風呂敷包み抱えたままに一歩前へと踏み出す。

 

「我々、“ノーネーム”は“ペルセウス”に対して決闘を申し込みます」

「……は?」

 

 その申し出は、完全に思案の外だ。いや、そもそも想定する事自体があり得ない事だっただろう。

 しかし、黒ウサギは知った事ではないと口を開く。

 

「ゲームについては、“ペルセウス”の持ちえる最高難易度で構いません」

「……はぁ…なに?そんな事を態々言いに来た訳?つーか、決闘なんてしないって言ったじゃん」

 

 馬鹿らしい、と言わんばかりにルイオスは手を振った。

 別段彼は、負ける事を恐れていない。というか、そもそも負ける事を想定していないし、仮に作戦を立てるような事になろうともやはり“名無し”に負けるなど考える筈もない。

 一応の警戒としては、“箱庭の貴族”とも称される月の兎(黒ウサギ)。部下からの報告で、彼女は雷鳴轟くインドラの武具を所持していると聞き及んでいたから。

 何より、“名無し”が自分たちに盾突いているという事実がそもそも不快であり、屈辱その物だった。

 その内心の表れが決闘の拒否。

 

「はぁーあ、時間の無駄無駄。それが要件なら、さっさと帰れよ鬱陶しい……趣味じゃねぇけど、あの吸血鬼でも使うか。どうせ傷物になっても気にしない変態豚に――――」

 

 言い切る前に、ルイオスの目の前に風呂敷包みが開かれる。

 中から転がり落ちるのは、二つの宝玉。

 赤と青のそれらには、ゴーゴンの首の紋章が刻まれており、そしてこれこそが“ノーネーム”の用意した手札の一つ。

 同席していた“ペルセウス”の幹部たちは目を剥く。

 

「こ、これは……!“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト!?」

「まさか、名無し風情が海魔(クラーケン)とグライアイを打倒したというのか……!?」

 

 本来ならば、挑戦者が現れた場合大本の“ペルセウス”へと連絡が上がった筈だった。だが、コミュニティの経営に興味のないルイオスの執務室には、書類が溢れかえっている。数日分が溜まるなど、ザラだったりする。

 

「あの大タコとババアか。そこそこ面白かったが……アレなら、蛇の方がマシだな」

「……まあ、ちょっと可哀そうな事になってたからね」

 

 首を竦める十六夜に、礼司は苦笑いを一つ。因みに、笑う彼の方も森で戦った雷獣の方が強かった、という感想を抱いていたりする。

 

 そもそも、この二つのゲームは箱庭最下層のコミュニティに対して門戸が開かれた試練で、勝者にはペルセウスの武具のレプリカを進呈される。

 本来の目的は、ペルセウスの伝説をなぞるゲームの根底であると同時に、最下層のコミュニティの向上心を育てようとするもの。

 立派なものだが、今代のトップであるルイオスには、その精神は受け継がれてはいない。

 舌打ちを隠す事も無い彼は、近々これらゲームを廃止にしようと考えていたのだから。

 

「ハァ……良いさ、相手してやるよ。身の程知らずに自分の分ってものを教えてやるのも、良いだろうし。というか、このゲームは思い上がった馬鹿に灸を据えるようなものだしね。二度と逆らう気が起きないように、徹底的に叩き潰してやるよ」

 

 華美な外套を翻して憤る、ルイオス。

 だが、その程度に日和る者など、今の“ノーネーム”には居ない。

 真正面から睨み返す黒ウサギは、堂々と宣戦布告する。

 

「我々のコミュニティへと働いた散々な無礼。最早言葉は不要でしょう。この先は、ギフトゲームで白黒ハッキリ付けさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”

 

 

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

 

          久遠 飛鳥

 

          春日部 耀

          

          東 礼司

 

 

 ・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル

 

 

 ・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 

 ・クリア条件

 

   ホスト側のゲームマスターの打倒。

 

 

 ・敗北条件

 

   プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

 

   プレイヤー側のゲームマスターの失格。

 

   プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

 ・舞台詳細・ルール

 

  *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

 

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 

  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く) 人間に姿を見られてはいけない。

 

  *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、同時にゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 

  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うが、ゲームを続行する事はできる。

 

 

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

            “ペルセウス”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約書類に同意した瞬間、六人の視界は光に飲まれる。

 正確には次元の歪み。これは、ある種の白夜叉が用いたゲーム盤にも近いカラクリが施されていた。

 瞬く間に、彼らは白亜の宮殿の入り口にまで戻される。振り返れば、そこに広がるのは周囲とは隔絶したかのような未知の空域。

 宮殿は、箱庭の中に在って、箱庭の中に無い。そんな状況に置かれていた。

 

「さってと、姿を見られれば失格か。つまり、ペルセウスを暗殺しろって事か」

 

 白亜の宮殿を見上げる十六夜の声には、喜色が伺えた。彼のロマンへの高まりは、今まさに最高を更新し続けているらしい。

 そんな彼に答えるのは、ジンだ。

 

「それなら、伝説に従ってルイオスもまた睡眠中となってしまいますね……まあ、流石にそこまで都合よく事が運ぶとは思えませんけど」

「YES。そのルイオスは、この宮殿の最奥で待ち構えている筈です。その為にも、まずはこの宮殿を攻略しませんと。我々には、不可視となるハデスの兜はございませんし……」

「……裏技が無い事も、無いがな」

 

 黒ウサギの言葉から、十六夜が見るのは礼司。

 自然と全員の目が彼へと向けられる。

 

「……僕?」

「今回に関しちゃ、オマエはマジで鬼札だ。何せ、光速で動けるんだからな。それも人を連れた状態で」

「成程……確かに、礼司さんのギフトならそれも可能ですね」

 

 頷く黒ウサギ。

 彼女も体感済みだが、礼司の雷速移動は既に速度を論じられるような領域には無い。というか、箱庭下層で真面に彼の速度に反応できるプレイヤーがいったいどれほど居るだろうか。

 

 半ば裏技のようではあるが、しかしこの箱庭においてギフトゲームは、対応できない方が悪い、というのが常な訳で。

 

「移動はそれで良いかしら。と言っても、六人全員で奥に乗り込むのは非効率的じゃないかしらね」

「まあ、確かにあんまり数が多くても、元・魔王様の的を増やすだけか」

 

 飛鳥の言葉を引きぐように、何の気なしに呟かれた十六夜の言葉に黒ウサギはギョッと目を見開く。

 その情報は、まだコミュニティ内ですり合わせが終わっていなかった部分だったのだから。

 

「十六夜さん、気付かれていたのですか?」

「まあ、な。もしペルセウスが神話の通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にある筈がない。アレは、戦神に献上されてるはずだからな。にも拘らず、アイツらは石化のギフトを持ってる。とするなら、神話じゃなく招かれたのは星座の方のペルセウス。そうなれば、アイツの首に掛かってたのが、ゴーゴンの首って所じゃないか?」

 

 神話と違い、星座となったペルセウス座には、ゴーゴンの首に当たる部分にアルゴル星が瞬いている。

 恩恵というものは様々な形を成すが、コレもまた箱庭独特なものではなかろうか。

 目を見開いた黒ウサギは、改めて十六夜の評価を上方修正する。

 

 十六夜からの思わぬ情報提供の中、礼司も手を上げる。

 

「あの、僕の方からも良いかな」

「情報提供?」

「あー、いや……僕が連れて行くみたいな流れになってるけど、出来れば相手の不可視のギフトをゲットできるならその方が良いんじゃないかと思ってさ」

「ハデスの兜を、ですか?」

「うん。今回のゲーム、僕だって負けるつもりはないけど、もしもの時のもう一回が無い一発勝負だからね。不測の事態で、ルイオスに挑む前に発見される可能性は削った方が良いと思うんだ」

「だから、兜を?」

「最低でも、二つあればいいと思う。一つは、ジン君に。もう一つを、ルイオスに挑む人に」

 

 礼司の提案。それは、確実性を持たせる為。

 ギフトゲームに絶対はない。そして、対応できない者が悪い。

 如何に雷速で移動できようとも、絶対に反応できないと慢心する訳にはいかなかった。負けてしまえば、レティシアとは二度と再会できないかもしれないし、黒ウサギもコミュニティから居なくなってしまいかねない。

 対面して分かったが、ルイオスは典型的な自分本位。それも絶対に改められないタイプの。

 打てる手は打っておいた方が良いだろう。

 

「なら、不可視の敵は春日部と礼司で良いだろ。春日部は鼻が利くし、目が良い。礼司は、言い出しっぺで、な」

「僕だけ雑だね?いや、良いけど」

「ん、了解」

「黒ウサギとしては、ルイオスには十六夜さんが当たられる方が良いかと。審判の役が無ければ、私がお相手したのですが……」

「……まあ、今回は仕方ないかしらね」

 

 黒ウサギの言葉に、若干不貞腐れたように飛鳥はぼやく。

 彼女のギフトがルイオスに効果が薄い事は、先の顔合わせの折に発覚していた。何より、彼女の強みは不特定多数を相手にする時。手駒にするにしろ、同士討ちさせるにしろ、フィジカルに劣る分タイマンは苦手としていた。

 

 兎にも角にも、流れは決まった。

 ルイオスを相手取るのは十六夜。兜は、耀と礼司。露払いを、飛鳥。

 作戦が決まれば、後は行動するだけだ。

 

「それじゃあ、門を開けようか」

「はいな。礼司さんはそちらをお願いしますね」

「――――おいおいおいおい、ちょっと待てよお前ら」

 

 門のそれぞれの扉の前に立った礼司と黒ウサギ。

 しかし、そんな二人に待ったをかけたのが、十六夜だった。

 彼は笑みを浮かべて二人の肩へと手を置いて、そして後ろに僅かに下がらせて、入れ替わる様に門の前に立つ。

 

「こういうのは、最初が肝心だろ?」

「えっと、逆廻君?」

「………………因みに、十六夜さん。何をするおつもりです?」

 

 頬をひきつらせる礼司と、僅かな嫌な予感を滲ませる黒ウサギに応えるように、十六夜はその顔に笑みを浮かべる。

 

「そんなもん――――こうするに決まってんだろうがッ!!」

 

 轟音と共に、蹴り破られる宮殿の門。戦いの火蓋は切って落とされた。

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