雷人の詩   作:バリッか

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 衣食住満ち足りれば、人は最低限の安寧を得る事が出来る。

 しかし、その前提条件は一定額以上の金銭があってこそのモノだった。

 

 零細コミュニティ“ノーネーム”。その金庫は、日銭稼ぎによってどうにかこうにか維持されており、しかし火の車である事は変わりない。

 

「ふむ、満タンだな。これでまた暫くは、持つだろう」

「こちらこそ、暫く持つ程度には貰ってますから…………それよりも、白夜叉さん」

「ん?なんじゃ?」

「本当に、この金額で良いんですか?言っては何ですけど、僕の恩恵を売り払う、位にはなるかと思ってたんですけど」

「その様な事はせんよ。確かに、おんしのギフトは有用で、尚且つ手放せば人生五週は遊んで暮らせる程度には出せるだろうが……まあ、私が目に掛けているプレイヤーがそんなつまらん終わり方をしても面白くないでな」

「はあ……」

 

 “サウザンドアイズ”の一室。幹部白夜叉に割り当てられた部屋での会話だ。

 東礼司が、ここに来ていたのは少し前に白夜叉の方から、とある仕事の話を持ち掛けられたから。そして、都合のついた今日の早朝からこうして此処へとやって来た。

 

「それはそうと、礼司。最近はどうだ?」

「?どう、とは……」

「おんし等が箱庭へと召喚されて一月程か。中々に快進撃をしておるようだの。噂は届いておるぞよ」

「ふむ……」

 

 出されていた湯呑を置いて、礼司は考える。

 箱庭での一ヶ月は、元の世界では考えつかない程度には怒涛の時間だった。

 ギフトゲームの難易度こそ、“ペルセウス”のモノと比べるべくも無いが、その一方でこれらから得られる報酬というものもそう多くはない。

 常に家計は火の車。モノとしては自転車操業に近いかもしれない。

 それでも、元の世界に居た時と比べれば充実している。少なくとも、礼司にとっては。

 

「悪くない、と思いますよ。少なくとも、僕は充実してます」

「そうか。いやはや、この東の階層支配者(フロアマスター)としては嬉しい限りだ」

「……雑談ついでに、一つ相談があるんですけど」

「ほほう、相談とな?ソレは、黒ウサギ達には話せぬ事か?」

「あっ、そんなに重い話じゃないんです。ただ、少し気になって……でも、何となく皆には聞きづらくて……」

「ふむ……まあ、若人を導くのも先達の務めというものか。おんしにはこちらの頼みを聞いてもらったというのもある事だしな。どれ、お姉ちゃんに話てみんしゃい」

「何で方言……ええっと、僕が相談したかったのは僕のギフトに関しての事なんです」

「ほう?おんしのギフトは、(アズマ)だったか。不具合があるようには見えなかったが?」

「いや、そうじゃなく……うーん……」

 

 言葉を選んでいるのか、礼司は腕を組んで首を傾げる。

 彼としては、本当に雑談の延長程度の認識での相談だったのだ。思いの外、白夜叉の乗りがよかった為に少々面喰いはしたが。

 

「“ペルセウス”とのギフトゲームの時にですね。途中で離脱した春日部さんに、僕は雷雲の塊を護衛代わりに付けてたんです」

「ふむふむ……おんし、存外器用だの。それで?」

「はい。あの時、ルイオスさんとの最終局面でアルゴールの魔王が出てきたんですけど、その時に石化の呪いを振り撒いたんです。それこそ、自分の部下とか一切合切を無視して」

「……まあ、ゲームの流れで同士を切り捨てる事もあるが……それで?」

「その時に、僕が付けてた雷雲が春日部さんへの呪いを相殺した……らしいんです」

「ほう……?」

「黒ウサギさんの話では、あの時のアルゴールは大分力の制限を掛けられていたみたいで、そこまで脅威とは思えなかったんですけど……それでも、星霊のギフトを相殺できるモノかな、と」

 

 これはゲームが終わって少し経った頃に、耀から齎された情報だった。

 彼女曰く、褐色の光が迫ってきた時、雷雲が激しく光って相殺、というか軽減されたのだとか。

 お陰で彼女は石化する事無く、体のダルさを少し覚えただけ。それにしたって、時間経過で回復していた。

 一方で、白夜叉も考え込んでいた。

 興味深い話ではある。というか、“ノーネーム”に新加入した面々は何れも粒揃いが過ぎないか、と黒ウサギの豪運を感嘆していたりする。

 しかし、感心してばかりはいられない。折角の相談事、無碍にするのも忍びない。

 

「フーム……私としても、そう易々とは断言できん。前にも言ったが、ギフトの鑑定は専門外だからな。だが、おんしのギフトが特殊で、そして破格である事は間違いない」

「は、はあ……」

「まず、箱庭三大最強種というものは、伊達や酔狂でそう呼ばれている訳では無い。文字通り、最強であるから、そう呼ばれる。もっとも、戦闘能力のみの話ではないが。ここまでは良いか?」

「はい」

「私や、アルゴールの様な“星霊”。幻獣の頂点であり、系統樹の無い“龍の純血”。そして、神や仏といった“神霊”。この中で、トップとされるのが星霊だ。これは、様々な要因を重ねた結果による純然たる事実としてそこにある」

 

 白夜叉の話を聞きながら、礼司が思い出すのは初対面の折に見せられたゲーム盤。

 膨大ともいえる幾つもの世界に加えて、それらを扱うというのにそれでも霊格が制限された状態であるというのだから、その力は計り知れない。

 ただ、と白夜叉はそこでわずかに声を変える。

 

「神霊や龍の純血が、星霊に全く敵わないか、と問われればそれも否でな」

「そうなんですか?」

「最強種と言えども、その力は横並びではない。それは他の種族でも言える事。星霊を上回るような力を有する神霊が居たとしてもおかしくはない」

「……それで、僕のギフトは……」

「まあ、長々と語ったが、分からない、と言う他ない。十六夜のモノもそうだが、おんしのギフトは拡張性の幅が()()()()。雷獣に雲海の種を貰ったと言っておっただろう?」

「そうですね……良くないんですかね?」

「いいや?寧ろ、おんしが出来る事が増えればそれだけコミュニティへと還元できる役割も増えるというものだ。コレのようにな」

 

 ポンポンと、白夜叉が叩くのは礼司の仕事の成果だった。

 一つのギフトで出来る事が増えれば、それだけ手札を確保できる。

 

 結局答えは得られなかったが、しかしそれでも悪い事ではない。少なくとも、礼司はそう思ったからこれから思い悩む事も少しは減る事だろう。

 そうして暫くの談笑を挟んだころ、俄かに表の店が騒がしくなってきた。

 

「……?逆廻君に、久遠さん。春日部さんにジン君、かな?」

「ほう、見て無くても分かるか」

「まあ、一月も一緒に生活していれば電磁波の感覚も覚えますから。それにしても、今日はまだ換金するほどのギフトは無かったと思うけど……」

「それは、私の客だからな。来るかどうかは五分であったが……まあ、礼司も居る事だしちょうど良いだろう。ほれ、共をせい」

 

 立ち上がって手招きをする白夜叉の後をついていく礼司。

 店の方へと向かえば、入り口の方で女性店員と“ノーネーム”の面々の小競り合いが行われていた。

 ニンマリと笑みを浮かべた白夜叉が突撃していく。

 

「いぃぃぃぃやっほぉおおおおおおう!ようやく来おったか小僧どもぉおおおおお!」

 

 廃テンションである。頭痛がすると、礼司が眉間を揉むのも仕方が無いだろう。

 盛大な土煙を上げる入り口。咳き込む音が聞こえたのは、果たして誰だろうか。

 兎にも角にも、このまま店内にいても意味はないと、礼司もまた入口へと足を向けた。

 

「ぶっ飛んで現れなきゃ気が済まねぇのか、ここのオーナーは……っと居た居た。探したぜ、礼司」

「……東様。お仲間を連れてご帰宅ですか?」

「あー……えっと、まずは何でこういう事になったのか僕も分からないんですよね……それに、逆廻君たちを呼んだのは、白夜叉さんみたいですよ?」

 

 土煙を払って目当ての人物を見つけた十六夜は手を挙げ、女性店員は頭痛がするとでも言わんばかりに額に手をやる。

 礼司としては、どちらか一方に肩入れする訳にはいかない為に、とりあえず現状の説明を求めるのだった。

 その中で、後方で土煙の被害を受ける事の無かった耀が、未だに咳き込む飛鳥に変わって一通の招待状を振る。

 

「招待、ありがと白夜叉。それで、北側に行くために、礼司を探してた」

「招待?それに、北側?」

「成程……良い良い、立ち話もなんだまずは店に入ると良い…………それに、秘密裏に通しておきたい話もあるしな」

 

 意味深な言葉を残しながら先導する白夜叉。その後を、問題児三人は嬉々として着いていく。

 残ったのは、項垂れるジンとそれから状況についていけない礼司。そして、蟀谷に青筋を浮かべた女性店員。

 

「……とりあえず、行こうか。三人だけじゃ、本格的に動かれると追いきれないよ」

「……はい」

「ハァ……」

「あの、次はもっと良いギフトを売りに来ますね」

「出来れば、売るばかりではなく買っていただきたいのですがね。いえ、“ノーネーム”との取引はご法度なのですが」

 

 ため息を吐く女性店員の苦労が垣間見えるが、しかし半ば集っている様な状態である礼司は慰めの言葉を持ち合わせていない。

 そそくさとジンを伴って暖簾を潜り、四人の後を追うのだった。

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