雷人の詩   作:バリッか

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 東と北の境界壁。四〇〇〇〇〇〇・三九九九九九九外門。ここに“サウザンドアイズ”の支店の一つは存在した。

 飛び出してきた問題児三人と、それから彼らの後をついてきた白夜叉と礼司は外へと踏み出していた。ジンは疲労困憊でダウン済み。

 いつの間にか高台へと移動していた支店。そこからは、北の街並みを一望する事が出来る。

 特にその光景に目を輝かせたのが、飛鳥だった。

 

「赤壁と炎と、ガラスの街……!」

 

 距離のせいもあるのか、街並みは彼らのよく知る東とはまた違う。

 特に目を引くのは、東と北を区切った天を衝くほどに巨大な赤壁。境界壁だろう。

 この境界壁より掘り出された鉱石などを用いたモニュメントの数々。そして境界壁そのものをくりぬいて建てられた尖塔群。

 兎にも角にも、その建築群は彼らの目を奪って放さない。

 面白いのが、二足歩行で闊歩する()()()()()()()()()。遠目にそれを確認した十六夜も喜びの声を上げる。

 

「へぇ……!980000㎞も離れてるからか、随分と文化様式が違うらしいな。歩くキャンドルスタンド何て奇抜な物を拝めるとは思いもしなかったぜ」

「ふふ、文化様式だけではないぞ。東では外門を抜ければ世界の果ての森へと通じるが、ここの場合はそこの外門を抜ければ一面銀世界の雪景色が広がっておる。それを、都市の大結界と灯火によって常秋の景色を保っておるのだ」

「その結界のお陰で、思ったよりも寒くないのかな。これなら、外から態々飛んでくれば寒さに凍えてたかも……」

「そこは、礼司の不思議パワーでどうにかしようぜ」

「無茶言わないでよ……」

 

 バシバシと背中を叩かれながら、(雷雲を使えば……)なんて考えている辺り、どうにかできてしまいそうな辺り、礼司の底はまだまだ知れない。

 

「それにしても、厳しい環境があってこその発展か……ハハッ、聞くからに東より面白そうだな?」

「むっ、東も負けておらんぞ。おんし等の居る外門が特別寂れておるだけでなっ!」

「逆廻君、言い方が悪いよ。それにしても……寒いからこそ火の意匠、といった所かな」

 

 拗ねたように唇を尖らせる白夜叉。

 だが、それも仕方がない。“ノーネーム”の本拠が置かれた東二一〇五三八〇外門は、その外を世界の果てと接続しているが為に採れる資源の量が他と比べても少ない。そして資源が少なければ、どうしても発展は遅々として進まない。

 

 この場に居る面々の中でも、取り分け目の前の光景に胸躍って仕方がないのは飛鳥。

 今の彼女は年相応、いやそれ以上に幼くその目を輝かせながら、胸の高鳴りを押さえる事は出来なかった。

 

「今すぐ降りましょう!あの、ガラスの歩廊に行ってみたいわ!ねえ、良いでしょう白夜叉?」

「ああ、構わんよ。まだ時はある、今日の夜にでも詳しい話としよう。それと、暇があるのならこのギフトゲームに参加すると良い」

 

 そう言って白夜叉が袖より取り出したのは、一枚のチラシ。四人がそれを覗き込み、

 

「見ィィィィィつけたのですよォォォォォォォッッッ!!」

 

 ドップラー効果を伴って何かが突っ込んできた。

 衝撃と、それから途轍もない怒気を孕んだその声の主に一同の視線が集まる。

 やって来たのは、黒ウサギ。しかしいつもの髪色ではなく、怒髪天衝く淡い緋色の髪を揺らすその姿は宛ら阿修羅の如し。

 

「ふ、ふふ、ふふふふ……漸く見つけたのデス、問題児様方……!」

 

 月の兎は帝釈天の眷属とされているが、今の彼女は修羅か仁王か明王か。

 彼女と対面した瞬間、彼らの動きは速かった。

 

「逃げるぞッ!!」

「逃がすかッ!!」

「ちょっ!?」

 

 即座に十六夜が隣に居た飛鳥を抱えて、その場を離脱。一歩遅れて耀が旋風によって空へと逃れようとするが、しかし今の黒ウサギを相手にその遅れは致命的なものだった。

 ギリギリで耀の履くブーツが足首ごと掴まれて引き寄せられると、そのまま黒ウサギの豊満な胸元に抱え込まれる事になった。

 因みにこの間、礼司は敵対しないという意思表示なのかハンズアップで死んだ目をしていた事をここに記す。

 抱き寄せられた耀と、黒ウサギの妙に薄暗いのに澄んだ目がかち合った。

 

「ウフフフ……モウ逃ガシマセンカラ。後デ、タップリト御説教ノ時間トイタシマショウ……」

「りょ、了解」

 

 獣は、強者に歯向かわない。耀の中に在った第六感が、今の黒ウサギを茶化してはいけないと警鐘を鳴らして、彼女は素直に頷く他なかった。恐ろしかった、とも言う。

 そのまま着地した黒ウサギは、その光の無い目を手を挙げたままの礼司へと向けた。

 

「礼司サンハ、私ノ味方デスヨネ?」

「も、勿論だよ、黒ウサギ様……だ、だから、そんな目で見ないでください……」

 

 恐ろしかった、それはもう只管に恐ろしかったのだ。こんな恐怖は、白夜叉との初対面や、アルゴールの魔王を相手にした時にすら抱かなかったかもしれない。

 礼司の言葉に満足したのか、黒ウサギは一つ頷いた。同時に、抱えていた耀を彼へと向けて投げ飛ばす。

 

「きゃあ!?」

「ごへっ!?」

 

 縺れ合うように転がる二人。

 流石に不憫に思ったのか、白夜叉が苦言を呈する。

 

「黒ウサギよ、少し雑が過ぎるのではないか?もう少し――――」

「お二人の事を宜しくお願いいたします!私は、残りの問題児様方を捕獲してまいりますので!!」

 

 だが、今の黒ウサギにはそんな余裕などなく、一方的に言うだけ言って飛び出してしまった。

 飛び降りて小さくなる背中に、白夜叉も呆気にとられるばかり。

 そうこうしているうちに二人も起き上がった。

 

「……随分と怒ってたね、黒ウサギさん。春日部さんも怪我は?」

「ん、大丈夫……」

 

 礼司の言葉に返事をしながらも、耀は何処か上の空でジッと黒ウサギが向かった方向へと目を向けていた。

 表情のあまり変わらない彼女だが、今の雰囲気は何処か落ち込んでいる様な、沈んでいる様なそんな印象を受ける。

 それに気づいた礼司だったが、しかしどう声を掛けて良いのか分からず数度口を動かして、声が出ることは無かった。

 

 ここ数年で対人能力が下がっている礼司と、元より他人とのコミュニケーション不足でいまいち自身を曝け出す事の出来ない耀。

 そんな二人に、年長者として白夜叉が助け舟を出した。

 

「まあ、中で待つとしようか。黒ウサギも、あ奴らを捕えれば戻って来るだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、“サウザンドアイズ”支店内。

 縁側にて白夜叉、耀、礼司の並びで座ると、耀はぼんやりと中庭で小気味いい音を立てる鹿威しを見つめていた。

 

「ふむ、成程のう。おんし等らしい悪戯といえばそうだが……“脱退”とは、ちと冗談が過ぎる、いや悪質と言っても良いのではないか?」

「僕もあの場の流れで逃げなくてよかったよ……もしも、逃げてたら最悪捕まらなかった可能性もあるし……」

「それは…………ん、少しは思ったけど……で、でも、黒ウサギも悪い。お金が無いのならそうちゃんと説明してくれたら良いのに」

「常日頃の態度が裏目に出たとは思わんか?」

「それは…………で、でも、それでも、信頼の無さの表れだと思うし……す、少しは焦ればいいと思う。礼司も、そう思わない?」

「うーん……僕からは何とも。無い袖は振れない、とも言うし。白夜叉さんの言う通り、常日頃の僕らの態度が黒ウサギさん達が伝えたがらなかった理由と言われても納得できる。とはいえ、口裏合わせて隠し事をされて、モヤモヤする気持ちも分かるつもりだよ。だから、喧嘩両成敗が妥当な所じゃないかな」

 

 礼司は、どちらも責める事はしなかった。どちらの側に立っても、その気持ちは何となく分かったから。

 人によっては優柔不断とも言われるだろうが、白夜叉はクスクス笑う。

 

「ふふふっ……揃いも揃って問題児かとも思えば、おんしは存外そうでもないな、礼司よ」

「そうですかね?」

「良い良い、個があってこそ、コミュニティも発展していくというものよ」

 

 “ノーネーム”に新加入した四人は、大なり小なり癖のある面々だ。その中でも、礼司は比較的真面。壁はあれども、それでも愉快犯的な側面はほぼ無い。

 

 茶菓子とお茶をお供に雑談は続く。

 その中でも、ふと耀は思い出す事があった。

 

「そう言えば、さっきギフトゲームがあるって言ってた、よね?」

「む?……おお、そうであったそうであった。特におんしに出てほしいゲームがあってな。礼司も居るし、ちょうど良いだろう」

「私に?」

 

 茶菓子を頬張りながら首を傾げる耀。その隣で湯呑を傾けて啜る礼司も聞き耳を立てる。

 白夜叉が袖口より取り出したのは、先程のゴタゴタで仕舞っていた一枚のチラシ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

   ・参加資格、及び概要

         ・参加者は、創作系のギフトを所持

         ・サポートとして一名まで同伴を許可

         ・決闘内容はその都度変化

         ・ギフト保持者は、創作系のギフト以外の使用を一部禁ず

 

   ・授与される恩恵に関して

         ・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言する

 

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

                              “サウザンドアイズ”印

                                “サラマンドラ”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チラシを眺めていた耀は、首を傾げた。

 

「創作系のギフト?」

「うむ。人造、霊造、神造、星造問わず、製作者の存在するギフトの事だ。元来、過酷な環境である北では、恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合うゲームがたびたび開催されておるのだ。今回のゲームもその一環。そして、おんしが父より送られたというギフト、“生命の目録(ゲノム・ツリー)”は、技術面美術面共に優れておる。それこそ、人造であると思えぬほどに。展示会の方にも出てほしかったのだが……そちらは既に締め切られておるのでな。その木彫りに宿った“恩恵”ならば、戦いの場であろうとも勝ち抜けるだろう、と思ってな」

「そうかな?」

「うむ。幸いな事にサポーターとして礼司、或いはジンも居る。本件とは別に、祭りを盛り上げる為に一役買ってほしいのだ。報酬となるギフトに関しても、強力な物を用意する手筈となっている。どうだ?今後のコミュニティ活動にも役立つと思うが…………」

「むぅ……」

 

 耀の反応は、芳しくない。

 彼女の興味の先にあるのは、基本的に動物だ。今回の祭りへの参加をしたかったのも“龍”という単語に惹かれたから。

 白夜叉から視線を外して、きょろきょろと当たりを見渡した耀の目がお茶を啜る礼司へと向けられた。

 

「……礼司は、どう?」

「僕?ええっと、春日部さんへのオファーだし、僕のギフトは創作系じゃないと思うんだけど……」

「気乗りせぬか?」

「……あっ」

 

 小さく声を上げ、耀は再び白夜叉へと向き直る。

 

「白夜叉」

「なんぞ?」

「その恩恵で、黒ウサギと仲直りできるかな……?」

 

 小動物の様に小首をかしげるその様子は、顔立ちも相まって実に幼さを感じさせた。

 白夜叉は目を丸くして、そして柔らかな笑みを浮かべる。

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのなら」

「そっか……じゃあ、出る。礼司も、ね」

「うん。頑張ろう、春日部さん」

 

 少女は決意し、少年は支える。

 

 龍の火祭りは目前に迫っていた。

 

 

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