雷人の詩   作:バリッか

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 境界壁・舞台区画。“サラマンドラ”が催している“火龍生誕祭”の運営本部が設置されている。

 ギフトゲームを開催する為のここには、多くの観客が集まっていた。

 

『そこや!お嬢おおおおお!後ろに回って蹴り飛ばしたれー!』

「あ、ちょ、暴れないで三毛猫君。落としちゃうから……!」

 

 黒ウサギ達についてきた三毛猫がセコンド席で騒ぎ、そんな猫を抱えた礼司はオロオロしながらも目の前の舞台から目は離さない。

 舞台の上では、今まさに耀が“ロックイーター”のコミュニティに属する自動人形(オートマタ)“石垣の巨人”と戦っていた。

 サポーターとして同行する礼司だが、予選は自分の力で勝ち進むと宣言した耀の意思を尊重して、こうして脇に避けて事の成り行きを見守っていた。無論、危なくなれば速攻で介入するつもりである。その為に、舞台の上空数百メートルの所で雷雲が今か今かとその時を待っている。

 そうこうしている間にも、舞台上は最終局面。

 巻き起こした旋風で空を駆ける耀の機動力は、石材によって構成された巨人では、とてもではないが追い縋る事が出来ない。

 

「これで、終わり……!」

 

 瞬く間に背後を取り、その後頭部辺りを勢い任せに蹴り飛ばす。同時に、前のめりに態勢を崩した巨人へと蹴りの勢いのまま接地。体重を“象”へと変化させて、その重量と勢いを利用した彼女は、宛ら数トンの砲弾の如し。

 石垣の巨人が崩れ落ちた所で、大歓声が上がった。同時に、舞台の真上に展開されていた雷雲が消失していく。

 

『お嬢おおおおおおッ!』

「だ、だから、暴れないで……!」

 

 大興奮の三毛猫。傍から見ればニャーニャー鳴いているだけなのだが、耀には大歓声に紛れる事無く、その雄叫びが確りと届いていた。

 振り返って、礼司と三毛猫へとブイサインを向ける。

 

「勝った」

「お疲れ様、春日部さん。危ない場面も無くて、良かったよ」

「ん。次は、決勝戦」

 

 ここまで、耀は危うげなく勝ち進んできた。

 

 未だに歓声の鳴りやまない観客席。

 人々が熱狂するのも分からないでもない、がしかしこのままでは場が進まない。

 徐に、テラス席より見下ろしていた白夜叉が柏手を一つ打ち鳴らした。同時に、特別大きいとも思えなかった音は、観客席を一息に飲み込んで人々はその口を噤む。

 

「うむ、最後の勝者は“ノーネーム”所属の春日部耀に決定した。これにて、最後の決勝枠は決まったかの。決勝のゲームは明日以降となる。その内容は…………ふむ、ここはもう一人のホストに説明願うとしようか」

 

 注目を集めていた白夜叉が脇へと外れ、その代わりとして前に進み出るのは豪奢な衣装をまとった一人の少女だった。

 その結い上げた真紅の髪に覗くのは、龍の純血種である星海龍王の龍角を継承した新たなる階層支配者としての証。

 この幼い少女こそ、新たなる“サラマンドラ”の頭首として、そして階層支配者としてこれからを担っていく事になる、サンドラである。

 もっとも、その顔には隠しようのない緊張が浮かんでいる。

 ただ、仕方ない事でもある。彼女は年相応の幼さを持ち合わせているのだから。しかし、最早それが許される立場ではない。成長していかなければならないのだ。

 緊張を隠せないその姿に、先達として白夜叉は導くように声を掛ける。

 

「ふふっ、そう固くならずとも良い。何より、緊張する事も分かるが、しかしこのような場では笑顔を見せねばならぬぞ?我々フロアマスターは下層コミュニティにとって、心の拠り所であるのだからな。私の送った衣装も、その硬い表情のままでは色褪せてしまうというもの。ほれ、前を向いてみせよ」

「は、はい!」

 

 ここまで言われ、少女は一つ深呼吸。そして、閉じていた目をカッと開いた。

 

「ご紹介に与りました、北のホストマスターをこれより務めさせていただきます、サンドラ=ドルトレイク。本日をもって、北と東の共同祭典である火龍生誕祭は中日を迎える事となりました。これも偏に、皆様の協力あってこそのモノ。改めて、この場を持ちまして感謝の言葉を申し上げます。ありがとうございます。そして、残りの日程のご協力をよろしくお願いいたします。それでは、ここから後の日程に関しての説明をさせていただきます。皆様、お手持ちの招待状をご確認くださいませ」

 

 サンドラに促され、観客たちは揃って招待状へと視線を落とす。

 招待文を構成していたインクたちは、曲線と直線へと分解され、やがてまた別の文章へとその内容を変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

   ・決勝参加コミュニティ

         ・ゲームマスター“サラマンドラ”

         ・プレイヤー“ウィル・オ・ウィスプ”

         ・プレイヤー“ラッテンフェンガー”

         ・プレイヤー“ノーネーム”

 

   ・決勝ゲームルール

         ・お互いの創造したギフトを比べ合う

         ・ギフトを十全に扱うために、一人まで補佐が許される

         ・ゲームのクリアは、登録されたギフト保持者の手で行う

         ・総当たり戦を行い、勝ち星の多いコミュニティが優勝

         ・優勝者はゲームマスターと対峙

 

   ・授与される恩恵に関して

         ・階層支配者の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

                              “サウザンドアイズ”印

                                “サラマンドラ”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームの内容自体には、特筆するようなことは無かった。

 招待状を預かっていた礼司は、変化した文字群を確認して一つ頷く。

 

「とりあえず、情報収集をしようか」

「必要?」

「決勝に残れる相手だからね。それに、“サラマンドラ”は階層支配者。白夜叉さん並……とまではいかなくとも、そこに迫るレベルを考えておいた方が良いと思うな」

 

 予選とは違う。少なくとも、礼司はそう考えていた。

 無論、勝つ気概で臨むのは当然の事だ。だが、どれだけ気持ちが猛っていても相手を知らなければ不確定要素は除けない。

 礼司としては、耀には目の前のゲームにだけ集中してほしいと思っている。今回彼は、あくまでもサブ。メインプレイヤーである耀がゲームに勝てる道を作る事が仕事なのだから。

 とりあえず、他の面々と合流しようと、二人は中央の舞台を後に――――

 

『おんし等二人も、少し来てくれるかの』

「「!」」

 

 しようとしたところで後ろから聞こえた声に、二人は揃って振り返り顔を上げた。

 見上げれば、テラスからちょいちょいと手招きする白夜叉の姿があるではないか。

 何の用かは分からない。が、招かれたのならば向かうべきというもの。それも、よく世話になっている相手ならば猶の事。

 

 程なくして、二人の姿は本部の中に在った。

 予め白夜叉が伝えていたのか、特に止められる事無くここまでやって来た二人の話題といえば呼び出しの件。

 

「何の用だろう?」

「さあ…………もしかすると、逃げ回ってた逆廻君たちが何かをやらかしたかもしれないね」

「あー……」

 

 三毛猫を撫でながら、耀はあり得ると頷いた。この辺りは、十六夜の出鱈目さ加減がよく分かるというもの。

 ただ、同時にソレが理由だとしても分からない事もある。

 

「逆廻君たちが何かをしでかしたとしても、僕らが呼ばれる理由って何だろうね」

「…………連帯責任?」

「それは、嫌かなぁ……」

 

 礼司も十六夜を嫌っている訳では無い。寧ろ、人間的に見ても実に好意的な相手と言って良いだろう。

 しかし、一緒に怒られるというのは嫌だ。というか、望んで怒られたい者などいったいどれほど居るだろうか。

 果たして、辿り着くのは謁見の間。そこに足を踏み入れた瞬間に、軽快なハリセンの音が響いた。

 気付いたのか、白夜叉が振り返った。

 

「おお、来たか」

「白夜叉さん……二人が何か?」

「ふっ、まあ色々とな」

 

 真面目な表情を造りながらも笑いをかみ殺しているのが分かる白夜叉に、礼司は首を傾げた。

 周りを見れば、とてもではないが好意的な目は無い。ただ、同時にどこか畏怖するような目も向けられている。

 疑問を抱いたのは耀もだったのか、頭を抱えるジンへと声を掛けた。

 

「何があったの?」

「……あっ、耀さん。決勝進出おめでとうございます」

「うん。それで、十六夜たちが何かしたの?」

「そう、ですね…………その……街中でゲームを行ったみたいで……」

「被害が出た、かな?逆廻君も黒ウサギさんも身体能力が凄いからね」

「その通りです……」

 

 深々とジンはため息を吐く。

 十六夜たちを止めきる事など、今の彼には出来るはずもない。でなければ、ここまで頭の痛い思いなどしていないのだから。

 

 ただ、今回はいつもの問題児たちの騒動、というだけでは終わらない。

 少なくとも上座より睨みつけてくる男の目は、限りなく鋭いものなのだから。

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