雷人の詩   作:バリッか

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「あ、あはは……や、ヤダなぁ皆様方。そんなに恐ろしい目で見られてしまいますと、黒ウサギの小心者の心臓は早鐘を打って逃げ出してしまうのですよ?ここは、大海の様に広いお心でどうか穏便に……」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「えっと……すみません」

「ありゃりゃ、取り付く島もないというのは正にこの事ですね」

 

 道化の様に肩を竦める黒ウサギだが、その目はちゃっかりと四人を見定めている。

 

(肝っ玉は及第点ですかねぇ。この状況で、きっぱりとNOと言えるのなら、十分に戦力になります。最後の方も、恩恵(ギフト)は明らかに強力!是が非でも、逃せませんね!)

 

 理由はあれども、兎にも角にも逃がす訳にはいかないのだ。

 ただ、彼女は少しばかり油断しすぎていた。思考が脇に逸れていた隙を逃さなかった耀がいつの間にか彼女の背後に回り込んでいる。

 そして徐に、その黒ウサギの頭頂部にある耳へと手を伸ばし、

 

「えいっ」

「ふぎゃ!?な、なななな何をするんでございますかぁあああ!?」

 

 鷲掴んで、引っ張っていた。

 着脱可能な着け耳ではない、正真正銘の黒ウサギの耳。当然ながら、引っ張った所で引き抜ける筈もなく。

 

「イタタタタタッ!?ちょ、触るまでなら黙って受け入れますけど、まさか初対面で黒ウサギの素敵なお耳鷲掴みした挙句に引っこ抜こうするとはどういう了見ですか!?」

「好奇心のなせる業」

「自由にも程があります!?ちょ、お三方!見ていないで助け――――」

「へぇ、この耳本物なのか」

 

 黒ウサギの悲鳴は、しかし聞き入れられることは無く。寧ろ、興味をくすぐられた十六夜が参戦してくる始末。

 更に、

 

「……じゃあ、私も」

 

 飛鳥まで。右に十六夜、左に飛鳥。左右から耳を引っ張られて、黒ウサギは悲鳴を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待っ――――!」

 

 耳のみならずもみくちゃにされる黒ウサギ。

 そんな彼らから距離を取って、礼司は地面に下ろされていた三毛猫へとその手を差し出していた。

 

「だ、大丈夫?いやだったら離れてね?」

 

 恐る恐る手を差し出す礼司と、年上としての貫禄を見せて頭を撫でろと示す三毛猫。

 同じ湖の畔であるというのに、実に温度差のある光景がその場に広がる。

 それからおよそ、小一時間が経過。

 

「うぅ……ま、まさか本題に入る前の触れ合いで小一時間も消費するだなんて。これぞ正に学級崩壊の動物園状態という奴デス」

「萎びてないでさっさと進めろよ」

 

 涙目で萎れた黒ウサギではあるが、しかしどうにか聞いてもらえる状況には持っていく事が出来た。

 この機を逃す理由はない。彼女は一つ咳ばらいを挟む。

 

「コホン、それでは皆様お話と参りましょう。定型文ではありますが、ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は皆さまに、ギフトを与えられたものだけが参加する事が出来る“ギフトゲーム”への参加資格をプレゼントさせていただこうと召喚した次第なのです!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!皆様もお気づきかと思いますが、貴方方は普通の人間ではございません。その身に宿した特異な力は、修羅神仏から、或いは悪魔、或いは精霊、或いは星などから与えられた恩恵なのです!ギフトゲームではその恩恵(ギフト)を用いて競い合うゲームでして、この箱庭の世界はそんな強力なギフトを携えた者たちがオモシロオカシク生活できるゲームフィールドでもあるのですよ!」

()()って貴女以外にも居るの?」

「YES!ギフトゲームは箱庭におけるメイン要素であると同時に、ビッグイベント!種族問わずに多くの方々の目に留まるのです!それ故に、強力なギフトを持つプレイヤーは大歓迎なのです!ただし、ギフトゲームに参加するには、箱庭に数多存在する“コミュニティ”に所属していただく事になります!」

「嫌だね」

「所属していただきます!そして、ギフトゲームの勝者には、主催者の提示した商品がゲットできるという至極シンプルな構造となっております」

「……主催者って?」

「それは様々ですね。箱庭には多種多様な種族がいらっしゃると言いましたが、修羅神仏が暇潰しに行うものもあれば、コミュニティがその力を示すために大規模なゲームを開催する場合もございます。特徴としましては前者は自由参加が可能な場合が多く、代わりというべきか難解難題難関揃い。ですが、クリアできたならばそのリターンも大きく、新たなギフトを獲得できることもありますね。後者の場合は、基本的に主催者側が参加者を募集するものが殆どです。そして、その参加にはチップが必要となる場合が多く。負けてしまえばそのチップは、主催者側に贈呈される事になります」

「その辺りは、私たちの世界と同じね。ギャンブル的だわ……チップには何を?」

「そうですね……金銭、土地、利権、名誉、人材と……ありとあらゆるものが対象となります。もちろん、ギフトも。新たなギフトが得られるのなら、より高度なゲームに参加することも出来るでしょう…………無論、負ければその才能は失われてしまいますが」

 

 黒い笑みを浮かべる黒ウサギ。ただ、これは単なる脅しではない。

 ギフトゲームは、その構造が単純であるからこその残酷さを持ち合わせている。そして、ギフトの無いプレイヤーは淘汰されるだけなのだから。

 飛鳥が黒ウサギへと更に質問を重ねる中、ふと耀は礼司がずっと黙り込んでいる事に気が付く。

 

「どうかした?」

「え?……あ、いや……何でも無いよ」

「楽しみじゃない?それとも、帰りたい?」

「うーん……僕としては、元の世界に帰るつもりは無いかなぁ」

「……どうして?」

「…………彼女が言うように、僕の力がギフトなら手放す事が出来るかもしれない………でも、手放したとして元の生活に戻れるとは思わないから、かな……」

 

 眺める両手にはリヒテンベルク図形が埋め尽くすように浮かぶ。

 もしも、自分の力を失えば、元の容姿に戻れるかもしれない。だが、元の容姿になって元の世界に帰って、それで大団円、とはならないだろう。少なくとも、礼司はそう考える。

 

「…………僕が居なければ、もっといい生活が出来たと思うんだ…………僕が、あの人たちから奪っちゃったんだ」

 

 思わず零れた言葉は、懺悔に似ていた。

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